異世界でも目が腐ってるからなんですか?

骨嶽ムクロ

13話目 後半 本当の化け物は誰か

☆★☆★
 様子が急激に変化したララの後を追い外に出ると、いつもは賑わっている表通りは静かで、人々が地面で苦しそうに倒れていた。
 連合内の冒険者たちほどじゃないが、それでも動けずにいる者が多い。
 そんな中を俺たちは平然と歩いているのが不思議に思われてるのか、苦しんでいる住人の何人かが俺たちに気付き、その表情で見てくる。

「……ララ」
「なんだ?」

 口調は男性のようにかなり変わってしまったが、俺の言葉には普通に反応してくれるララ。

「今は聞かないけど、詳しい話はまた一段落がついたら話してくれるか?」
「……気が向いたらな」

 そうして交わす言葉も少なく門のところに辿り着くと、そこの門兵もうずくまっていた。
 あまり顔を見たことのない女性と……ロザリンドさんがいる。

「かっ……はっ……君は……?」
「ロザリンドさん……短い間ですがお世話になりました。グロロの件に関してはアレ以上慰める言葉が見付かりませんが、強く生きてください」

 何か言いたそうにしていたロザリンドさんだったが、一方的な言葉だけ投げかけてララの後を追った。
 後ろを見ると九尾の赤ん坊を背負ってる背中の近くにイクナがくっ付いており、さらに後方にはレチアとガカンが何とも言えない複雑そうな表情をして俯いていた。

「……いいのか、お前ら?俺たちに付いて来ちまって。多分俺はもう、人間の町じゃ暮らせないぞ?」

 町からある程度離れたところでレチアたちに聞いてみた。

「構いませんよ、旦那。どうせあっしの顔じゃ、どこの町でも生きにくいでしょうから。それに母ちゃんの墓参りも丁度済ませたので、それがお別れの挨拶だとでも思えば……」
「僕だって亜種だってことバレたら、ただでさえ奴隷状態で普通の生活できないのに生きていけるわけないにゃ。ヤタは僕を引き取った責任があるにゃ。だから地獄の果てでもついて行くにゃ!」

 二人とも気力を取り戻してきたのか、自然な笑みを浮かべる。

「ま、それもそうか。そんじゃまぁ――」
「ヤター!」

 ララの方へ振り向こうとしたところで、町の方から俺を呼ぶ声がした。
 そっちを向くとなぜかこっちに向かって走ってくるメリーの姿があった。

「メリー?」

 いつもの白い研究服ではなく、紫のブカブカなワンピースを着た彼女が大きな胸を揺らしながら走り、俺の目の前に来たと思うと膝に手を突いてえずいていた。

「ヤ、ヤ、ヤタ……ヤ……げほっげほっ、おぇっ……!」
「とりあえず落ち着け。もし吐くならあっちの茂みでな?」
「だ、大丈び……だけどちょっとだけ休ませてもらっていいですか……」

 走るだけで満身創痍。スタイルは良いクセに体力は研究者らしくあまり余裕はないようだ。
 しばらく待ってメリーの息切れが終わったところでここに来るまでの経緯を聞くことにした。

「えっとね……本当は来る予定はなかったんだけど、なんだか変な話を聞いちゃって……」
「変な話?」
「うん。前にパパと言い争ってたおじさんのこと覚えてる?」

 少し考えて思い出そうとする。
 チェスターと言い争ってたおっさん……?
 ……あっ。

「チェスターを勧誘しようとしてた奴のことか?」
「そう。そのおじさんがさっき私たちのところに来て『あのガキはもう来ないぞ』って言ってたから……だからヤタが心配になって来たの」

 どうしよう、こんな状況なのに女の子に心配されちゃうとおじさん、ときめいちゃう!

「って、もしかしてあの指名手配書みたいなの作って貼ったのってまさか……」
「多分、その人……って指名手配?もしかして本当に犯罪者になっちゃったの?」
「本当にって……元から犯罪者の素質があったみたいに言うのやめてね?他意があってもなくても傷付いちゃうから。じゃなくて、国家機密がどうのこうのって書かれてたんだよ」

 適当に犯罪者にするんじゃなく国家レベルの問題を持ち出してきたのには意味があるんじゃないかと考える。
 しかも俺だけじゃなくイクナもだ。

「俺たち二人がそう言われる理由はなんだ……?」
「詳しいのはわからない……でもあなたのことを国で研究していた貴重な実験体なんだって言ってた」

 そこでハッとして思い出す。
 なぜその共通点を思い付かなかったんだろうか。
 俺のウイルスも、イクナの体も、全ては「あの研究所」から始まったんじゃないか。
 一つ前の町の近くで迷って入り込んでしまった場所。
 その時にウルクさんから言われた面倒事ってやつが現実になっちまったってことらしい。

「……ったく、本当に余計なことをしてくれたぜ、ベラルの野郎……まぁ、もういない奴のことを考えても仕方ないけどよ」

 これからのことを考えると、大きな溜め息を漏らしてしまう。
 これが本当の冥土の土産ってやつか?やかましいわ!

「んで、それだけか?」
「え?それだけって……」
「心配してくれたのは嬉しいが、早くチェスターのとこに戻った方がいいぞ。俺たちはもうこの町には居られない。他の町にも手が回るのは時間の問題だろうよ。そんな俺たちと一緒にいたらお前も危ない目に遭っちまうからな。だからこれ以上用事がないなら――」
「私、ヤタたちと一緒に行くよ?」

 当たり前のように言い放ったメリーの言葉に、俺たちは固まる。

「「……え?」」

 しばらくしてようやく声を上げたのは俺とレチアだった。

「だって約束したよね?私にあなたの子供を産ませてくれるって……」
「は?」

 投下された爆弾発言によりレチアから濃度の高い放射能並に危険な雰囲気の威圧を感じた。
 その「は?」の一言で大量の冷や汗が出た気がするんですが。

「こんなべっぴんさんまで口説き落としちまうなんて、流石旦那ですね!」

 やめろ!油に火どころか粉を撒いた空間で着火すんな!
 粉塵爆発で大災害になっちゃうでしょうが……俺が!

「いや、約束してないし。保留って言ったじゃねえか。あともうそんな余裕ないから却下だ、却下」

 「保留」って言葉を出した時のレチアの顔が怖かったので、なるべく早く答えを出した。怖いよぅ……

「そもそもお前に我と共にいる度胸があるか……?」
「え……」

 そこにララが割って入り、メリーの前に立ち塞がる。

「その目……魔族?」
「そうだ。そして我はその王、魔王だ」

 ララさん、自覚してるかわからないんですけど、その目で睨むと凄く怖いですよ……
 あんなんで一緒に行けるなんて言い出すの絶対無理じゃない?
 あの冒険者たちみたいに腰を抜かすか逃げるかの二択だよ。いや、もしかしたらメリーは気弱だから気絶して倒れる三択目があるかも。
 何にせよ、これでメリーが一緒に来る可能性は……

「絶滅したはずの魔族ってだけじゃなく魔王……!?凄い、前代未聞の研究ができそう……!」
「む……?」

 ……ないと思っていたのに、メリーは怯えるどころか目をキラキラさせ、ララの黒目を真っ向から見上げた。
 むしろそれでたじろいだのはララの方だった。

「言っとくが貴様の探究心を満たす茶番に付き合う気はないぞ?」
「だ、大丈夫……あなたたちと一緒に行動させてもらうだけでいいから。それと……」

 メリーはヒヒッとチェスター譲りの薄気味悪い笑み浮かべて俺を見る。

「もし……ヤタと子供を作る機会があったら経過観察させてほしいな……デュフ」
「「「…………」」」

 気まずい静けさが辺りにやってくる。
 なんでコイツは威圧を放ってる相手にそんなアホな発言ができるんだ……
 本日二度目の爆弾発言で辺りが火の海にでもなるんじゃないかと覚悟したが、ララは取り乱すことなく無言で振り向いて歩き始めてしまう。
 すれ違いざまに見たララの顔が赤くなっていたような気がしたが……多分気のせいだろう。きっと肌が褐色になってるからそう見えただけだ。
 さて……俺は今、メリーの妄言やララが魔王がなんだとかいう前に、これから宿無し生活をしなければならないかもしれないのをどうしようかと心配していた。

「……あっ、そういえばグラサン取られたままだった」

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