意志ある者達は戦う

形の無い悪魔

新たな一日


陽は昇り、草木を照らし、
石レンガの素朴な民家、『月』の家をも照らす
その家の中で、一途は目を覚ました

「おはよう、一途!」

元気よく『月』が言った
しかし、一途はそれを無視し、黙って体を起こして地べたに座った

無視された『月』だが、それを気に留めた様子も無く、一途に喋りかける

「ねぇ、朝ご飯食べたいよね?分かんないから、市場で適当に貰って来たよ」

「………」

「あ、私は食べないから、気にしないで。ほら、食べて」

そう言って、『月』が一途の目の前に果物を出すが、一途は変わらず無反応であった

「……、じゃあご飯ここに置いておくね」

そう言うと『月』は一途の横に果物を置いた。一途はそれにも反応することは無かった。しかし、『月』は気丈にも話し続けた

「昨日は……凄かったね」

「………」

「凄い速さでここまで飛んで行くんだもの」

「………」

「ねぇ、どうやったらそんなことができる?」

「分からん、急にできるようになった……」

無視していた一途だが、つい答えてしまう
返事をしてくれたことに『月』は顔に笑顔を浮かべ、喜んだ
その様子を一途は見ると、顔をしかめた。そして、一途は立ち上がり、『月』に詰め寄った

「……お前のせいで、もう城には戻れない。俺には居場所が無くなった。どうしてくれんだ!?」

「あぅ……」

「だいたい、お前、俺の命を奪おうとしてただろ!?口から人の命を奪うってなんだよ、キスじゃ無かったんだろ!この化け物め!!」

一途は怒鳴りつけた。『月』はこれを受けて、笑顔をから一転、哀しそうな表情を浮かべる。そして、『月』はボソボソと呟く

「……ごめんね、化け物の、私のせいで……」

一途はその呟きを聞き、俯いた。そして、彼もボソボソと一言

「……すまない」

とだけ、何に謝りたいのかも分からず、呟いた

それから、二人は何かを話すことも無く、夜まで呆然と何もせずに過ごした

─────

日が沈み、すっかり辺りが暗くなった頃

『最後はこの辺りを調べれば、終了だ!二人が見つかろうと、見つからんとも関係無い!とっとと調べて終わらすぞ!!』

『『『『おーう!!』』』』

一途と『月』は近くから上がった掛け声に気がついた

そして、一途はその掛け声の主達が自分達を探していることを察した。しかし、どうすることも無く、頭を抱えて、表情を曇らせ、下を向く

そんな一途の様子を見て、『月』は彼に向かって話し始めた

「ねぇ、一途。私には両親がいたんだ」

「………」

「でも、ついこないだ二人ともいなくなってて、……家には血の跡が残ってた」

「………」

「そう……そして、家にあった大事にしてた私達三人の絵が無くなってて、手紙があったの。そこにね、絵がお城にある、って書かれてて……何となくもう二人は………死んじゃったって分かった」

そこまで『月』は喋ると目に涙を浮かべ、ごもりながら喋るようになる

「絵だけでも……家に持って帰りたくて、……お城の中で似た額縁の見つけたけど、変な絵があっただけで、違うかった」

「………」

「そんで…………私、姿をちょっとの間消せるんだけど、何故か見つかっちゃって、追われて、……ボコボコにされて、……一途に助けて貰った」

「………」

「せっかく……助けて貰ったけど、私にはもう何も無いから……、ごめんね、助けて貰ったけど何の恩返しも出来ないで…………、一途の居場所を奪っちゃった」

「………」

「だから、せめて……、一途の居場所だけでも何とかするから」

そう言うと『月』は急に家から飛び出し、

『貴方達がお探しの人達はここにいるよー!!』

と叫んだ。その声を聞きいて掛け声の主達、騎士達は『月』の方を向いた。そして、騎士達は『月』の姿を見て、それが自分達が探している二人の片方だと分かり、ゾロゾロと彼女を囲むように集まった

その中から一人、男が『月』に近づき、話しかけた

『貴方と確か、もう一人、少年を探している。貴方の後ろの家にいるのか?』

そう言って、男は一途のいる家を指す

『はい、そうです。彼はあの中にいます』

そう言って、『月』は頷き、続けて話す

『私は一切抵抗しません。死ねと言われれば、今、この場で自殺します。…………ですから、どうか一途を……、あの家の中の少年を元のお城の中で生活できるようにして下さい』

これを聞いた騎士達は騒いだが、しばらくすると、『月』に近づいていた者が周りを落ち着かせて、彼女に向かって尋ねる

『じゃあまず、貴方の首を私の剣で切らせて貰う。……少年はちゃんと丁重に扱うので安心してくれ』

そう言って、男は自らの鞘から剣を抜き、『月』の首元に当ててから、振りかぶった




ドン!!

その時、『月』の後ろのドアが勢いよく開き、一途が飛び出した。そして、一途はそのままの勢いで剣を振りかぶった男に体当たりして、倒す
一途の表情から曇りは無くなっていた

『おい、月、せっかく助けてやったのに。自ら命を捨てに行くなよ!……まぁ、俺がハッキリしなかったのが良く無かったけど………。俺は自分の決めたことを最後まで押し通す、そう決心がついた』

一途はそう言って、『月』を自分の方に引っ張った。そして、『月』に精一杯の笑顔を向けた

『…………いってて……、お前ら!全員、剣を抜け!!化け物の方は殺していいが、少年の方は殺すな!』

と言って、一途に転かされた男は声を張り上げた
一途と『月』を囲んでいた騎士達は一斉に剣を抜き、囲いをじりじりと狭めるように近づく

一途はこの状況で身震いすることなく、凛々しく立ちながら、『月』に宣言する

『月、また飛ぶぞ。今度は行く当ても無いが……』

そう言って、一途は『月』を抱える

そして、騎士達には目もくれず、夜空の果てしない暗闇へと飛んで行った

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