何も変わっておりません、今も昔も。

斎藤こよみ

男爵令嬢――01



とある男爵令嬢の日記より抜粋




王国暦467年2月17日


今日は私の13歳の誕生日!
マザーから誕生日の贈り物としてこの日記帳を貰ったの。
飽き性を直しなさい、ですって!仕方ないじゃない、同じことを繰り返すのは面倒なんだもの。




王国暦468年2月26日


そうだ、思い出した!
ここってば、前世でプレイした『ファンタジーカースト―銀月の乙女と聖女伝説―』じゃん!!
逆ハーエンドのその先にいる麗しの君・・・・に辿り着いてみせる!
前世を思い出した私に不可能はない!!
待っててくださいね、『    』様!!
あ、でもこの日記見られても困らないように日本語で書いておこう。
それなら誰が見てもわからないよね!前の分はいいけどゲームのところは書き直しておこう!




同年3月3日


やっぱり私がヒロインだぁ!
同じ孤児院にいた男の子が怪我をしていたのでゲームでちらっと出てきた描写に従って治癒魔法を使って治してあげた。
そしたらそこを見ていた男爵家当主が来て私はホークレッタ家に引き取られた!
やっぱりこの世界はゲームなんだ!次のイベントは入学式ね!
四日後だけど、いくらゲームとはいえ緊張する……。




同年4月10日


ゲームでもそうだが一番最初に出会うのはエドワードだった。
やっぱりイケメンや……。夕陽のような鮮やかな色がとても綺麗。
スチルには表現できていなかったエドワードのイケメンさが見れた気がする。
これがのちのちワンコ系に転身することになろうとは誰が思うだろうか!
でもやっぱり『    』様のほうが好きだけどね!




同年4月13日


次は宰相の子息マルコ。図書館で私が読んでいる本を読みたいのかチラチラとこっちを見てくるのが可愛かった。
年上だけど真面目系いじられキャラって可愛くてマジ鼻血でそう。
普段はきりっとしている割にはたまにドジをやらかすからこれからが楽しみ!




同年4月19日


騎士団長の子息、トーマス。
厳格な家庭に育ったせいか学園ではかなりの女の子を侍らせては、裏庭とかでキャッキャウフフしてるようだ。
昨日偶然(ゲーム通りに)そんな場面に遭遇して生娘らしく逃げ帰ったら次の日教室までやって来た。
色男って何であんなに色気垂れ流しに出来るの?
ゲームでもそうだったけど女の扱い分かってるイケメンこあい。




同年5月3日


次は確かアフィル。実家は代々王家の諜報員をやってるんだっけ。
普段はパッとしないもっさい外見してるんだけど、好感度上げて街でのデートイベとかだと驚くくらいイケメンなのよね!
基本は陰から王子様とかの護衛をしてて最近はエドワードとかと一緒に昼食を食べていると視線を感じることもあるし。
……もしかして私警戒されてる?
でもファンカーのキャラってまじでイケメン多すぎ。身が持たない。




同年5月25日


この日は王弟リジンが遠征に行く日だ!
彼も攻略対象だけど、今はまだ接点はないから会話も出来ないけど……。
王族らしくイケメンさが目立つ彼は平民からの支持が高い。……らしい。ゲームの一部分しか知らないししょうがない。
ゲームではよく下町に出没してるのは知ってるけどエンカウント率はかなり低いから出会うのが難しい。
次のイベントで期待。




同年6月10日


ようやく攻略キャラが出揃った!
全員と初対面は済ませたし、これからハードプレイヤーの腕が鳴る!
私の推しキャラは逆ハークリアしないと出てこないけど、その次の推しはやっぱり王子様よね!
あ、でも王弟のリジンも悪くないかも……。
なんて言ったって二人とも、財力・外見・性格とも完璧だもの!
でも未来の王妃になんてなりたくないし達成後は愛しの『    』様のところに逃げよっと。




同年7月9日


おかしい。ヒロインわたしに対して嫌がらせとか嫌味をしてくるはずの悪役令嬢が一切出てこない。
いや、学校には来てるんだけど、婚約者であるはずのエドワードと話しているところとかを全然見ない。
ゲームではエドワードがうんざりするほど話しかけたりしてたのに。どういうこと?




同年8月5日


今日はエドワードたちと一緒にエドワードが所有している別荘に避暑にきた。
王国から二時間も馬車の乗せられてお尻が痛くてしょうがない。
前世の車が恋しい。あれなら移動も早いし何よりお尻が痛くないのに。




同年9月11日


トーマスが私に宝石のネックレスを贈ってくれた。
こんなイベントあったっけ?まぁ、貰える物は貰っておけばいっか!
相変わらず悪役令嬢エリーゼとは関わりがない。
その代わりに別の令嬢からは複数の殿方と親しくするのはどうかとか品がないとかと注意された。
品がないのは元からじゃ。孤児院出身に何を期待してるんだか。




同年9月25日


マルコにトーマスから贈り物をしてもらったと話をしたら、イヤリングを貰った。
私の瞳の色と合わせてるんだって。とても綺麗。






同年10月1日


今度はなんとエドワードからも贈り物を貰った。
どうやら私がつけていたネックレスとイヤリングの出所を知ったみたい。
エドワードの瞳の色の宝石(これ絶対高い)がついてる指輪。
これ、生活に困っても売るに売れない……。どうしよう。




同年10月12日


悪役令嬢ではなかったけれどようやく私に直接嫌味を言ってくる令嬢が現れた。
ゲームではエリーゼの取り巻きだった名前もないキャラだったけど仕方ない。
このまま進めるしかないよね……。




同年11月1日


ルート確定イベントが起こった!!
デートに誘われて全員と一緒にピクニックに行った。
それぞれとは何度かお出かけしたりしてたけど、みんな一緒で楽しかった。
何より目の保養になったし!
エドワードの護衛の騎士もイケメンばっかだけどモブだからエドワードたちほどではなかったなぁ。
日本だったら大人気モデルになってるくらいなのに。




同年12月30日


エリーゼとは相変わらず関わることもない。
むしろ他の、ゲームでは取り巻きだった令嬢や他の女子生徒から度々嫌がらせされるようになった。
陰口とか噂話とはいいんだけど、物隠されるのはだるい。そこはかとなくだるい。
まぁ、やられたことは全部エリーゼにやられたことにすれば、他の令嬢への貸しにもなるでしょ。




王国暦469年1月17日


ゲームでもそうだったけどこの国では15歳で成人とみなされ、日本では20歳だったのに15歳だなんて。
まだ中学生くらいの年齢じゃん!無理だよ!
再来月、国王主催の夜会が開かれるらしい。
そこには他国の偉い人とかこの国の貴族大勢が来るみたいでこの学園は基本貴族の令息・令嬢が多いからよっぽどのことがなければほとんどの生徒が参加する。
そこでどうにか婚約破棄できればそのあとは……。




同年2月17日


私の14歳の誕生日!
この世界がファンカーの世界だと知ってから攻略対象への態度と言動に気をつけてここまできたかいがあったわ!
逆ハー確定したお陰で毎日気楽に過ごせてるし、何より『    』様にようやく会えるのね!
あと少し、頑張らなきゃ!!




同年4月某日


ついに今夜、エリーゼとエドワードの婚約破棄の断罪イベント!!
気合入れておしゃれしなくちゃ!!


~~~~










「エリーゼ・ベル・ルヴィンド! コンラード王国王位継承第二位、エドワード・アレスタ・コンラードの名においてお前との婚約は破棄させてもらう!」


エドワードは堂々とそう宣言した。
その後ろには怯えた振りをしたアリスがそっとエリーゼの様子を伺うが、無表情でじっとエドワードを見つめている。


……アレ?ゲームと違くない?と内心戸惑うアリスをよそにエドワードは更にこの場にいる全員に聞かせるように声を張る。


「度重なるアリス・ホークレッタ男爵令嬢への嫌がらせに中傷、他にも傷害や殺害未遂など諸々の犯罪の証拠がある! ……何か申し開きはあるか?」


エドワードとアリスを中心に右側には宰相子息、マルコ・アトル・フォレンタージュ。
その反対、右側にはトーマス・デラ・ファルマン。
そして今夜の主催であるジェラルド・エレセウス・コンラードとその王妃、ロベリア・セレン・コンラード。
そして他国の王子や王女、使者や豪商人など王族や公爵位にある者以外滅多にお目にかかれない者たちが集まり視線をエリーゼに注いでいる。


「おい、聞いているのか! 何か言うことはないのかと言っているのだ!!」


「……言うこと、でございますか」


「そうだ!!まずはアリス嬢に謝るのが筋だろう!!」


エドワードの言葉に、アリスは若干の居心地の悪さを感じるが、これも隠しキャラのため!と努めて表情を作る。
本当のところ、エリーゼは文字通りアリスに何もしていないのだから謝る必要性は皆無なのだが、この場に誰一人としてエリーゼを庇う者はいない。


「何を謝れと言うのでしょうか?そもそもそこにいらっしゃるご令嬢の顔を見たことはあれどそれ以外何も存じませんし、初対面の方に謝ることなどございませんわ。それに先ほどおっしゃっていた、嫌がらせ?傷害に殺人未遂?でしたか?全くと言っていいほど心当たりはありませんが何より、」


「白々しい嘘をつきおって! お前が彼女にやったであろうことは全て彼女らが証言してくれたぞ!」


エリーゼの言葉を遮ってエドワードがその背後を指差したその先にはアリスに嫌がらせや悪い噂を流した者が多々見受けられた。
エリーゼの顔色を伺いつつも口裏を合わせたようにお互いに目を合わせる彼女たちは、腐っても鯛ということなのだろう。成人の歳を迎えていない令息・令嬢もいるが貴族は貴族。長いものには巻かれろ精神でそうやって祖父母の代、それよりもっと昔から生き残ってきたのだ。


「どうだ、これで言い逃げ出来まい」


アリスからは見えないが、どうやらエドワードはこれ以上ない明確な証拠・・・・・と思っているらしかった。
だが、貴族社会の何たるかを知る者からすれば茶番にも等しい児戯であると思われていることに気付かない。


アリスは上手くいったことにほくそ笑みつつ、バレない様に口元を手で覆った。


「アリス嬢はお前と違って心優しい。殺されかけたというのに死刑だけはと減刑を求めたのだ。私は死刑でも生温いくらいだと思ったが、アリス嬢の嘆願によってエリーゼ・ベル・ルヴィンド、お前を“精霊の森”へ追放する!」


「エドワード・アレスタ・コンラード王子殿下のご命令、ルヴィンド公爵家長女 エリーゼ・ベル・ルヴィンド、委細承知致しました」


エリーゼの言葉に思わず「え、」と小さく漏らしたのはアリスだ。
ゲームとは一番違う差異。困惑の度が大きく、内心慌てていた。それを見せなかったのは偏にエドワードとの婚約破棄という目的が叶ったからでもあった。


周囲は呆然とした様子でエリーゼを見つめていた。
そんな周りの様子に呆れを滲ませた声色でエリーゼは口を開く。


「いつ追放されるんですか?なんなら今からでも構いませんが」


「…………!、騎士たちよ、この女を捕らえよ!牢屋に繋いでおけ!」


エドワードの命令で騎士たちが動き出し、エリーゼは丁重に王城の地下にある牢へと入れられ、騒動はひと段落した。
その後は誰もが事の顛末を話したそうにするが、主催である国王らの様子を盗み見ては親しい者と目を合わせて終るばかりだった。




「アリス!これでお前に害をなそうとする者はいなくなったぞ」


「エド様、ありがとうございます!これで暗闇を恐れずに済みますわ。それにトーマス様とマルコ様もありがとうございます。心からお礼を」


「気にしないでください。僕たちも貴女に危険がない思うと安心できます」


「そうそう!気にすることはねぇよ。それに俺の女神に憂いが無くなって嬉しいしさ。どう?これから二人きりでお茶でも「よし、皆で打ち上げと行こう」俺はアリス嬢だけ誘ったんですけど」


「皆でなら良いが、お前と二人きりとなると貞操の危機だ。誰が許せるか」


「殿下、その前にこの夜会が終るまでお待ちください、王家主催ですので。他国の顰蹙を買いますよ」


「むぅ……仕方ない。夜会が終り次第、応接間で集まろう」


「かしこまりました。メイドに指示しておきますね。アリス嬢の好みの軽食も用意させておきます」


「マルコ様、ありがとうございます!とっても楽しみです!」


男爵令嬢はそう言って三人の男たちに笑顔を見せた。


そんなやり取りを見ていた周囲の者達は自ずと男爵令嬢へと注目する。
一言で言えば、可憐。淡い薄紅色の髪にほんのりと色付いた頬、愛嬌たっぷりの笑顔は一部の者へ多大な影響を及ぼす。


自覚があるのか、意図的にその笑みを振り撒く素振りに、ある者は警戒を、そしてまたある者は興味を覚え。
ルヴィンド公爵家令嬢エリーゼの断罪・婚約破棄は一夜明けたころには諜報員を通じて各国の重鎮たちへと知らされた。


こうしてひと段落したはずの婚約破棄事件は当事者たちの思惑を置いてまた別の騒動へと発展するのであった。









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