異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

――第111話―――

 ネロとラルフが“核”の入れ替えに奔走している中、俺は<原始の森>に来ていた。

 木々が茂り 上にぽっかりと開いた穴から青くんだ空が見え、優しく頬をでる風が心地良く、空からの光は葉を照らしていた。

 人目の付きにくい森の奥に着いた俺は、一本の木を背にして座り、心地よい空気を胸いっぱいに吸い込む。

 ここ最近色々な事が起こってたからな……。
 ショーンの事もフローレンスって言う黒幕の事も。

 新鮮な空気を吸い込むと頭がスッキリとした気分になる。

 「よし」と意気込むと肩に小鳥が止まり、ピチチッ と可愛らしい声で鳴いた。

 小鳥に少し和ませて貰ったが、今日は気晴らしに来たわけでは無い。

 【索敵】を常にしていると、物凄い勢いで俺の所に来ている反応があった。

 俺が気付いてから数秒遅れて小鳥も気づいたのか、小鳥は俺の肩から飛び去ってしまった。

『ようやく、来たか……』

 俺の前に現れたのは額の中央に鋭く尖った一本の角を持つ白馬……ユニコーンだ。

 一度、前みたいに呼んでみたものの、中々現れてくれないから どうしようかと思った。

 いつも、ユニコーンから来てくれるからな。
 俺、ユニコーンの住処すみか知らないし。

『久しぶり』

『……』

 え、何でそこで沈黙?
 この前あった時に“狂う魔物がまだいるから来てほしい”って言ってた……よね?
 だから来たんだけど……?

『……』

『……』

 いつまで沈黙なんですかね??
 俺から何か話した方が良いの??
 え、でも一応 声かけたんだけど??
 誰か 沈黙の正しい終わらせ方 を教えてくれないかなぁ……。

 俺が途方に暮れていると、じっと見つめていたユニコーンの瞳が閉じられ、再び俺を見て口を開いた。

『なぜ、その様な空気をまとっている?』

 ……。
 やっぱりユニコーンって言葉足りなくないかな。
 開口一番それか!!
 久しぶりー、とか、よく来たねー、とか!!
 挨拶は無いのか。
 あ、魔物だから無い……とか?
 えー、でも動物の中でも挨拶はあるって聞いた事あるしな……。
 んー……とりあえず

『もう少し詳しく言ってもらっても良いかな?』

 じゃないと話が進まん!!
 分からなかったら聞く!!
 分かるまで聞く!!
 理解出来るかは聞いてから考える!!
 だからその瞳はやめてー。

『ふむ……以前会うた時は今の様にルディの空気はトゲトゲしく無かったぞ。それはわれを警戒しての事か?ルディはわれを敵とみなすのか?』

『え、そんな空気出してる?』

 ユニコーンから返って来た言葉に きょとん としてしまう。
 俺の言葉にユニコーンは探る瞳を隠しもせず こくり と頷いた。
 
 俺の態度が悪くってユニコーンの方もどうしたら良いか分からなかった感じ?

 俺的には一応、変な空気とか気が張ってる空気を出さない様に気を付けてるつもりだったけど、自分で思ってる以上に分かられるもんなのかな。

 俺は少しユニコーンに対して悪いような恥ずかしいような……。
 なんだか居心地が悪いような気分になり、意味も無く前髪をいじりながらも たどたどしく答えた。

『あー……それは、その、なんか ごめんね……?最近立て続けに色々な事が起こってさ……んで、あー、その、魔物を“もどき”にした……あ、“もどき”って言うのは、そっちが前に、穴に葬った、狂ってた魔物の事なんだけど。それは知ってるか……えーと』

『……』

『えと、その“もどき”を作ってた悪者?ん?黒幕?と、そろそろ対峙する事になりそうだから……俺の気が付かない内にそういう空気を出してたかも。……気分を悪くさせてごめんね?全然、俺は敵対するつもりとか無いし、ここに来たのだってこの前の約束を思い出して来たんだ』

『……成程。ルディが我に対して敵意が無いことは分かった』

『うん、いや、ほんと、ごめん。今日は少し時間が出来たから来てみただけなんだ』

『ふむ……それは有難ありがたい。実の所困っておるのだ』

『え、何に?』

『その場所へ向かいながら話そう』

 ユニコーンは俺に背中を向けて立ち止まっていた。

 これ、もしかしなくても“乗れ”って事だよな。
 えー……
 遠慮したい。

 前に乗せてもらった時に良かった記憶が無い。
 と、なれば……
『俺は走ってついていくよ。並走しながらの方が話しやすいし』

『だが、人間では……いや、ルディを人間として扱うのは失礼であるな。では、参ろう』

 いやいやいやいや。
 人間として扱ってくれて良いんですよ?
 てか、人間ですよ?
 それとも、神狼族に育てられてるから気を遣ってくれた、とか?
 いや、そこまでの事話して無いから知らないはずだよな。

 疑問を抱えつつも俺はユニコーンに先導されるまま、並走してついていく。

『やはり、ルディは人間では無いのではないか? 我のスピードについて来られるなど』
『え!? なに??』

 凄まじいスピードで風が通り抜け、風の切る音で耳に壁が出来、ユニコーンの言葉が聞え辛かった。
 俺は防除膜を張り、風との抵抗を軽減してから問いかけたが『なんでもない』と言われただけだった。

『先日、ルディに助けられた……ルディの言う“もどき”と似ているが違う魔物共がおってな。それが日に日に増えて行くばかりで困っておるのだ』

『狂ってる感じの魔物が増えてるって事か……何か原因とか分かってるか?』

『それが、分からぬのだ。自然発生したものなのか、人為的なものなのか……いつもであれば神狼族に頼むのだが、神狼族は自然発生したものは処分するが、人為的やそれ以外のもの、神狼族が対処出来ないと判断したものの場合は原因も分からぬままになってしまう』

 自然発生……は、恐らく〈闇落〉した魔物の事だろう。
 〈闇落〉なら神狼族は処分……殺す事が出来るが、それ以外となると難しい。

『神狼族の中には原因を探してくれる者もおるが、前回の“もどき”の様に、人為的なモノであればエルフに調査をたくす場合が多い。だが、エルフの姫には、今回“もどき”を葬る際、魔力の消耗が激しく、多少怪我もしてしまった。今はまだ安静にしてもらいたい』

 なるほど。
 俺はいつも神狼族のネロやラルフと一緒にいるし……。
 自然発生にしろ人為的なものにしろ、俺だったらどっちに転んでも何とかしてくれる……
 って!? え!?
 俺、まだ里の外に出て日が浅いんですけど!?
 ユニコーンがエルフの姫様を大事に思ってる事は分かったけどさ。
 いつ、どこで、俺の信頼はそんなに上がってしまったんだ。
 やれる事はやるけどさ。
 そんなに期待しないで貰えると嬉しいんだけどな……。

 俺の信頼のインフレに疑問を抱きつつもユニコーンと共に目的地へと向かった。



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