異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

――第109話――

 一部始終いちぶしじゅうを見ていたラルフが陽気な笑い声をあげる。

「あはははは! 今までも不自然な行動してたからね!」

「ショーンの姓がって聞いた時は驚いたけどな」

「え? なんで?」

 ネロの言葉にまたもや疑問符が飛び交う。

 え、もしかして、俺って頭悪いの?
 やっぱり花畑?
 いや、花畑じゃないと信じたい。

 ネロはもったいぶる様にゆっくりとした口調で語る。

「黒幕と疑ってた奴の姓も“”なんだよ」

 にやり と意地悪そうな顔でネロは笑った。

 俺は……
「は!? 俺聞いてないんだけど!?」

「あぁ、言ってないからな」

 ネロさん!?
 情報共有じょうほうきょうゆうはちゃんとしませんかね!?
 ほうれんそう!!
 報告!連絡!!相談!!!
 ちゃんと守ろうよ!!

「まぁ、まだ、あの時までは黒幕って断言だんげん出来ない状態だったが、ショーンがあの場にいたって事で、あいつが黒幕だったって確定させた訳なんだけどな」

「あははははは! ネロはね! ルディがショーンとギクシャクしない様に黙ってたん―――」
ゴチンッ!
「いたーい!! ネロ!! 二回目だよ!?」

「余計な事を言うからそうなるんだ」
「もーッ!!」

 いつもの二人の様子を見ながら俺は考えていた。

 ショーンは身内の人が“最近疲れている”から薬草を取りに行きたいと。
 身内の人が疲れていたから何か“お手伝いをしたい”と言ってあの場所にいた。
 “初めて仕事で頼られた”と―――。
 仕事ではなく悪事だったわけだけど……。
 ショーンにそんな事は分からなかったのだろう。
 そして、出城でじろにいた人間たちは
 ―――「主様ぬしさまが言うから雑用をさせてやってたんだ。」―――
 この二つを組み合わせるとどうなるのか。
 答えは簡単だ。
 “主様=ショーンの身内”
 という事は、ショーンの姓の“フローレンス”の名を持つ者が今回の黒幕……と言う事だろう。

 確かに最初からには警戒していた。
 ネロやラルフの発言や行動からも その事はうかがえた。
 ラルフの発言で相手から“よろしく”と言われてラルフが“よろしく”と返さなかった時は不自然に思ったが、ラルフの事を知らない人からすればそれが普通だと思うだろう。

 俺とネロは違和感だらけだったけどな。

 警戒している奴とショーンが同じ姓だと……家族だと……仲良くなる前に教えられていたら……きっと疑心暗鬼ぎしんあんきになって、この国にいる人間 全員を疑ってかかっていたかも知れない。

 いや、なるか?
 うーん……
 俺ってそんな繊細せんさいな人間に見えるかな?
 なんだかんだ言って、ネロは心配性だな。

「ふふ……」
「んだよ、気持ち悪ぃ」

 おっと、笑いがれてしまった。

 ネロはすごく嫌そうな顔で見られた。

 そんな顔で見んなよ。

「ねー! ねー! いつ、ショーンを預けに行く? 早い方が良いよねー?」

「そうだな……明日……いや、準備出来次第じゅんびできしだい、預けに行こう。出来れば今日中に」

「え、どこに? てか、そんな急に押しかけて大丈夫なのか?」

 ラルフの問いにネロは悩みつつ答え、俺は疑問を口にする。

 ネロの頭で分かってることでも俺には分からないの!
 許して!

「預けるのはタリーの所だ。あそこなら、まぁ……大丈夫だろ」

「んー? タリーってだーれー?」

 今度は俺じゃなくラルフがネロに質問をする。
 ネロは不思議そうな顔をしてラルフの問いに答えた。

「ルディのローブを買った店の人間の名前だ。……知らなかったのか?」

「うん! 初めて聞いたー!」
「……俺も」

「ふーん? ……そうか、紹介し忘れてたか……ま、あっちも気にしてないだろうな」

 ネロは後半聞き取れない声で ぶつぶつ と言っていた。

 あの優しそうな おばさんはタリーって言うのか。
 ネロとあの おばさん仲良さそうだな。

 俺とネロの付き合いは長くなってきたけど、俺の知らないネロがまだいる事に不思議な気持ちになった。

「ねー! 預けに行くにしてもショーンはこの格好かっこうのままで良いの?」

 ラルフがショーンを指で示して俺とネロに聞いてきた。
 ショーンはボロボロにげたシャツから肌が見え、その肌にはいくつかの細かい傷が見えていた。
 ズボンも所々げていて、このまま外にかついで行くにしても目立ちそうな格好かっこうだ。

 俺はショーンに近付き【治癒】で傷を癒していると、ネロが魔法鞄から服を取り出し、俺に渡してきた。

「とりあえず、予備の服があるから それでも着せとけ」

「ん」

 【治癒】が終わり、ネロから受け取った服をショーンに着せようとシャツを脱がす途中で、ネロとラルフに声を掛けられた。

「……ちょっと待て、ルディ」
「ルディ、ルディ!ショーンの背中……」

 俺はショーンのシャツを脱がしてから、背中をのぞき込む。
 ショーンの背中にあったのは魔法陣だった。
 ネロは背中の陣を見て、今までにない位けわしい表情を見せた。

「ネロ―? どーしたの?」
「……いや、何でもない」

 ラルフが心配し、声をかけるがネロに一蹴いっしゅうされていた。
 険しい表情のままのネロが問いかけてくる。

 ……その怖い顔どうにかなりませんかね?

「ルディ、これは何の陣だ?」

「え、あ、うん。ちょっと待って」

 俺はネロから視線をショーンの背中に戻し、魔法陣を見る。

 何でショーンに魔法陣が……?

 この場にいる三人とも同じ事を思っているだろう。

 ネロは別の感情がありそうだが、ラルフに対する態度を見る限り、何も聞かない方が良いだろう。

 さわらぬ神にたたりなし。
 さわらぬネロにこぶしなし。

 ま、ネロが言いたくなった時で良いか。

 俺は一度 頭を振ってからショーンに集中する。



















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