全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

145話 慟哭

 「——〈破獄天荊〉」

 バカでかい黒球がこちらに飛んでくる。
 
 「はぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁあっ!!」

 己の全ての力を振り絞り、その一撃を止める。
 だが、それでも完全に消滅させることは出来なかった。俺は急いで、ソレを上に逸らす。
 すると、広範囲に黒球が暴れだし、辺りのものを飲み込んだ。

 「くっ……!」
 
 俺は踏ん張り、その吸い込みに耐える。

 「ふははははっ!これを使っても、貴様を殺すことには未だ至らんか……!面白い!面白いぞ勇者よ!」

 「う……るせぇっ!!」
 
 俺はここで1つの博打に出た。
 その場から全力の力を込め、魔王の懐へと一瞬で潜り込んだ。
 
 「——ふっ」
 
 俺の侵入に気づいていたのか、黒刀が俺の胴体を切り裂いた。
 ——かのように見えた。
 
 「なっ!?」
 
 完全に入った一撃が外れ、魔王は驚いていた。手応えがなかった訳では無い。
 何故なら——。

 「プルルっ!?」

 プルルが俺を庇い、代わりに黒刀の餌食となってしまった。
 
「行ってっ!!」
 
 「っ!」
 
 満身創痍なプルルは俺に指示を出してくる。
 未だ魔王は事実を受け止めきれていなかったのか、硬直状態だった。

 「うぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉっっ!!!」

 一番の声を上げ、俺は魔王へと肉薄する。

 「これでっ!終わりだっ!!!」
 
 俺はトルリオンとダーインスレイブを振り切った。
 X状に斬られ、魔王から鮮血が飛び出る。どう見ても致命傷だった。
 
 力を失った魔王は地面へと落ちていく。
 そして俺は先に落ちていったプルルの方向へ全速力で移動した。
 地面に着くと、人化状態のプルルが横たわっていた。

 「プルル!しっかりしろっ!!」

 俺の必死の呼びかけにプルルは目を開けた。

 「……ご主人様……。ご主人様がここにいるのは……魔王に……勝ったんだよね……?」
 
 「ああ!」

 先程から回復魔法をかけているも、あの黒刀の力のせいか、彼女の体が魔法を全く受けてない。
 体からは未だドバドバ血が溢れている。

 「……ごめん、ご主人様……もうプルル…ダメみたい……」

 「そんなこと言うなっ!!」

 「……ねぇ、ご主人様……?聞いてくれる……?」
 
 「……何だよ……」

 「もし……ご主人様がこの世界で一人になっても……ご主人様の心の中には皆が……いるんだよ……。だから、ね?……そんなに泣かないで…………」

 プルルはそれだけ言い残すと、事切れたように動かなくなった。

 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」

 何も救うことが出来なかった男の慟哭が響き、大粒の涙が零れる。
 俺の涙は何時間泣こうとも枯れることはなかった。

 
 俺はなんの為に自分を鍛えたんだろう。
 ふと、そう思った。
 突然の異世界転移。そこから俺はたくさんのことを学び、精一杯努力して強くなった。
 なのに、一瞬で俺が守りたかった者が手からすり抜けていく。終いには俺以外の唯一の生き残りのプルルも死なせしまった。
 楓、ルーナ、エル、アルス。それ以外にも沢山の人を俺の一瞬の不注意のせいで死んでしまった。

 「……俺は……これからどうすればいいんだ……っ!」

 自分の無力さに腹が立ち、俺は地面を全力で殴る。
 クレーターができ、俺の手から血が滲む。

 その時、声が聞こえた。

 『勇者トオル。しばらくお話しませんか?』

 突然、俺の頭に声が聞こえた。
 そう思った時、俺の意識が途絶えた。

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