異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第64話──

「おい、ルディ、ラルフ。」

話が終わった様子のネロに呼ばれ、そちらを向くと一枚の紙が机の上に置かれていた。

「これは?」

紙に描かれた魔方陣を見ながらネロに聞いてみると、思いもよらない答えが帰ってきた。

「これは、血の契約の簡易版だな。」

なに、そのおどろおどろしい感じ!?
血!?
契約!?
何してんの!?

俺が驚いていると、ネロはため息を吐かれてしまった。

そんなに呆れないでよ。
初めて聞くんだから しょうがない じゃん!!
なんか、ごめんって!!
そんな可哀想な子を見る目はやめて!

ネロは魔方陣の描かれた紙を指しながら、呆れながらも説明をしてくれる。

「血は俺達の身体の一部だ。その一部を使い契約をする事で、決められた約束を破ると身体が傷付く様になる。」

こっわっっっっ!!
なにそれ!?
怖すぎっ!!
何しようとしてんの!?

「え……死なないよね……?」

一抹いちまつの不安を覚えネロに問い掛けるが、鼻で笑われてしまった。

「簡易式だから死なねぇよ。それに、約束さえ守れば何も起こらねぇ。」

「そ、そうなんだ……。」

簡易だからって言ったよね!?
「だから」って言ったよね!?
簡易版じゃなかったら死ぬの!?
怖すぎない!?

俺の顔がひきつっていると、ラルフがこそっと教えてくれた。

「さっき話してた条件を人間に守ってもらう為のものだよー?僕達には、ほとんど意味無いから大丈夫だよ?」

「な、なるほど……。」

なら良いか……。
うん?
良いのか?
契約のインパクトがデカ過ぎて頭が回らねぇ。

俺が一人困惑していると、ネロが催促してくる。

「もう契約内容も組み込んである。さっさと短剣を出せよ。」

俺は言われるがまま短剣を取り出すと、ネロやラルフ、エヴァンにクリス、そして王女様も刃物を取り出した。

それぞれが刃物で自分の親指を切りつけていく。
俺も周りに合わせて短剣で親指に傷を付ける。

チリッとした痛さの後にじんわりと血がにじんできた。

その親指を一人、また一人と魔方陣の描かれた紙に押し付ける。
最後に俺が押し付けると、ネロが魔力を流し、魔方陣から淡い光が放たれる。

光が弱まってくると、親指をつけていた手の甲が熱くなってきた。

なんだろう?と思い、手の甲を見ると紙に描かれている魔方陣と同じ魔方陣の光が浮かんでいる。
それは、俺だけでなく全員に。

紙に描かれた魔方陣の光が無くなると、手の甲の魔方陣は消えてしまった。

「……よし、これで契約完了。後は、俺がエヴァン達が持っている情報の資料を見せ……」

パリンッ!

ネロが話している途中、お皿の割れる音が店内に響き渡る。

それが合図かの様に黒いローブの人達が暴れまわり、悲鳴や怒声が聞こえ、中にいた人達は店から逃げる様に出入口へ向かう。

中には立ち向かう人もいたが、黒いローブの人の方が強く、全く相手になっていなかった。

いち、に、さん……黒いローブの人達は全員で六人、確認出来た。

エヴァンがすぐさま動き出し、続いてクリスが加勢する。
だが、あと一歩ローブの人達には及ばず、見ていて危なっかしい戦闘が繰り広げられていた。

剣と剣が交わる音、店内にいる人達の悲鳴やローブの人達が発する奇声で店内は混乱していた。

『なあ、どうする?』

俺は小声でネロとラルフに問い掛けた。

『たくさんいるねー!』

『どれか一人でも捕まえられたら良いんだけどな……。』

ラルフは陽気に、ネロは何か思案しながら俺の問い掛けに答える。

『両手両足を切り落としたら爆発しなくなるかな?』

『ラルフ……それ、笑顔で言う事じゃない。』

ラルフの発想が怖いよっ!!
どうやったらその発想が出る訳!?

俺がため息をつくと、今度はネロが提案をしてきた。

『頭殴って意識を飛ばすのはどうだ?』

『それ、一発で成功させないと爆発しちゃうかもねー?でも、それだと意識取り戻した瞬間、爆発するかもしれないよねー。』

ネロの提案にラルフは首を傾げる。

『まず、捕まえるのが優先だろ。』

『それもそうだね!』

『とりあえずさ、ネロもラルフも……それぞれ捕まえられそうな方法を試してみるって言うのは?』

俺の提案に、二人共頷いてくれた。

『それもそうだな。』

『やってみないと分からないもんねー!』

『ルディはどうするんだ?』

ネロの問い掛けに俺は歯切れが悪い答えを返す。

『考えてるんだけど……何か、なぁ。』

『何だよ。』

なんか、こう……
答えが出そうで出ない状態なんだよ!
あと一歩!
喉のここら辺まで出て来てるんだけど!!
分かるかな!?
この気持ち!!

『思い付いてから捕まえたらどうかな!』

ラルフの提案に俺は頷いた。

『そうだな。』

まだ少し余裕がありそうだし。
もし、思い付かなかったら、思い付くまで適当に相手を……

俺が思案していると、一人のローブの人とバッチリ目が合ってしまった。

あー……。
どうも、こんにちは?
ご機嫌は……麗しく無さそうですね。
そんな殺意に満ち満ちた顔で見ないで下さい。
もう少し考える時間をくれませんか?
くれませんよねー……。

その黒いローブの人は俺に向かって駆け出した。
が、不意に近くにいた王女様の方へ視線が行き、標的が変わってしまった。

それはダメだって!
こんな所で王女様死んだら色々と問題が!!
でも、まだ捕まえる算段が……。
あー!!
くそっ!!

黒いローブの人の手が王女様に向かう。

王女様は迫ってきた手に小さく悲鳴を上げた。















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