異世界でも目が腐ってるからなんですか?

骨嶽ムクロ

4話目 後半 腐ってやがる

「ところでお前らはパーティ組んでるのか?」

 騒動も一旦収まり、フレディも相席になりつつ食事を取ってるとそんなことを言われた。

「パーティ?」
「なんだ、そんなことも説明しなかったのか、お前を担当した奴は?」

 俺の聞き返しにフレディが呆れた口調と表情でそう言う。

「いいか、依頼をこなすにも一人じゃ限度がある。それを何とかするのが『パーティ制度』だ。依頼を受ける際に『誰と一緒に行くか』を登録し、達成した報酬を人数分分けるってやつだ」
「へぇ……ああ、それじゃあ、一昨日ララと一緒にいた奴らが?」

 問いかける代わりに視線を向けると、ララは頷く。どうやらあの時いた他三人がパーティを組んでいた奴らようだ。
 そういえばあいつらはどうなったんだろうか……?

「ま、そういうことだ。ただ今の説明だけだとデメリットしかないように思えるが、メリットもちゃんと存在するぜ?まずポイントが高くなる!」

 フレディは人差し指を立てて得意げに言う。しかしララはそんな話など興味無いかのように黙々と飯を口に入れていた。

「ポイント?何のだよ?」
「冒険者の登録はしに行っただろ?その時に受付から向こうの判断で階級が上がるって説明があったと思うんだが……ポイントってのは所謂向こうの印象だな」

 そこでフレディの食事が運ばれてきて、一旦言葉が区切られる。

「冒険者ってのは個人の強さもそうだが、いかに他者と連携を取れるかも大事になってくる。だからそのパーティで依頼を達成すれば、『私は他人と上手くやっていけますよ』という証明になって階級が上がりやすくなるって寸法よ」

 ニッヒッヒ!とイタズラをした少年のように笑うフレディ。楽しそうだな。

「そんで他にも、人数によっては自分たちの階級より一個上のランクのものを受けられるんだよ。それでさらにポイントゲットってな……って、おい!また料理の腕を上げたな!?」

 説明しつつ厨房辺りに叫ぶフレディ。忙しないというか、本当に楽しそうだな。

「……ま、だから安全に依頼を達成させたいなら、一人でやるよりは複数人誘ってやった方がいいって話なわけ」

 フレディの説明が終わったところで「ふーん」と関心の声を漏らしていると、ふとあることに気付く。

「……あれ?他には?」
「他?」

 口に運ぶ手を止め、キョトンとした顔をするフレディ。

「さっきの口ぶりだと他にもあるみたいなこと言ってたじゃねえか」
「あー……いや、忘れてくれ」
「いやいや、そう言われると尚更気になっちまうだろ……」

 俺が食事の手を緩めながらフレディを見続けていると、観念したのか手招きしてくる。
 元々囲いやすい丸いテーブルだったこともあり、椅子ごと移動して近付いてやると耳打ちされた。

「……運が良ければ、依頼って名目で美人とパーティが組めるって話。お前もわかっててこの子といるんじゃないのか?」
「んなわけあるかっ!」

 小声でそう言ってくるフレディに対し、俺も小声で返す。

「たしかに役得とも捉えられるが、それって下手すれば仲良かった奴らと仲違いしちまうかもしれねえじゃねえか!」

 大学のサークルクラッシャーとかなんとかよく聞くが、この場合パーティクラッシャーって名前が付きそう。

「ま、な……実際女絡みでいつも一緒だったパーティが解散した挙句、冒険者を引退しちまった奴もいたくらいだしな」
「だったら勧めるなよ……!」
「だから忘れてくれって言ってんじゃねえか!」

 なんて男二人でずっとコソコソ話していたせいか、周りからは別にコソコソ話が聞こえてきて、ララからは冷ややかな視線が送られてきていた。特に女性たちからは変な歓声が小さく上がっていたりしている。
 するとそこに、さっきまで俺を怖がっていた店主の嫁が俺に水を持ってきてくれた。

「えっと……ありがとうございます?」

 疑問形でそう言うと、ニッコリと笑みを浮かべた表情を俺に向けてくる。

「いえ、私の方こそ勝手に驚いてしまってごめんなさい……あなたのこと誤解してたみたい」

 そう言って申し訳なさそうに笑う女の人。そのまま言葉を続ける。

「『そっち』の趣味があったのなら、身の危険を感じる必要はありませんでしたね?」
「そっち……?」

 そっちってどっち?と聞こうとしたところで、女の人が俺と肩を組んでいるフレディの腕を指差す。
 ……まさか!?

「男同士……道のりは険しいでしょうが、応援してますね」
「「断じて違う!」」

 フレディと声を合わせて強く否定したのだがそれは逆効果だったらしく、女性からはさらに大きな黄色い歓声となって返ってくる。
 しかもその場に居合わせた男たちにもドン引きされ、あまつさえ尻を覆い隠しながらその場から逃げるようにいなくなってしまう。
 その後は俺もあまりの居心地の悪さから、さっさと飯を口の中に放り込んでその場から離れることにした。

「お前といると、俺の幸運値も下がっちまう気がしてきたんだが……」

 なんて、俺と一緒に宿屋を出たフレディが肩を落としながら言い始める。ついでにララも一緒だ。

「だったら一緒に来なきゃだろ。おかげで出る時でさえ『きゃー、やっぱりあの二人はー』なんて甲高い声で喜ばれたんだぞ?」

 その頃にはもうあの宿内一帯には男一人もおらず、腐女子の巣窟みたいになってしまっていた。
 あそこのスキンヘッドのおっさんにはイチャモンを付けられはしたが、今では悪いと思うくらいには同情してしまっている。

「……ま、さっきのはお互い水に流すとして、だ」

 水に流すも何も、そもそもの原因があんたなんだけど……

「お前ら、これから依頼を受けに行くんだろ?」

 フレディの言葉に俺は「ああ」と答え、ララも頷く。

「だったら受付にいる奴の話はちゃんと聞いとけよ。依頼自体は簡単なものでも他よりも報酬が高かったり優遇された依頼があったら何か裏があることが多い。気を付けろ」
「マジかよ……了解、気を付けるよ。ありがとな」

 お礼の言葉を口にすると、フレディは手をヒラヒラとさせて俺たちと別れる。

「行っちまったか……ララはどうする?俺とは離れながら行くか?」

 そう言うとララは何のことかと首を傾げる。

「ああいや……俺と一緒に行くとまたなんか言われるんじゃないかって思ってな」

 するとララは呆れたように溜息を零しながら肩をすくめ、さっさと歩いて行ってしまう。今のは同意ってことでいいんだよな……?
 ララが歩き出してから少しして、その背中を見失わないようにしつつ俺も後をついて行く。
 しかし向かう途中、ララが誰かと話し始めていた。
 絡まれてる、のか?少年一人と少女二人……なんとなくどこかで見たような顔だけど、どこで見たっけ?

「おい、ララ!あれはどういうことだよ!?」

 すると突然、男が声を荒らげる。ララを責めてるようだが……
 ララは何のことかと首を傾げると、向こうにいる赤い短髪の少女が彼女をビンタした。
 その音に周囲の通行人が驚いてララたちに視線を向ける。

「しらばっくれないで!私たちが受けたゴブリンの討伐、あなた一人で達成させたことになってるじゃない!」
「そういうことだ!あの後、俺たちがどんな思いでここまで戻って来れたか……!」

 水色の髪をした少女以外がララを責め続ける。
 ああ、思い出した……あいつら、一昨日ララと一緒にいた奴らだ!
 それを思い出し、奴らの言い草に腹が立った俺は感情に任せて彼女たちの方へと歩いていた。

「おい、あんたら」
「なんだ、今こっちは取り込みち――っ!?」

 不機嫌にこっちを睨もうとした男が俺を見た瞬間、その先の言葉を飲み込んでたじろいでしまう。

「ああ、そうだろうよ。だけど時と場所ってもんを考えてないのか?往来でギャーギャー叫んで、その上こいつを叩いたりなんかしてよ……?」

 そう言って叩いた赤髪の少女に視線を向けると、そっちも小さく悲鳴を上げて数歩後ろに下がる。睨んだつもりはないんだけどな……あれ、この世界での俺の目って相手を状態異常にする武器になってない?

「だ、だからなんだってんだよ!?あんたには関係ないだろ!」

 よく聞く決まり文句が出てきて、俺は思わず鼻で笑ってしまった。

「こいつは俺の恩人なんだ。その人がイチャモン付けられてるんなら、無関係でいるわけにはいかないんだよ。それに一昨日、あんたらが何をしたかも見てたしな?」
「見てたって何を……」

 自分がしたことの自覚が無いのか、呆れて溜息が漏れ出てしまう。

「お前ら、仲間を見捨てて逃げただろ?」
「「っ!」」

 赤髪と男の顔が驚愕した顔になり、水色の少女は下を俯く。こっちは多少自覚があるようだな……そういえばこの子は赤髪の少女に引っ張られてっただけだったな。
 ま、逃げたことには変わりないんだけど。

「最初はそっちの赤髪と水色髪の少女二人、そんで男は不意打ちを食らって悲鳴を上げ、情けなく逃亡……それに対してララは行く当てのなかった俺を助けてくれた上に、ちゃんとゴブリン?を倒してここまで来たんだぞ?それを……って、いてっ!?」

 まだまだある文句を続けようとしていたら、ララにど突かれてしまった。しかも脇腹をそれなりの力で殴られたので、結構痛い。
 「何をするんだ」と言葉にする前にララの表情を見ると、僅かに頬を赤くした顔を俯けていた。え、本当になんで……?

「だ、だとしてもだ!パーティで依頼を受けたんだから、報酬くらいは貰ってもいいはずだろ!?」
「……はぁ?」

 男の発言に割と本気で呆れた声を出しまった。
 こいつ、ララの手柄を横取りする気か?

「だったら聞くけど、お前らはゴブリンを倒してそう言ってるのか?」
「は?なんでそうなる?」
「当たり前だろ?報酬を貰いたいならそれだけの働きを当然しなきゃならないわけだろ?だったらせめてゴブリン一匹くらい倒してそう言ってるんだろな?」

 俺が少し睨むと、男たちはバツが悪そうに目を逸らしてしまう。むしろなんでそういう考えに及ばないのかがわからん。
 というか、まさか一匹も?倒してないのに帰ってきて、その上ララを責めてたのか?嘘だろ……
 この自体をどう収集つけようかと考えていると、ララが奴らにお金を何枚か差し出す。

「……え?」
「……」

 その行為が理解できない男が固まっていると、ララはさらに手を前に突き出す。
 「やるから受け取れ」と言ってるようにしか聞こえないんだが……

「な、なんだよ、物分かりがいいじゃねえか?へへ、最初からそうしとけばよかったんだよ」

 男は下卑た笑いを浮かべると、ララの手からお金を奪うように持って行ってしまう。

「はいじゃ、お疲れ様。報酬は貰ったから、あんたはもう用済みね……次はそこの目が気持ち悪いとでもパーティ組んでれば?お似合いよ?」

 皮肉を言って男の後をついて行く赤髪の少女。
 水色髪の少女は男たちと俺たちを交互に見て戸惑っていたが、一礼して去って行った。悪い子じゃない……のかな?

「……よかったのか、あの金?ララが受けた依頼の報酬だったんだろ……?」

 ララは首を横に振って「構わない」と意思表示し、そして俺に対してもお金を渡そうとしてきた。

「え、ちょっ……俺は何もしてないだろ!?」

 受け取りを拒否しようとした俺の言葉に首をさっきよりも横に激しく振られ、異次元袋からゴブリンから剥いだ耳と何かの牙を見せてくる。牙の方は多分、狼もどきのやつだと思う。
 まさか……アレらを倒すのを手伝ったからその分の報酬を、とでも言いたいのか?

「……いや、それは受け取れねえよ。むしろ助けてくれたお礼ってことでそのまま貰っといてくれねえか?」

 そう言うと、ララは頬を膨らましていじけた子供みたいな反応を見せる。やめろよ、あざとくてちょっと可愛いと思っちゃうじゃんか。
 そう思ってた矢先、ララが俺の腹部へワンパンチ入れてきた。

「ぐぶぅっ!?」

 思わず変な声を上げて、照れ隠しによる怪力攻撃を食らった俺は腹を抱えながらその場にうずくまってしまう。
 その時に、たまたま片腕を突き出す形で倒れていたのだが、その手の平にお供えをするかの如くお金を置いたララ。ご、強引過ぎるでござる……!

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