意志ある者達は戦う

形の無い悪魔

捕食者と被食者

真夜中、『月』を抱えたまま、一途は一方向に安定して、一切揺れること無く飛び続けていた
そして街を出て、森の方にさしかかる
しかし、しばらくして森の真上を飛んでいる時、『月』はフラッと一途がしたのを感じた

『月』がそう感じたのもつかの間、一途は急速に減速して大きくフラフラしだす

「一途、どうしたの!?」

「ごめん、なんか意識が朦朧として……」

そう言うと、辛うじて飛び続けていた一途は体から力が抜けて地上へと墜ちていく。一途に抱えられていた『月』もともに……

「あ、待って!ちょっと、私はあんまり・・・・飛べないよ!?」

『月』は墜ちていく一途にしがみついて、フワフワと飛ぼうとするが、一途の重さは予想外だったのか飛ぶというより、緩やかに墜ちていく。そして、

ヘグッ!!

『月』は頭から地面に墜ちた

「いったた…………飛ぶのはお城の中以来だったし、人を持った状態で飛んだことなんて無いよ………」

そう呟くと、『月』は自らの額に手をあてて痛がった。しばらくそうしたまま、座り込んでいると不意に一途のことを思い出す

「あ!そうだ!!一途、大丈夫!?」

『月』は一途が寝ている方に声をかけたが、返事は無い
これに対して、危機感を覚えた『月』は急いで一途へと駆け寄る

「一途!ねぇ、返事して!!」

『月』が叫びながら揺すっても、返事は無かった。この一途のただこどならぬ様子に、『月』の顔はさっと青ざめた

『月』は再び揺すってみたが、やはり返事は無い

そして、身を強ばらせながら、恐る恐る耳を一途の鼻の近くにやり、『月』は今にも泣きだしそうな顔で一途の息を確認する




スゥー……フゥー………


息を吸い、吐き出す音だ
一途の息はしっかりとしていた。それを感じ取ると、『月』はひとまず落ち着く
そして、草地に寝っ転んで、脱力した

『はぁ………、良かった……。ちゃんと生きてる』

『月』はそう呟くと、特に眠る必要の無い・・・・・・・・・彼女だったが、目を瞑り朝を待った



しかし、夜が明ける前に『月』は一途と自分の周りに集まってくる存在に気づいた

それらは一匹や二匹ではなく、十数匹という数で押し寄せる。そして、森の中、茂みに隠れながらも自分達に着々と近づいて来る

『月』は極直近にまでそれらが迫って来た時、月夜の薄暗い中、茂みの隙間からそれらの容姿が微かに見えた

『お、狼?』

背の引く茂みの中から剛毛の毛並みと、鋭いキバが月の光で微かに輝くのが『月』には見えた

『絵でしか見たこと無かった……』


『月』がそう呟いている間に、近づきつつあった狼達は、いつでも彼女に飛び付ける距離にまで近づいていた

『数が多いけど……何とか、なるかなー……一途を置いて行くわけにもいかない……』

『月』はそう呟いて、立ちながら考える

そして、しばらく経ったその時、


ガサッ…!!

茂みが揺れる音ともに一匹の狼が『月』の顔にめがけて飛び付いた

『月』は気付くのに遅れ、眼前にまで迫った時に気づき、慌てて狼の胴を掴んだ

狼は目の前の『月』の顔に噛み付こうと口を大きく開ける

その時、『月』は胴を掴んでいた両手を離して、開かれたばかりの狼の口を掴んだ

狼はこの異常な自体に対し、とっさに口を閉じようとする。しかし、閉じようとしても無理やりに己の口をこじ開けられる

そして、口に『月』の唇が近づけられるのを見た

その刹那、自身から何かを吸い取られているのを感じとる。そして、脚や胴を動かせる限り動かし、逃げ出そうとする

しかし、『月』の力は狼のそれより遙かに強く抜け出せ無い

そして、狼は吸い取られるのを感じてから徐々に体が重くなっていき、意識が遠のいていった……



少しして『月』は精気を失い、青白くなった狼の死骸を放りだした

『狼さん、ご馳走様♪』

そう言って、恍惚とした表情の『月』は自分の口の周りを舌でペロリと舐める

この終始を見ていた他の狼達は、『月』が自分達の方に目を向けると、身震いをして逃げたしていった

『………何も考えて無かったけど、上手くいった』

『月』は少し嬉しそうにそう呟くと、未だ意識の無い一途を肩に担ぐ
そして、森の奥へと歩いて行った

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