GAME OF BUSHIDAN

ナッツ・ユキトモ

撤退戦、一騎討ちデビュー

 うぉぉぉぉぉぉぉぉ…!

 俺が離脱しようとしているのに気付いたのか、数騎の騎馬武者が仲間を引き連れ追ってくる。

 …今、どこにいるのか。果たして方角は合っているのか。

「逆賊め!いい加減観念しろぉ!」

 追手の大将なのか。後方から叫び声が聞こえる。

 …俺がどさくさに紛れて逃げ出したのが約2時間ぐらい前。

「背を向ける相手に矢を放つのは嫌だが、致し方あるまい!」

 明らかに俺に聞こえる声量で後ろから言われる。

 その直後

 びゅぅぅぅぅぅぅぅ!

「ッチッ!外したか…。次は当てるぞ!」

 びゅぅぅ!びゅぅぅ!びゅぅぅ!

 後方から何本か分からないが矢が放たれているのが分かる。最も的外れだが…。

「なぜ当たらん!」

 …仕方ない…。

 追っ手を撒くにも馬も疲れが出ている。少しづつ、だが確実に馬の脚を緩める。

 ………。

 …!?また動けなくなった。この感覚は…そういうことだろう。

「ようやく、観念したか。潔く首を寄越せぃ!」

 はじめて、相手の方を振りかえる。

 騎馬武者が3騎。徒武者15人。

 この世界でも、俺の持ってるゲームスキルが使えるのなら何とかなる数だ。

「貴様も兵。戦の作法に倣い一騎討ちによる決着の誉れを与えよう!」

 どうやら一騎討ちを行え、ということだろうか。

 前に出てきたのはその中でも煌びやかな鎧武者。敵の大将だろう。

「我こそは!生国を下野国!藤原秀郷が家来!大橘次郎!此度の戦では悪逆の平将門が郎党!滝口小次郎を討ち取った猛者なり!」

 随分と長い口上だな。滝口小次郎って平将門の別名じゃなかったか…。いい加減だなぁ。

 とりあえず、返答してやるか。

「我こそは生国は武蔵。多磨三郎丸。亡き新皇、平将門の郎党。」

 こんなものでいいだろ。

「よかろう!多磨三郎丸!貴様の首、俺が討ち取ってやる!いざ!矢合わせ願おうか!」

 そう言って大橘次郎は弓を構える。

 最初は弓矢合戦か…。お互いに騎馬を操りながら矢を放つとか、どんだけだよ…。

「まずは、名乗った俺から矢を当て給う。」

 何本かこちらを目掛け矢が飛んでくる。

 さっきから何本も矢が飛んでくるものの当たる気配がない。

 これもチュートリアルの範囲内ということだろうか…。

 最も知ってる限り、一騎討ちでは弓矢を討ち尽くしても倒せないケースの方が多かったらしいが。

 …さっきまで疲れ切っていた馬も、なんだかんだで一騎討ちの最中は走れるみたいだ。

 ならば、そろそろ反撃させてもらおうか…。

 俺は自然な動作で弓矢を構える。

 やはりチュートリアルだ。構えた瞬間、矢を放った先が分かるようになっている。

「悪いが、一撃だ!」

 そういったのと同時に相手へ矢を放つ。放った先は相手の額にピンポイントで刺さる。

「!!」

 大橘次郎の動きが止まり、ゆっくりと落馬し、横たわる。

 相手の仲間たちもただただ見ているだけ。いや、黙とうを掲げる者もいる。

 その死体にゆっくりと近づき、

「首を落とすまでが一騎討ちの作法。御免!」

 ザシュッ!

 脇差を抜いてすぐに一閃。

 首が飛び、血が噴き出す。

「大橘次郎が首!この多磨三郎丸が討ち取ったり!」

 そう叫ぶと、敵側の連中はこちらを向いた。

「我らが主、次郎様。見事なご最期であった…。」

 残った武者たちは、こちらに向かう気配もなく合掌している。

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