スキルメイカー

にこ

その6 冒険者3

俺たちが冒険者になってから1週間が過ぎた。
この1週間は魔物と関わらない、王都内での探し物やお手伝いの依頼やペリル草の採取をした。
速く強くなるには魔物を倒してレベルを上げることがいいが、王都内の依頼や周辺の安全な依頼で地理を把握し、王都の人と交流を持つことも大切だとククルに言われていた。
お陰でギルドの職員さんや市場の人たちと少し仲良くなれた、気がする。


そしてこの1週間の間にドーンさんから刀の試作品を受け取っている。
俺の知っている日本刀と比べると反りがなく、刃文も見えない。
ドーンさんいわく、鉄製で刃を薄くしているため折れやすいので気をつけて欲しいらしい。
ドーンさんは全く納得していないようで次ができたら宿屋に連絡すると言って戻っていった。
確かに見た目はあまり日本刀に見えないが、片刃でいかにも斬ることに特化していそうな形状は刀そのもので、俺の≪刀術≫スキルにも認められて刀がよく手に馴染んだ 。


「それで今日は魔物の討伐に挑戦しようと思うんだが」
3人で朝食を食べている最中、俺はククルと正太に提案をした。
ちなみに今日の朝食はパンとお肉がたっぷり入ったシチューだった。とてもおいしかったが日本人としてはそろそろお米が食べたい。
「そうですね。そろそろレベルも上げなければいけませんし丁度いいころ合いでしょうか」
「僕もいいと思うよ」
ククリも正太も賛成のようだ。


「それで俺なりにちょっと調べてみたんだが、角ウサギという魔物を狙ってみようと思ってる」
「角ウサギは魔物といっても動物との違いは魔力量ぐらいなので新人冒険者が最初に相手をする魔物ですね」
「ああ、というわけでご飯を食べたらヴァターニャの森に行こう!」


今さらだがギルドの依頼は、大きく2つに分かれている。
1つは期限依頼といって依頼主が欲しいものやしてほしいことに報酬のお金を載せて依頼を出すものだ。期間は依頼によって変わるが依頼が達成されるとその依頼は終了となる。
もう1つが無期限依頼だ。これはギルドと一部のお店や飲食店からの依頼となっている。主に魔物の素材や鉱石、植物などで、いくらあっても困らないものばかりだ。そのためこちらはギルドで依頼を受けるのではなく直接素材をもっていけば依頼達成となる。
今回は無期限依頼のため俺たちはそのまま王都を出た。


この1週間で何回も通った道なので何かあるわけでもなくヴァターニャの森に着いた。
いつもは入り口周辺で採集をしているが今回は魔物のいる地域まで入らないといけないため森の奥に進んでいった。
森の中を歩き始めて約1時間。ずいぶん奥まで入ったのか辺りは少し暗くなってきた。
「そろそろ魔物が生息する地域に入りました。緊張しすぎるのもいけませんが周りの警戒を怠らないようにしましょう」
そういわれて周囲を意識しようとした時、ふと疑問を覚えた。
「ククリ、魔物の居場所がわかったりするスキルとかってないのか?」
「スキルは聞いたことはありませんが≪魔力操作≫の応用で魔力感知をすることはできますよ。魔力を持つものの方向と大まかな保有量が分かります」
魔力感知は魔法使いにとっては必須能力のようでどんな魔法使いも必ず覚えるそうだ。


「魔法使いがいないパーティとかはどうやって魔物を探すんだ?」
「そうですね……多くの冒険者は自分たちの拠点となる街と狩場を持っています。新人冒険者は熟練冒険者のパーティに入って冒険者のやり方を覚え、1人前になるころにはそのパーティ内で世代交代が起きます。なので感覚や経験で魔物の分布を覚えている人も多いんです」
つまりは長い間に魔物の分布お覚えているので魔力感知がなくても問題ないということか。


俺にとって大事なのはスキルに感知系が無いということだ。つまりはこれだろう。
俺は久しぶりに≪製作者≫スキルを使った。


‐‐‐スキル≪気配感知≫を製作しますか?(はい/いいえ)‐‐‐
(意外だな。こういう世界なら存在すると思ったんだけど……ま、俺が手に入れれたから結果的に良かったけどな)
俺はもちろん“はい”を選択した。
‐‐‐≪気配感知≫を製作しました。続けて付与します……成功しました‐‐‐


new!!≪気配感知≫
生物から発せられる気配を感知する
Lv1:半径200m
取得条件:不明


スキルが付与された瞬間周囲のあらゆる生物の気配が、植物から微生物まで全ての位置が脳内に入り込んできた。
「痛ったぁ!!」
激しい頭痛を感じて“止まれ!!”と念じるとスッっと痛みが引いた。
「リョウマさん、どうしました?」
俺が急に叫んだのでククルも正太も驚いている。
「い、いやなんでもないよ」
「本当に大丈夫?」
「ああ、問題ない」


1回使ったことでスキルの使い方が何となくわかった。しっかりと意識すれば対象を絞り込むことができる。落ち着いてもう1回使うと今度はたくさんの情報が入り込むことなく5つの気配だけ感じることができた。俺の左右にある気配はククルと正太のようで、ククルの気配が正太より少し大きいのはレベル差だろう。
そして正面やや左側から3つの気配がこっちに向かってきている。


「ク、ククル! 正面左から何か近づいてきてるんだが分かるか?」
「左ですか? ……!!本当ですね、これは……ゴブリンでしょう。この距離はもう避けられませんね。相手もこちらに気づいているでしょう。戦闘準備してください!」


ククルが短剣を抜いたので俺と正太もそれぞれ剣を抜いた。
俺たちが剣を抜いたのとほぼ同時にゴブリンが3体、草むらから飛び出してきた。
ゴブリンの姿は誰もが想像する通りの緑色で少し小柄な体をしていた。
「グギャギャ!」
先頭を走っていたゴブリンは手前にいた俺めがけて飛び込んできた。ゴブリンの武器はこん棒のようで思いっきり振りかぶってきた。
俺はとっさに刀でガードしたが振り下ろされたこん棒の重さとゴブリンの力に一瞬抵抗して刀ごと転ばされた。
追撃されないようにいったん後ろに下がって確認するとゴブリンはこん棒を振り下ろした状態のままだった。
残りのゴブリンを探してみると正太とククルに1匹づつ向かっていったようで、ククルはうまくかわしながら少しづつ攻撃を与えていっている。
正太はなんとかよけたりガードしているが少し厳しそうだ。
しかし俺も正太の心配をしている余裕がないので目の前のゴブリンに意識を戻した。


最初の攻撃はとっさに受けてしまったので転ばされてしまったが、落ち着いてみると攻撃が単調でそこまで速い攻撃ではいので避けるのは難しくなかった。
何回か避けていると慣れてくるもので、ゴブリンの攻撃に合わせて刀を振ると刃が少しゴブリンの体を切った。
ゴブリンは自分の攻撃が当たらずいらだったのか、俺に唯一当たった攻撃、つまり最初と同じく思いっきり跳躍してこん棒を振りかぶってきた。
「2回目はさすがに食らうかっ!」
俺は振り下ろされたこん棒を避けるとゴブリンの首に向かって刀を振りぬいた。
刀は吸い込まれるようにゴブリンの首に入ったと思ったが、ゴブリンの体が硬かったのか、それとも俺の刀術や刀の切れ味に問題があったのか、切断することはなく深い傷を残すのみだった。
しかしゴブリンの太い血管を切ったようでゴブリンはのどから声にならない音を出しながら前のめりに倒れた。


料理で肉や魚を切る時とは明らかに違う生物を殺す生々しい触感が手に残っているが吐き気など精神に来る感じは不思議となかった。
ただ血の匂いや斬られたゴブリンの死体はあまり見たくはないものだ。
俺はこれから魔物を倒していくとなると少し憂鬱になった。


「2人とも大丈夫か!」
ククルは俺よりも早くゴブリンを倒していたようで正太の応援に回っていた。
正太に経験を積ませるためか、ククルは積極的に攻撃をせずゴブリンの攻撃をはじいていた。
「ショウタさん、今です!」
「は、はい!」
ククリがゴブリンの手を斬り、こん棒を落とさせるとそこに正太が思いっきり剣を振り下ろした。
ゴブリンは避けようと後ろに下がったが、剣は身体を切り裂いた。
血が噴き出したゴブリンは少しけいれんをすると動かなくなった。


「ククリ、正太、お疲れ様」
「リョウマさんもお疲れ様です。ゴブリンの魔石を回収したら少し休みましょうか」
「ああ。って正太、大丈夫か?」
正太は少し体を震わせていた。よく見ると顔色も血の気が失せたように青くなっている。
「ぼ、僕ちょっと隅っこで休んでてもいいかな?」
「ああ、こっちはやっとくから木陰で休んでた方がいいぞ」
正太はうなずくと、おぼつかない足取りで歩き出した。


「正太さん、かなり参ってしまっていますね」
「初めて、しかも人型の生き物を殺したからな。この世界だったら普通なのかもしれないが、俺たちの世界ではまずないことだ」
「そうでしたね。ショウタさんのためだと思ってとどめを刺すようにしましたが間違いでした」
「いや、この世界で生きていく以上避けては通れないことでもあるからな。早めに経験して結果はよかったと思うよ」
「リョウマさんも無理せずに休ん打法がいいんじゃないですか?」
「俺は正太ほどではないし、そこまで気持ち悪くなることもなかったから大丈夫だ。そうだ、正太が休憩してる間に魔石の取り方を教えてくれないか?」
「そうですね」


ククルは解体用のナイフでゴブリンの心臓辺りを切り開くとササっと魔石を取り出した。
うん、俺が覚えるのは少し時間がかかりそうだ。
とりあえずやることもなくなったので俺たちも正太と休むことにした。
その後正太が少し落ち着いたところで王都へと戻ることになった。





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