意志ある者達は戦う

形の無い悪魔

一日が終わる

計測を終えるとテオドルの従者達によって異邦人達は食堂へと連れて行かれた。夕食のようだ
細長い食卓の上には既にスープとパンが一席に一組ずつ並べられていた。スープには肉類は殆ど入っておらず、申し訳程度に何かの肉片が入ってあるだけ。パンは大きくカチカチで重く、食べ応えだけはありそうだが、とても美味しそうには思えない。

周りの異邦人達は呆気にとられ黙る中、戸部はこの並べられた料理の様子に思わず、小言を漏らす

「……なんだこれ。犬の飯か?おい、なんても……フグゥ」

戸部の小腹を秀一の肘が強く打ちつける

「それ以上言うんじゃない。……察しろ」

「これは、察するとかのレベルじゃねぇだろ……」

諫めた後も何か文句を言おうとする戸部を席につかせ、その横に秀一が座る。2人が席についたのを先駆けにし、他の異邦人達も席についていく

「月時って、かなり華奢なのにこんな食いにくいパンをガツガツと食うんだな。こう、俺でもちょっと硬すぎて、噛み千切るのも手で千切るのも難しいのに」

「あら、貴方はやっぱり子供のようね。一途君」

「なぁ、その、子供って例えよく使ってるけど、子供が好きなのか?」

「ええ……好きよ」

「おっ、じゃあ、やっぱ今までのは褒め言葉だったのか。へへっ」

「子供って見てるといじめたくなるでしょう?だから好きよ」

「えぇ……!?なんだよ、それ。なんか嬉しく無いんだが」

「別に貴方のことを指して言った訳じゃ無いわよ」

「うーん、そうなんだけどなぁ」

異邦人達は食事を一段落終えると、待機していた従者達ではなく、食べ終えるあたりで食堂に入ってきたメイドらしい人に異邦人達の為の寝室へと案内されて行った
異邦人達と入れ替わりで従者達が食事をとるようだ


異邦人達は小さな二階建ての宿のような王宮の離れに案内された。確かに小ぶりな宿のようで王宮に比べれば小さいが二十人・・・という人数には十分な程広く、部屋の数も足りている

「えー、ここの部屋はすべて自由に使って頂いて結構ですが、寝るとき以外はここには来れません。大事な物は置いておかないようにしておいて下さい。衣服や生活必需品は後日買い出しの時に買われて下さい。一応衣類は備えがありますから今はそちらをお召し下さい。後、猪井の刻……10時以降、この離れから外出することは厳禁です。以上のことは留意しておいて下さい。皆様には明日から何かしらの訓練や洗礼・・があるでしょうから、今夜はゆっくりと休んで頂き、明日から頑張って下さい。入浴はここに備え付けの設備がありますので、火は皆様方が起こして自由に使って下さい」

メイドは説明を終えるとそそくさと王宮へと戻って行った


「えっと、お風呂は自分達で勝手にやってくれってこと?ちょっと待って!!寝る時くらいしか帰って来れないのにお風呂は自分達で沸かせ……って無理じゃないの!?」

ある一人の少女が仲間内だけになるや否や、急にヒステリックを起こし始めた

この少女、名前を小鼓桔梗という。目鼻立ちはくっきりしており、体つきは年相応。風貌は派手でおおよそ名前とは真逆のイメージを抱かせる。言動もまた名前に似つかわしいように思えない。

「私達は勇者達として呼ばれたなのに、なんて扱いなの!?それにあの食事は何!?残飯??どんな奴が食べても不味いと思うような料理だったんだけど!!」

「あら、そんな愚痴ばっか喋ってないでお風呂にしましょう。気持ちの良い湯に浸かれば不愉快な事も一瞬で忘れられるわよ」

一人、桔梗の王宮にすら聞こえそうな程の大声による愚痴に他の異邦人達がドギマギする中、美玲が桔梗に声をかけた

「お風呂……?何言ってんの!?そんなの今から自分達で火を起こして入るのなんか無理よ!?火を起こすって言ってる時点でお気楽に入れるような現代チックな奴じゃないことくらい分かるでしょ!!」

「大丈夫よ。何も私達のような女の子・・・が火を起こすんじゃ無いわよ。ね、一途君」

「お、おう?」

「貴方、照谷君と一緒によくキャンプに行ってドラム缶風呂とかやったりするぐらい火の扱いには慣れてるでしょ?」

「え、、月時さん……そのこと知ってたんだ……」

「すまない、昭谷。俺、なんか前に自慢話でこのことを話しちまった。本当にごめん」

昭谷御蔭。名前の通りで数々の幸運をこれまでに与ってきたようだが、その容姿、内面にはその幸運が反映されなかったようだ。見た目は齢通りの子供で背丈は年齢平均値くらい。単なる普通の子供であるように感じられる。

「貴方達は本当に素敵よ。尊敬するわ。そんな尊敬出来る素敵な貴方達にお願いがあるの。……言わなくてももう分かってるよね」

そう言って美玲が一途と御蔭を交互に微笑んでで見つめる。御蔭は美玲のその様子に照れているが、言わんとしていることを察している一途は何とも複雑な表情で固まっていた


───────

「あの!……こんなぐらいで湯は丁度いいですか?」

「あ~……バッチしよ~♪すっごい気持ちぃわ♪あんがとね、昭谷」

「おい!後がつっかえるから早く出ろよ、小鼓。もう他の女子は全員出ただろ?男子達がまだなんだからな。取ってきた薪には限りがあるしな」

「は?女子の風呂舐めんなよ。あんたら男子とは違って時間がかかんの!海源、うっさいからあんま喋んないでくれる」

オンボロ銭湯の小さな浴槽のようなのが離れについていた。大きな釜のようなのにタイルが敷き詰めてあるだけの簡単な造りだ。女子が先に入り、釜を外から直火で2人が温めている

「ごめん……一途君。もう薪ないよ……。」

「おい、マジかよ……。なんか、夜になってから結構寒いし、熱い湯に入りたかったんだけどな。これじゃ、入る時には水になってるわ」

「大丈夫よ、一途君。男はちょっとくらい汗くさい方が格好いいわよ」

「月時、……じゃあ、今の泥と汗と灰に塗れた俺達を格好いいと思うのか?」

「私は“ちょっとくらい”って言ったわよ」

「…………やっぱ、すぐ出てくれ。俺今、無性に風呂に入りたい!!」


───────

異邦人達は入浴を終え、各人適当なベッドに横になり、眠りにつきだしていた

「うぅ……寒い。結局、水風呂だった。遠くまで薪を貰いに行ったのだって男子達だったじゃないか……」

一途は月明かりをたよりに寒い夜の中、冷たい廊下を通りトイレめがけて歩いていた。トイレの前に差し掛かった時、トイレの扉が急にバタンとしまる。中は暗く灯明皿みたいなのが置かれていたがつけられて無かった

この様子に一途は恐怖を覚える。風が吹き、窓が揺れ、ピシッピシッと音がする。それによって彼は一層恐怖に駆られた

「だっ、誰か入ってるのか?暗くてよく見えないだろ?灯りぐらいつけろよ……な?」

「…………」

トイレにいる人物に向かって話しかけるが返事はない

「な……なぁ、おい。入ってる……よな?」

トイレに近づき、鍵のかかってないドアを思いっきり開ける

『ひっ……!!』

中には人らしい存在がいて、女性らしい声が聞こえた

「うぁ!……っとえと、、ごめんなさいっ!!」

一途は今度は思いっきりドアを閉め、考え込む。彼はさっきの声に聞き覚えが無かったのだ。故にトイレを待つ間彼は、今トイレの中にいる人物が誰なのかについて考えていた
暫くして、その人物はトイレから出て来て、そして、一途に話しかける

「あ……あの、私を護って」

「…………、君は誰?」

「え……、えっと、あの……」

「やっぱり……、君、俺の知ってる人じゃなさそうだな」

「!?………はい……。」

「一体、君は何処の誰なの?」

一途がそう言うと謎の人物は彼の物言いの厳しさにすすり泣きしてしまう

「あぁ、なぁ、泣くなよ。ごめん、きつく言い過ぎた。名乗り辛いのなら、もう別にいいよ。」

「………、私はえっと月っていうと思う、よく分からないけど」

「月?」

「そう、私の名前は月って呼ばれるものだと思う」

「自分の名前なのによく分からないのか」

「うーん、そういう訳じゃ無いんだけど……」

そう言った後、は一途の目の前に行き、彼の手をとり力強く握った

「私を……匿って!」

「おいおい、なんか凄いヤバイ感じがするが、分かった。事情がありそうだし、それに声で判断して、俺とあんまし変わらない年齢っぽいしな。……でも、ちょっと待ってくれ!!」

「!?……な、何??」



「すまん、俺、トイレ行きたかったんだよ」


「………………………待つから、早くしてね」

そうして、一途は急いでトイレに入った。

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