異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび

──もう一つの第1話──

─────世の中は理不尽だ─────

半年前、我が子が人間に殺された。

神狼族は長命な種族なのだ。
寿命と言うものはあって無いようなもの。
それ故に、神狼族はあまり子供が出来ない様になっているらしい。

500年待ち望んだ我が子を……妾の唯一の子を……



────殺された。


我が子と過ごした日々は二ヶ月程。
あまりにも短い。
瞬きする程の時間しか共に出来なかった。

『ああぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁっ!』

深淵の森でひたすらに、気を紛らわす様に狩りをする。

苦しい。

悲しい。

憎い。

人間を……





殺したい。




なぜ、我が子なのか。
なぜ、殺されなくてはいけないのか。
なぜ、なぜ、なぜ……

このままではいけないと、自分でも分かっている。
過去にとらわれず、未来を見なくてはいけない事も分かっている。

それが、出来ない────

神狼族としての役目が、憎い。

神獣王様とサンルークの2つの加護を併せ持つ事により、【鑑定】の結果が通常とは異なる。
狂った魔物……〈闇落〉した魔物が判断出来るようになる。

周りの負の感情により産み出された魔物。
負の感情に支配され、自我を失った魔物。
時折、人間や魔族など、その他の種族でも〈闇落〉は出現する。
なぜ〈闇落〉するのか……詳しい事はあまり分かっていない。

〈闇落〉になると、自身のリミッターが外れ強靭的きょうじんてきな力を持つ。

あまりにも強い存在故に、神狼族が討伐し魂を解放させる。

そして神狼族は

〈闇落〉の存在を解放する事。
自身の危機にならぬ限り、相手に手を出してはならぬ事。

ただし、食用としての狩りは当てはまらないが。

神狼族の血がそれを無意識に理解している。

同士が家族を殺されてしまった時、復讐をした奴もおった。

その復讐を神狼族の血が許さなかったのか……

無意識に理解している役目と自分とを繋ぐ鎖が、復讐をした日から切れた様に見えた。
後は……ただ堕ちていくだけだった。

そして妾が〈闇落〉した同士を殺す事になったのだ。

ただ、今なら分かる。

目を離した隙にどこかへ行ってしまった我が子を見つけた時にはすでに人間が殺していた。

感情のまま飛び出し人間を殺してやろうとしたが、カインに止められた。

─────役目を忘れるな。

と。

【鑑定】を使っても、その中の人間には〈闇落〉はいなかった。
一人でも〈闇落〉が居れば、それに牙を突き刺し、他の人間が妾に刃を向け、他の者も殺せたと言うのに……

妾が殺した同士もこの様な感情だったのだろう。

歯を食い縛り、鉄の味が口の中に広がっていた。

もっと早く見つけていれば。
もっとちゃんと見ていれば。

そんな後悔がずっと心の中にある。



そして一ヶ月前に、友人のイリーナに子供が生まれた。

長老が里全体に知らせ、皆で祝福をする。

妾も祝福した。

嬉しく無い訳がない。

大切な友人に子供が出来たのだ。

自分でぎこちなく感じる笑顔でイリーナに祝いの言葉を送った。
だが、イリーナは妾に
『無理をしないで。』
と、言ってきた。

イリーナは知っていたのだ。

妾がイリーナに対して『羨ましい』と言う感情がある事を。



そして半年間、〈闇落〉を殺して殺して殺して殺して……
だけど、一向に気分が晴れない。

自分自身が闇に呑まれて行く感じがしている。

もう神狼族としての時間は残り少ないのかもしれない。

それで良い。

今の妾がいた所で、里の迷惑になるだけなのだから。


〈闇落〉した魔物に鋭い爪で引っ掻いた。

「ギャァァァオ!」

耳が痛くなる声を発しながら襲いかかってくる。

「ガウッ!ガウッ!」

妾は自我がどんどんと無くなっている事に気が付いた。
声が……感情が……言葉が……〈闇落〉の前兆に似ていた。

「ガルルルルルルルル」

魔物に対し、うめき声を上げるが、自分から発せられる音とは思えない程の低い音が聞こえてくる。

もうすぐ終わりか……。

冷静になる頭で、魔物の首に食らい付き止めを指した。

最後は綺麗な姿でいたいものじゃの。

水魔法で身体を洗い、風魔法で乾かす。
そして死に場所を求めて、久しぶりにゆっくりと歩く。

風が気持ち良かった。
葉の擦れる音が心地良い。

目を閉じ、最後の一時を感じていた。




「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

静かな森の中で大きな声で泣く子供の声が響き渡る。

『なんじゃ……?』

その声に導かれる様に走り出した。

辿り着いた先に見えたものは、地面に置かれた大きな布の上にいる小さな子供とそれより遥かに大きい魔物の姿だった。

カーファント。
牛の様な顔に象みたいな身体を持つ狂暴な魔物だ。

咄嗟とっさに【鑑定】すると〈闇落〉している魔物だった。

あの子は助けられる!

『その子から離れるのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!』

今にも子供に襲い掛かりそうなカーファントに対し、声を出しながら走るスピードを緩めずに身体をぶつける。

勢い良く飛んで行ったカーファントを確認し、そこにいる小さな子供を見る。

────まだ、生きている。

この子を殺させはしない。

神狼族に似た髪の色がそう思わせたのかは分からない。

一気にカーファントまでの距離を詰めると、カーファントは大きな顔で噛みつこうとしていた。

だが、遅い。

それを右に避け、爪で後ろ足の腱を切り動けない様にし、最後に喉元へ噛み付き息が無くなるまで待った。

顔に飛び散った血を軽く拭う。

魔法ですれば良かったが、早くあの子の顔を見たかった。
恐怖に震えてはいないだろうか……

その子の近くに座ると、泣きもせずにこちらをじっと見つめている。

銀色に染まる綺麗な髪に大きな二つの紅の瞳。
丸い頬っぺに、ぽっこりとしたお腹。

その姿を見たときに久しぶりに思い出した感情に気が付いた。

─────愛しい。

子供……という歳では無いの。
赤子か……良く生きていたの。

微動だにしない赤子に不安を覚え、鼻を近付ける。

生きて……おるよな……?

すると、それに答えるこの様にふわふわした手で鼻をペタペタと触ってくる。

今、妾は血塗れのはず……
心配してくれておるのか……?
……心配はいらぬぞ。
妾は元気じゃ。

触られた事に少し驚いたが、赤子を安心させるために頬を何度も舐めた。

「キャハハハハハハハッ」

元気な赤子の声に愛しさが溢れてくる。

この子の笑顔を守りたい。

そっと顔を離す。

『神獣王様!どうか、どうかこの子を育てる許しを頂けぬであろうか!もう二度と闇には負けぬ!この子の笑顔を守りたいのだ!どう、か……どうか、妾にチャンスをおくれっ!』

大きく長い遠吠えが森全体に広がっていく。
その音が聞こえなくなると、赤子が光輝きだした。

神獣王様がお許し下さった。
早くこの手でこの子を抱き締めたい。

【人化】を使い、人間の姿になり赤子を抱き上げる。

少し力を入れると潰れてしまいそうな程の小さな、小さな命。

暖かい体温がてのひらから伝わってくる。

生きている暖かさ。

妾は赤子を【鑑定】してみる。

─────────
名前    ???
種族    人間族
レベル  1
HP     55
MP     103
固有スキル
【自動翻訳】【魔物翻訳】【治癒】
称号
【神獣王の加護】
スキル▽
─────────

しっかりとそこには【神獣王の加護】があった。

涙が溢れそうになるが、ぐっと堪える。

神獣王様がこの子を育てる事を許してくれた────
加護を与えてくれた。

嬉しくて何度もその事を確認する。

しばらくして赤子の光が収まる。

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

急に泣き出す赤子に戸惑いを隠せない。

『お、おい。なぜ泣くのだ?ひ、人か?人の姿がいけないのか?』

赤子が、ここに一人で来れる訳がない。
人間の手によって運び込まれたとしか考えられなかった。

赤子とは言え、自分を捨てた人間と同じ姿をした者が現れたら怖がるのも無理ないかもしれぬ。

【人化】を解くと落としてしまうので、元の位置に戻してから狼の姿になる。

『こ、これなら大丈夫か?ほれ、泣き止んでくれ。』

柔らかな顔に流れる涙を拭う。
次から次へと溢れるが、その都度何度も拭ってやる。

落ち着いてきたのか、二つの紅の瞳が妾を写している。

『ふむ。人の姿が恐いのか。それは、すまぬ事をしたの。だが、馴れてもらわぬと……ゆっくり馴れてもらおうかの。』

神狼族も基本的には【人化】を使っている者もいる。
その姿を見る度に恐怖の感情を抱いて欲しくは無かった。

この子を怖がらせたくないが、里の皆に【人化】をしないで欲しいとは言えないしの。

それに、鏡を見たときに自分の姿を怖がる様になってしまっては将来が不安に感じる。

少しずつで良い。

未来でもこの子の笑顔を守る為に、やれる事は全てやろう。

地面に置かれている正方形の布の端を4つ咥える。

『では、行くかの。』

まずはカインに会わせたい。

そして、妾の友人達にこの子を紹介したい。

妾の友人達はきっと皆喜んで受け入れてくれる。

小さな命。
新しい、妾の未来。

これから先この子と生きていく未来が愛しく楽しみで仕方がない。

顔が緩むのを抑え、急いで里に戻る。

お主に紹介したい友人や話したい事が沢山あるのだ─────












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