ヴェルシュタイン公爵の再誕~オジサマとか聞いてない。~【Web版】
18
暫く見てようかな、とか一瞬考えてしまったけど、あんまり意味が無い事に気付いて、とりあえず一緒に居た執事さんに視線を向ける。
すると、空気を呼んで察してくれた執事さんがオッサンに近寄って、頭の布を取り払った。
布の下からフワッと出て来たのは、執事さんの灰色の髪とは違う、夜の灯りでも分かる程の灰みがかった銀色の、ショートヘアくらいの長さの髪。
「...ふむ、確かに見事な灰銀の髪だな」
「でしょ!?あと他にも、証拠として、この目!見て!」
言われて見れば瞳も髪と同じ色をしている事に気付く。
なんとも不思議な色である。
だって灰色なのに銀って分かるんだよ?、目の色なのに。
不思議だね。
ついでに見た彼の顔立ちは、運動の好きな好青年がそのまま歳取りました、みたいな、子供に好かれそうな先生って感じだった。
休み時間に一緒になって遊んで、腰痛めて心配されたり、他の先生に怒られたりしてそうな、若干のくたびれた感と、大型犬っぽい雰囲気がある。
イケメンか、と問われれば、まあ私なら、上の中くらいと返答するかな。
一般人から見れば多分、イケメンの部類だろう。
まあ、私の好みじゃないですけど。
「......確かに灰銀だな、それだけか?」
「まだあるよ!ホラ!魔力量!属性!視て!」
まだ身体をビチビチと跳ねさせているが、とりあえず落ち着けと言いたい。
まあ、面白いんだけど。
一応、言われた通りに魔力量を見てやる事にする。
えっと、どうやって見たっけ、イマイチよく分か...、いや、うん...意識しただけで分かるってマジで何なんだろう。
魔力は結構高いのかな、姪っ子ちゃんより多いし。
基準は、えっと、あ、普通の人って姪っ子ちゃんの半分くらいなのか。
結構凄いなこのオッサン。
...自分がどのくらいかとかは今は考えないよ!
「...............ふむ、まあ、確かに魔力量は高いな」
あ、あと属性も見なきゃなんだよね、どうやって......あ、はい、これもオートですか。
この属性は、こんな感じ、みたいな、なんかそんな感覚で自然と理解出来ているけど、どうやら本来はそれが分かる人は余り居ないらしい。
オーギュストさんの知識にそう出て来たので、それが間違いじゃなければ正しいと思う。
...時間があれば、魔法や魔力について、本で調べるかな。
とりあえず、そんな感じで理解した目の前のオッサンの属性なんだけど。
「闇属性か。珍しいな」
「でしょ!?」
転がった体勢からぐいっと身体を起き上がらせて、私にアピールするオッサン。
元気だな...、腹筋疲れそう。
つーかどうやら闇属性は珍しいらしいよ。
ついでに光属性も珍しいらしいよ。
なんでかは分からないけど、まあ、知識にそうあるんだからそうなんだろう。
......うん、後でちゃんと調べようと思います。
進んで知りたいとは思わないけど、知らないとおかしい一般常識だったら怖いもん。
さて、どうしようかなこのオッサン。
「証拠と言えるものはそれだけか?」
静かにそれだけを尋ねながら、目の前に転がる男を見下ろす。
すると彼は、何処か諦めたような目をして、息を吐いた。
「...これ以上何が必要なのさ」
その問いに、少し思案してみる。
うーん。
ごめん、分からん。
...でも、どうしよう、この人に対して、少し情が湧いてしまった。
なんか大分強い奴みたいだし、だからこそ、その対応をどうするか、執事さんは私に委ねたんだろう。
...だけど、殺すとか、私にはまだ無理だ。
殺人なんてテレビの中でしか見た事無いし、これだけ話して、久し振りに純粋な楽しい気分にさせてもらったのに、そんな事出来ない。
......出来る訳が無い。
よし、決めた。
この人の口車に乗るみたいでなんかアレだけど仕方ない。
適当に情報貰って見逃そう。
もし命を狙って来たら、その時は覚悟を決めて、ぶっ殺す。
そうしよう、そんな感じで行こう。
問題を後回しにしてる気がするけど、今はそれで良い。
だって余裕無いもん。
情報が足りない今、あんまりうかつな事出来ないけど、あとでなんとでもしてやる。
決めたのは私だから、あとで困るのも私。
他人も困るかもしれないけど、知った事じゃない。
それに、私が強いっていう事は裏界隈で流して頂きたい。
暗殺の心配が減るし。
という方向で行きたいと思います。
そして、私は口を開く。
「......それで?」
「へ?」
静かに、そして何でも無い事のように問い掛けたら、なんか間抜けな顔でポカーンとされてしまった。
...そんな風に口開けられたら、その口に拳突っ込んでみたくなるな。
そんな事を考えながら腕を組み換え、オッサンを見下ろす。
「それで貴様はどうしたい?」
「信じてくれるの!?」
私の言葉を聞いて、オッサンが驚いたように跳ねた。
あ、ダメだこの人やっぱり面白い。
「...それは貴様の持っている情報次第だな」
ドヤ顔になるのを堪えながらなんとか冷静に答えると、男は目に見えて嬉しそうな表情を浮かべた。
効果音を付けるなら、パァッとか、ペカー!とか、そんな感じだろうか。
「ありがとう旦那!もう一生付いてく!俺の全部捧げていい!」
待って、その言い方は駄目だ。
大分語弊がある。
「全部は要らん」
「なんでさ!」
とりあえず拒否したら、なんか理解出来ない!みたいな表情で抗議されたんだが、貴方の思考が理解出来ないからね、私。
オーギュストさんの身体だからか知らんけど、なんか物凄く気持ち悪いです。
「私にソッチの趣味は無い」
「えっ?」
キッパリと言ってやれば、一瞬理解が追いつかなかったのかキョトンとした顔をしたあと、オッサンはみるみるうちに顔色を青くさせた。
「違っ!俺にだって無いよ!そういう意味じゃないから!」
理解したか、よし。
「そろそろ本題に入ろうか」
「無視しないで旦那!ホントにソッチの趣味無いから!違うから!誤解だから!」
「喧しいな、早く話せ」
「はい。」
まだなんか喚いていたので見下ろしながらじっと見詰め、先を促したら、オッサンは真顔で素直な返事をしつつ転がったままピシッと真っ直ぐになった。
うん、ちょっとすっきりした。
「それで?」
「ん、じゃあ言うよ。今回俺は、旦那の調査に来たんだ」
改めて先を促せば、そんな返答が返って来た。
なるほど、私が目的か。
でもなんでだ?
「...マヌケなメイドが一人、紛れ込んでたでしょ?、アレが失敗したから、わざわざ俺が様子見に駆り出されたワケ」
「ほう?」
あぁ、メイドとしては半人前っぽかったあの人か。
オーギュストさんの事恨んでたみたいだし、あの後どうなったのか、執事さんに丸投げしたから全然知らないけど、すぐに違う人を派遣するとかよっぽど気になったんだな、雇い主。
情報がすぐに伝わったとこを考えると、あの時他にもネズミさんが居たんだろう。
「あのマヌケなメイド、一応あの時の雇い主の手持ちの中で一番の実力者だったワケよ。
それが失敗したから、次はそれより強いの出さなきゃいけない、ってワケで、伝家の宝刀級の俺が駆り出されたワケ」
へえ、良く分からんけど様子見で更に強いの持って来るって、そんなに私を警戒してたのかな。
あ、それか、報告したネズミさんが色々言ったのかもしれない。
「なるほど、それで?」
「......で、隠密しながら旦那の部屋に入ったら、寝てると思ったのに氷漬けにされて、捕まった」
「ほう」
私...寝ボケてたのかな...。
いや、うん、朝起きて人が転がってたからなんかあったんだろうとは思ったけど、犯人私か。
護衛とか、居ないっぽいもんなあ。
...オートで魔法使うとかちょっと危ないからなんとかしたいな...。
あ、でも、丁度良いネズミさんホイホイ?
「咄嗟に仮死の魔法使ってなんとか助かったけど、俺じゃなけりゃ凍死してたんじゃないかな、アレ」
「なるほど」
どんだけ強い魔法使ったんだ私。
いかん、早急に使いこなす努力しなきゃ。
寝てたら殺人してました、次は無いようにしたいです、とか全く笑えない。
「ちなみに、俺の雇い主だけど...」
そこまで言ってふと、黙り込むオッサン。
そして、じっと私を見詰める。
「どうした、早く言え」
先を促したら、こてん、とオッサンが首を傾けた。
「処分しない?」
「よほど処分されたいとみえる」
オッサンなのに可愛い仕草とか、お前、あざといな、シバきたくなる。
ある程度のイケメンだからマシだけど、これで普通のオッサンだったら殴ってるわ。絶対。
「あー!ごめんなさい!分かったよ、言うよ。
...俺の雇い主は、ラグズ・デュー・ラインバッハ、この国の宰相だ」
私の言葉に慌てたのか、彼はまたビチビチと跳ねながら謝罪し、それから居住まいを正した。
かと思えば、彼の口から出たそんな返答にちょっと疑わしげな視線を向けてしまった。
それって、あの人だよね、あの、腹黒そうなおじちゃん。
今はおじいちゃんかな。
...なんか、随分と大物だな。
お陰で信憑性が消えたぞ、どうすんだオッサン。
「.........ふむ、たとえそれが真実として、それを告げる事で貴様になんの得がある?」
「戻ったってロクな事にならないじゃん。
なら、死んだように見せ掛けて何処かでひっそり働いた方が何倍も得だよ」
「ほう」
まあ、言いたい事は分かる。
「つーかあのジジイ、いくら高い金で雇ってるからってこき使い過ぎなんだよ、もーヤダよ俺、あんなとこで働くの。
役に立たなかったら刺客放って始末とかさ、すぐに使い捨てんだよ?、無いわー...」
吐き捨てるみたいに冷たく言い放つ彼に、つい内心だけで驚いてしまった。
そんな冷たい表情も出来るんですね。
こういうので、世の女性はギャップ萌えとかしちゃうんだろうか。
あ、そういや私も世の女性の内の一人だった。
ギャップ萌え...しないな、なんでだろう。
肉体の感覚に引き摺られてる、のかな?
...つーかさ、ラインバッハおじいちゃん、人望無いんだね。
「まあそんなワケでさ、お願い旦那!俺を助けて!」
またビチビチと跳ねながら、オッサンが私に懇願、...違うな、アピールだな、コレ。
うん、えっと。
「...命乞いにしては随分と軽いな」
「.........まあ、仕方ないよ、相手が旦那だもん。
普段相手してる貴族なら捕まるワケ無いし、もし捕まってもすぐに逃げ出せるからね」
「ほう?」
それってつまり、私が規格外という事か?
失礼だな、シバきたくなるわ。
内心そんな不穏な事を考えている私に気付く事無く、彼は自信有りげな表情で私を見上げた。
「そりゃまあ、純粋な強さで言ったら“真紅”には負けるけど、実力は折り紙つきなワケよ。
伊達に二つ名持ちじゃないんだぜ?、俺ってば」
「...なるほど」
うん、知らんがな。
あと、ドヤ顔腹立つ。
まあ、すっ転がされたままだから物凄くシュールな光景ですけども。
「まあ、つまり、そんな俺でも敵わない相手をわざわざ騙す程余裕無いし、なんなら助かりたいし、あわよくばお金も欲しい」
真面目な顔で、そんな俗物的な事をキッパリと断言するオッサンに少しの親近感が湧いた。
変に誤魔化されるより好感度高いよ、良いね、こういうノリ。
「それで?」
「ようは、旦那の為に頑張って働くから、見逃してくれない?っていう相談」
またしても、こてん、と首を傾けながらのそんな言葉に、なんかイラッとした。
あれ、おかしいな、ある程度のイケメンなオッサンなのに殴りたくなって来たぞ?なんでだ?好みじゃないから?
「貴様のそれが偽りでない証拠や保証があるのかね?
貴様の雇い主の策略という事もあり得るだろう」
「何言ってんの旦那、アンタみたいなめちゃくちゃ強い奴敵に回して、一体何の得があるのさ。ヤダよまだ死にたくないもん。」
真顔でそんな返答をされてしまって、なんか余計にイラッとした。
つーか、考えないようにしてたけど私ってマジで規格外っぽい。
なんだろう、ちょっと悲しくなって来た。
「ふむ、ならばラインバッハ候爵の不正の証拠を幾つか持って来たまえ」
「えっ、そんな簡単な仕事で良いの?」
これならどうだ、と無理難題を突き付けたつもりだったんだけど、なんか拍子抜けしたような態度で驚かれてしまった。
「ほう?」
「見くびって貰っちゃ困るよ旦那。
暗殺とかそういうのはともかく、調査や諜報は俺の専売特許、裏の世界じゃそれで俺に敵う奴なんて居やしないんだぜ?」
ドヤ顔腹立つコイツ。
ていうか随分と大きく出たなこのオッサン。
そんなん出来るの?ホントに?
...まあ、出来なくても良いや、逃げる良い口実だろうし。
「なるほど、ならば明日までに持って来たまえ」
「了解、明日までに、だね」
自信満々に了解の意を示すオッサン。
うん、やっぱりドヤ顔腹立つ殴りたい。
そんな事を内心だけで考えながら、執事さんに彼の拘束を解くよう指示し、素早く去って行く彼をそのまま見送る事にしたのだった。
「旦那様、宜しいのですか?」
静かな声音で、でも納得出来なかったらしい執事さんが私に尋ねる。
うん、まあ、仕方ないよね。
でも此処は理解して頂く他無いんだよな。
「...捨て置け」
「...理由をお伺いしても?」
理由?
理由かー、執事さんが納得出来るようなの、なんかあるかな。
...まあ良いや誤魔化そう。
「...アレは、役に立つ」
「...左様でございますか、不躾な事を申しました。申し訳御座いません」
静かに、そしてキッパリと告げたら、何かを察してくれたのか、執事さんは納得したように頷いた。
何に納得したのか分からないし、なんか勝手に色々想像されてそうな気がするけど、まあ、良いや!気にしない!
「気にするな」
執事さんを見ずに、それだけを答えた。
さーて!、戻って書類と格闘するかー!頑張るぞー!
そんな現実逃避をしながら、また、執事さんの案内で執務室へと戻ったのだった。
でもありがとう執事さん!あなたのお陰で迷子にならないよ!
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