全スキル保持者の自由気ままな生活

ノベルバユーザー255253

20話 帝国への旅路

 門を出た俺たちは早速街道に沿って道を歩いていた。

 「ここから帝国に行くのって歩いて何分ぐらいか分かる?」

 「馬車で2ヶ月以上はかかる」

 ……馬車で2ヶ月ってことは歩きだとその倍ぐらいかかるな。流石にそれはやばい行き帰りで8ヶ月ぐらいは向こうでやることが少なくなりすぎる。

 「君って早いの大丈夫だっけ?」

 「大丈夫」

 ならカーマの時と違って早く行けるな。
 
 「ちょっと失礼」

 俺はそう言い、エルを背負った。
 俺はカーマの件で気づいたことがある。
 風がキツイのなら、こっちも〈風魔法〉を使って相殺すればいいじゃない、と。
 幸い、〈風魔法〉には自動で風を調節してくれる魔法があるから、今回はそれを使う。

 「よし、行くぞ!」

 そして俺は一気に勢いをつけて飛んだ。周りに人はいなかったから、飛んだ衝撃で怪我とかすることはないだろうと思って、全力で飛んだ。
 だいたい時速80キロぐらいかな?
 〈風魔法〉がしっかり仕事してくれてるおかげでこっちには全然風が来ない。飛んでいるGはかかっているけど、それほどでもない。

 「どうだ?キツくないか?」

 「うん!大丈夫!」

 乗り物がダメな人や、高所恐怖症な人にはこれは絶対無理だと思うけど、エルは大丈夫なんだな。

 「空が流れるように過ぎていってる。こんなの経験した事がない!」

 「そうか。そりゃ良かった。なら、もっとスピード上げるか?」

 「いいよ。ご主人様」

 エルからも許可が出たことだし、俺は更に速度を上げた。
 ……おお、これぐらいになってくるとGは結構かかってくるな。エルは大丈夫なんだろうか?
 そう思い後ろを向いてみると、楽しんでいる様子だった。
 この様子なら大丈夫だろう。
 言い忘れていたが、俺は300メートルぐらいの高さで飛んでいる。
 人に見られたら面倒なことになりそうだし、これ以上高度を上げると、他の空を飛ぶ種族にぶつかるかもしれない。
 ここは異世界だから余計にないとは言い切れない。だから、ここぐらいのちょうど中間ぐらいのこの場所を維持している。

 『グゥーーーーー!』

 「「……」」

 突然腹が鳴ったので2人とも黙ってしまった。
 俺がエルの方を見ると、顔を真っ赤にして俺から目線をそらしていた。
 確かにもう昼もまわって、お腹が空いていてもおかしくはないだろう。
 やっぱりお腹が空いているところを聞かれたら、誰だって恥ずかしいだろ。
 俺だってそれ聞かれたら恥ずかいって思うしな。
 なので一旦休憩することにして、昼食をとるために木陰の側に降り立つことにした。

 「何か欲しいものはあるか?」

 「……出来れば肉が欲しい」

 「分かった」

 本当にこの世界の女性って肉が好きな人が多いよな。
 そうと思いながら爆買いしたホロ肉の串焼きを3本手渡した。

 「……え?」

 「どうした?もしかしてこんなにいらないか?」

 「ううん。そうじゃないの。普通は奴隷にこんなにご飯はあげないものなのに……」

 「いいじゃん、別に。俺が気にしないって言ってるの。それにもし空腹とかで途中で倒れられたら俺が困るからね」

 「ありがとう!ご主人様!」

 めちゃくちゃ喜ばれた。
 やっぱり可愛いなぁ。あ!決してロリコンというわけじゃないぞ!妹みたいだなって思っただけだからな!
 だけど、エルが俺の妹になってくれたら良いのになぁー。って思うことは多々ある。
 結局エルは串焼き3つどころか10本完食したのだった。

 「じゃあもう行くか」

 「分かったよ!ご主人様!」

 美味いものを食べたお陰か、随分表情が明るくなっている。

 「ところで、ご主人様はなんでそんなに急いでるの?」

 「ああ、待たせている人たちがいてな。その人たちのために俺は強くならなくちゃいけないんだ」

 「なんほど。それでアルスター帝国なんだね」

 「そういうことだ。それより、君のことを教えてくれると嬉しいんだけど」

 「ご主人様だけ言って私が言わないのは不公平だね。じゃあ話すよ。私の名前はエル=ランパード=ヴラド。ヴァンパイアの正式な姫なんだよ」

 「うん。知ってた」

 「だよね、流石のご主人様でも……え?知ってたってどうやって!?」

 「鑑定」

 「そうなんだ……。なら、ご主人様も分かってると思うけど、私はサルケ病にかかってるんだ。不治の病と言われるこの病気に。だから親も私を見捨てた。
 サルケ病は周りにも感染して死よりも辛い症状を引き起こすんだよ。見捨てて当然だよ。お母さんもお父さんも仕方がなかったんだと思う。国のみんなを守るために」

 ……壮絶なエピソードだな。ていうかそれだけで捨てられるとか相当酷いことするな。
 俺はサルケ病の内容が気になったから、鑑定で内容まで見た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<サルケ病>
 ステータスが5段階下がる病気。周りに感染する。

<治療法>
 パーフェクトヒールしか今のところ直す手段はない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 なんだパーフェクトヒールで治るのかよ。不治の病って聞いたから治す手段自体がないんだと思ってた。
 ていうか症状……確かにこれは死ぬより辛いな。たとえ自身のステータスがオールAでも、Fまで下げられるという地獄のような病気だな。

 「だから、私は1人で国を出て自分を奴隷として売ったんだよ」

 ……やばい。日本で悠々と暮らしてきた俺にとって今の話を聞くだけで、罪悪感が芽生えてくるのだが……。

 「そのー、サルケ病って言ったっけ?それを直せるって言われたらどう思う?」

 ここは本人の意思確認が大切だからな。
 勝手に直したー。とか言われて何か文句言われたら困るし。

 「え?それはとても嬉しいよ。長年の悩みが解決されるんだから」

 「よし!その言葉を聞きたかった。〈パーフェクトヒール〉!」

 俺は、パーフェクトヒールをかけ即座に鑑定をかける。
 すると、画面の中にはサルケ病が無くなっていた。
 病弱な感じも無くなっている。

 「……え?ええええぇ!!?」

 めちゃくちゃ驚かれてるな。
 そんなに驚くことかね?パーフェクトヒールぐらい上位の神官とかならできると思うんだけど。

 「ご主人様、パーフェクトヒールが使えるるの!?」

 「そうだけど?そんなにすごいの?」

 「当たり前だよ!パーフェクトヒールが使えるのって今のところ勇者様しかいないんですよ!」

 「あ、俺勇者だぞ。言い忘れてたな」

 「はい?」

 エルは目を点にしている。
 あれ?やっぱり俺って勇者っぽくない?……まあ、自分でも理解してるんだけどな。

 「えええぇ!!!ご主人様があの新しく召喚され、王国のピンチを救った勇者様なの!?」

 なんだか、他人にそういう風に言われると少し恥ずかしいな。

 「まあ、そういうことだ。勇者なんてただの肩書きだから気にしないでくれ」

 「……なるほど。勇者様だったから私の病気も簡単に直しちゃったたんだね!流石ご主人様!」

 「……もういいだろ。それより行くぞ」

 「はーい!」

 エルは俺の背に跨り、また空の旅は始まるのだった。

 空の旅は特に何事もなく、何故か夕方には帝国に着いてしまった。
 あれ?早くない?
 馬車で2ヶ月だろ?1日に馬車は50キロしか進めないらしいから、ざっと50×60で3000キロ。それを7時間ぐらいで踏破したから3000÷7で……、大雑把だけど時速400キロぐらいは出ていたということになる。
 ……あれ?一般的な旅客機の半分ぐらいの速さで飛んでいたことになるのに、Gは?〈風魔法〉にはGを抑制する働きでもあるのか?
 そう思いながら俺はほとんど並んでなかった門へ向かった。

 「証明書の提示をお願いします」

 「はい」

 ギルドカードを渡す。
 すると、この歳でAランクだとか、いろいろ騒いでいた。

 「で、通っていいのか?」

 「あ、はい。ようこそ!帝都グルスタへ!」

 ありきたりなセリフを聞いた後俺たちは街の中へ入っていくのだった。

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