異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──第23話──

結界が解かれたサラマンダーは辺りをキョロキョロと見渡し、俺以外にいない事を感じると俺に焦点を合わせる。

全身に感じる正面からの殺意と敵意。

嫌な汗が背中に流れるのが分かる。

身体に【身体強化】【防御膜】を展開させ、サラマンダーと向かい合う。

震える手を必死で抑え、短剣を握り直しサラマンダーに向けて走り出す。

『ばかっ!正面から行くなっ!』

誰かの声が聞こえたが、サラマンダーへ意識を集中させる。

サラマンダーが大きく口を開け火を放とうとするのが見えた。

一度足を止め、正面へ左手を突き出し水魔法を放つ。

火と水が合わさり、水蒸気が辺りを覆っていく。

熱風が闘技場全体に広がるが、火と水の勢いはどちらも互角。

足を踏ん張り、水の勢いをさらに強める。

徐々に火の勢いを抑えつけていたが、急に火の勢いが無くなり俺の放った水は壁にぶつかった。

─────避けられた!?

考える間も無く、サラマンダーの足音が俺へと近付いて来るのが聞こえてきた。

視界が悪い為に、どこから来るか分からない。

咄嗟に【索敵サーチ】を使い位置を特定し、その方向を見るとサラマンダーの顔がすぐ側まで来ていた。

反射的に右へ避け様と飛び退くが、サラマンダーは回転し尻尾が俺に直撃する。

『────ぐっ!!』

ドゴォォォォォオオオォォォォン!

両手で防御をしたが、尻尾の勢いを抑える事は出来ずにそのまま壁まで飛ばされた。

『──かはっ!』

壁にぶつかった瞬間、肺のなかにある空気が全て無くなる。

息を整え辺りを見るが、砂埃と水蒸気で更に視界が悪くなっていた。

『くそっ!』

索敵サーチ】でサラマンダーの位置を確認し、その場まで走り出す。

俺に向かって突進するサラマンダーの足音を聞き、徐々に大きくなる影に対し、俺は上へと飛ぶ。

サラマンダーの勢いは止まらずそのまま俺の下を走り抜き、俺はサラマンダーの後ろへと着地する。

───このまま距離を詰めても攻撃は入らねぇ!

左手に力を込めて水魔法を放つ。

『ギャァァァアアアァオッ!』

向きを変えようとしていたサラマンダーの横っ腹に水が直撃し、体勢が崩れる。

更にサラマンダーの殺意が上がった事が肌で感じた。

動きが鈍くなったサラマンダーの後ろへ回り込み、後ろ足の腱を切る。

片方を切った瞬間、尻尾を振り回して来たので、しゃがんで避けるが背中に少し衝撃を感じた。

『───くっ!』

────大丈夫、問題無い。

防具と防御膜に守られ身体に負傷は無かったので、そのままもう片方の腱を切りつける。

『ギャァアアァオッ!!』

そのまま距離をとると、水蒸気と砂埃が落ち着き出し視界が開けてくる。

風魔法でかまいたちの様に切りつけようとしたが、頑丈な皮膚の前ではかすり傷にしかならなかった。

サラマンダーが突進を仕掛けて来るが、最初程の勢いが無いので土魔法で俺の前に壁を作るとそのままぶつかってくれる。

ドシンッ!

その壁の上を飛び越え、サラマンダーの背中に乗り両目を切りつける。

『───はぁ!』

『ギャァアアァオッ!』

サラマンダーは痛みのせいか、叫びながら数歩後退する。

土壁とサラマンダーの間に降り立ち、叫び声を上げている口に目掛けて水魔法を放つ。

『これでくたばれっ!!』

『ギャゴボゴボゴボゴボ……』

魔法を察知したのか、火を放とうとしたサラマンダーだが、それは間に合わず口の中に水が入り込む。

体力が消耗したのか、溺れたのかは分からないが、そのままサラマンダーは倒れ起き上がらなくなった。

『───フー……。』

動かなくなった事を確認した後、水魔法を止めた。

『ルディが倒したぞ!』
『おお!やったじゃねぇか!』
『危なかしかったな!』
『何度入ろうと思ったか!』

俺が倒した事を認識したのか、壁の上にいたワッと沸き上がり俺の所まで降りてきた。

『あ、父さん。』

『ルディ、よく頑張ったな。』

カインに誉められ頭を撫でられるが、少し気恥ずかしい。

ライアはコレを一撃で倒せたんだ……。

改めて、ライアの強さと守られているという事実を認識した。

守られているだけじゃ、これからは駄目なのかもしれない。

『父さん、俺……強くなるよ。』

一瞬驚いたカインだったが、すぐに顔を綻ばせる。

『ああ、ルディはもっと強くなるよ。必ずな……』

『そうだぜ!俺達も教えてやるからな!』
『闘い方なら任せろ!』
『その内お前抜かれるかもな!』
『なんだと!!まだまだ負けん!』
『今回の闘い方は、まず初手が悪かったな!』

そこからは、俺の闘い方の反省と改善を教えて貰った。

一通り終わるとジョセフが俺に向かって声をかける。

『ルディは回復魔法が使えるよな?今の内に回復しとけよ!』

里の人達は全員【鑑定】が使えるので、俺が【治癒】出来る事は周知の事実だ。

一つ頷き、自分に回復魔法をかける。

全身が緑色に光り、先程まであった切り傷や打撲傷が無くなっていく。

『へぇ、これが【治癒】か。』
『はじめて見たな。』
『回復スピードが早いな。』

里の人達は物珍しそうに俺を見てくる。

その珍獣みたいな目はやめてくれ。

『ほら、これも飲んどけ。』

ジョセフに魔力回復薬MPポーションを渡される。

【治癒】でHPは回復してもMPは回復しないからだろう。

それを一気に飲み干すとジョセフはカインに向き直る。

『次はどうする?』

え、次……?? 

『そうだな、もう一匹サラマンダーはいるか?』

『ああ、いるぞ。あいつは捕まえやすいからなっ!』

その捕まえやすい魔物に手一杯なんですが!?
俺が弱いっていうより、皆強すぎない!?
いや、俺が弱いんだけどさ!
強さの基準がわかんねぇ!!

『なら、今回の反省を活かせるか試す方が良いだろう。』

『了解っ!連れて来るな!』

『ま、まだやるの!?』

勘弁して!
やるとしても、少し休ませて!!

俺の嘆きを聞いた二人は小首を傾げていた。

『まだ出来るだろ?』

『忘れない内に次やらないとなっ!』

『き、休憩したいっ!』

『『この位大丈夫だろ。』』

『………………。』

カインとジョセフは、さも当然の様に言ってくる。

いや、体力は大丈夫でも精神がさ!!
あの緊張感からもう少し解放されたいんだよ!!
誰か分かってくれっ!!

俺の嘆きは誰にも届かず、その後も魔物と何度も対戦する事になっていった──────。












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