無能王子の冒険譚

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プロローグ

 大陸の最南端にキサラギという小さな国があった。
 小国ではあっても大陸ではその名を知らぬものはいない。何故ならば大陸にその名を轟かせた英雄が打ち立てた国であるからだ。

 王の名はカズマ・キサラギ。

 異世界より現れたと言われる彼は、彼を召喚した四人の仲間と共に、野望に取り付かれた魔導士が召喚した邪竜を聖剣ファルシオンを以て滅ぼし、魔剣を携えた暗黒騎士を数年に渡る戦いの末に倒し、数百年の眠りから目覚めた水竜をも滅した。

 その類い稀な武功が認められ、レクトゥールという女王国家の後見のもと国土の南端を割譲されるという形で建国を認められる。

 彼の国には、彼を慕う者や、彼の武名に惹かれた者、長きに渡る戦いによって生まれた周辺国の難民が集まった。

 それがおよそ二十年ほど前の事。
 キサラギで生まれ育った子供たちは当然のように建国王と英雄の物語を親や周りの人から聞いて育つ。
それはキサラギに留まらない。大陸中の国で希代の英雄の物語は人々が語り合う。
酒場で唄う吟遊詩人、大きな都市の演劇の演目、小さな村にも訪れる大道芸一座の紙芝居にも。

 そんな胸踊るような物語をキサラギ国の王子であるウィルレット・キサラギも本人や、共に戦った仲間、彼らをよく知る人達から直接聞いて育っていった。

 だからウィルレット王子が父と同じ剣士を志したのは自然な流れだったかもしれない。
彼の双子の妹も連れ添うように兄と同じ道を選んだ。

 ウィルレットは夢見ていた。いつか父の聖剣を受け継ぎ、英雄の名とキサラギの国を引き継ぐ事を。


だが、天はウィルレットの望みに必要になるものを与えなかったのである。







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