クーデレ系乙女ゲームの悪役令嬢になってしまった。

瀬名ゆり

17 何よ、私との婚約は罰ゲームか何かか!



「禁断の恋かどうかは置いておいて、姉さんから聞いた話だと、西門さんは何か目的があって2人の婚約を阻止したいみたいだね」
「正直わたくしとしては、大いに邪魔して頂いては構わないのだけど……その手段が問題なのよね」


そう、青葉と婚約をしたくない私としては一向に構わないのだ。むしろどうぞって感じだ。だけど懸念事項がないわけじゃない。


「はたから見れば、西門黄泉がわたくしを好いて婚約を申し込んでいるようにしか見えないじゃない。それでは余計な妬みを買いかねないわ」
「姉さんと西門さんならお似合いって言われそうだけどね」


不本意ながらそういう意見ももちろんある。本当に不本意なんだけどね。


「そうね、西門くんのいい所をプレゼンしてくれたり、婚約してから好きになるのも悪くないと諭してくれるくらいには、皆さんわたくし達の仲を応援してくれているわ」


黄泉の一方的な片想いだと思っている人は彼にとっても協力的だ。私にはいい迷惑でしかないのだけど。悪気がない分邪険にも出来ないしね。とっても厄介だ。


「でも、どんなに友好的な環境だとしても、一定数悪意はうまれる物だわ。西門くんに好意を抱く人にとって、わたくしの存在は面白くないでしょうね」


現に黄泉のクラスメイトは少し面白くないらしい。

桜子ちゃん曰く相手が私だから表立って文句や悪口を言う人はいないそうだが、私としては黄泉と話している時の彼女たちの視線がちくちく刺さるのが地味にストレスだったりする。

きっと気が気じゃないよね。自分の好きな人が他の女と親しげにしてたらさ。いや、親しくはないんだけどね、実際。ただのパシリだからね。よくて知り合いだよ。しょっぱい関係だよ。

だけど、今はまだ平気でも、いつ彼女達が牙を向くか。

女子の集団心理とは恐ろしいもので、集団が出来上がると普段何も出来ない人達でも何か出来るような気になってくるのだ。

別にまだ幼い子達に何を言われても怖くはないし、まだまだ青いなとしか思わない。

けれども、そんな私の斜に構えた態度は火に油を注いでしまうだろう。それでは余計彼女達の悪意を助長しかねない。

そう思うと、その勢いが私に向けられた時、私にはうまく立ち回れる自信があまりなかった。

それに、まだクラス替えもあるのだから、他のクラスの女の子ともできれば親しくしておきたいよね。


「それこそ一条青葉に直接わたくしの悪口を言えばいいのに。どうしてこう回りくどいやり方をなさるのかしら?」
「一条さんが姉さんのことを好きとか?」
「…………わたくしを?」
「そう、だから悪く言っても意味がないとか」
「……1度も会ったこともないのに?」


それは少し説得力に欠けると思う。赤也は自分でもそう感じたのか、何事もなかったかのように無言でスコーンを手に取る。……誤魔化したな。


「一条青葉と友人だからわたくしのような女とは婚約させたくないっていうのが1番有力だけど……ただの友人のためにそこまでするかしら?」


自己犠牲の精神は美しいと思うけれど、あの自己中心的な黄泉にそんな精神があるとは思えない。

だいたい私との婚約を犠牲だと考えているのなら、それはあんまりじゃないか!


何よ、私との婚約は罰ゲームか何かか!


「西門さんにとって一条さんは幼なじみで兄弟みたいな存在なんでしょ? だったら、僕達でいう優さんみたいな存在ってことだよね」


なるほど、私達にとってお兄様か。言い得て妙だな。


「もし優さんに婚約者が出来たら?」
「おめでとうって祝福するわ」


当然のようにそう答える私に赤也は少し呆れた顔をする。

当然祝福するに決まってる。大好きな兄の新しい門出。祝わないはずがないじゃないか。盛大にお祝いすることだろう。

サプライズは任せて欲しい。立花家仕込みの取っておきのサプライズパーティー。よし、その時は赤也にも協力してもらおう。


「姉さんはそうでも西門さんは違うよ。……その婚約をどうしてもやめさせたくて。……例えばそうだな。姉さんは僕をその婚約者に近づけさせて、優さんとの婚約を白紙に戻すよう仕組むんだ。そこまでする理由は?」
「……そうね、その婚約者が気に入らない。もしくはもっと相応しい相手がお兄様にいるか……っ、そうか、そうだったのね!」


興奮した私は勢いよく立ち上がる。ここが店内だとすっかり忘れていて物音をたててしまった。すみませんと言って座りながら、今度は少し小さな声で言葉を続ける。


「きっと西門くんの好きなご令嬢は一条青葉が好きなのよ! ……実らない片想いをなさってる西門くんはせめて2人を結びつけようとする。けれども一条青葉は、何故だかそのご令嬢よりも、わたくしとの婚約を望んでいる。それで仕方なく西門くんは好きでも何でもないわたくしとの婚約を取り付けようと……」


少し無理矢理すぎたかな。また赤也に呆れられるに違いない。

そう思って赤也の方をちらりと見ると、顎に手を当てて「あながち間違いでもないかもしれない」とつぶやいた。


え、うそ、本当に? 絶対冷静に突っ込まれるか、優しく諭されると思ったのに。


「確か一条さんには、麗氷女子に通う幼なじみがいたはずだ。その幼なじみは一条さんを慕っていて、婚約を望んでいると聞いたことがある。1度も会ったことがない姉さんよりも、よっぽど婚約者候補として有力視されているはずなのに、何故だか一条家は首を縦に振らないんだ」


なるほど、赤也が珍しく私の想像を否定しなかった理由はわかったわ。けどそれよりも、私よりよっぽど情報通な赤也に少しだけ驚いた。

昔から社交的になるようにと言い聞かせていたからか、今では初対面でも男女問わず誰とでも笑顔で話せるとっても立派な小さな紳士だ。

弟を囲った『立花雅』のようになりたくなかった一心で、というのももちろんあるけど、何よりも赤也には『立花雅わたし』がいなくても、独りでも平気な人になって欲しかった。

人見知りでアリスおじ様の後ろでもじもじしていたあの頃の天使との日々が、今では遠い昔のように感じる。

あれはあれで可愛かったんだけどね。

立派になって嬉しい反面、お姉様寂しいわ。


「……きっとその方のことが好きだったのね、西門くんは」
「まだ確証があるわけじゃないからなんとも言えないけどね。僕達の憶測……いや、妄想に過ぎないよ」


確かに早急すぎた。赤也の言う通りまだそうと決まったわけじゃない。


「確かにそうね、もしかしたらもっと思いがけない意外な真実かもしれないわね! わたくし早速探って見るわ!」
「僕も独自のつてを使ってみるよ」


赤也の独自のつてが気になったけど、聞くのはなんとなく辞めておいた。知らない方が身のためである気がしたからだ。

          

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