魔人に就職しました。
第33話 襲い来る敵
「おーい準備はいいか?」
「おっけー」
「大丈夫よ」
あれから5日後、色々と準備を整えた俺たちは魔物の村に向かう事にした。
移動は"ドライグ"に頼む。
ドライグはワイバーンというドラゴン族である依頼を受けた時に魔物に襲われている所を偶然、助けたのだ。
その時の事が切っ掛けで俺たちに懐いてしまった。それからは現在進行形で俺たち3人の足として絶賛活躍中だ。
そもそも何故ドラゴン族が魔物に襲われていたかというと、ドラゴン族は青龍国で信仰されていたり、過去に人間と共闘し魔物と戦った歴史がある。そのためドラゴン族は魔物側から人間同様に敵だと認識されているそうだ。今は昔より数が減った為、見かける事すらなくなってきていたらしい。
「よーし頼むぞドライグ」
俺たちはドライグに乗った。
ドライグはワイバーンの中でも特別大きいらしく、人を3人乗せて飛ぶ位は余裕だ。
俺が軽く撫でると「グルルルル」と今では可愛らしく思える鳴き声を上げる。
「じゃあ行くか」
ドライグは翼を広げて、俺たち3人を乗せたまま空を舞った。
ドライグの飛行速度は詳しくはわからないが、全速力の馬より少し早いくらいだ。
馬の走る速度は、確か最高時速80kmぐらいだったけか?
この曖昧な知識が正しければドライグの飛行速度は時速90kmぐらいになる。
「そういえば、その魔物の村ってどこら辺なの?」
唐突にメグミが聞いてくる。そういえば場所については言ってなかったな。
「場所はアイタル森林だ」
「ふーんアイタル森林か、行った事ないけどドライグ君の速度なら20分ぐらいで着く場所ね」
「ねぇ!そこを見つけた時になんかレアな魔物とかいなかったの?」
「レアねぇ・・・」
あんまり詳しく見てないからわからねぇな。
スケルトンやらのアンデットは多く見えたが、対して珍しいのは確認出来なかった。
いや、まて。実際には見てないが恐らく強そうなのがいるな。あの闇属性の魔法を使ったと思われるやつが。
「どんなやつかは見てないが、闇属性の魔法を使ったと思われるやつがいるな」
「へぇー闇属性の魔法!それってメグミちゃんはまだ使えないだっけ」
「そうね。他の属性は問題ないけど、師匠曰く闇属性の魔法は人間には無理らしいわよ?」
そうなのか?メグミは色んな魔法使えるからとっくに闇属性の魔法も使えるのかと思ってた。
なんせ魔法は種類が多いからな、魔法の名前と効果を覚えるだけでも大変そうだ。
そう考えると、俺のスキルは戦士系のスキルで良かったな。魔法を唱えるより手っ取り早く剣で攻撃する方が良い。神様ありがとう。
「ほう、そりゃ初耳だな」
「なんでも、魔物しか使えない魔法属性らしいわよ?それでも闇属性の魔法を使える魔物自体が滅多にいないらしいけど」
「それなら、さっき俺が言っていた奴はレアな魔物だな。それに魔法の規模から見ると強い可能性が高い」
俺が見たあのドーム状の衝撃を見る限り、ただの雑魚ではないだろう。
あれは俺があの村に目をつけた切っ掛けでもある。あれを見たからこそ、今回あの村の発見に至ったのだ。
もしかしたら本当に魔王が、強敵がいるかもしれない。
「へぇ、私の魔法とどっちが上だったのかしら?」
「そりゃ、メグミさんの魔法の方が凄いに決まってるじゃないですかー」
前に全力で魔法を使ってみたいと言って、放った魔法が山を消し飛ばした時は、流石に腰を抜かしたね。メグミを怒らせないようにしようと思った瞬間だ。
そんないつも通りの他愛もない会話をしながら空の旅を続けていると、いつの間にか目的地のアイタル森林が見えてきた。
「おい、そろそろ着くぞ?一応気を引き締めておけよ」
「ほーい」
「わかってるわ」
俺も未だ見ぬ敵に期待を寄せながら気を引き締める。
アユミの返事が少しマヌケだがこれはいつも通りだ。問題ない。
「ん?なんかいるぞ」
アイタル森林に近づいていくと、付近の上空にチラチラと何か飛んでいる物を発見した。
「ギリガル・ビートルね」
すぐに遠視の魔法を使って確認したメグミからその正体が伝えられる。
ギリガル・ビートルか、普通ならこの付近には生息してないハズの魔物だったハズだが・・・。
ギリガル・ビートルの討伐ランクはBだったけか?いや、Aランクの時にも依頼を受けた気がするな。
まぁどっちにしたって、今の俺たちからしたら雑魚同然だな。
「あ、こっちに気付いたみたいだね」
―――ギシャァァァ!!
こちらに気付いたギリガル・ビートルがデカイ奇声をあげて向かって飛んでくる。
「ここは俺がやるよ、お前らは念のため魔力を温存しておいた方がいいだろう」
ギリガル・ビートルは確かマヒ攻撃を中心に仕掛けてくる敵だったよな。
「相変わらず虫系の魔物は鳴き声が気持ち悪いな」
―――ギシャァ!
ギリガル・ビートルの射程距離に入ったようで、攻撃を仕掛けてくる。
日本原産のオオスズメバチの針なんて目じゃないぐらい大きい針が飛んできた。
ギリガル・ビートルとドライグもお互いの距離を縮めているので、針が飛んで来る速度も心なしか早く見える。いや、実際には早くなっているだろうが、今の俺ならその程度は誤差の範囲内だ。
「スキル!《聖剣召喚》!」
俺は自分のやや後ろに出した魔法陣に手を突っ込む。突っ込んだ先で剣の柄の部分を握ると、それを一気に引っ張りだした。
「"光聖剣ベガ=ルタ"!」
取り出したのは光聖剣ベガ=ルタという聖剣だ。
この聖剣は俺のスキル《聖剣召喚》で呼び出す事ができる3つの聖剣の内の1つだ。
他2つの聖剣に比べると破壊力が物足りない。しかし、この聖剣には特徴的な能力があるのだ。
それは―――
「おらぁ!」
―――ギ、ギシャ!?
俺が剣をその場で振ると剣先から白い斬撃が生まれる。その白い斬撃はこちらに飛んで来ていたギリガル・ビートルの針を2つに切断し、その勢いのままギリガル・ビートルまでをも真っ二つに切断した。
「こんなもんか」
2つに切られたギリガル・ビートルは浮力をなくしたため、重力に従い落下していった。
虫特有の神経節が、死に行く間際も鳴き声を漏らす働きをする。
短い鳴き声を発しながら死んだ虫は落下していった。
「森に着いたな」
アイタル森林の上空に着いた。真下は多くの木々が生い茂っており、地面が見えないほどだ。
このアイタル森林は他の森とはスケールが違うほど巨大な森なのだ。
「えーっとどこら辺だったけかな」
「グルル」とドライグが喉を鳴らす。
どうやらドライグも正確な位置を覚えていないらしい。
まぁ目印になるものが少ない所で正確な位置を覚えて置くなんて無理だろ。
「ちょっと、しっかりしてよ」
メグミが俺の頭を心配する声が聞こえる。
大丈夫だから。空から見下ろしているから、見つけるのは簡単だから!
「あー確かこっちだったような」
5日前の記憶を脳内の引き出しからなとなく発掘する。
ドライグもそんな気がしていたのか「グルル」と喉を鳴らして答えてくれる
曖昧な記憶を頼りに探り探り飛んでいると、『ヴヴヴヴヴ』と何かが振動するような音が聞こえてきた。
「この音なに?」
音は360度の全方位から聞こえて来ている。
なんだ、とドライグから少し身を乗り出して下を見てみた。
「うわっ」
そこには大量のギリガル・ビートル、そしてそれと同じ昆虫系の魔物であるヘラクレス・ビートルがいた。
先ほどから鳴っている何かが振動するような音はこいつらの羽音だったのだ。
「うわっ」
「うーわっ」
俺が下を確認して声を上げた事により、女性陣2人も身を乗り出して下を確認したようだ。
感想は俺と同じだ。普段こんな反応しないメグミも顔を凄い歪めている。
元の世界でも虫をしっかり見るのは俺でも少しキツかった。それなのにこの世界には虫を巨大化させた魔物が居るのだ。それにここまで多くの群れは見た事はない。
「これは少しだけ面倒だな」
俺はもう一度、光聖剣ベガ=ルタを構える。
雑魚ではあるが流石にこれだけの数がいると面倒だ。それにここは空中。地上ならともかく、空中では剣士である俺の力は存分には振るえない。
「どいてイツキ。私が範囲魔法で蹴散らすわ」
「おいおい、もしもの為に魔力は残しておいた方がいいだろ?」
「そうだけど、問題ないわ。一発しか魔法は使わないから、魔力も誤差の範囲内よ」
まぁ今回はいいか。こんだけの量がいるなら俺が体力使って処理するより、メグミの魔法で一気に数を減らして細かい残りを俺が潰していった方が効率がいいか。
「わかったよ、ここは任せた」
「ええ、任されたわ」
なんだこいつ、いつになくテンションが高めだな。
もしかしてこれだけの量の魔物相手に魔法を撃ち込めるから楽しみなのか?
まぁそうか。確かにこの量を1つの魔法で一掃するのは相当気持ちいいだろうな。やっぱり少し羨ましいな魔法ってのは。
「ふぅ。さて、いくわ!《竜巻による猛威/トルネード・クロス・レイジング》!」
メグミ魔法を唱えたとたん俺たちを中心として、周りに巨大な竜巻が生まれた。その竜巻は辺りのギリガル・ビートルとヘラクレス・ビートルをブラックホールの如く吸い込み、まるでミキサーのように片っ端からバラバラに砕いていった。
時間は少し遡る。
イツキ達が最初のギリガル・ビートルを倒した事により、ダニーがその異常に気付いた。
『オイオイ!こいつはっ!?』
昆虫系の魔物は死ぬと同じ昆虫系の魔物にしかわからない特有の匂いを出す。これは自分が死んだ事と、近くに危険がある事を仲間に知らせる為の物だ。
その匂いをダニーは感じ取り、周りのギリガル・ビートル達もその異常に気が付いた。
ダニーに命令されるよりも早く自主的に行動したギリガル・ビートル達が静かに辺りを探索する。
前回のオーガ達の襲撃を受けて警戒を強化していた。そのため補充要因であるヘラクレス・ビートルも森の警備に参加している。ヘラクレス・ビートルはギリガル・ビートルより飛行速度は遅いがその分目が良いのだ。
そして警備している一人のヘラクレス・ビートルが人間を3体乗せたドラゴンが上空を飛び回っているのを発見した。その事は伝達要因のギリガル・ビートルを何人か中継し、ダニーにの元に伝わる。
『こりゃあ!緊急事態だぜ!!』
ダニーはこの事をマサムネに伝えるべく、急いで櫓に向かった。
櫓に着くとダニーより先にジャックがマサムネと話していた。
ジャックが話していたのはダニーの件とは別件の様だ。ダニーはジャックの話を遮り、先ほどの緊急事態のことを報告する。
「ドウシマスカ?」
『仲間がやられてんだぞ!!やり返すべきだろうが!!!』
ダニーの報告を聞いてジャックがマサムネの指示を仰ぐが、ダニーから怒りの怒号が飛ぶ。魔物の中でも人一倍仲間意識が高い彼は仲間が殺された事にままならない怒りを感じていた。
しばらくの沈黙のあと、マサムネから指示が出される。
―――仕方ない。ダニー、まずは任せるぞ !
『っしゃぁぁ!!』
「ワカリマシタ。デハ、私ハコノ事ヲ皆に伝エテキマス」
現在、敵は上空にいるためまずは空を飛べるビートル族をダニーが率いて対処を試みる。
その間にジャックはこの緊急事態を皆に通達する。ダニー達の様子を見つつ各自最悪の状況を想定して動く。
マサムネに指示をもらったダニーは自分の種族であるビートル族の全軍を率いて出陣。仲間であり同族である仲間の仇を討つべく、上空の敵に向かって飛翔していった。
その様子をジャックから召集を受けた魔物達が見守る。ダニーとその侵入者の戦闘の行く末を地上から見て少しでも敵の情報を手に入れる事が彼らの今出来る事だった。
「ナンダ!?」
その時。この森の上空に巨大な竜巻が現れた。
自然現象ではあり得ないほどバカデカイ竜巻だ。
その竜巻はダニー率いるビートル族を簡単に飲み込み、その竜巻が消滅するころには上空にビートル族の姿は一切なくなっていた。
「ソ、ソンナ・・・!?」
大儀式でも用いたかのような高威力かつ広範囲な魔法。
魔法に長けたトロルを100人ほどあつめて儀式魔法を行使しなければいけない様な、明らかに常軌を逸した魔法。
その魔法を受けてこの時この村にいたビートル族は、ほとんどが死亡した。
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