王国への独立宣言 〜この領地では自由にやらせてもらいます〜
新天地
「ん………………あれ?」
なんで僕は生きているんだ……?
たしかに首を切って死んだはずだ。
ナイフで掻っ切ったところを触ってみるが、そこに傷はない。
というよりもーー
「おおー! お目覚めになりましたぞ!」
「よかった……! ほんとによかった!」
「早く領主様を呼んでこい!!」
さっきからなんか周りが騒がしい。
大人がたくさん集まって僕を囲み涙を流している。泣くほどいいことがあったのか、よくわからないが僕の側で騒がないでほしい。
そもそもこの人たちは誰なんだ?
そんなことを考えながらゆっくり身体を起こす。
「うん、おかしいなこれ」
すぐに身体の異変に気付く。
まず父さんに切られてなくなったはずの左手の小指が復活してる。それにものすごく手が小さい。声も自分のじゃないとわかるほどちがう。
今度は顔を上げ、自分のいる部屋をよく見る。
ここはどこかのヨーロッパの城の一室なんじゃないかって思うほど豪華な部屋だ。
僕は自分の置かれている状況について考える。
死んだはずが生きていて、なくなった小指が今はあって、幼い子どものような小さな身体になっていて、知らない部屋にいて、知らない人に囲まれていて…………
もしかしてこれはクラスの奴が休み時間によく話していた異世界転生みたいなやつなのか?
でも、あいつらの話だと異世界では赤ん坊に生まれ変わっていたり、日本にいた時と変わらない姿のままで召喚され勇者になったり、そんなんだったはずで……
なんか中途半端に子どもになってる僕はそれらのパターンに当てはまらない。
じゃあ僕はなんなんだ?
………………わかんないな。
考えても分かるわけないか。
だってそもそも僕はもう死んだんだから。これは夢って事にしてとりあえず二度寝しよう。夢の中で二度寝っていうのもおかしな話だが。
考えるのを諦めてもう一度寝ようとした時、突然部屋の扉がドゥォォォーン勢いよく開けられ2匹の動物が入ってきた。
「無事でよかったぞーーー!!」
「カケルーーー!」
え……? なんで僕の名前を知ってるんだ?
っておい! 喋ったぞ⁈
あ……… あれ人だ。
ぽっちゃりと脂肪を蓄えた大きな体に短い手足、なんとも言えない醜い顔。
まるで豚だ。……いや、さすがに失礼か。豚の方がまだ可愛げがある。
「我が息子が目覚めたのは奇跡だ!」
「そうね! 神様が見てくださっていたんだわ!」
そう2人は言いながら僕の肩を掴み思いっきり揺すってくる。怪我をしたのか、病気だったのか何なのかはわからないが寝ていた人にする行動じゃない。
ってか喜ぶのはいいんだけどちょっと待って。
聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ? あの豚我が息子って言ったな?
それに信じられないが、今身体を揺らされて分かった。
これはもう夢じゃない、現実だ。
夢ならば豚に我が息子と言われたショックで飛び起きてるし、肩を思いっきり揺すられただけでも目が覚めるはず。
周りの人が止めてくれたおかげで僕の体を揺する手がやっと肩から離れた。
「カケル、もう大丈夫なの?」
もう1匹の豚が話しかけてきた。おそらく母だろう。
「大丈夫……じゃないかな」
体調は大丈夫なのだが精神的にかなり良くない状態だ。
「まだ体調が優れないようだから夜ご飯ができるまで寝ていなさい」
「うん……」
そうして1人の大人を残して2匹の豚とそれ以外の人たちは部屋から出ていった。
「はぁ……」
やっと静かになった部屋で一息つく。
「大丈夫ですか?」
聞いてきたのはこの部屋に残った女性だ。
「大丈夫じゃないかな」
へへっと苦笑いしながら答える。
僕はこれまでの一連の出来事を踏まえてもう一度自分の置かれている状況を考える。
この際、死んだはずなのに異世界転生と似たような非現実的なことが起こり、こうして生きているということは飲み込もう。
しかし僕が一体何者で、ここがどこなのか。
これからどうしたらいいのか全く分からない。
とりあえず、この女性から色々聞いていこう。
僕は怪しまれないように子どもっぽく振る舞う。
「ねぇお姉さん、名前はなんていうの?」
先ほどの女性に聞くと、驚いた顔をしたと思ったら一瞬で泣きそうな顔になった。
「私の名前を忘れてしまわれたのですか⁈ やはりあの時頭を打ったのが原因で……」
泣きそうなのを見ると申し訳ない気持ちになるが誰だか知らないんだからしょうがない。
だが、いいことを聞いた。
どうやら僕は頭を打って倒れたっぽいぞ。
「そうかもしれない。頭をぶつけちゃって僕は僕が誰なのかも分からなくなっちゃったの。だからお姉さんに教えてほしくて」
「これは大変なことに…… 今すぐに領主様にご報告しないと!」
やっば…… またあの豚に騒がれるのだけは御免だ!
「やめて!!」
駆け出す彼女に向かって大声で叫ぶ。
「し、しかし! こんな重大なことつたえーー」
「戻ってきて」
静かにそう言うと彼女は不安そうな顔で戻ってきた。
「僕はお父さんとお母さんに心配かけたくないの。お願いだから内緒にして……ね?」
僕は人差し指を立て、唇に当てて内緒のポーズをとった。自分でやっててものすごく恥ずかしい。
「…………はい」
「じゃあ色々教えて!」
黙っていることを渋々了承してくれた彼女に聞いた話を簡単にまとめるとこんな感じだった。
ここはサーライズワールドという世界でグレイスニル王国の最南端に位置するゴレイ領という領地だという。
この領地はウール・ゴレイ、僕の父さんが領主となって治めている。
領民は全部で200人ほどで、他の領地の民は大体1000~2000人はいるらしく、それを考えるとかなり少ないことがわかる。
次に一番重要といえる僕についてだが、名前はカケル・ゴレイといい今年で4歳になるらしい。2日前に階段から転げ落ちてしまい、その際頭を強く打ってそのまま意識を失った。そして先程2日ぶりに目覚めたとのこと。
最後にこのお姉さんの名前はサイラ、僕のお世話係をずっとしてくれているメイドさん。僕に名前を聞かれた時はショックだったと言われたので謝っておいた。他にもメイドや執事、料理人などいるらしいが僕と関わりがあるのはサイラだけらしい。
ひとまず今日のところはこのくらいでいいだろう。色々信じられないことが起こって疲れてしまったからな。それに一度に多くの情報を聞いても整理できそうにないし。
詳しいことは後々勉強しつつ、必要ならまた聞けばいい。
「カケル様、食事の用意ができましたので体調がよろしければ一階までお越しください。」
コンコンとノックする音が聞こえ、扉の向こうから声がかけられた。
「はーい!」
元気に返事をしつつ、もうそんな時間かとびっくりしていた。
「僕はご飯の時いつもどうしてた?」
サイラに聞くとすぐに答えてくれた。
「はい、領主様、奥様、カケル様、私の四人でいつも食べておりました。カケル様は領主様や奥様と違って少食ですので、食べ終わったら私と部屋に戻ってすぐにお休みになられていました」
「わかった! ありがとう」
僕は家族で食事をするのは初めてだ。日本にいた頃は両親があんなだったからいつも一人で食べていた。もしかしたら幼稚園の頃にはあったのかもしれないが、僕の記憶にはない。
まだこの世界に来たばかりで、会ったばかりのあの騒がしい豚のような二人を親と思うのは難しい。
だが僕のことを心配してくれていたみたいだし、悪い人たちではなさそうだから、まぁいっか。
僕は初めての家族での食事に17歳ながらワクワクしていた。それに食事は大いに期待していいだろう。
なんせ今の親は領主なのだから。
僕は軽い足取りで一階へ向かうのだった。
なんで僕は生きているんだ……?
たしかに首を切って死んだはずだ。
ナイフで掻っ切ったところを触ってみるが、そこに傷はない。
というよりもーー
「おおー! お目覚めになりましたぞ!」
「よかった……! ほんとによかった!」
「早く領主様を呼んでこい!!」
さっきからなんか周りが騒がしい。
大人がたくさん集まって僕を囲み涙を流している。泣くほどいいことがあったのか、よくわからないが僕の側で騒がないでほしい。
そもそもこの人たちは誰なんだ?
そんなことを考えながらゆっくり身体を起こす。
「うん、おかしいなこれ」
すぐに身体の異変に気付く。
まず父さんに切られてなくなったはずの左手の小指が復活してる。それにものすごく手が小さい。声も自分のじゃないとわかるほどちがう。
今度は顔を上げ、自分のいる部屋をよく見る。
ここはどこかのヨーロッパの城の一室なんじゃないかって思うほど豪華な部屋だ。
僕は自分の置かれている状況について考える。
死んだはずが生きていて、なくなった小指が今はあって、幼い子どものような小さな身体になっていて、知らない部屋にいて、知らない人に囲まれていて…………
もしかしてこれはクラスの奴が休み時間によく話していた異世界転生みたいなやつなのか?
でも、あいつらの話だと異世界では赤ん坊に生まれ変わっていたり、日本にいた時と変わらない姿のままで召喚され勇者になったり、そんなんだったはずで……
なんか中途半端に子どもになってる僕はそれらのパターンに当てはまらない。
じゃあ僕はなんなんだ?
………………わかんないな。
考えても分かるわけないか。
だってそもそも僕はもう死んだんだから。これは夢って事にしてとりあえず二度寝しよう。夢の中で二度寝っていうのもおかしな話だが。
考えるのを諦めてもう一度寝ようとした時、突然部屋の扉がドゥォォォーン勢いよく開けられ2匹の動物が入ってきた。
「無事でよかったぞーーー!!」
「カケルーーー!」
え……? なんで僕の名前を知ってるんだ?
っておい! 喋ったぞ⁈
あ……… あれ人だ。
ぽっちゃりと脂肪を蓄えた大きな体に短い手足、なんとも言えない醜い顔。
まるで豚だ。……いや、さすがに失礼か。豚の方がまだ可愛げがある。
「我が息子が目覚めたのは奇跡だ!」
「そうね! 神様が見てくださっていたんだわ!」
そう2人は言いながら僕の肩を掴み思いっきり揺すってくる。怪我をしたのか、病気だったのか何なのかはわからないが寝ていた人にする行動じゃない。
ってか喜ぶのはいいんだけどちょっと待って。
聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ? あの豚我が息子って言ったな?
それに信じられないが、今身体を揺らされて分かった。
これはもう夢じゃない、現実だ。
夢ならば豚に我が息子と言われたショックで飛び起きてるし、肩を思いっきり揺すられただけでも目が覚めるはず。
周りの人が止めてくれたおかげで僕の体を揺する手がやっと肩から離れた。
「カケル、もう大丈夫なの?」
もう1匹の豚が話しかけてきた。おそらく母だろう。
「大丈夫……じゃないかな」
体調は大丈夫なのだが精神的にかなり良くない状態だ。
「まだ体調が優れないようだから夜ご飯ができるまで寝ていなさい」
「うん……」
そうして1人の大人を残して2匹の豚とそれ以外の人たちは部屋から出ていった。
「はぁ……」
やっと静かになった部屋で一息つく。
「大丈夫ですか?」
聞いてきたのはこの部屋に残った女性だ。
「大丈夫じゃないかな」
へへっと苦笑いしながら答える。
僕はこれまでの一連の出来事を踏まえてもう一度自分の置かれている状況を考える。
この際、死んだはずなのに異世界転生と似たような非現実的なことが起こり、こうして生きているということは飲み込もう。
しかし僕が一体何者で、ここがどこなのか。
これからどうしたらいいのか全く分からない。
とりあえず、この女性から色々聞いていこう。
僕は怪しまれないように子どもっぽく振る舞う。
「ねぇお姉さん、名前はなんていうの?」
先ほどの女性に聞くと、驚いた顔をしたと思ったら一瞬で泣きそうな顔になった。
「私の名前を忘れてしまわれたのですか⁈ やはりあの時頭を打ったのが原因で……」
泣きそうなのを見ると申し訳ない気持ちになるが誰だか知らないんだからしょうがない。
だが、いいことを聞いた。
どうやら僕は頭を打って倒れたっぽいぞ。
「そうかもしれない。頭をぶつけちゃって僕は僕が誰なのかも分からなくなっちゃったの。だからお姉さんに教えてほしくて」
「これは大変なことに…… 今すぐに領主様にご報告しないと!」
やっば…… またあの豚に騒がれるのだけは御免だ!
「やめて!!」
駆け出す彼女に向かって大声で叫ぶ。
「し、しかし! こんな重大なことつたえーー」
「戻ってきて」
静かにそう言うと彼女は不安そうな顔で戻ってきた。
「僕はお父さんとお母さんに心配かけたくないの。お願いだから内緒にして……ね?」
僕は人差し指を立て、唇に当てて内緒のポーズをとった。自分でやっててものすごく恥ずかしい。
「…………はい」
「じゃあ色々教えて!」
黙っていることを渋々了承してくれた彼女に聞いた話を簡単にまとめるとこんな感じだった。
ここはサーライズワールドという世界でグレイスニル王国の最南端に位置するゴレイ領という領地だという。
この領地はウール・ゴレイ、僕の父さんが領主となって治めている。
領民は全部で200人ほどで、他の領地の民は大体1000~2000人はいるらしく、それを考えるとかなり少ないことがわかる。
次に一番重要といえる僕についてだが、名前はカケル・ゴレイといい今年で4歳になるらしい。2日前に階段から転げ落ちてしまい、その際頭を強く打ってそのまま意識を失った。そして先程2日ぶりに目覚めたとのこと。
最後にこのお姉さんの名前はサイラ、僕のお世話係をずっとしてくれているメイドさん。僕に名前を聞かれた時はショックだったと言われたので謝っておいた。他にもメイドや執事、料理人などいるらしいが僕と関わりがあるのはサイラだけらしい。
ひとまず今日のところはこのくらいでいいだろう。色々信じられないことが起こって疲れてしまったからな。それに一度に多くの情報を聞いても整理できそうにないし。
詳しいことは後々勉強しつつ、必要ならまた聞けばいい。
「カケル様、食事の用意ができましたので体調がよろしければ一階までお越しください。」
コンコンとノックする音が聞こえ、扉の向こうから声がかけられた。
「はーい!」
元気に返事をしつつ、もうそんな時間かとびっくりしていた。
「僕はご飯の時いつもどうしてた?」
サイラに聞くとすぐに答えてくれた。
「はい、領主様、奥様、カケル様、私の四人でいつも食べておりました。カケル様は領主様や奥様と違って少食ですので、食べ終わったら私と部屋に戻ってすぐにお休みになられていました」
「わかった! ありがとう」
僕は家族で食事をするのは初めてだ。日本にいた頃は両親があんなだったからいつも一人で食べていた。もしかしたら幼稚園の頃にはあったのかもしれないが、僕の記憶にはない。
まだこの世界に来たばかりで、会ったばかりのあの騒がしい豚のような二人を親と思うのは難しい。
だが僕のことを心配してくれていたみたいだし、悪い人たちではなさそうだから、まぁいっか。
僕は初めての家族での食事に17歳ながらワクワクしていた。それに食事は大いに期待していいだろう。
なんせ今の親は領主なのだから。
僕は軽い足取りで一階へ向かうのだった。
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