スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第96話 暴走する

「ねえ、どうしたの?」

「それが……」

何故か私の質問に、ジークと言う名の青年がすぐに答えてくれた。他の人間とは目も合わせないような素振りを見せる彼が、記憶がなくても私に対して友好的なのか私の目をじっと見て話してくれた。

「それが、まずいことに時の架け橋が暴走し始めています!」

「どうして?なんでや?」

タライさんが聞いたけどジークは反応しなかった。それに対してタライさんがなんでやねん!と声を漏らした。私は彼に聞いた。

「なんで時の架け橋が暴走を?」

「アルビンです!あいつしかおりません!」

「ちょっと待って!どうしてアルビン様が!?」

今度はドロシーさんが聞いたが、ジークはまたもや口を閉じてしまうと、ドロシーさんがなんでやねん!と言った……どうしてタライさんの真似をしたのか、ちょっと面白くて笑ってからまたジークに聞いた。

「どうしてアルビンって言う人が関わっているの?本当に時の架け橋が暴走しているの?」

ジークはすぐに私の質問に答えてくれた。

「アルビンの狙いは最初から時の架け橋です!我々は……マフィアというラベルを貼られてしまったが本当は、彼を止めたかっただけだ。しかしミスト様は悪い言い方をすればアルビンの言いなりだ。確かに我々は……資金を得るために非道なことをしてきた。しかし、本当はアルビンを止めたかっただけだ。シャリール様だって、本当は……クリード様、いえ先ほどドロシーから何があったのか聞きました。ヒイロ様、本当にここで偶々たまたま会うことが出来て良かった。探す手間が省けました。あの事までもお忘れになっていないことを願うのですが……あなただけが知っているのです!時の架け橋がアンリミテッドされた時のことを考えて、シャリール様は時の架け橋のストッパーを開発していたのです!その保存場所を!今知りたいのです!」

え……それはもしや、この曲に隠されていた場所に違いないと思った。皆が私を見る。家森先生が立ち上がって私に何か聞こうとしたが、外から大きな爆発音が聞こえて、地面が地震のように揺れた。

皆はお店の外に出て何が起きたのか辺りを見回した。向かいの建物から屋根瓦がポロポロと地面から落ちている。路地にたむろっていた人達も何事かと慌ててあたりを不安げに見回していた。まだずっと大きな揺れが続いている。これは地震じゃない。

「まずい……もし、時の架け橋が暴走しているのが事実なのなら、この世界が保てなくなるわ!」

ベラ先生の言葉に私もタライさんも驚いた。

「そ、そんな!じゃあその、時の架け橋のストッパーを使うしかないやんか!ヒーたんそれどこにあるか分かるんか?でも忘れてしもたんやろ!?」

「実はさっきの曲……いたっ!」

隣の建物から看板が落ちてきた。その衝撃で飛んできた石ころが私にぶつかったのが痛かった。

「ここにいては危険です!一度広い場所に、駐車場へ向かいましょう!」

家森先生の提案に皆が頷いて、とにかくここを離れて駐車場へ向かうことにした。
商店が軒並み並ぶ街道では、長く続く揺れにお店の人が看板を抑えていたり、悲鳴を上げて逃げ惑う人も、その場でしゃがんでいる人もいた。お年寄りや子どもたちを守るように衛兵さん達が安全な場所へと導いている。もう、街が混乱している。

まずい。これはまずい。まさかこんなことになるなんて。

ようやく駐車場に着くと、他にも同じことを考えていたのか人がたくさん押し寄せていた。

「あ!ほんまや……時の架け橋があかんくなってる。」

タライさんが遠くの空を指差して言った。私も見てみると遥か地平の先、イスレ山から聳え立つ水色の巨大な光がいつもよりも何十倍に膨れていて、魔力が暴走しているように見えた。

「……まずいことになりました。暴走しているのは本当のようです。このままだとこの世界が保てない。研究所に手段は残されているのか、真一に確認します。」

そう言った家森先生がポケットから携帯を取り出して操作をし始めたが、すぐに家森先生が首を振った。どうしたのか、メール打たないの?

「電波が通っていません……そうか!時の架け橋の影響です!」

ベラ先生が家森先生の肩をポンポンと叩いてから言った。

「私の携帯もダメのようだわ。皆のもきっとしょうでしょうね。ヒイロ、そのストッパーのあり方は知っているのかしら?さっき何か……」

そうだ!

「そうです!在り処知ってます!それが使えるのなら使うしかないですよね。さっきの曲を解読したら在り処が分かりました!」

皆の表情がパッと明るくなった。

「そうやったんか!ほんならそれを手に入れればあの状態が直るんか?」

私はそこまで詳しくないのでジークを見た。彼は他の誰かを見ようともせずに私をじっと見ながら話し始めた……もうこんな状況なんだから皆に向かって話せばいいのに。

「シャリール様の話ですとその機械さえあれば良いはずです!それを暴走している時の架け橋に投げ入れれば、あの暴走が食い止められます!ああ、さすがクリード様。曲にしてありかを残しておけばアルビンに見つからなくて済みますものね!さあ、ヒイロ様!在り処はどこですか?私が連れて行きます!」

私は頷いてから言った。

「うん!場所はイスレ山!」

皆が、え!?という表情をした。だって本当だもん……。

「ま、まあ灯台下暗しというものね。確かにそこに隠しておけば見つからなさそうだわ。」

ベラ先生がそう言いながらオープンカーの運転席に座った。

え?

「ベラ先生も行くの?」

「当たり前じゃないの!家森くんだって行く気満々でシャツの袖まくっているし高崎くんだってねえ「当たり前やーん!俺の美麗な水の防御壁をご覧あ」ほらみんな行くんだから、ヒイロ一人に危険な思いさせられないわ!」

優しい……そしてタライさんは言いたいこと言い終わる前にスルーされたことに頬を膨らまして怒ってる。そうだ、こういう時こそ力を合わせないと!そう思ってオープンカーに乗ろうとしたら、人ごみの中から声がした。

「待って!俺らも行く!」

「え?」

振り返るとそこには何故か、息を切らしたマーヴィンとエレンとジョンがいた。みんな私服で。何その意外な3人組。

人混みの中から突然現れた彼らを見て、目を丸くした家森先生が彼らに向かって言った。

「エレン達何故ここに……いえ、危険ですからあなた達は「何言ってるんです家森先生!行くって!地面が揺れて地震かと思って駐車場へ避難しようって皆で走って来たたら、さっきたまたまヒイロ見かけてスニーキングしてこっちきて、話聞いたら時の架け橋暴走してるって聞いたし……ふへぇ、止められるんでしょう?っとにかく付いて行くから!はあ、はあ!」

かなり走ってきたのかマーヴィンはめっちゃ息が切れている。でももうこの車にはもう乗る席がないのだ。

と思っていたらドロシーさんが彼らを手招いた。

「こっちきて!君たちはジークの車で行こう!でも怪我しても知らないからね!」

「ああ!」

とマーヴィンに続いてエレンとジョンが行こうとしたので私はエレンの腕を掴んだ。優しそうな瞳が私を見つめた。

「エレン、本当にいいの?危ないかもよ?」

「うん!ジョンのロボットには私が必要だから!イスレ山にはドラゴンだっているし、何があるか分からないから協力するよ!だってこのままだと世界が危ないんでしょう?行かなきゃね!ゴーゴー!」

ウンウン!と隣のジョンも言ってくれた。ああ、確かに頼もしい。それにこの混乱した状況の中の彼らのポジティブな雰囲気にとても元気付けられた私は嬉しくなって笑顔で頷いた。

それから少し気になったので、ドロシーさんの方へ向かおうとするマーヴィンに聞いてみた。

「ねえ、因みにどうしてエレン達と一緒に居たの?共通点がまるで見えないんだけど。」

「え?俺とエレンって幼馴染だけど?だからよくこの3人で出かけるぜ?環境学の授業だってエレンの隣に座るし。」

そうだったんだ……エレンと幼馴染だったんだ、知らなかった。だからジョンはあとから付いてきてその3人になったのね。意外な関係に納得して私はベラ先生のスポーツカーに乗った。

「そうとなれば急ぐでベラ先生!」

「そうね!」

我々を乗せた車は駐車場から空へと飛び始めると、真っ直ぐにイスレ山に向かってアクセル全開で進んだ。後ろにはジークの車と、他にも何台か車が山林や南の島に向かって飛んで行っているのが見えた。混乱している人々が逃げる為に車を走らせているっぽいけど、多分そっち行っても同じ状態だ。

イスレ山へ向かう間、不思議と私たちは何も話さなかった。皆が皆真剣な表情をしていて、その奥に不安が見えた。ぎゅっと握られている家森先生の手が冷たくなっていくのが分かった。それもそうだ、こんな状況になってしまって。もしその場所に機械がなかったらこの世界は助からない。

「あ、あれ見てや、やばいやん。」

タライさんの声に前方を見ると、イスレ山の周りを複数のドラゴンが飛んでいるのが見えた。威嚇射撃をしているのか山の頂上から魔弾の弾道が何本も見えている。

「あれはイスレ山に生息するドラゴンね。普段は温厚だけれどこの騒ぎだもの、ああはなるでしょう。どうしようかしら、あれでは麓に駐車出来てもロープウェーは使えないでしょうし。」

ベラ先生の言葉に、家森先生が前の座席に手を置きながら言った。

「そうですね……それに頂上にはアルビンと言う名の人間もいるでしょうから危険です。イスレ山に眠る機械を探し出して、しれっと暴走する時の架け橋に放り込めることが出来れば最高なのですが。」

それには私が応えた。

「多分ムリです。その機械は頂上近くの洞穴に隠されています。」

ええ!?とタライさんとベラ先生が同時に反応した。家森先生も私を驚いた表情で見ている。タライさんが髪の毛をかき上げながら言った。

「なんでまたそんなとこに隠して置いたんや!じゃあとにかくあの頂上付近までロープウェーで行かんとあかんやん!でもあのドラゴンの数、気付かれたら丸焦げにされるのがオチやで!」

「いや、それか」

そう言ってベラ先生が何故かガコガコとギアチェンジしてさらに車の速度を上げた。オープンカーなので風がやばい。

「もうこうなれば突っ込みましょう!一気に頂上付近まで行くわよ!」

『えええええ!?』

私とタライさんと家森先生の叫びがハモった次の瞬間、ブーストエンジンに切り替わった車はイスレ山に向かって突っ込んで行った。

あの時のバスと同様、ベラ先生は華麗なハンドル捌きでドラゴンの炎の弾を避けて、なんとか我々はイスレ山の頂上付近の岩がゴロゴロ落ちている地帯に……突っ込む!?

「ベラ先生!この速度だと車が……!」

私の言葉にベラ先生が何故か車の速度をそのままに運転席で立った。隣のタライさんも!?という顔をしている。ベラ先生は私の脇を抱きながらなんと……

車から飛び降りたのだった。

「高崎くん!家森くんをお願い!」

「うおおおお!?はいいいい!」

私を抱いたベラ先生は岩肌にうまく着地した。家森先生をお姫様抱っこしたタライさんも近くの地面にガニ股で着地したのが見えた。タライさんが一瞬痛そうな顔をした後すぐに、少し離れたところでベラ先生のスポーツカーがイスレ山にぶつかって爆発した。

「べ、ベラ……もうこれ以上はこういうことを繰り返さないでください。」

家森先生の震える声にベラ先生が笑ってから頷いた。

「ごめんなさいね、ほらドラゴン達の気が爆発で逸れている間に、その機械を探しに行きましょう!」

はい、と我々が応えたその時だった。同じ軌道でジークの車までもがイスレ山に突っ込んでしまったのだ。爆発音に驚く我々のすぐそばに、ジョンを抱えたジークとエレンを抱えたマーヴィン、ドロシーさんが着地した。

なんでこっちの真似をしてイスレ山に突っ込んだのか謎だし、なんでジョンがエレンを支えていないのかも謎だった。同じことを思ったようで含み笑いのタライさんと目が合った。

「いやあ、学園の先生なのに大胆なことしますね!でもこれが一番効率的だと思ってジークに我々も突っ込むよう頼んでしまいました。ふふ。」

ドロシーさんが微笑んだところで頂上から一際大きな発砲音が聞こえた。まずいことになっているのかもしれない。

「とにかく急ぎましょう!」

私の言葉に皆が頷いた。

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