全スキル保持者の自由気ままな生活
98話 久しぶりに絵を描いた
 
 翌日。
 朝起きた俺は銀亭の宿へと出向くことにした。
 「カネヤマ トオル様ですね。話はウルティマ様から伺っております。どうぞこちらへ」
 受付へと向かい、名前を告げると案内された。
 ……場所は分かってるんだから、いちいち案内してもらわなくてもいいんだけどなぁ……。
 「では、ごゆっくり」
 案内を終えた後、受付は去っていった。
 コンコン、そうノックし、みんながいるのかを確認した。
 しかし返事がない。
 ……どこか行っているのか?
 「入るぞー!」
 俺はそう言い、扉を開ける。
 中は無人だった。
 ……やっぱり何処かへ行っているのか?
 ていうか今何時?
 俺は昔試作品として作っておいた時計を見てみると、その針は3時を指していた。
 ……あ、これ完全にやらかしたやつだ……。
 大方、俺を待てずに先に行ってしまったパターンだな……。
 なら、
 「しばらくここで待つとするか……」
 こちらから変に探して気づかれて怒られたくないし。
 ……どの道怒られるのはほぼ確定なのだが、これを先延ばしにすると、もっと恐ろしいことになる……。
 「これからどうするか……」
 俺がそんな独り言を呟いた時、
 「ただいま~!」
 ウルティマたちが帰ってきた。
 ……タイミングが良すぎるのではないでしょうか?
 「……何故ここに?」
 「ここは私の部屋ですよ?居て当然じゃありませんか」
 ……いや、そうなんだけど……。
 夕方ぐらいに帰ってくると思ってたんだが……。
 ……ん?なぜ笑ってる?
 遠くを見ると、みんなが堪えられない感じで必死に笑いを我慢していた。
 「……しっかり買い物に行ったのか?」
 「え?私、いつ買い物に行くといいましたっけ?」
  
 その言い方……完全に行ってないな……。
 完全に騙されたわ!
 「透が……私たちに気づくことなく……ふふっ……!」
 楓が笑っている。
 「こら!そこ笑うんじゃない!」
 「いや~、ご主人様無計画すぎるよ」
 ぐっ……!
 俺はいつも警戒してるわけじゃないから仕方ないだろ!
 ずっと探知スキルをONにしておくのは面倒くさいんだよ!
 「じゃあみんなも揃ったことだし、行きましょう」
 ウルティマを先頭に俺たちは少し夕方の街を歩き始めた。
 
 「トオル、ちょっといい?」
 「ん?なんだ?」
 みんなが歩いている後方でルーナは呼び止めた。
 「ミリアちゃんのことなんだけど……」
 「大丈夫だろ。あの人がこんなこと許すわけないだろうし」
 「あの人って……もしかしてギルバート国王なの?」
 「あの人を直に見て、国民は大事にするだろうから、俺が囚人のことを言ったら直ぐに動いてくれてるだろ。それにあの人に喧嘩売るバカはいないだろうしな」
 「それもそうね。彼って実際にどのくらい強いの?」
 「ん?今の楓よりは強いと思うぞ?そうじゃなかったら一人で帝国の兵を壊滅状態にすることなんてできないからな」
 まあそのレベルだったら同学年に後二人はいるんだけど。
 それは言わないほうがいいかもしれないな。
 「そう……じゃあ大丈夫だよね?」
 「余程のバカ!じゃなかったら問題ないだろ」
 バカを強調して言う。
 ……でも本当にそいつがバカだったら……ヤバいなんか気になってきた……。
 「今はそれやりも楽しむとしようぜ」
 「それもそうだね」
 だが俺は知らなかった。
 この油断が後々の面倒くさいことになることに。
 買い物は女子だけになり、俺は夕食を楽しむことだけをすることとなった。
 今は中央広場の噴水前に座っている。
 ……だって俺が今欲しい服なんてないし……。自分で作った黒色の戦闘用服が気に入っているんだから、無理に他のことに手を出したくはない。
 ……まあ裁縫で商売を始めるのは手かもしれない。
 結構上手く早く作ることができるしな。
 「……暇だし、絵でも描くか」
 俺はアイテムボックスの中からスケッチブックと愛用のシャーペンを取り出した。
 これは元の世界で使っていたものと同じシャーペンだ。
 もちろん創造で作った。
 俺はとりあえずここから見えるこの国の城を描くことにした。
 「~~♪」
 俺は鼻歌を歌いながら描き進める。
 ……こうやってみると、結構複雑な特徴をしてるんだな。まあ一国の城なんだからそれがそうなのかもしれないんだけど。
 それから5分後。
 「出来た!」
 簡単なタルサの城の絵が完成した。
 うーん……もうちょっと影や色をつけたいところだけど、これをやってたら時間がかかる……。
 
 「上手いな!兄ちゃんの絵!」
 不意にそこに小さな男の子がいる事が見えた。
 ……ヤバ……。集中しすぎて全く周りを見てなかった。
 「そうか?」
 「そうだよ!僕、こんな上手な絵なんて見た事ないよ!」
 「それは嬉しいな」
 作品を褒めてもらえるほど、芸術家として嬉しいことはない。
 ……今思ったんだけど、俺って芸術家って言えるのか?
 なんかそう名乗ってたら本当の人たちにボコされそうだ。
 「兄ちゃんの絵、教えてくれよ!」
 「うーん……」
 ……あんまり時間無さそうなんだよなぁ……。
 まあいいか。
 「いいぞ」
 「やった!じゃあこっちに来て!」
 小さな男の子とに手を引っ張られて、俺はこの子が目指す方向へと小走りで向かったのだった。
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