何も変わっておりません、今も昔も。

斎藤こよみ

王国の騎士団長――02





王城へ到着するとすぐに謁見の間へ通され、
入室した際驚きに目を瞠った。
そこには宰相のエデリアル・アトル・フォレンタージュ、騎士団の副団長のガルベス、そしてゼウラを呼び出した張本人の国王と王妃と、錚々たる面子が揃っていた。


ゼウラが入室すると、すぐさま人払いがされ、謁見の間は緊張感が漂っており、居心地の悪さを感じながらも片膝をついたゼウラが待たせたことを詫びた。


「お待たせしてしまい申し訳ありません、陛下」
「うむ、よくぞ参った。面をあげよ」
「はっ。早速で恐縮ですが、火急の用件とのこと。いかがなさいましたか」
「用件とは昨夜のことだ」
「エドワード王子殿下とエリーゼ嬢の婚約破棄のことでしょうか」


ゼウラの言葉に頷く王はそっと宰相、エデリアルへ目で合図するとエデリアルは懐からある物・・・を取り出す。


「王よ、それは一体……?」
「預言だ」
「!」


邸を出る前に執事が言っていた、預言。


「正確には、預言を記録した魔道具よ」


王は厳格な表情を保ったまま、宰相に指示した。


「宰相、預言の再生を」
「かしこまりました」


宰相が預言を記録しているという魔道具へ魔力を流す。
じんわりとした光を放って、魔道具から厳かな声が再生される。






『銀月の夜に生まれし二人の乙女


一方は厄災を齎し  その身に暗黒を宿すだろう
一方は希望を齎し  その身に聖なる力を宿すだろう


けれど恐れるなかれ
されど侮るなかれ


齢16を迎えし夜に  約定を破らざれば
月夜 輝くその日  娘は世の災いとならん』






ブツっと音がして静寂が広まる。
ゼウラ以外の者の顔色が総じて悪い。


「……エドワード王子殿下とエリーゼ嬢の婚約破棄を止めなかったということでしょうか?」
「うむ。それに、アレは王妃には向かぬだろう」
「それは、何故に?」
「アレは感情もなく従うだけの人形に等しいのは貴方も理解してらっしゃるでしょう?!まさか、騎士団長殿はあのような娘にこの国の未来が任せられるとお思いなのですか!!」


ゼウラの疑問に答えたのはひどく顔を歪めた王妃だった。


―――たったそれだけの理由でエリーゼあの娘が積み上げてきた努力を無に帰したと?
何故、と口から漏れそうになるのを堪えた。
国王本人からではないが、ゼウラの問いの答えは王妃が言った理由が全てなのだと、国王と宰相の表情が物語っていたからだ。


自分のしてきたことを棚に上げてそう声を荒らげる様子に顔が歪みそうになるのを堪え、それでも納得がいかなくて反論しようとゼウラは口を開くが。


「ですが、」
「この預言がもたらされた以上、アレ・・にエドワードと結婚などさせるわけが無いでしょう!この件に関してはもう問答無用でしてよ!あんな・・・娘のせいで国に災いが訪れるなど!!あぁ、あなた……!」


ヒステリックに叫んだ王妃の顔色は悪く、言い終えると脱力して頭痛を堪えるように頭を押さえながら隣に座る国王に縋るように手を伸ばした。


「ともかく、アレがいなくなったことによりエドワードの婚約者選定をせねばならん。どうやら男爵令嬢に入れ込んでいるようだが……」
「陛下、恐れながら申し上げますが……」
「申してみよ」


口を挟んだのはエデリアルだ。
国王の許可を得て、口を開いた。


「彼の男爵令嬢について影に調べさせましたが、どうやら未来予知の、もしくはそれに準ずる能力があるようなのです」
「……未来予知だと?」


なにを荒唐無稽な、と誰もが思ったがこの冷徹で計算高い宰相が嘘や信憑性のないことを言うはずもなく。
それはこの件についても同様だった。


「はい。学園でエドワード王子殿下の護衛を陰ながらしていた影の一人が目撃したらしく。エドワード王子殿下の行き先にことごとく姿を現していたそうです。また、エドワード王子殿下だけでなく騎士団長のご子息トーマス様、私の息子マルコ、それからまだ影入りしておりませんが、影の一族の特定の者に接触があったそうです」
「先回りだけなら可能なのではないですか?あの子は単純ですから」


ぱっと思いついた可能性を口にしたのは王妃で、自分の息子なだけあってその単純さも理解しているようだった。
実際エドワードが行く場所などは限られている上に同じクラスメイトで、しかも王太子が確実なエドワードはどこへ行っても目立つし、噂にもなりやすいだろう。


だが、宰相は顔を曇らせて更に影から上がった報告を告げた。


「それが……不審に思い、そのご令嬢に付けさせた影の談によると確かに同じ教室内にいる時はエドワード王子殿下を目で追ってはいるらしいのですが、それ以外は全くと言っていいほど関わりもなく、はち合わせする際も一般人レベルではありますが無駄のない動きだったと」
「なんと……出会うことが分かっていなければそのような動きも出来まいな」


国王は思わず、と言った様子で声を上げた。


「はい。それにエドワード王子殿下だけでしたらまだ偶然や幸運の産物として納得出来なくもないのですが、トーマス様やマルコ、それに影の後継者もとなると……」
「確かに、言われてみれば怪しいが」


たかが男爵令嬢にそこまで出来るものなのだろうか?と一同は首を捻る。
エドワードを護衛している影ですらその突発的な行動や気まぐれについていけないことも多い。ましてや猪突猛進なトーマス、宰相に似て冷静沈着なマルコ、そして影の後継者として育った用心深く気配に聡い者。ピンからキリまでバラバラな性格の者達相手にただの令嬢がそこまで上手く立ち回れるのか?
それこそ、誰がいつどこへ行くことが分かっていなければそんなことは出来ないだろう。


ここに来てようやくエデリアルの言いたいことを全員が真の意味で理解したのであった。


「エデリアル殿、その男爵令嬢が裏の者を使ってエドワード王子殿下やマルコ殿我が愚息を見張っている可能性は?」


伯爵家以上の爵位を持つ家ならばまだ分からないが、男爵家がその手の者を使っている可能性は限りなくゼロに近いが、完全にゼロという訳でもないのだ。
このやり手の宰相ならばその辺りも調べているはず、とゼウラはその可能性を指摘した。


「王家のものと我が公爵家のもので調べましたが、その可能性は無いでしょう。そんな素振りも、裏の者との繋がりも皆無でした。それと、あのご令嬢ですが、ホークレッタ男爵の実子ではありませんでした」
「別の貴族から引き取られたのか?」
「いえ、どうやら孤児のようです。回復魔法を使用しているところを男爵が目撃して引き取ったそうです」
「!―――国王陛下、宰相殿!もしやその娘、預言のもう片方の乙女なのでは?!」


回復魔法、と聞いて推測の声を上げたのは副団長、ガルベスだった。


そもそもこの国では魔法が使える者が極端に少ない・・・・・・。故にどんなに魔力が少なくとも魔法が使える者は国に保護されるのだ。中でも回復魔法は使える者が更に少なく、適性がある者は如何なる場合であっても国と教会に保護されなければ・・・・・・・・ならない・・・・


「一方は希望を齎し  その身に聖なる力を宿すだろう……か。回復魔法が使えるならばその可能性は高いだろうが、男爵家からそれについて報告は無かったのか?」


国に保護されるという点においてはホークレッタ男爵は貴族として正しいことをした。下位とはいえ貴族である男爵家に養子として引き取ったのはイコール国に保護されたととっても間違いではないからだ。


だが、その報告がないのは如何に?と思い国王は顔を顰めて宰相に問う。


「それについては、私の責任です。部下の一人が報告書を別の棚に紛れ込ませていたようで、確認が遅れておりました。申し訳ありません」


国王の懸念に答える宰相は深々と頭を下げ、そして国王は宰相とその該当の者に減俸三ヶ月を言い渡すと本題に戻った。


「ともかく、副団長が言ったホークレッタ男爵令嬢が預言の乙女だというのは可能性が高い。近いうちホークレッタ家の当主には詳しく話を聞くとしよう。それまではこの件について他言無用とする」
「「御意」」
「承知致しました」


下手に漏らせば厳罰に処すると言外に示した国王の言葉にそれぞれが頭を下げて了承の意を示したのを見て、国王はゼウラにとって残酷な言葉を吐く。


「最後に、牢にいるあの娘の"精霊の森"への護送についてだが……騎士団長に一任する。自害も逃走もさせることは許さん。預言通りならば、この世に厄災を齎す元凶となる者は処理・・せねばならん」
「―――承知しております」


返事をするのに躊躇ったのは一瞬だった。
己は騎士である以上、王の命に従うのが道理である。
そう自分の中でも湧き上がる疑問や嫌悪感を抑えつけて。


「これは王命である。心してかかれ」
「はっ」


頭を下げたゼウラは悔しさに歯噛みする。
人形のようだ、とたったそれだけの理由で明確な証拠などないのに厄災を齎す元凶と断じられたエリーゼを思うと、悔しさが込み上げていた。
同時に、何もしてやれない自分に対しての怒りも。


初めて、自分の王国騎士団長という立場を投げ出したいと思ったゼウラだった。





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