全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

52話 開戦

 そして、始まりの朝がやってきた。
 朝早く起きた俺は風呂に入ろうと体を起こし、テントから出ようとした。

 (う……何だこれ?何か物が乗っていて動きずらいのだけど……)

 そう思った俺は元凶の物を探してみると、そこにはエルが頭を俺の胸辺りの上に乗せていた。

 (これどういう状況?……何か前にもこんなことがあったような気が……これがデジャブか!)

 そう思いながらも、俺は風呂に入りたいがためにエルを動かさずに脱出しようとした。
 幸いにも眠りが深かったおかげか、エルが起きることなく出ることが出来た。

 外に出ると、日の出が奥のほうに見えていた。
 
 (こんな朝っぱらに起きるのも久しぶりだな……)

 だいたいエルに起こしてもらうかだったからな……。
 ……今考えてみると俺の生活ってだいぶエルに依存してないか……?
 …まあそれは今はいいとして風呂だ風呂。
 流石にシャワーを浴びただけじゃべたべたする……。

 俺はいつもの高台にやってきた。

 (やっぱり、ここから見る景色は最高だな……)

 しかも今は日の出の最中。いつもよりいっそう神秘的に見える。
 こんな景色はなかなか見えるものじゃない。
 ……今度こういう景色を見るために旅に行ってみたいな……。時間があれば。

 (じゃあセットでもしましょうかね……)

 俺は昨日エルに戻しておいてと言った風呂を取り出した。
 そしてお湯を沸かす。

 3分後。
 完成した風呂に服を脱いでつかる。

 「はあ~~~~~~~生き返る!」

 あまりの気持ちよさに思わず叫んでしまった。
 疲れたときの風呂はやっぱり最高だな!
 みるみる疲れが取れていくようだ。

 (風呂はやっぱり欠かせないよな!)

 ……なんで俺はダンジョンで風呂なしの生活に耐えられたんだろう……?
 今の俺だったら無理だね!
 ……そんなに自慢して言うことでもないけど、そうなのも事実だ。

 「はあ~~」

 二度目の爺さんみたいなため息をつく。
 
 (そうだ!体も洗うか)

 そう思った俺は風呂から立ち、上から即席のお湯をかけながらシャンプーなどを用い丁寧に洗っていく。
 
 (……やっぱり汚れていたな)

 洗っていくごとに俺の体についていた汚れが風呂の中に落ちていき、湯が少し黒くなった。
 ……これは変えないとな。

 俺は洗い終わると、風呂から出て中の湯を全て捨てた。
 そこに〈クリーン〉を使い、中の汚れも綺麗に落としていく。
 そして洗い終わると、再びお湯をいれ浸かった。

 「はあ~~~~~!」

 風呂最高!!
 
 そして俺は風呂を堪能しすぎ、湯から出た後は少しのぼせてしまった。

 俺が風呂から上がってもみんなはまだ寝ていた。
 よっぽど、昨日ガールズトークに花が咲いたのだろう。
 俺は少し小腹が空いたので、アイテムボックスからすでに出来上がっている食べ物を取り出し、それを食べた。
 
 それから俺は日課としている素振りをする。
 今日は周りを起こさないようにレベルを縛って素振りしている。
 
 (そうじゃないと、風圧がテントを吹き飛ばしてしまうからな……)

 俺が全力で素振りをしたのなら、余波だけであの帝都ぐらいは滅ぼせるだろうからな。
 女子3人の入ったテントなんてどうなるか予測がつかない。
 
 俺は何の変哲もない二振りの木剣を取り出した。
 これが俺がいつも愛用している木剣だ。
 そして俺はその剣を双剣術が思い描かせる型を1つ1つ反復していく。
 え?地味?ノンノン。たとえ地味でも戦闘においてこういう鍛錬は必ず生きてくるのですよ。
 それによって技の錬度を上げたり、攻撃のバリエーションを増やしたりすることが出来る。
 やってて損はないぞ!
 ていうかやっていないほうが腕が鈍る。

 「……ふあ~。あ、ご主人様おはよう……」

 眠たそうにエルが起きてきた。
 ふと空を見上げると、日はすでに結構なところまで昇っていた。
 
 「おはよう」

 「……早いね、ご主人様」

 「そりゃ早く寝たからな」

 早く寝たら早く起きるのが俺だ。
 普段は遅くまで起きているせいで起きれないだけで、早く寝たらしっかり起きれるのだ。

 「朝ご飯はいる?」

 「そうだな……。少しもらおうかな」

 はっきり言って少し腹が減った。
 串焼き1つじゃ抑えきれなかったか……。

 「分かった!ちょっと待っててね」

 
 そうして5分後。

 「お待たせ。軽めにサンドイッチを作ったよ」

 「お、サンドイッチか」

 エルのサンドイッチは美味い。
 ……いや全て美味いんだけども、サンドイッチは俺の中でトップ3には入りそうだ。

 「やっぱり、ツナとキュウリとマヨのコンビは最高だな」

 これ以上に勝るものなど俺の中にはない!
 まず、ツナとマヨの時点で合っているのにさらにキュウリを投入する。
 美味さは未知数だ!

 俺はすぐ食べ終わった。
 ……やっぱり、エルのは美味しいせいかすぐに食べ終わってしまう。
 味わいながら食べるのが難しいほど手が進んでしまう。
 
 「じゃあみんなを起こしてくるね」

 「ああ」

 そしてエルはテントの中に入っていった。
 
 (……今日が“あの日”なのか……)

 こんなに平和なのにこれからここら辺が戦場に変わるのは、俺の想像力を持ってしても想像できない。

 そんなことを考えているうちに、みんなが出てきた。

 「……おはよう」

 「おはよう。トオル」

 ルーナは完全に目が覚めていたが、楓はまだ眠そうだ。
 ……昨日何時ぐらいに寝たんだ?
 楓がこんなに眠そうなのはあんまり見たことないぞ。

 「じゃあご飯もう出来てるから食べてね」
 
 「「はーい」」

 俺は楓たちがご飯を食べている間、暇になったので、また素振りをすることにした。

 (暇というのは体に毒だからな)

 主にストレス面でという意味で。

 みんながご飯を食べ終えたということで、俺たちは合戦場所に移動することにした。
 現地へは実際に行ったことが無いので、飛翔と重力魔法のコンボでみんなを運んで行った。

 メルトリリスとアルスターの国境付近。
 そこは縦に草原が広がっており、地平線が見えるぐらいの広さだ。
 周りには森が広がっており、上から見ると、不自然にそこだけ穴が空いているように、草原がある。

 「「「ここが……」」」

 「国境付近で間違いないだろうな」

 事前に女王様に伝えられていた情報と一致する。
 ……ここで戦うのか……。
 
 (……ていうかここに100万も入るのか?キツキツの缶詰状態になるぞ……)

 確かに広い。
 だけど100万も入れる程じゃないと思う。
 ……これなら50列ぐらいで組んで向かってくるだろうな。

 「どうする?まだ始まるまで時間があるよ?」

 「うーん……、敵の奇襲とか来そうだし、もう準備しておくか」

 俺は草原が見える高台辺りに、みんなを真ん中に集め、結界を張る。
 この結界の性質は人気アニメの初期の方の敵キャラの技の反対の方向の性質を持っているかのように、中から外への一方通行の結界だ。

 「ふぅ……これで敵が来ても問題ないだろう」

 この結界を破るのには最低でも7桁ぐらいの強さを持っていないと出来ないように設定した。
 ……これを破る奴がいたらはっきり言ってお手上げ。
 楓たちでは勝負にもならないだろう。
 ……逆にいたら引くけどな。

 「ご主人様、これは?」

 エルがみんなの言いたそうなことを代役で言った。

 「これは風壁結界って言って、中から外への一方通行の結界だ」

 「?どういうこと?」

 「簡単に言えば、敵の攻撃は無効化するけど、こっちの攻撃は通るってことだ」

 「何それ!?反則級に強いよ!」

 「そりゃあな。俺自体がそもそもで反則のようなものだし」

 「……そうだったね」

 うんうん、とみんな首を振った。
 ……もうみんなから人外認定されているのは確定のようだ。
 
 それからしばらくすると、悪鬼のような集団がこちらにやって来るのが確認できた。

 (……やっぱりか。昨日のアレはこれのことだったんだな)

 誰かが裏で糸を引いたのだろう。
 ……もうアレは人じゃない。
 それを無理矢理捻じ曲げて人に戻すのは不可能だ。
 ……殲滅するしかない。

 そして俺vs悪鬼に変貌した帝国軍との殲滅戦が始まった。

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