ラグナロク〜神々に育てられた俺は異世界で淡々と暮らしていく〜

チリガミ鳩

プロローグ

 ゆらゆらと揺れる視界の中で捉えたのは、包丁のようなものを持つフードを目深く被り、頬を伝う涙が切ない、大学生ぐらいの青年の姿だった。

──なんだ、これ

 熱い。まるで、溶岩の中に身投げされたように、全身が異常な程に熱すぎる。
 呼吸が荒くなり、息苦しい。
 腹を触った手のひらには、べっとりとどす黒い血がこべりつき、事態の深刻さを物語っている。
 痛覚はない──マヒしているようだ。しかしながら、痛みの変わりとも言うべきが、身体中の細胞をむしばみ続けた。
 動けないまま、とうとうアスファルトの地面に横に倒れる。痛みがなくて、本当に良かったと思う。倒れた直後、後頭部が地面に触れた瞬間、ドスの効いた音が響いたから。

──今度は、寒いな

 力が全く入らない。
 体温は、先程と打って変わり奪われていった。視界は消えていた。自分が何処にいるのかなんて、微塵みじんもわかったことではない。

──父さんとケンカなんかするんじゃなかったな

 きっかけはシンプルな、今となってはバカらしいことでケンカを始めた。
 ゲームのやりすぎで、もめて、それが嫌で逃げてきた。そして──






(死ぬなんて言うなよ?)






──だれ、だ?

 突然声が聞こえた。声変わりする前の、少年の声が聞こえた。
 視覚も、嗅覚も、聴覚も、味覚も、触覚も、感覚さえも消えてしまった俺の脳内に、ポツリとつぶやく。

(久しぶりに面白いことをしようと思うんだ。だから、手伝って)

──だれなんだよ、いったい

(こっちは楽しいよ? みんな君を歓迎してくれるはずさ)

──だから





「──お前はいったい、誰なんだよ!」

 気付けば俺は立って叫んでいた。
 視覚も、嗅覚も、聴覚も、味覚も、触覚も、感覚さえも回復して。
 目の前には、偉そうに玉座に座って、こちらを上から目線で眺める十歳ぐらいの少年がいた。
 そして──口を開く。

「ようこそ葉山はやまやしろ。『神々の楽園ラグナロク』へ」

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