全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

69話 楓の進化

 「じゃあやるか」

 俺たちは練習という名の試合をする為にみんなからは多く離れた場所へと移動していた。

 「うん。いつでもいいよ」

 楓がどれだけ強くなったのか。
 それを確かめる為に、俺は結構強めに行くことにした。

 「はぁっ!」

 俺は全力で剣を振るう。

 ガキンッ!

 すると、それは楓の前にある見えない壁によって弾かれてしまった。

 (あれは……結界…じゃないな。……なら風で作ったバリアのようなものなのか?)

 俺は弾かれたことに動揺しながらも、どう対策をとればいいか頭で考える。
 しかも楓は何かを唱えることをしていなかった。
 つまり、無詠唱ということだ。

 (無詠唱によるスキルの発動……厄介だな。いつどのスキルが使われるのか分からないのは結構難しいぞ)

 それこそ相手の動きを予測できないと思うように出来ないな。

 「やるじゃん」

 「こっちだって透が修行していた時も遊んでいただけじゃないんだよ」

 「そのようだな」

 それは最初の攻撃で理解している。
 ならこれはどう防ぐかな?

 「オラァッ!」

 俺は手に持っていた木剣を全力で楓に投擲した。
 プロ野球選手など目じゃないほどの速さで飛んでいき、楓にぶつかるも、やはり弾かれてしまった。

 (なるほど……。風だったら切り刻むこともできる。だけどあえてそれをしないのは、魔力の問題で出来ないから。
 それに対して、弾くだけなら低魔力でも使用できるからな)

 相手の攻撃を防ぐだけなら最小のコストとも言えるだろう。
 
 「そっちからもかかってきたらどうだ?」

 「調子に乗って痛い目を見ないでね!」

 そう言った楓は弓を射る体制へと入る。
 完全に構え終わった時、楓の手に一本の金色に光る弓が現れた。

 「唸れっ!熾天弓セラフィムッ!!」

 楓は何かを唱えた後、弓を放ってきた。
 普通に飛んでくるのかと思いきや、矢は俺の視界から消えた。

 「……っ!?」

 これには流石に俺も驚きを禁じえない。
 
 (どこだ?)

 俺は矢の居場所を見つける為に、様々な方向に目線を向ける。
 すると、矢は簡単に見つかった。
 だが、その数が尋常じゃない。
 ヒヒイロカネで出来ているであろう、矢がその数およそ1000・・・・本。

 (嘘だろ……!?おい!!)

 俺の目視では数え切れないほどの矢が俺の後ろに存在していた。

 「はあっ!!」

 楓は手を振り下ろし、それがあたかも一斉放射の合図だったように俺に向かって飛んでくる。
 
 (くっ……。流石に捌くのは無理か……)

 俺は対処を諦め、楓の後ろまで転移した。

 「はっ!」

 ガラ空きの背中に俺は掌底を叩き込む。
 だが、

 「それは読んでいたよ!」

 俺の視界に写っていた楓の姿が搔き消え、本当の楓の声が後ろから聞こえてきた。

 (分身かっ!……クソッ)

 俺は自身の攻撃が決められなかったことによる無念さを感じながら、後ろへ下がる。

 「燃やせっ!熾天使ウリエルッ!!」
 
 さっきが矢の嵐であったが、今回は矢に炎が付与されていたものが飛んできた。

 (今回は一本だけか……。それなら!)

 「〈氷魔法〉コキュートスッ!!」

 炎の最上魔法とも言えるインフェルノの対を成すと言われるこの魔法で矢を食い止めようとする。
 俺の手から出てきた白のビームが矢と衝突し、ぶつかった瞬間、急激な温度変化による水蒸気爆発が発生した。

 (……っ!?どんなに高い温度なんだよ!)

 俺の予想では完全にこの魔法の方が威力が上回っていたと思っていたのに……。

 「だが……!」

 俺は最大とも言える切り札、トルリオンを取り出した。
 そしてさっきよりも強くなったステータスを生かして爆発が起こった方向に突撃する。
 
 「はぁっ!」

 俺は爆発により発生していた煙を切り、楓の方向に進んだ。
 ようやく煙を抜けると、そこには尻餅をついていた楓がいた。

 「そこっ!」

 俺はその隙を見逃さず、楓の首へと全力の一振りを放つ。
 そして首にあたる直前、俺は剣を止めた。
 剣を振った風圧で辺りにものすごい風が巻き起こる。

 「ここまでだな……」

 (ふぅ。いくらステータスを縛って互角といってもやはりトルリオンがあったら形勢逆転だな)

 まあこの今のレベル、約2000で互角に戦えている楓も十分に凄いと思うけどな。
 それはやっぱり頭の回転が伊達じゃないんだろう。

 「やっぱり透には勝てないな……」

 「当たり前だろう」

 そりゃレベル差という超えられない壁が存在しているからな。
 逆にほぼ歩くだけで天変地異が起こる俺の全開ステータスで追い詰められたら、ちょっと引く……。

 「でもよく頑張ったな」

 俺は座り込んでいる楓の頭を撫でてやる。

 「もう!恥ずかしいからやめてよ……」

 「楓が頑張っていることも見れたし、今日は満足だな」

 「透は私の父親か!?」

 「ナイスツッコミ!」

 「はぁ……」

 どうやら素でやっていたようだ。
 
 「でも頑張っていたんだな」

 「当たり前でしょ!透と違って毎日学校に行ったり冒険者活動頑張っていたりしたんだからね!」

 「……ちなみに聞いておくけど、今のランクは?」

 「え?Sだけど?」

 ありゃりゃ?
 まさかの抜かされちゃったパティーン?

 「ちなみにいつなったんだ?」

 「最近だよ」

 (まじか……)

 そんな話聞いてないんですけどっ!?
 なるほど。最近ということはレオンみたいに称号にSランク冒険者というのがついていなかったのが頷ける。

 「そうか……なら冒険者という面では楓に抜かされたな」

 「透はまだAランクなの?」

 「依頼なんてやる暇がなかったからな」

 いろいろなことに駆り出されていたし、俺自身もあまりそういう気分にならなかった。
 しかもSランクになる為には国の審査を受けないといけない……はずだったから面倒くさい。
 そこまでしてなりたい訳でもないしな。

 「私にも透より優れていることはあったんだね」

 「当たり前だろ。むしろ俺のできることは少ないぞ」

 これは嘘ではない。
 実際にいろんなことに失敗してきた。
 たとえ全スキルを持っていたとしても、全てが上手くいくわけではない。

 「うん……ありがとう!」

 「やっぱり笑顔の楓は可愛いな……」

 「ちょっ!?急にそんなこと言わないでよ!」

 「……悪い……」

 ついな。
 俺はその笑顔に惚れたんだから。

 「そろそろ戻るか?」

 一応楓は連絡無しで来たはずだから帰したほうがいいかもしれない。

 「大丈夫だよ。いざという時のために単位は稼いであるから少しぐらい休んでも大丈夫!」

 「……なんちゅう理論だよ……」

 「別に私は透と一緒じゃない学校なんであんまり行きたくないんだもん」

 「そこは行っとけよ……。なら俺が修行に行ってた間はどうして行っていたんだ?」

 「それは……透に強くなったところを見てもらいたくて……」

 少し恥じらいながら、楓は答える。
 愛い奴め!!

 「それじゃあ戻るか」

 頑張っているみんなの元へ。

 「うん!」

 俺は久しぶりに楓と手を繋ぎ、戻って行った。

コメント

  • 雫

    透って弱いですね

    0
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