おばさんと呼ばないで

seabolt

お・・・おばさん?

いつもの朝・・・

のはずだった。
 
鞄片手に玄関を出ようとする私をお母さんが呼び止めた。

「真奈美、今日は、早く帰ってくるのよ」

母の急な申し出に頭をかしげた。

「早くって?」

そんな私を見たお母さんは腕を組んで溜息を吐いた。

「今晩、お兄ちゃんが帰って来るから」

「あっ!!そうだった」

私の反応に呆れた表情を浮かべるお母さん―――なにもそんな顔をしなくても・・

私の名前は、山崎真奈美、17歳、一応高校に通う女子高生・・・さっきから話題の兄、山崎修・・・私より8つも上で、今日は家に帰ってくる日だった。しかも、彼女を連れて・・・

「わかったわね。早く帰ってくるのよ」

母は、私に念押しをした。

「うん・・・分かった」

「ちゃんと帰ってくるのよ」

「分かってるて~じゃぁ・・行ってきま~す」





「よう・・」

「あ・・武・・おはよう」

しばらくして、私の前に現れたのは、幼馴染の遠藤武、家が近いこともあって、登校時は、ほぼ毎日のように会うんだけど、訳あって学校ではほとんど会話をしない。 だからお互い用がない時は挨拶を交すと私を置いて行くんだけど、今日は何故か歩調を合わせてきた。すると武は、肩を叩いてこう言った。

「真奈美・・・俊介と何かあったのか?」

武の思わぬ言葉に足を止めてしまった。

高取俊介

同じ高校に通う同級生。実は、目の前にいる武と高取俊介は、イケメンとして女子の注目の的だった。肉食系の武に対照的に、草食系の様な甘いマスクの高取、どちらかと言えば高取の方が人気があった。けど私には、彼に対して嫌な想い出があった。

「俊介って?あの?」

立ち止まった私に気付いた武は振り向いた。

「そう・・あの俊介だ・・」

「何もないわよ」

「じゃぁ・・・何故、お前のことを聞いてくるんだ?」

私には、全く理解できない・・何故、高取さんが私のことを聞いてくるのか

「き・・聞いてくるって?何を聞いてきたのよ」

「どんな奴とか・・家族構成とか・・」

ますます解らない・・・私が悩んでいると武はもっとも思い出したくないことを言い出した。

「この間のチョコが効いたんじゃないの?」

「あ・・・あれは・・・」

実は、この間のチョコ・・・間違って高取に渡してしまったのだった。嫌なことを言ってくれる。

「よかったじゃないか・・・」

「あのね~!!あんたのせいでしょう!!」

武は横を向いた・・・

「そうだったかな?」

「あの時、あんたがあんなこと言わなければ・・・」

「言わなければ・・・なんだよ・・」

う・・・

「だ・・だから・・・あれは・・・義理を・・・」

「そうだったのか?」

「そうよ・・」

「ふ~ん・・」

なにがふ~んよ!!
絶対おちょくっているでしょう。絶対そうに決まっているんだから。武の奴はいつもそうなんだ。

―――そうあの時のことだった

武に渡そうと待っていたあの時だった。武が来た思って顔をあげた瞬間、目の前をにきれいな人がっ立っていた。

その人こそ

高取だった。

私は、しばらく何も言えず見とれていた。しかも武に渡すつもりのチョコを持ったまま。

すると高取の横にいた武がそのチョコに気付いて余計なことを言った。

「ほう・・・俊介へ渡す分か?」

「あ・・これ・・」

思わずそのまま手を突き出してしまった。そのチョコを見た高取は、私から目をそらした。

「義理なんだろう・・・俺・・・そういうのいらないから」

思いもよらない高取の言葉に私はムッとした。なんなのこの人、例え、義理でもこういう時は受け取るものでしょう?そう思っていると武が横から変なフォローをしてきた。

「受け取ってやれよ・・俺の幼馴染なんだ・・・」

「そうか?」

「サンキュウt」

ようやくチョコを受け取った高取は私の横を過ぎて行った。そんなことを思い出し溜息を付く私を見て武がポンと肩を叩いてきた。

「気にするな・・・」

「誰のせいよ!!」

「おおっと!!」

私が言い返し手を上げるとササッと後ろに下がる武・・・やがて二人は学校へ向かって歩き出した。

「ところで?そのこと知ってるの武だけ?」

武は顎に手をやり少し上を向いた。しばらくして、にやりと笑って。

「そう言えば・・・栗原が横にいたような・・・」

最悪・・・く・・栗原って?・・・思わず絶句してしまった。栗原萌、高取に付きまとう女子の一人、一見おとなしそうに見える彼女だが、高取のこととなると周りが見えなくなり、時として、仲間を集めて、いじめまでするとか・・・

「私・・・帰る・・」

振り返った瞬間肩をつかまれた。

「もう・・・遅いよ・・」

「え?」

振り向くと既に校門・・・しかも、教師が睨んでいた。

「山崎?どこ行くんだ?」

「あ・・はい・・」

本当に最悪だ・・

教室に着いた私・・・

栗原はまだ来ていない・・・

「真奈美~!!おはよう!!」

「おはよう・・恵美・・・」

やけに元気がいい彼女、一応親友の成田恵美
相変わらず元気な彼女は、その元気だけがとりえ

「どうしたの・・浮かない顔して」

「べ・・別に」

思わず眼鏡を少し直して席に座った時、入り口から栗原が入って来るのが目に入って来た。

まじで?

なにも朝から来なくても・・・

思わず俯いた・・・

「どうした・・・の?」

恵美の言葉が途切れた・・・
しかし、私にとってそんなことはどうでも良かった。多分栗原が近づいてきているのだろう・・・

「あなたが・・・」

今度は、栗原の声が途切れた。

「お前が、山崎真奈美か?」

そういう声と共にずっしりと肩に何かが乗ってきた。顔を上げるとそこには、高取の顔がドアップになっていた。

「うわ!!」

思わずのけぞると高取は再び質問をしてきた。

「お前が、山崎真奈美か?」

「ええ・・・そうだけど・・・」

すると高取はそれまで肩に乗せていた手を離し、顎に手をあてまじまじと見ている。

な・・なんなのよ!!

そう思っていると

高取がボソッと呟いた。

「ふーん・・・真奈美おばさん・・か」

「お・・・おばさん!?」

思わずすっとんきょうな声が出てしまった。その時だった。ホームルームの予鈴が鳴り始めた。

「おっ・・時間か」

すると高取は振り返り手を振って

「おばさん・・・またね・・・」


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