話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

無能王子の冒険譚

エムックス

13 王の寝所にて

ウィル一行が暗殺者二人を退けてから数日後のキサラギの城。

日が暮れ、残った仕事を片付ける者、夜の警備のために各々の持ち場につく者などが忙しなく動いている。

そんな城内の国王の寝所にその国王たるカズマは主だった人間に招集をかけていた。

病に倒れてからカズマがこのように誰かを呼び集めることは殆どなかった。
呼ばれた者たちは何か嫌な予感のようなものを感じながら寝所に集まる。

妻であるエリスも当然呼ばれていた。エリスは寝所に入り、集められた面々を見る。

三十歳を少し越えた年頃の、魔導士が二人。
小柄でつり目のきつい表情をしている宮廷魔導士長のマリア。
その横にマリアよりも頭二つ分も大きい、ローズ。
ローズは落ち着かない様子で身体を動かしてはマリアにたしなめられている。
すると、少しだけ大人しくなるがすぐにまた動き出す。
まるで幼子のようだった。

彼女達の横に立派な鎧を纏った騎士のカイトが背筋をぴんと伸ばして立っている。
青い髪を短く切り揃え、清潔感と凛々しさを兼ね備えた壮年の男だ。
騎士団の団長を勤めている。

彼の後ろには妹のリルムがいた。城下の神殿で神官として働いている。
神官の特徴の金髪を腰まで伸ばしたたおやかな雰囲気の女性だ。
エリスと目が合うとにっこりと笑う。エリスよりも年下だが非常に母性と慈愛に満ちている。
神官らしい神官だった。

そしてエリスを挟んだ反対側に、一組の男女の騎士がいた。
城内警護を司る近衛師団の団長と副団長で夫婦だった。
緑色の髪をした男が夫で団長のアルフレッド。
生真面目で融通が聞かないと言われているが、カズマの信頼は厚く建国当初は側近を勤めていた。
同じように桃色の髪をした妻のタチアナはエリスの側近だった。

そして、以前のように安楽椅子に座るカズマの横の椅子に座っているエルフのアリニフィーレ。
彼女は臣下と言うわけではない。呼ばれたのかもわからない。
最初からずっとここにいたという可能性が高い。

アリニフィーレを除けば、この城で重要な役職に就いている中核をなす存在といえる面子だった。

どうやらかなり重要な話らしいことが察せられた。
エリス以外の者もそう思っているのか、少し緊張した面持ちだ。
一人、ローズだけは愚図る様にマリアの服の裾を引っ張っては、静かにするように注意されている。

ふと、エリスはあることに気づく。確かに主だった面子ではあるが、他に文官、大臣達が呼ばれていない。
特に宰相のゲハールがここにいないのは不自然に思えた。

「あー、タチアナ」
カズマが近衛師団副団長を呼んだ。
 桃色の髪の副団長は短く返事をすると一歩前に出る。
「すまないけど、外に出てそこにいる警備の兵にしばらくここから離れるように言ってくれ、そして君はそのまま外にいて俺たちの話が終わるまで誰も通さないように。誰もだぞ?例えゲハールやシルフィールとか君より立場の上の人間が来ても絶対に通すな」
タチアナは強い口調の命令に微かに疑問を感じたようだが、頭を下げると寝所を出ていく。

カズマはアルフレッドを見る。
「後で話の内容はタチアナに伝えるようにな」
「は!」
アルフレッドは厳めしい表情で答える。

「随分と物々しいのね」
エリスがカズマに声をかける。なるほどゲハールがいないはずだ。通してはいけないと言うくらいなのだから。
それに外の兵士も遠ざけ、万が一にも他の者に話が漏れないようにしている。

「まあね」
カズマは少しだけ笑った。だが、すぐに顔を引き締める。

エリスはやはり相当重要な話だと確信した。
自分の夫は普段は国王らしさなど全く持ち合わせていない、軽薄は男だ。
真面目な顔をしているよりはヘラヘラしてることの方がずっと多い。

だが、今はほとんどそんな様子を見せない。寝所に入ってからずっと真面目な顔をしている。
普段ならこの面子であれば付き合いの長さからもっとくだけた雰囲気になるのだが、カズマがこの様子なので、他の者も緊張している。

そう、ここにいる面子の付き合いは長い。建国する以前、カズマ達が旅をしていたり、レクトゥール女王に仕えていた頃からの知り合いだ。

「ゲハールをどうして呼ばないの?」
ゲハールは建国直後からキサラギに仕えている最古参だ。
大臣達を統括する立場で、内政、外交とキサラギのまつりごとの中心人物だ。

エリスの質問に、カズマは少しだけ心苦しそうに言った。
「今回は呼べない。話せるのはこの国を建国する前から付き合いのあるお前たちだけだ」
カズマは一同を見回す。

「ウィルの事は知ってるな」
皆頷く。捜索は未だに城下で行われているが、流石にここにいる者たちはウィルがトーキョーを出ていることはわかっていた。

「護衛のリールラから連絡があった。先日、ウィルが刺客に襲われた」
その事実に一同に驚愕が走った。まさか、と誰もが最悪の事態を想像した。

カズマが安心させるように微笑む。
「大丈夫だ。刺客は返り討ちにしたそうだ」
その言葉に皆ほっとする。だが続く言葉ですぐにもっと深刻なことが起こっていると思い知らされる。
「刺客は二人。一人はビリーだ、そしてもう一人はこの城で清掃係りとして城下で雇われた男だ」
「ビリーが!?」
エリスは思わず叫ぶ。自分の直属の部下が暗殺者だというのか。
信じられないことだが、カズマは勿論訂正することなどなかった。紛れもない事実なのだから。

「ビリーはベラとモルドーを殺したらしい………そして、その二人の死体をもう一人が動かして襲ってきたそうだ」
痛ましさが一同に広がる。ベラとモルドーは長年の同僚に命を奪われたのだ。
しかして、カズマは無視できない事を言っていた。
それをマリアが指摘する。

「陛下……死体を動かしたと仰せられましたか?」
カズマは頷く。
「その清掃の男は死霊使いネクロマンサーだったと言うのですか?」
「そうだ」
カズマの肯定にマリアは絶句した。マリアだけではない他の者も次から次へと出てくる事実に言葉をなくす。

死霊使いネクロマンサーが用いる死霊術は禁忌中の禁忌だ。

その昔、不老不死の研究が行われた過程で生み出された死霊術は、非道な人体実験と共に多くの犠牲者を出し、どの国でも研究すれば極刑にされる。

そんな術を清掃係が身に付けていて王子を殺すために使ったのだというのだ。
馬鹿げているようで、恐ろしい話だった。

いや、それ以上に恐ろしいのは、純粋にその二人が暗殺者だったということだ。
エリスはビリーの事を考えた。

彼は五年ほど前にベラが地方に任務で出掛けた時に面白い人材を見つけたと連れてきたのだ。

ビリーはいつから暗殺者だったのだろか?

最初からならベラも仲間だったのか。しかし彼女はビリーに殺されたという。
ならば城に来てから誰かの企みによって暗殺者となったのか。

ではもう一人の清掃係は?

「清掃係はどうやって雇われるの?」
エリスの問いにアルフレッドが答えた。武官の彼だが、城内の警護をする彼はそういった事情に多少詳しかった。
「募集をする際に、城下の広場で希望者を募り、数日に分けて面談をします。人数か減ったりすると補充のために同じようにします。確か前回は三年前でした」

「じゃあ、その男は最低でも三年前には城にいたということね」
後でちゃんと調べなければならないと考える。それでも二人に共通点を感じられない。
面談をしているというなら、文官が引き入れたのか。
しかし、そうなるとビリーとの関係がよくわからない。

「エリス」沈黙した妻に夫のカズマが声をかける「ゲハールに調べさせるなよ」
その言葉にエリスははっとして夫を見て、ここに集められた一同を見た。
ここにいるのは臣下であり、建国前からのの旧知の仲間だ。

「だからこの子達だけを呼んだの?」
「そうだ。ビリーとその男がどういう経緯で誰の手引きで城に入ったのかが全くわからない。もしかしたらなんの手引きもなく、目ぼしい相手を刺客に仕立てあげたのかもしれない」

だが、その可能性が限り無く低いことはここにいる誰もがわかっていた。
ビリーだけなら、もしくは二人組だとて単なる暗殺者であればなくもない話だが、今回の暗殺者の一人が単なるというものからかけ離れている。

研究するだけで死罪となる研究をしている者がたまたま雇われて、その事をどのようにかして知り得た首謀者が暗殺者に仕立てたなどということは考えづらい、いやあり得ないといってよい。

首謀者がその男は死霊使いネクロマンサーだということを初めから知っていて、暗殺者として城に潜り込ませたのだ。
そうでなければ男の素性と今回の襲撃の辻褄が合わない。

その事をカズマたちは理解していた。

「恐らく、この城の中の誰かが暗殺者を引き入れたんだ、それも何年も前から周到に気付かれることなく。はっきりいってそれが誰なのか現時点ではわからないだろう?」
「そうね。調べようにも調べるために命令した相手が首謀者かもしれない」
「そういうことだ。だから、キサラギが建国されてから入ってきた人間は今のところ全員容疑者だ」

その説明にアルフレッドが異を唱えた。
「お言葉ですが陛下。それであれば我々とて同じことです。建国前からの知り合いなどと言う理由だけで容疑者から外すのは危険ではありませんか」
表情が厳めしいままなので、怒っているように見えるが彼はいつもこのような顔をしている。
「お前たちなら、何のために暗殺者を集める?」
「それは………」
答えに窮するアルフレッド。元よりそんなことを考えたことも無かったと言うこともあるが、それだけではない。

もし、そのような不敬な事を自分が考えたと想定しても、明確な答えは出てこなかったのだ。

「お前たちなら殺すだけなら隙をつけばいつでも出来る。その力と立場を持ってる。他人に任せる必要はない、暗殺者を外から率いれることなんかしなくても中でいくらでも作れるしな…………」
カズマは一旦言葉を切ると、横にいるアリニフィーレから銀の杯を受け取り、中に入っている水を飲み干す。

「それが出来ないから、首謀者は建国後に何らかの目的をもって城に入り、暗殺者を少しずつ引き入れていったんだ」
「何のために?」
エリスが問う。
「わからん。取り合えず今回はウィルを襲った」
「今回は、と仰せですか?」
次にカイト。
「二人だけで終わりならそれでいいが、楽観的すぎるな」
「他にも暗殺者が入り込んでいると?」
最後にマリア。
「そう考えて、行動と対策をする。そのためにお前達を集めた」

妻と臣下の問いかけに淀みなく答えていくカズマ。
一通りそれが済むと命令を出していく。

「アルフレッドとカイトは先ずはそれぞれの団員の素性から調べていくように、マリアは城下から雇われている人間の洗い直しだ」
アルフレッド、カイト、マリアが頭を下げる。
カズマはカイトの後ろのリルムを見た。彼女は皆の話の邪魔にならないようにと終始黙っていた。

「リルムは城下でおかしな噂とかを聞いたら教えてくれればいい」
「わかりました」
リルムはにっこりと微笑む。神官で戦闘能力が高いわけではない自分に出来るのはそれほど多くはない。
「後は皆様の補佐をさせていただきます」
その言葉にカズマは満足そうに笑った。彼女は察しがよく思慮が深い。

「エリス」最後は自分の妻だ「リューシーをグルドニアから呼び戻してくれ」
「わかったわ」
リューシーは二人の養子の娘だった。
キサラギの姓を持ってはあるが、養子なので王位継承権は保有していない。その事が養子として彼女を受け入れる際の宰相たち文官の出した条件でもあった。
そして、彼女はキサラギ最強の騎士でもある。
城の中に彼女が居れば首謀者に対する牽制になる。

「よし、以上だ。悪いがこの任務は極秘だ。単独で行うように、後は相手を見つけても何もせずに必ず俺か、エリスに報告だ」
カズマの言葉に全員が頭を下げ、寝所を出ていった。
中にはカズマとアリニフィーレ、エリスの三人が残った。

エリスにはまだ気がかりがあった。
息子のウィルレットの事だ。今回は事なきを得たようだがもしまた襲撃されるような事があれば何が起こるかわからない。
リールラとディッツの実力はかなりのものだし、二人は信用できる。

だが、息子の腕は一つも信用できない。二人がいなければ、ウィルレットはそこらの子供が槍でつついてもやられてしまうだろう。
果たして二人だけで守りきれるのか。レイチェルが人を回すらしいことは聞いたが安心は出来ない。
それほどウィルレットは剣士としてはどうしようもないくらい弱かった。

「カズマ、ウィルレットを呼び戻しなさい」
だから、この提案は当然のもので、夫も同じことを考えていると思った。
しかし、エリスはここでこれまでの夫らしい、それでいて思ってもみない言葉を聞くことになった。

「いや、戻さない」
思いがけない言葉に驚くエリスにカズマは言った。
「何でもウィルがウルセトに行くつもりでいるらしいから、丁度いいから国外に避難しろって言っといたよ」
「何考えてるのよ!」
「まあ、落ち着け」
激昂する妻をなだめながらカズマは説明する。
「戻ってきたらきたで守りきれないかもしれないからな。何せ刺客が城にどれだけいるのかわかってない……四六時中ウィルを警護するのははっきりいって無理だ。あいつ自身も自分の身を守ることも出来ないだろう……なら、いっそのことキサラギから出た方が安全だ」
カズマは自信たっぷりに言った。

そうかもしれないが、国内から出て他国に行けば今度は何かあっても助けにいけないのだ。
ウルセトは奴隷制度のある国だ。万が一と言うこともあり得る。
危険を避けて、それと同じかそれ以上の危険な目にあっては意味がない。

エリスは頭を抱える。こんなことならウィルが城を出たときに最初からベラだけでも護衛につけていた方が良かった。

そのベラはもう一人の信頼していた部下のモルドーともに、百年以上の人生に別れを告げてここより離れた地で土に還ってしまっているのだった。












「無能王子の冒険譚」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く