全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

24話 密林と熊

 10階層から下に降りたら看板があり、そこにはこの階層はセーフティゾーンと書かれていた。

 「どうする?」

 「そうだな……」

 少し歩いてみたが魔物は1匹も現れていない。ほかの階層では普通に現れていたのに。
 これはセーフティゾーンで間違いないだろうな。

 「少し休むか。そろそろお腹が空いていた頃だしな」

 「はーい!」

 「料理するか?食材はあるぞ」

 「うん!なら、ホロ肉の焼き鳥を作りたい!」

 「ああ、いいぞ」

 俺はホロ肉と串を取り出した。
 ……ていうか焼き鳥って料理を作るって言うのか?まあ本人がそう思ってるならそうなんだろう。
 俺は薪を〈創造〉し、〈火魔法〉のファイアで火をつけた。
 エルは素早くホロ肉を串に刺し、焼き始めた。
 
 「……これって何かあったほうがいいよな?」

 俺はそう思い、鉄でxの形で、上の端から端までさらに線を入れたような形の置き場を2個作った。

 「ご主人様、それ何?」

 「ああ、これは肉を焼くときに便利だと思ってな」

 俺はエルが持っていた串を借り、それを作った置き場の上に置いた。
 高さはちょうどぐらいだな。

 「これ便利だね!」

 これで、焼くのに手で持ちながらやらなくて済む。
 そして数分後。

 「はい、完成!」

 俺が用意した大きな取り皿には20本くらいの焼き鳥があった。

 「タレをつけて食べろよ。そのままじゃ味しないんだからな」

 「もー!分かってるよそれぐらい!私はそこまで子供じゃないよ!」

 俺から見ればその姿は十分子供だと思うんだけど?
 それはいいとして、俺も食べるか。

 「いただきます」

 「ご主人様、それ何?」

 「?なんのことだ?」

 エルが何のこと言ってるか全く分からん。……何かおかしいところでもあったか?

 「その挨拶のことだよ」

 「え?いただきますのことか?この世界じゃこの挨拶はするんじゃないのか?」

 「それは人によるね。私たち魔族や亜人の人たちは基本しないけど、人間はよくそうするんだって聞いたことがあるよ」

 「そうなのか……」

 ふーむ。そうなのか。やっぱり人間は勇者が広めたから、というのが大きくて、今でもその慣習が残っている感じか?

 「さっきの質問に答えるけど、これは俺の世界での食事の時の挨拶だよ。昔の勇者が広めたから人間もよく使ってるんじゃない?」

 「流石ご主人様!よくご存知で昔は私たちはよく戦争をしていたものだから、人間の人たちにはあまり良い印象は持ってないんだ」

 まあ、そりゃそうだよな。戦争が起こるほど国の仲が悪かったのに、それを仲良くしろっていうほうが無茶だ。
 それより飯だ飯。焼いたのが冷めちまう。
 焼き鳥をタレにつけ一口食べる。

 「安定にうまいな」

 「そうだね!」

 エルもこれが美味しいようだ。
 素材が良いのだろう。しっかり脂身が抑えられて、ゴテゴテしない感じになっている。
 出店で作られていたものも美味しかったけど、こっちも十分に美味しいな。
 少し小腹が空いていたせいか、止まらないな。
 あっという間に俺とエルで完食した。

 「よし、行くか」

「そうだね!」

 こうしてまた俺たちは下層に降りていくのだった。

 階段を降りた先は密林のようなマップになっており、さっきより気温も上がっているようだった。
 空にはなんと太陽が写っている。

 「おいおい」

 どうなってるんだ?ここから太陽なんて見えないはずだろ。
 ……やばい。ダンジョンの少し暗いところに慣れていた俺たちにはこの明かりは少ししんどいな。

 「大丈夫か?」

 「うん。全然問題ないよ!」

 俺と違ってエルは目が強いんだな。
 元引きこもりの俺だけど、流石にちょっと厳しいかな。
 このマップは階段が降りたところが岩の上のようになっており、そこから下に降ると森が広がっている。

 「少し、ショートカットするぞ」

 「うん!」

 エルは俺がやりたいことが分かったのか俺の背中に飛び乗った。

 「よし、〈飛翔〉!」

 俺がそう唱えて岩から飛ぶと一気に加速してほんの10秒ぐらいで向かい側に着くことができた。
 ようやく登ってきた冒険者の人たちが俺たちを見て、口が空いたままポカンとしていた。

 「あ、お先に失礼しますね」

 「早く行こう!」

 止まっていた冒険者を置いて俺は下へ降った。
 俺たちが降りた後に冒険者たちの嘆きが聞こえた気がするが、放っておくとしよう。

 その後も特に地形も変わらずショートカットして俺たちはどんどんしたにおりていった。
 そして15階層に来た。
 ここからは人がほとんどいなかったから、それほど並ばなかったため、すぐ俺たちの番が来た。
 
 「ブモーーーー!!」

 中に入ると、牛?豚?なのかよく分からない頭の形をしたミノタウロスに似ている魔物が咆哮を上げていた。
 ……ミノも結局そこまで強くなかったからな。今回は魔法だけでいこう。
 
 「〈風魔法〉ウィンドエッジ!」

 この魔法は真空の風の刃を高圧力で発射する技だ。
 ……これ、結構切れ味やばいと思うんだけど。
 そう考えながら刃が魔物にぶつかると、スパッと普通に切れた。
 やっぱりこの切れ味、トルリオンやダーインスレイブには届かなくても結構切れる。
 十分対人戦向きな魔法だな。
 ……あれ?先生の魔法ってあんなに強かったっけ?やっぱり手加減してくれてたのかな?

 「やったね!ご主人様」

 「そうだな。初めて使った魔法だから使えて良かったよ」

 今回のドロップアイテムはディスベアーの素材と高品質の指輪だった。
 ていうかあれって熊だったのかよ!
 それよりこの指輪を鑑定してみよう。

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<身代わりの指輪>

 一度だけ致死攻撃を無効化する。使ったのち宝珠は無くなる。
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 これは俺にとって延髄の代物だな。
 これはエルに持しておく。俺がつけたとしても俺が死んだらエルも、言ったら悪いが生き残れないだろうからな。

 「はい。これプレゼント」

 そう言って俺は身代わりの指輪を渡した。

 「私に?ありがとうご主人様!」

 「どういたしまして」

 「……でもなんで私に?」

 「この指輪は身代わりの指輪って言ってな、一度だけ致死攻撃を守ってくれるんだって。俺だってエルをずっと守れるか分からないから、それをいつも肌身離さず持っておいて」

 「分かったよご主人様!」

 そう言ってすぐさま自分の右手の薬指にはめた。
 ……左手の薬指にはめてなくて良かったぜ。それは将来恋人ができたときにとっていてほしいからな。
 よし。

 「行くか」

 「そうだね」

 こうして俺は次のボス部屋があるであろう20階層を目指すのだった。

 ……俺たちは結果20階層に着くことはできた。
 だけど18階層でめんどくさい奴に絡まれて、時間くったな。
 ダンジョンでナンパするやつとか初めて見たぞ。
 俺の方が強いー、とかキッズみたいな発言をしていたから速攻で顔面にストレート入れたった。
 俺、対して強くもないのに自慢してくるやつを見ると無性に殴りたくなるんだよな。
 普段ならシャットアウトしてるんだけど、エルをナンパする時点で俺はもうキレていた。
 勝手に体が動いちゃった!

 「……じゃあ行くか」

 「……そうだね」

 俺たちはあのキッズ野郎のせいで肉体的にではなく、精神的に消耗していた。
 そして扉を開けると。

 「「「ブモーーーーーーーーー!!」」」

 「うるせぇ!」

 精神的に不安定だった俺は飛翔を使って全力で飛び、二つの剣を振り抜いた。
 三体いた熊たちは全員咆哮だけあげて、倒れるという悲しい結末に終わった。
 これにかかった時間約1秒未満。
 ドロップは指輪以外の素材だけだった。
 あー!今のはすごいストレス発散になった!
 イラついたら全力で斬ることにしよう。その方が健康的だ……と思う。

 「この調子でサクサク行くか」

 「そうだね!」

 多分次の階層では、11~20が密林であったように何かに変わってくるだろう。
 まあ、あまり変わって欲しくないんだけど。
 それでもだんだんと自分の戦い方が増えたような気がして、嬉しい気持ちだ。
 こうして俺たちは20階層を踏破したのだった。

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