魔人に就職しました。
第24話 過去の戦争
魔界の深部。そこにある魔王城に帰って来た魔王は今まで封印されていたので少しの間、休む事にした。
その間にオラクガは部下を使い、魔人についての調査を行っている。
「ふぅ」
寝室のベットで横になっている魔王はふいにため息を漏らした。
「こうしてまたこの世界を見れるとはな」
魔王は自分が長い封印から解き放たれた事に感謝をしている。封印されている間も意識はあったようで、かなり退屈な時間を過ごしたようだ。
そんな退屈な地獄から解放された魔王は安心を噛み締めていた。
だが、その安心した心もあることを思い出し次第に怒りに変わる。
「くそっあの勇者どもめ!!よりにもよって封印なんてしやがって!!」
魔王が封印されてから百数年が経っているため、すでにその時の勇者は死亡している。
だが魔王の呪詛は絶えない。しばらくその時の勇者達に対して色々と独り言を言い続けていると次第に言葉のレパートリーがなくなり、だんだんと冷静になった。
「さて、これからどうするか」
魔王はベットから起き上がり、座った姿勢になる。
「封印される前は魔物と人間の共存を目指し、世界平和を目標にしていたのだがなぁ」
百数年前。魔王は封印される以前は魔物と人間の共存を目指していたのだ。実際に従えた魔物達もその目標に向かって魔王に付いてきていた。
だが彼の目指していたものは人間によって壊される。魔王は当時の人間達に協定を結ぶように提案した。そして一度その協定は通ったのだ。
だが当時の3国の国王達は協定が成立した後に突如協定を破棄した。その時の国王達は数日前に協定を結んだ時とはまるで別人のようで、魔物の言葉なんぞ信用できないと口を揃えて言った。
そして人間達は魔物を根絶するべく。魔王達はそれに抵抗するべくして戦争が始まった。
結局その戦いはいつも通り人間側の勝利。多くの魔物と四人の幹部の内3人は死に、魔王は勇者より封印されたのだ。
「くそっ人間どもめ!今度は世界を掌握してやろうか!!」
魔王はまた封印される前の人間の理不尽な行いを思いだし、怒りの表情を露わにする。
彼より前の代の魔王達は世界征服や人間の根絶を目指すものばかりだった。しかしそれは過去一度も成功した事がない。魔王はいつの時代も人間と対立し、その戦いに破れてきたのだ。
魔物の、魔王の歴史は敗北の歴史なのだ。
―――コンコン
突然魔王の部屋がノックされる。
魔王はすぐさまベットから降りて椅子に腰かける。そして一つ咳ばらいをしてから、先ほどより低い声を出して返事をした。
「だれだ」
「私です。オラクガでございます」
「なんだオラクガか・・・なんのようだ?」
「魔人の調査に進展がありましたのでそのご報告に参りました」
「なに?そうか。よし、とりあえず入ってこい」
魔王が入室の許可を出すと、寝室の扉が開かれオラクガが入ってくる。
「失礼します!」
「それで・・・進展とは何があったのだ?」
「はい。部下がかつて私と同じ四魔であった"エクス"の拠点跡地にて魔人について調べていた痕跡がいくつか見つかりました。それと秘密の地下への入り口を見つけたとの事です。恐らく地下にはもっと魔人に関するの情報がある可能性があると思われます」
「ほう・・・」
魔王はかつての最高幹部一人のエクスに対して「そんな事してたのか!」と内心驚きつつ「まぁあいつなら・・・」とも思った。
それと同時に久しぶりに名前を聞いた事で、当時のエクスとの思い出が蘇ってくる。
エクスとは魔王軍の最高幹部の一人だった魔物だ。知識に貪欲で、新たな魔法の習得にも熱心だったアンデッドだ。彼はよく様々なものに興味を抱いていた。一番熱心に研究していたのは魔法だが、それとは別に魔物や植物など世界のありとあらゆるもの知識を求めていた。文献をあさり、調べ、研究する。それが彼の生きがいだった。
彼は魔王の事を慕っており、新しく使える魔法を習得したら魔王によく報告といいつつ見せびらかしていた。魔法の話をする時のエクスはとても楽しそうにしていた。
だが、彼は魔王の最高幹部という事が人間達にバレて勇者に真っ先に殺された。最高幹部の中で一番最初にやられたのは彼だ。その時は他、3名の幹部達と一緒に胸を痛めたのをよく覚えている。
魔王はその時の怒りを思い出し、また呪詛を吐きそうになる。
「ですがその地下室の入り口は強力な結界に守られているらしく、私の部下の実力では結界の突破は困難との事です。そのため私がこれから現場に直接むかいたいと思います」
「ふむ・・・まて、そこには私も行こう」
「魔王様もですか?」
「ああ、私もその地下室を見てみたい。それに私が行けば後で報告する手間もないだろう?」
「ですが、お体の方は・・・」
「はぁ。封印が解けた時にはお前に"変わってないな"と言ったが、変わっていたようだな。心配性になったんじゃあないか?」
「なっ!?そのような事は」
オラクガが心配する気持ちは良く分かる。だが魔王はもう十分に休んで体調は万全だ。それならば下の者が働いているのに自分だけだらだらとしてる訳にはいかない。
「ほら、さっさと行くぞ」
「あっ、お待ちください!」
魔王は城から出るとすぐに魔法を使用し飛びあがる。そんな魔王を追いかけるようにオラクガも空中を駆けた。
「ここがそうか」
30分もしないうちに魔王とオラクガはエクスの拠点跡地に到着した。
「お待ちしておりました魔王様、オラクガ様」
拠点の入り口にオラクガの部下が1人待機しており、出迎えてくれていた。
「ああ、ご苦労。さて、さっそく中に入ろう」
エクスの拠点は岩山に横穴を空けて作られた。簡単に言うと洞窟だ。エクスはそこを拠点として様々な研究をしていた。エクスはいくつものダミー拠点を持っており、勇者が襲撃したのはダミーの方の拠点だ。そのため彼の本物の拠点はこうして残っていた。
だがあれから百年以上経っている。そのため洞窟内部は所々崩れてしまっている所があった。
「ここか」
魔王達は洞窟内のある部屋まで案内された。
そこの地面には穴があいていた。今回、発見した地下への入り口はここの事だろう。穴の左右には土が積もられているのは、ここを掘った為だろう。
「土の量を見ると完全に埋められていたようだな・・・」
魔王達はその穴に降りて行き、そこで扉を見つけた。その扉にはいくつもの魔法陣が書かれれており、何重にも結界が貼られている。波の魔物やその辺の人間達では突破できない強度の結界で恐ろしいほどに厳重な事が分かる。
魔王が試しにどんな結界が解析しようとするとあることに気が付いた。
「これは・・・確かに厳重だが・・・」
「はい。魔王様の思っている通りです。これは恐らく魔物ではなく人間、それも勇者を警戒しての結界だと思われます」
この扉の結界はどちらかと言うと聖なる者、つまり勇者達やそれに連なる者を拒むように作られていたのだ。
(エクスは勇者達を警戒してこれを?いやだとしてもこの強度は・・・)
エクスがここまで厳重に守っている"何か"にますます興味が沸いた。
「魔王様、ここは私が」
「うむ」
オラクガが一歩出る。
オラクガは目の前の結界に向かって拳握りしめ、構えた。そして拳を放つ瞬間。オラクガは魔法を使った。それは彼だけが使える固有の魔法の一つだ。その魔法の名前は《加速させる炎/フレイム・アクセラレーション》。その魔法の効果は加速。対象を加速させるシンプルな魔法だ。
彼はその魔法を自分の肘の部分に無詠唱で発動。拳を放つ方向とは逆の方向に肘から炎が噴出する。それにより彼の拳は自身の力と魔法の推進力を加えられて加速する。そしてその加速された拳は通常の何倍の威力になり結界にぶつかる。
高速で突き出されたオラクガの拳は結界を意図も簡単に破壊し、扉を粉々にした。
「・・・少しやりすぎではないか?」
「も、申し訳ありません・・・」
魔王という自身の使えるべき主人が戻ってきたことでテンションが上がっていた事。久しぶりに、魔王に自身の力を見てもらえる事が嬉しかった事。
この2つが合わさりオラクガは張り切ってしまったのだ。きっとその気持ちは部下なら誰だって共感してくれるだろう。
魔王達は扉が破壊された入り口から地下室に入った。
そこは空間は広いが目ぼしい物はなく、沢山の本棚と1つの机のみがある部屋だった。
「本の保管庫?」
部下の魔物の一人が言った様にそこはまるで本の保管庫のようだ。沢山の本棚に目一杯に本が収まっている。怪しい液体が保管されてたり、謎の生物が保管されているという事はなかった。
「とりあえず見ていこう。あそこまで厳重に守っていたのだ。何もない訳ではあるまい」
「そうですね」
「まぁこの中から魔人についての文献を探すのが大変だな」
「我々が探しますので、魔王様はお待ち下さい」
「ああ、基本的にはお前たちに任せる。が私も少し気になっている事があるのでな、悪いが歴史関係の文献があったら私の所まで持ってきてくれ」
「承知いたしました」
そうして魔王軍による、地下室での情報集めが始まった。
オラクガの部下を増員し、片っ端から魔人についての情報がないか調べている。
魔王は個人的に調べてたい事もあるので歴史に関する物を部下に集めさせて、その中に自分が探している事と、魔人の事がないか探している。
そして情報捜索を開始して1時間ほどたった頃。魔王は気になる事が書かれている資料を発見した。
「これは、魔人戦争の事か・・・」
その資料に書かれていたのは数世代前の魔王と共に戦った魔人が人間達と行った戦争について書かれていた。だが、この事を戦争の魔王は聞いた事があった。誰に聞いたかはもう覚えてはないが、その時の戦争は魔人が勇者を倒したため魔物側の勝利になったという。
この資料はそれが書いてあっただけだった。戦争で魔物側が勝ったと書いてあるだけで、魔人については書かれていない。
「一瞬期待したが、ハズレか・・・」
その資料をすでに確認した本を本が山積みになっている所に投げ捨て、次の本を手に取る。
「これもか・・・」
そこには先程と同じように先々代の魔王と魔人対人間の戦争の事が書かれていた。
当時、魔物側としては長年敗北してきた人間達にようやく勝てたのだ。そしてその歴史的事実を残しておきたいと思ってしまった魔物が多くいたのだろう。似たような文章でその魔人戦争において魔物側が勝利した事を書いたものがいくつもある。
魔王はそれらの資料を流し読みしていたが、魔人の事について詳しくは書かれていた物はどれにもなかった。
「はぁ・・・」
魔王は似たような内容の資料ばかりに目を通し、確認し終わったらため息と共に投げ捨てる作業を繰り返していた。
そんな中、たった今。流し読みしていた本におかしな事が書かれている事を投げ捨てた後に気づいた。
「ん?」
投げ捨てた資料を再び手に取り、確認する。
そこにはいくつもの資料のように魔人戦争の事が書かれており、魔物側が勝利したとしっかり書かれていた。だが、その資料は他とは違った。
勝利したという文字の後に敗北したと書かれていたのだ。その一文だけ筆跡が違う事からこの本を書いた者とは別の者がこの"敗北した"一文を加えたのだろう。
「どういう事だ?」
勝利したのに負けた?
矛盾している2つの言葉について魔王が考えているとある重大な事に気付いた。
(いや、まて!魔人戦争で魔物側が勝利したのなら!そ何故、その後の戦争で人間に負けている!?)
幾度もの人間との闘い。その闘いの歴史で魔物側が勝利したのは魔人戦争の時の魔王の時の一回のみである。その前もそれ以降も魔物側が勝利した記録は何処にもないし、聞いた事はない。
だが、これはおかしい。魔人戦争で人間側が一度負けているのならなぜ人間はこれほど多く存在している?なぜ、その次の戦争で魔物側は人間に敗北している?
魔人戦争で人間側に勝ったのなら人間の数は限りなく少なくなっているか、全滅しているはずだ。世界掌握や人間殲滅を目指した当時の魔王が人間を多く、いや人間という種族を残しておくだろうか?そもそも勝利したというのに何故次の戦争では魔王が変わり魔人がいないのだ。魔王に寿命はないハズなのに。
そして、魔王の手元にある資料に勝利という文字後に書いてある。敗北したという文字。
何かおかしい。魔人戦争は何かがおかしい。
「オラクガ、来てくれ」
「何でございましょうか、魔王様」
「ここに散らばってる本とまだ確認していない本、そしてお前達が確認した資料の中で魔人戦争について少しでも書かれている物を集めろ」
「魔人戦争ですか?確かにそれなら魔人の事が書いてあるかもしれませんね」
「いや、魔人の事だけではない。その戦争は何かがおかしい。とにかく集めてくれ」
「?・・・承知しました」
魔王が考え事をしている間にオラクガ達は魔王の言われた通りに資料を集めた。魔人戦争について書かれている資料を、ほかの資料と比べながら確認していく。
そして数時間後にこの地下にある本を全て確認し終わった。
それで出てきたのは明らかに違う内容が書かれた本が一冊と、紙のレポートが一つ。
「オラクガこれを声を出して読んでみてくれ」
魔王はその異質な本をオラクガに手渡した。
「承知しました」
オラクガは少し戸惑いながらも開いて渡された本のそのページに書かれている事を声に出して読み上げた。
『我々は勝利した。人間共との長き戦いに勝利したのだ。魔人が我々に味方し、勇者共を討ち取った事で我々は勝利した。私は、我々のこの歴史的勝利をここに書き記す。そしてこの戦争の英雄である魔人様と魔王様に絶対の忠誠を捧げます。
―――魔王様と魔人様が亡くなられた。次は我々の敗北だ』
そこには魔人戦争で魔物側が勝利した事とが書かれていたが、その下に乱暴な文字で魔王と魔人が死亡した事が書かれていた。
「魔王様、これは一体・・・」
オラクガ戸惑いながら魔王に疑問を投げ掛ける。だが魔王はそれには答えず続けてもう1つの、紙だけの文献をオラクガに手渡し同じく読むように言った。
「これは!まさかエクスの!?」
その紙の文献はエクスが書いた物だった。その文献の前半いは先ほど魔王が気が付いた魔人戦争のおかしなところが書かれていた。しかし問題はその文献の最後のページだった。
『これは当時の事を知らないワタシの勝手な結論だが、まぁ間違ってはいないハズだ。結論からいうと我々魔物の敵はおそらく人間ではない。"神"だ。恐らく"勇者"という存在は神の力を与えられた人間、もしくは神が特別に生み出した人間だ。何故そのような結論に至ったかは省略する。我々は間違えていた。人間は大切な―――』
一度そこで文は途切れていた。そしてその下に少し乱暴な文字で単語が並べられている。
『必―――物は―――魔人―――竜―――我らの神―――』
最後に書かれているのは焦って書いたような途切れ途切れの文。
それを見たオラクガは顔上げて魔王の事を見た。
「これは・・・!」
「わかったか?オラクガ」
「ですが、これは・・・っ!!」
「分かっている。もう少し精査しなければいけないだろう。だが・・・」
言葉を一度区切った魔王は神妙な表情をして言葉を続けた。
「我々は、真の敵を見れていなかったのかもしれぬ」
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