世界再生記

高木礼六

演者の宴

「やっぱ結局ここに着くんだね。」


「そのようですね。しかし、急がば回れという言葉があるように、目的にたどり着くまでには多少の遠回りは必要なのです。だから私の選択は間違っていなかった。それは確実です。」


「ヒカリは慎重派なんだね。でも確かにあそこに寄ったからここに情報があるって確証は得られたけど、こういう風な場所に直行した方が確実に早かったよね。たまには思い切りも大事だと思うよ。」


「ぐ、で、ですが、それは結果論にすぎません。この世はいつ何時何が起こるかわからない、慎重、確実、合理的に進んでこそ意味があると、私は思うのです。」


「ハイハイそうですね。ヒカリの方が正しいよ。」


「そう、分かればいいのです。」





町長から貰った紙を頼りに道なりに進んでいくと、 「目的地」 と書いてあるところには、古いながらも大事に扱っているとわかる大きな看板、そこに演者の宴と書いてある酒場があった。

スベルの言う通り、情報収集は結局酒場に尽きる。

町長邸と言う一人の人材から力を借りるより、この酒場のように人がたくさん集まるところの方が情報も数的有利で必然的に集まるのだ。

けれどもヒカリは何を思っているのか、頑なに自分の考えの方が正しいと主張してくる。

正直なところスベル的にはどっちでもいいのだが、ヒカリの可愛さに免じて、ここは勝ちを譲って上げた。


ヒカリは上機嫌、にこにこと嬉しそうにしながら入り口の扉を押し、スベルもそんな彼女の様子を微笑ましく思いながら後に続いた。








「ここ、なんかやばくないか?見るからに厳つい人たちばっかりな気がするんだけど。」


「大丈夫ですよ。この人たちに敵意はあっても害意はありません。マナの流れを読み取ればわかります。主もそのうちわかるようになりますよ。」

「敵意はあるんだね....」





酒場の入り口を通ったまではいいものの、どうやらここは、スベルが思っていた酒場とは少し違っていた。

もっとわーわー騒いでいてジョッキをぶつけ合い、品のない笑い声を上げながら雑談に時間を潰され、酒に酔い潰されていく、そんなイメージだったのに、ここは真逆だ。

店に来ている客はほとんど一人、複数人で来ている客もいはするが、何が楽しいのかじっと喋らずに座っているだけ。

酒は飲むとはもっとはしゃぐものじゃないのか?


それに加えてなぜ?どうして?何でなの?

みんながみんな、二人を、いやスベルを睨み付けている。

身の毛もよだつ恐怖の視線が世界の主に突き刺さる。

ごりごりマッチョな犬人が、黒衣に身を包んだ狼人が、背に弓を背負った蜥蜴人が、甲冑を身に纏った悪魔人が、みんなみんな.....怖い!!






「よお、そこのお姉ちゃん、俺と一杯、酒でもどうだ?今なら奢ってやるぜ。」





そんな剣呑とした空気の中、声をかけてきたのは一人の人間だ。

逞しい肉体には、身体中に傷が刻まれ、己の人生を物語ってくる。

彼はスベルに一瞥もくれずにナンパの常套句を行使する。

が、そんな軽々しいお誘いをヒカリは「ハッ!」と鼻で笑い、宝石のような赤眼で軽率な男を射抜いた。





「私はあなたのような落ちこぼれた人間なんかと交わす酒などない。早々に目の前から消え失せろ。目障りだ。」


「ず、随分とキツいこと言うね。でもいいじゃないか一杯くらい、な?」


「しつこいゴミだ。私たちの進行を邪魔するのであれば、その首、跳ねるぞ。」





ヒカリは容赦のない断罪の言葉を浴びせたのにも関わらず、男はしつこい。

きつい言葉を浴びせられ、多少は顔をひきつってはいるが引く気配は全くない。

その男の態度に、ヒカリは冗談....であってほしい、暴力的な発言をする。瞳に殺意を宿し、本当に首を落としてしまいそうな雰囲気だ。

このままではただ事じゃ済まない。止めなければ、





「あの~、お二人ともそこまでにしませんか?店内で暴れるのはよろしくないかと。」


「あ?なんだこのガキ。調子乗ったことほざいてんじゃねぇぞ!殺されてぇのか!?分かったんならとっとと失せやがれ!俺は今この嬢ちゃんと喋ってんだ、邪魔するんじゃねえ!」





ああ、これはダメだ。聞く耳を持たずとはまさにこの事。

この人になんの言葉をぶつけても響く気配がない。このまま穏便に話し合いでまとまる気がしない。

こうなったらまた時間を置いて訪れようと、ヒカリの手掴んだ瞬間、その時だった。


ぶちっと、何かが破裂するような音がした。

太い菅が内側から爆発したような、アキレス腱を肉離れしたときのような.....そんな鈍い音

その音源に向かって空気をなぞるように目線を動かしていくと、





「ひぃっ!?」





鬼がいた。



一概に比喩と呼べるようなものでもない。

滑るように潤いに満ちた赤髪を逆立たせ、瞳孔を細く縦に伸ばし、奥歯を噛み締め、手を強く握りしめ、鼻頭にシワを寄せている。

空気中のマナが暴れだし、びしびしと肌に伝わってくる彼女の殺気が痛い。

そこには精霊なんてどこにもいなかった。いるのは感情の爆発により、視野が極端に狭くなった、人の皮を被った鬼だ。

そんな少女の変わりようにスベルやナンパ男に加えて、この現場を目撃していた人から小さな悲鳴が湧いた。

鬼はただじっと怒りに身を任せた一人の人間を見つめている。





「お前は今、決して許されざることをした。私の主に対しての暴言、敵意を向けると言う愚かな蛮行、聞く耳を持たないその傲慢、中身がすかすかの虚飾、一度、体に教えてやろう!」


「まっ....」





凄まじい剣幕に男は後ずさる。

徐々に二人の距離は開いていくが、それは射程範囲にかわりない。

開いたといってもほんの数メートル、ヒカリにとっては一瞬の変化にすぎない。

そしてついに鬼は動き始めた。

片足を引き、重心を落とし、一歩目に力が入りやすいようにする。

片足を前に出すのではなく、後ろに引いたのは、少しでも生ある時を楽しめと言う、ヒカリからの最後の慈悲、体で感じるには本当に短すぎる時間ではあるのだが。

とうとう、主の呼び掛けも虚しく、酒場の地面が爆砕してしまった。

見た目不相応の加速力をもって、鬼が人に急迫する。

人は目を見開き、言葉すら出ず、恐怖で腰が抜け、回避は不可能、音速を越えた超速度は一瞬で標的のもとに到着すると、拳を振りかぶった。

必殺の拳は圧倒的速度と圧倒的力が加わり、あらゆるものを貫く正拳となって男のもとへ、





「はい、それで終わり、ここは僕の店だよ。あまり暴れてもらうと困っちゃうかな。」




ドンッと衝撃波が飛び、店全体が震えた。

ヒカリの拳は煙を出しながらすでに勢いは死んでいる。けれどもそれは男に届く前の時点で、だけど。

必殺の拳は不自然に空中で塞き止められ、不発に終わっていた。





「ど、どうなってんだ?たす、かったのか?」


「おや、黒髪の君とそしてこの赤髪の子、もしかして君たちがハルカドのいってた子たちかい?いや待ってたよ。」





この危うく殺人事件が起こりそうだった現場で、その人は無邪気に笑っていた。

耳が長いから恐らく妖精だろう。

それになぜかこの場にはそぐわないスーツ姿、違和感が半端ない。

彼は二人のことを待っていたと言った。

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