異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第75話──

それから数日間。

俺達は別々に行動していた。

ネロはエヴァンの所へ行ったり、他から情報を集めている。
ラルフは“もどき”の中に入っている異物や他に気になる所が無いか、を探し、俺は“もどき”から取り出した歯に描かれている魔法陣の解読と、特定の魔力を追跡する魔道具の制作。

魔法陣の解読をしている内に分かった事がある。
初歩の魔術で、魔法陣も複雑じゃない……爆発する陣が描かれていた。
他の魔法陣に埋もれて見えにくかったが、恐らく間違いないだろう。

これは、魔力の暴走を誘発する様な陣ではなく、ただ吹き飛ばすだけの陣だ。

爆発を引き起こす条件は描かれて無かったので、それはラルフの方にある異物に、もしかしたら描かれているのかもしれない。

魔力の暴走は全身を吹き飛ばすが、この爆発の陣はせいぜい上半身を吹き飛ばす程度のもの……だと思う。

確信が無いので、その陣の実験を行い、魔道具の制作も試作品を作らないといけない。
それに、魔力を暴走させる陣を抜いた時にどんな現象を起こす陣が残っているのか、自分の考えが正しいのかも確認もしたい。
……んだけど……。

────金が足りねぇ。

あの時の王女様からのお礼を受け取っておくべきだったか?

……でも、俺は王女様の申し出を断った事に後悔はしていない。

特に親しくも無い人から現金を受け取るのは……
何か嫌だ。
それに、金の切れ目は縁の切れ目とも言うしな。
…………。
いや、別に切れて困る縁でも無いんだけど。
どうしたものかな……。
ここに来て金の問題かぁ……。
前世でも欲しいモノが買えなくて、仕事に明け暮れてたら、仕事するだけの日常になって…………よし、忘れよう。
考えるな。
今はこっちが現実だ。

俺が宿にある部屋のベッドの上で金貨や銀貨を並べながら悩んでいると、不意に扉が開く。

入って来たのはネロだった。

ネロの姿を見た俺は、もうそんな時間になったのかと、窓を見ると 空はもう暗くなっていた。

「何やってんだよ、ルディ。」

俺が銀貨一枚持ってベッドの上にいるのをいぶかしんだ様子でネロが問い掛けてきた。

「いや……金が足りねぇなぁって思ってな。」

「金?何に使うんだ?」

俺はベッドの上に並べた銀貨をいじりながらネロの問いに答える。

「魔法陣の実験、かな。……“もどき”から出てきた魔法陣から魔力を暴走させる陣を抜くと、どうなるのかって言うのと、単発で爆発する陣もあるから、どれくらいの威力があるのか、と言うのと」
「あぁ、もういい。分かった。」

俺の説明をさえぎられてしまった。

なんだよ。
最後まで説明させて貰えないと消化不良になるんだけど。
そんな疲れた顔すんなよ。

ネロは片方の手で顔をおおい、もう片方の手を上げ、俺に制止してくれ、とポーズをとっていた。

俺が黙るとネロは俺の方へ近付き、ベッドの上に置いてある金貨を手に取り口を開く。

「ここに あるだけでも、結構な額だと思うが……何を買うんだ?」

「宝石、だな。小さくても、粗悪品でも良いんだけど、それでもやっぱり高いんだよなー。」

「これでも何個かは買えるだろ?」

ネロは持っていた俺の金貨を投げ渡しながら言葉を放つ。

金を投げるなよ!?
扱いが雑っ!!
お金は投げちゃいけません!!

俺は片手で金貨を受け取りながら、ネロの問いに答える。

「それだけじゃ少ない。実験をするなら、十個単位で必要だ。」

俺がサンルークから魔道具の作り方を教わっている時も、凄い量の宝石を使っていた。
提供は土の大聖霊のロナ。
ロナから宝石の取り方を教えて貰える機会は……。
無かったな。

宝石を探しに行こう、とロナに誘われた時、レオナルドが来て ライアの後処理を先にしろって怒られてた。
やらなきゃイーサンに言い付けるぞって……。

脅しだな、あれは。

俺も、そこまで魔術や宝石には興味が持てず、それよりも魔法の方に興味があったので、そのまま機会を逃してしまっていた。

サンルークから言われて無ければ、魔術も全然知らないままだったと思う。
サンルークが宝石を沢山持って来た時は、今日は魔術を教わる日なんだな、と言う感じだ。

そんな事を思いながら俺が答えると、ネロは自分のベッドに腰掛け、腕を組む。
少し悩んでから、ネロは考えを口にした。

「なら、俺も金を出す。それなら、もう少し量が買えるはずだ。」

え……
はぁ!?
ネロから金を借りるのか!?
なんか、嫌だ!!
俺の矜持プライド的な問題で!!
ローブはお祝いとして受け取れたけど、現金は違うだろっ!!

「え、やだ。」

「……何が嫌なんだよ。」

俺が簡潔かんけつに答えると、ネロは不機嫌な顔になってしまった。

「何となく、嫌だ。」

「何となくって何だよ!?俺がやるっつってんだ!受け取れるもんは受け取っとけ!!」

「いらん!!」

「はぁ!?調子に乗るなよ!?」

俺もネロも頭に血が上り、どっちも意地を張る事数分。

俺もネロも疲れてしまい、ネロが先に冷静さを取り戻していた。

「はぁ……なら金はどーすんだよ。」

ネロの問いに俺も徐々に冷静になり、少し考えてから口にする。

「冒険者ギルドに行って依頼を受けようかな、て思ってるんだ。」

「なるほどな。……でも、ルディのランクじゃ、まとまった金は入りにくいぞ?」

「後は、やってから考える。」

「行き当たりばったりかよ……。なら俺は、安く売ってくれる所を探しておく。」

ネロの提案に、俺は少しばかり驚く。

「良いのか?」

「良いも何も、そうしないと事が前に進まねぇんなら、やるしかねぇだろうが。」

「そう、だな。それじゃ、頼むわ。」

「おう。」

ネロの言う事はもっともだが、今までも沢山協力して貰っているのに……と、少し罪悪感が湧く。

そんな事を言ったら、また喧嘩になるだろうから言わないけど。

俺の言葉に満足そうに頷いたネロは立ち上がり、扉の方へ行く。

「そろそろ飯にしようぜ。ラルフは……まだ地下か……。」

「だと思うぞ。」

「じゃ、呼びに行くか。」

俺達は、誰からと言う訳でもなく、食事をする時は皆で集まる事になっていた。

食堂では、今日あった事を話したり、寝る前に部屋では食堂で話せなかった事を話したり、と。

たわい無い会話がほとんどだが、そうする事によって、お互いがバラバラに動いていても、今どんな事をしているのか、を把握し合っている。

俺はネロの言葉に頷き、ネロと共に部屋を後にした。





















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