世界再生記

高木礼六

異世界の街

「お見事です主、惚れ惚れしちゃいます。その調子でどんどん先に進みましょう。」




ーーああ、戦闘の後のこの笑顔、めっちゃ癒されるなぁ~。




モンスターを倒し、その遺体はそこだけバグが生じたかのように、姿を消した。

相手はモンスターとはいえ、仮にも生物、命あるものの命を奪うと言うものは少なからず罪悪感がある。

だが、幸いにも遺体は消えてしまうから後遺症は薄まり、それに加えてこのヒカリの笑顔、モンスターを倒すだけでこの笑顔が見れるのならば、スベルはいくらでもモンスターを倒しちゃう。

さあ、それじゃあヒカリの笑顔のために次の場所に、





「これからどこにいけば良いの?まずは人の多い町に行って聞き込みでもする?」


「はい、そうしましょう。何も分からないときは街にいくのが定石、この山を下っていったところにカルチカという大きな町があります。そこならなにか有益な情報が得られるはずです。」


「よし!じゃあそこで決まり!カルチカへレッツゴー!」





スベルとヒカリはこの世界を蝕む悪の所在を知るべく、最寄りの街、カルチカへと足を進めた。












「ここがカルチカか、本当に大きな街だね。いろんな店もあるし、人もたくさんいるし、美味しい匂いとか活気の溢れる声が響いてきてどれも日本とは全然違う、それに、それに......ん?」





日本で言う東京や大阪のような大都市とは違い、ここは高層ビルやら地下デパートやらといった近代的な建物は存在しない。
あるのはほとんどが木や石、レンガ等でできた背の低い建物ばかりだ。

けれどもここにいる人たちの盛り上がり方は大都市のそれと、同等もしくはそれ以上。

木造の屋台からはその店独特の香ばしい香りを漂わせ、石造りの店にはいかにも厳つい屈強な人たちが武器を求めて出入りし、レンガの家は狼に吹き飛ばされることもないので、いろんな人の住居になっている。

すごい眩しい、勿論物理的な意味じゃなくて精神的な意味で、ここにいる人たちみんなの笑顔に生気が感じられる。

けれどもここで違和感を覚えずにいられないのはこの今を一生懸命生きている人たちが原因だった。





「トカゲ?犬?猫?狼?角、が生えてる人もいる。人、なの?」





見るからにその人たちはスベルの既存の知識とは異なる容姿をしていた。

木造の屋台の店主は、緑色の鱗で全身を覆い、臀部からは腰と同じ太さの尾が伸びていて、爬虫類のように前へ突き出した口からは時より鋭く並んだ牙を覗かせている。

石造の武器屋にはふさふさの猫耳と尻尾を生やした看板娘が客引きをし、中ではふわふわの犬耳と太い尻尾を生やした鍛冶師が鎚を使って武器を打って、灰色の狼耳と尻尾を生やした青年が武器を売っている。

レンガ造りの住宅からは、窓を開け、不自然に顳顬から二本の角を出した女性が太陽の光を浴びながら風を感じている。





「あれは亜人と呼ばれる種族です。蜥蜴人リザード、犬人カネム、猫人キャッツ、狼人ルプス、悪魔人ディアボリ、あとは、姿は人間と似てますけど、小人ドワーフや妖精エルフもいますね。全員が歴とした人族ですよ。」


「あっホントだ。よく見れば背の低いおじさんとか耳の長い綺麗な人とかもいるね。いや~凄い。本当に俺、異世界に来たんだね。」


「最初からそういってたじゃないですか、まさか、わたしが言ったこと信用してなかったんですか?」


「いやいや、違う、違うよ!?そういうことじゃないから。ただ単にこの光景に実感したと言うだけであって...第一モンスターと戦った時から地球じゃないのは分かったし、改めて違う世界なんだって理解しただけで、だからヒカリを信用してないってことじゃ....」


「ふふっ、やっぱり主は主ですね。慌てた姿も可愛いですよ。」


「なっ!?」





賑やかな町並み、様々な人族に囲まれ、二人の雰囲気は頗る和やかだ。

主従関係、というのはこの二人にとっては少し固すぎるような気もするが、従者である精霊が主をからかい、まだ年若いこの世の王は顔を真っ赤に染め俯いている。

この二人がこれからこの世界を救うなんて見ただけじゃ誰もわからないだろう。





「さあ、主、先を急ぎましょう。今こうしている間にもモンスターたちが何をしているかわからないですからね。」





そう、ここに来た本来の目的はこの世界に蔓延る諸悪の根源モンスターロードについての有益な情報を探すことだ。

ここでこんな悠長な時間を過ごしている暇はない、いつ、どこで、どの世界で誰が悪に穢されているのかわからない以上、早く対処すべきだ。


ヒカリは先へと進んだ。





「.....」





その足早な少女に対して、世界の命運に最も干渉しうる人はまだ俯いたままだ。

顔はまだ真っ赤、目は見開いて、少し震えている。




ーー可愛いなんて、初めて言われた。どうしよう、爆死しそうだ。




理由が単純だった。

女の子にも、友達にも言われたことがない可愛いという単語、それを過去見てきた中で一番と自負できるほどの美少女に言われ、恥ずかしさのあまり爆発寸前に陥っていたのだ。





「あの、どうしたんですか?呼ばれてますよ?」





そんな時、不意に肩を叩かれた。見てみるとヒカリではない。

大きく透き通るように青い瞳、風にたなびく髪は清流のように清らかで、見るものに落ち着きを与える。

ヒカリとはまた違う良さをもった少女だ。

そんな彼女が指を指す方向から、ヒカリが手を振って呼んでいる。





「あ、ありがとうございます。」


「いえいえ、当然のことをしたまでです。」





スベルは親切な彼女に一言お礼をいい、待っているヒカリのところへと走っていった。

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