魔人に就職しました。

ミネラル・ウィンター

第51話 掴まれた胃袋

 

 まるで全てを見透みすかされている感覚だ。
 この圧倒的な威圧感!この俺でも気を抜いたら押し潰されてしまうほどだ。
 このスライムッ!
 革変のアンデッドの態度からさっするに立場はかなり上なのだろう。そして見られているだけなのにこれ程の力を感じさせる。

 間違いない、このスライムこそが魔人側の最大戦力の魔物。これ程まで強いスライムは今後、後にも先にも現れないだろう。
 一体、魔人はこのスライムにどれほどの力を与えたというのか。
 これは万が一にも敵対する訳にはいかなくなった。


「すまない。あまり睨まないでくれないか?」


 俺はなるべく平然を装って、目の前のスライムに問いかけた。そして、敵意がないことを分かってもらう。
 この剛炎のオラクガが冷や汗をかかされているのだ。
 なるべく、彼の機嫌をそこねないようにした方が懸命だ。こんな経験は初めてだ、彼に勝てるイメージが全くの湧かない。


 ―――プルンッ!


 こちらに敵意がないことを分かってもらえたようで、俺は威圧から解放された。
 途端に解放され、深呼吸をしてしまう。体の感覚が戻り、外気が冷たく感じた。


『魔人様がモテナスように言った。お前らが何もしなければオレが何か言うつもりはない。ゆっくりしていってくれ』


 スライムが体を震わせて言う。
 彼との挨拶は終わったと言うことなのだろうか、スライムは何処かに歩いていってしまった。


「ふぅぅ。では、魔人が戻ってくるまで、ゆっくりさせていただこう」


 あの緊張した空気から抜け出せたため思わず大きなため息が出てしまった。
 俺は若干放心気味のワイシングの肩を叩きながら、革変のアンデッドに向かって言った。


「ナラ、食堂ガイイダロウ」

「食堂?」


 革新のアンデッドが提案をするとワイシングが正気を取り戻し、その提案に食いついた。
 魔物は別に何か食べる事はしなくていい。それなのに食堂があるとは。どういう事だろうか。


「コノ時間ダト、シェフノ試作品ヲ食ベレルゾ?」

「シェフ?試作品?」

「アンデッド用ノ料理モアルカラ、アンデッドノ、ワイシングデモ、楽シメルトオモウゾ」

「アンデッド用ですと!?」


 ワイシングが完全に食いついている。
 まぁ、わからなくはない。俺はオーガ族だから、食事はできる。しかし、アンデッドは食事なんてものは出来ないハズ。それなのにアンデッド用の食事があるとは・・・
それが一体なんなのか確かに気になる。だが、それよりもこの村を回って少しでも情報を集めるべきだ。
 こちらは敵対する意識はもうない。だが、肝心かんじんの魔人はどう思っているのかはわからない。
 最悪の場合を考えて、ここは少しでも情報を集めるべきだ。


「それも良いが、この村を回ってみたい」

「そんな!?オラクガ様!!」


 ワイシングの視線が痛い。どれだけアンデッド用の食事に興味あるんだこいつ。
 いや、そうか。アンデッドはそもそも食べる事は出来ない。だからこそ食事につよいあこがれのようなものがあるのか。
 だが、許せワイシングよ。今は魔王様の為、我慢してくれ。


「な、なら別々に行動するというのはいかがですかな?」


 ほう。流石にワイシング。中々うまい事を思いつく。


「それが許されるなら俺は構わん」


 情報収集は別に俺だけでも問題ない。
 それが許されるなら、こちらとしては特に支障はない。むしろ別々の所を見れると言うことで、情報収集としては良いことだらけだ。


「ソレゾレニ、監視かんしヲツケル事ニナルガ、イイカ?」


 なんだそれだけでいいのか。なら別に問題はないな。


「ならそうしよう」

「オラクガ様!」

「ワカッタ。ワイシングハ俺ガ監視スル。オ前ハ、少シ待ッテイロ」


 相変わらず、こいつは俺だけに対する態度が悪いな。ワイシングは知り合いだからか?
 まぁ、いい。そんな細かい事は流してやろう。


「では、オラクガ様行ってまいります!」

「食堂ダナ、コッチダ」


 さて、アンデッドの2人は食堂に言ってしまったようだが、こちらの監視役はどんな者だろうか。
 そう考えていると、近づいてくる気配に気づいた。恐らく、俺の監視約の魔物だろう。
 俺が振り替えり正体を確認する。

 俺を環視する魔物の正体は――


『・・・』


 ――先ほどのスライムだった。


「・・・」


 無言の空間が続く。
 ま、まさかこのスライムだとは!
 というか何故このスライムなんだ!?先ほど何処かに行ったのではないか?
 戻ってきて少しイラついているのか、威圧が徐々に重くなってくる。
 こ、こんな状態でこの村を回れる訳がないではないか!! 


「・・・」


 だが、監視を交代して欲しいとも言えない。
 そんな事を言ってしまえば、彼を余計に腹立たせてしまうのは分かりきっている。
 無言の状態が続き、ただただ重圧が増してくる。

 俺はこの状況にたまらず、ワイシングの後を追って食堂に向かった。









「ここが食堂か」


 オラクガはあのスライムから逃げる為に、食堂に来てしまった。
 そこでは数体のスライムとアンデッドが器用に料理をしている。


(特にあのファイアスライムの手際はかなりいい。俺は料理なんて実際に見たこともないが、無駄な動きがないことはわかった)


 オラクガは料理がわからないなりに、独自の目線で料理が作られている所を見ていた。その隣ではリックが解説をし、ワイシングが騒いでいる。


「何を作っているんだ?」

「ソレハワカラナイ。コノ時間ハ、シェフノ創作料理そうさくりょうりノ時間ダ。今、シェフガ作ッテイル料理ニ、マダ名前ハナイ」


(創作料理?聞いたことがないな。自分で料理方を編み出しているのか?)


 料理を知らない魔物達からすれば知らない言葉であろう。
 オラクガの考えてる事もあながち間違いではない。創作料理とは、自分で作り方を考案こうあんした料理の事だ。作り方が既に存在している料理ではなく、材料や調理方法などを自分で考え創作した料理の事を言う。
 シェフと言われているファイアスライムはある日、料理に目覚めてからはひたすら料理をしている。
 今では限られた材料を使ってどれだけ美味しい者を作れるかに挑戦中だ。


(だが、手際はいいため作っている所を見るものなかなかに面白いものだな)


 そうこうしていると、オラクガの下に皿が運ばれてきた。その皿には茶色に着色された魚や肉が盛られている。
 あまり食事をしない身としては、そんなに興味があるわけではないが実際に目の前に出されると、久しぶりに食事をしたくなるようだ。
 そして見るからに旨そうな見た目と、匂い。
 これらもオラクガの食欲をき立てた。

 オラクガはその皿に盛られた魚をに取り、口に運ぼうとした。
 しかし、その手は何者かにはたかれ手に持っていた魚は皿に戻った。


「何をする!」


 オラクガの手を叩いた者の正体は、シェフと呼ばれているファイアスライムだった。
 ファイアスライムは器用に体を伸ばし、オラクガの手を叩いていた。


『それはコッチのセリフだ!!オレ様の料理を薄汚い手で直接触るってのはどういう事だ!せっかくの味が泥味になっちまうだろうかがよぉぉぉ!!!』


 そのファイアスライムはキレていた。
 彼はせっかく自分が味付けした料理の味がほんの少しでも変わってしまう事が許せなかったのだ。
 それは料理人としてのこだわりみたいなものだ。


「なら、一体どう食べればいいんだ」


 流石に、キレ返す事はしない。そこの所は冷静なオラクガだった。これも彼が幹部たる由縁かもしれない。
 オラクガの疑問に、リックが答えた。


「コレヲ使エ」


 リックが渡したのは串。竹ではなく木でできた串だった。
 リックは串をオラクガに渡し、使い方をレクチャーしてあげた。
 使い方を理解し、今度こそオラクガは料理を食べる事ができた。


「これは!?う、旨い!旨すぎる!!」


 よほど美味しいかったのか、オラクガは夢中になって皿の残りを食べ始める。
 わずかな時間で皿が空になる。オラクガは食事の旨さに感動した。


(食事とはこんなに素晴らしいものだったのか・・・)


 正直、たかが食事だとバカにしていた。
 だが蓋を開ければどうだ?魔王軍幹部、剛炎のオラクガが感動するほど旨い。
 オラクガは自分の無知を心の底から恥じた。


「シェフ。先ほどは失礼な事をしてすまない。今ならわかる。こんなに旨いもの味が少しでも変わってしまうのは確かに許せない事だろう。浅はかな行為をしてしまったゆるしてくれ」

『へっ!分かりゃいいぜ』

「すまない」

『へへっ!良いってことよ!』


 剛炎のオラクガは完全に料理のとりこにされてしまった。彼の胃袋は1人のファイアスライムにがっしりと掴まれたのだ。


『それより、どうよ?まだ作るんだが、食べていくかい?』

「いいのか?」

『もちろんよ!』

「それなら、是非お願いする!」

『へへっ!またあんたの満足する一品に仕上げてやるぜ!』

「ああ!よろしくたのむ!」


 オラクガは長年、誰も見たことのない表情でシェフの次の料理をワクワクしながら待っていた。それをワイシングが具現化した殺気のソテーを食べながら、微妙な表情で見ていた。


 彼らの食事はカケルが戻っくる時まで、続いた。


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