スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第87話 近づく家族

それまで他愛のない話をしていた家森先生だったけれど、車で街に着いてからは急に静かになってしまった。それはきっと緊張しているからなのだと思うけど……。

手を繋いで歩いて行く。段々と施設に近付くにつれて、私の手を握る先生の力も徐々に強くなっていくのが分かった。終いには少し痛いまでになったけど、グッとこらえて私も彼の手を軽く握り返した。

もうずっと無言だ。空は雲ひとつない快晴で、広場もいつものように賑わっている。だけど我々を支配しているのはただの静寂だった。

ぎゅっと固く握られた彼の手の、腕の部分を私はもう片方の手でさすった。すると私の方を見て家森先生が微かに口角を上げてくれた。それほどに、彼にとって会いに行くという行為自体が大変なことだったんだと今気付いた。

街の賑わいが段々と消えていく。路地を歩き続けて、施設の門の前に着くと家森先生は立ち止まってしまった。

「すみません」

そう言って私の手を解いて、脇道へ歩き、胸に手を当てて呼吸を整え始める。その顔は青白い。もうこんな状態になるなんて、もし本当に和豊さんが一緒に暮らすことになっていたら、どんなに大変だったことかと思った。

とにかく何か気を紛らしたほうがいいのかもしれないと思って、私は彼のお陰で自分に備わったスカイブルーの魔法陣を見せることにした。そして、私の魔法陣を見て家森先生が微笑んでくれた。

「ありがとう。ふふ、ヒーたんのこの魔法陣のおかげで、学園での生活、学園での自分を思い出しました。ありがとう。さあ、行きましょうか。」

そして家森先生は私の手を取って、施設の中へと歩みを進めた。

「あ!あら……家森さん」

いつもの白いカーディガンのお姉さんだ。私のことを覚えているのと家森先生のことも知っているらしく、交互に我々を見つめてきた。

「面会お願いします。」

私の言葉に受付の人が笑顔で頷いて先に歩いて案内してくれた。

部屋の前に着いたけど、気が付けば家森先生は少し離れたところで立ち止まっていて、また胸を押さえて大きく息をしていた。受付の女性が私に言った。

「今日はご家族皆さん来てらっしゃいますよ。賑やかです。」

「そうなんですか……。」

そう言われるとなんか私の方が緊張してきた……いやいや、それよりも家森先生だ。私は彼に近づいて背中をさすった。

「何があってもお出かけヒイロちゃんが側にいます。」

ははっと家森先生が笑いを漏らした。そのくしゃっとなった笑顔、とても好き。

「……バレましたか。母め。何もヒイロに話さなくても……実際に、あなたの名前がスカーレットだということを知り、髪の毛も綺麗な緋色のあなたを見て、幼い頃の僕のパートナーだったヒイロちゃんを思い出したところは……あります。僕の大事にしていたヒイロちゃん。まだ物置にありますが。」

「そうなんですか……。」

「だから興味を持ったというところもあります。それ以外に、あなたはとても楽しくて話をしていて面白いと感じることも大きいのですが」

「もしかしてじゃないですけど、私がヒイロちゃんと同じ名前で、似たような毛質だったから興味を持ったんですか?」

「……キッカケとしては否めません。僕はばかです。」

「ばかじゃないですけど……」

……けどちょっと驚いた。私がお出かけヒイロちゃんに似てたから興味を持ったのか。その事実が結構複雑に私にのしかかってるんですけど。

「嫌になりましたか?」

「え!?いやまあ、人が誰かに興味を持つって単純な理由が多かったりしますよね。私は何故か家森先生の名前を知ってたし……」

家森先生が頷いた。

「そのようですね。過去のヒイロはどうして僕を知っていたのか、その理由が気にはなります。しかしもし過去に一度お会いしていたとしたら、僕は覚えているはずです。こんなに可愛らしい人間、一度出会ったら手放したくはありません。お近づきになれるまで僕はしつこく付きまとったでしょうから。」

「ああそうですか……」

何だろう、嬉しいけど複雑な気持ちだ。実際につきまとわられた気もするし。いや、彼にはお世話になったんだからそう思っちゃいけない。ああ、やっぱり複雑で、私は苦笑いしながら頭を抱えていると家森先生が微笑んでくれた。

「ふふ。それと誤解をしないで頂きたいのは、ヒーたんがヒイロちゃんに似ているから可愛らしいのではありません。ヒーたんはその目も唇も頬も、性格も仕草もその全てが可愛らしい。あなたを知っていくうちに、僕はその愛らしく小さい頭を自分の胸に抱き寄せたいと強く願うようになりました。」

……そうまで言われたら嬉しくなる。それに顔が熱くなる。それを隠したくてそっぽ向くと、家森先生が私の手を握ってまた歩き始めた。

「ふふ、それでは行きましょうか。兄弟も皆揃っているとのことですから、あなたに紹介したいと思います。」

私は家森先生の後について歩き始めた。

しかし、部屋のドアの前でまた家森先生が立ち止まってしまった。頭が痛いのか額を押さえていて苦しそうだ。

「……申し訳ないが、先に入ってくれませんか?」

「え?あ、はい……」

私は彼に頼まれた通りに、その重いドアを開けて先に中に入った。

ベッドに和豊さんがこの前よりも顔色のいい表情で座っていて、そばのパイプ椅子に秋穂さんが座っていた。壁に寄りかかるようにして立っているのは真一さんで、その隣に優しそうな男の人と、真面目そうな眼鏡の男の人が立っていた。皆は私の背後に立っている家森先生を見ると一気に目を見開いた。

「兄さん!」

真一さんたちの声が一斉に響いた。すぐに秋穂さんはぽろりと涙を流し、和豊さんは立ち上がって頭をかいてバツの悪そうな顔をしている。私が家森先生の方を振り返ると彼は無表情で俯いたままだった。

その姿を見ていた真一さんが口を開いた。

「兄さん……ごめん、父さんの前でいうのも何だけど今の兄さんの様子を見て、これほどまで負担になることだったのかと思うと、兄さんと一緒に暮らせばいいなんて言ってた自分が情けないよ。ごめん。」

ごめん、俺もと後の二人が言った。立ち上がっていた秋穂さんが近寄って、家森先生の手を握った。

「欧介……本当にごめんなさい。私がうまく支えてあげられませんでした。全ては私の責任です。あなたを苦しめたのも私です。今までのこと、本当に申し訳ありませんでした。特に欧介には弟たちの面倒もさせてしまいました。和豊さんに当たられたこと、とても辛かった事でしょう。それにもかかわらず、大人になった後も彼はお金の面で迷惑をかけました。」

「……お金は構いません。」

彼の弱々しく掠れた、小さい声だった。秋穂さんは続けた。

「……償おうと思っても償えることではないと、私も和豊も考えています。」

和豊さんも立ち上がり、その大きな声をちょっとすぼめて家森先生に話しかけた。

「父さん、本当に悪いことをしたよ……欧介たちみたいに俺は利口じゃないから、この歳にならないと分からなかったんだ。でもそんなのは言い訳だ。お前は悪くないのに、何もかも押し付けて悪かった。一番悪いのは俺だ。何もせず、当たるだけ当たってしまって、それが当たり前なんて思ってしまって。許される事じゃない……」

震えた声に皆が和豊さんの方を見ると、そのクマさんのような瞳から涙が流れていた。

「な、なんて、馬鹿なことをしてしまったんだと……毎日思い続けてる。」

ティッシュを何枚かささっと引き抜いて和豊さんが涙を拭いた後に鼻をかんだ。その仕草が、以前医務室で私が床に落としたオレンジを拾う時に家森先生がティッシュを引き抜いた仕草と全く同じだった。

和豊さんが家森先生を見つめると他の皆も家森先生を見つめた。しかし先生は無言で俯いたままだった。この状況、もしや私がいない方が話しやすいのかもしれないと思った。

「もし話しにくかったら私、外で「いてください。」

家森先生にガシッと腕を掴まれたので、この場にいることにした。和豊さんが何か聞こうと口を開こうとするたびに秋穂さんが睨んで止めているのが目に入った。

そしてとうとう家森先生が話し始めた。

「……僕は、何もしていないのに。当たられました。」

ああ、と皆思っただろう。それは色々な感情が含まれている。

「しかし……真一、武仁、統が僕のことを慕ってくれていたことが、僕の元気の源だった。医師を目指したのも、教師になったのも、あなたたちのおかげです。」

その言葉を聞いた真一さんたちがポロポロ涙を流し始めた。きっと生まれて初めて、お兄さんの気持ちを聞いたのだろう。私も涙目になるけど堪える。

「真一たちに、お勉強教えてくれてありがとうって言われることが嬉しかった……僕は必然と勉学に励みました。しかし……」

眉間にしわを寄せながら、涙を一粒落としながら、家森先生が言った。

「僕は、僕は、誰にも頼れませんでした。」

ああ。辛い気持ちが部屋を支配している。私もそれをただ感じながら、涙をこぼした。涙を指で拭った家森先生が一呼吸の後に、続きを話し始めた。

「再婚するというお話ですが、正直な気持ちを申せば不安です。しかしその様子から父も以前の父ではありませんし、母も違います。昔のことは到底許せはしませんが、これからのこと……応援はしています。僕からは以上です。」

家森先生の手を握っている秋穂さんが震える声で言った。

「欧介……話してくれてありがとうございます。許せないというあなたの気持ちも理解します。もう迷惑をかけないことを、私と和豊で何度も心に誓って決めました。今まで、支えてくれて本当にありがとうございました。」

家森先生の二の腕を和豊さんがそっと手でさすった。

「欧介、お前をほんとうに苦しませた。俺は死ぬまで、お前に償いたい。絶対にもう迷惑をかけない。」

家森先生は赤くなった眼で顔を上げた。しかし誰とも目を合わせていない。

「そうですか……分かりました。迷惑をかけないという言葉を僕も信じています。いえ、本当は信じられないのですが、応援はしています。何かあれば……また頼ってください。僕はいつまでもあなたたちの家族です。」

家森先生の言葉に秋穂さんと和豊さんが声を上げて泣いてしまった。そして真一さんたちが泣きながら家森先生にハグをした。

「兄さん、今までごめん……俺の最高の兄さんだよ。」

抱きしめながら家森先生が応えた。

「ありがとう、真一、大好きです。」

そして次に真面目そうな丸眼鏡の男性が彼とハグをした。

「大好きだよ兄さん。支えてくれてありがとう……今度から俺が何かあったら支えるから。今まで頼ってばかりでごめん。」

「ありがとう僕も武仁のこと大好きです。」

最後に優しそうな雰囲気の男性がハグをした。

「俺も……兄さんのこと、支えられるように頑張るから。ありがとう兄さん……大好きだよ。」

「ありがとう、僕も統が大好きです。」

そして秋穂さんとハグして、和豊さんとは握手をした。四方八方から大好きや愛してると言った言葉が飛び交い始めた家森家をその場に残して、私は部屋を静かに出て行った。忍者のように。


*********



「おや、ヒイロはどちらに行きましたか?」

母の声に僕はハッとした。彼女がいつの間にかいない。僕が、愛してるを連発する弟達や謝り続ける父に困惑している間に何処か行ってしまったようだ。

皆もあれ?あれ?とキョロキョロしている。しまった、彼女に気を遣わせたか。今どこにいる、気になって仕方ない僕を察してくれたのか、母が背中を押してくれた。

「彼女を追ってください……それと、今日は研究所に来られますか?」

あんなに涙を流した母を僕は一度も見たことがない。父の涙もだ。ここにいるのが本当に僕の家族なのかと、何度思ったことだろうか。

「分かりました。それと今日は研究所にも行く予定です。お願いします。」

ぎゅっ

ハッとしてしまった。父さんが僕の手を握っていた。ゴツゴツとした大きな温かい手だ。

「ありがとう欧介。また会いたい。」

コクっと頷いた僕は言った。

「なら、また夏休みにでも少し会いましょう。それまで東京で頑張ってください。」

やり取りを聞いていた母が少し笑った後すぐに真剣な表情になった。何のことを話すのかと僕も真剣な表情になる。

「それと、あの子を絶対に逃してなりません。欧介、何のことか分かりますか?」

そうだそうだと真一達がニヤニヤした顔で囃し立てる。僕は、はあと息を吐いてから言った。

「重々承知しています。しかしタイミングが……」

「何がタイミングだ!この色男が!」

そういって僕の肩をドスンと叩いてきたのは父だった。もうどうしたことか、性格まで明るくなってきているようだ。

もしかしたらそれは……僕と同様に、心を照らされるくらいに眩い緋色の陽の光を浴びたからなのかもしれない。それはこの地下世界で見つけた、紛れもなく美しい太陽だ。

僕は皆に微笑んで一礼をしてから部屋を出るとすぐに、外で待っていた先程の受付の女性が涙を流しながら僕の肩をバンバン叩いてきた。ああ、どうやら一連のやり取りを聞いていたらしい……。

「なんか、分からないけど良かったですね!うっ……あ、あとあの女の子なら噴水広場の方へ行きました。」

「ああ、そうですか。ありがとうございます。」

僕は急いで通路を早歩きして噴水広場まで向かった。どうして僕達をそのまま置いていったのか、しかしそれでも家族は温かい空気に包まれたままだったが。

噴水広場に着くと、誰もいない庭園でヒイロが噴水の水に手を突っ込んでいるのが見えた。全く彼女は僕の予想通りに行動しない……それが面白いのだけれど。

ふふ、と笑いを漏らして僕はゆっくりと近づいた。どうやら彼女は僕に気づいていないようだ。

「……意外とここの水、汚いですよ。」

「え!?」

勢いよく振り返った彼女は僕のことを見ると、恥ずかしかったのか口を尖らせてしまった。

「何をしていますか、勝手にいなくなったりして、こんなところに指を突っ込んで、僕の家族をおかしくして。」

「……どれから謝ったらいいのか分かりませんけど、そうですねぇ……私も勝手に関わってしまって申し訳ないと思ってます。それにあの場に置いてくれてありがとうございました。私にも家族というものが少し分かった気がするので。」

今の彼女には家族がいない。それなのに僕の家族のことを、僕のことを考えてくれた。それがただ単純にありがたかった。

僕はヒイロを抱きしめた。公共の場で、という理由で彼女は慌て始めているがそれごと僕は抱きしめる。

「ヒイロがいてくれたからです。あなたのおかげで家族皆が素直になれた。僕も本心を伝えることが出来ました。本当に、あなたは英雄です。僕のヒーローヒイロです。」

「はっはっは!それは面白い!」

やった、僕の冗談に笑ってくれた。ちょっと高崎を出し抜いた感がして嬉しい。まあ僕にはそれ以外の点でも出し抜いていることがいっぱいあるけれど。

そう。やはり僕のそばにいてほしい。ハグもキスも手を繋ぐのも……それを許すのは僕だけにしてほしい。それを約束できる方法は一つしかない。

僕は真剣な眼差しでヒイロを見つめた。見つめ返してくれるヒイロの黒い眼がとても綺麗で吸い込まれそうになる。

「ヒイロ……」

「はい?」

「僕とお「あああーっ!」

……誰だ。

グルンと声のした方を振り向くと、そこにはこちらを指差した真一が立っていた。ああ、やはりあいつの声だったか。

そしてその後ろには武仁も統も……母も父もいる。それにあの受付の女性だ。皆が皆ニヤニヤして我々を見つめて立っていたのだ。ああもう……。

僕は恥ずかしさから手のひらで頭を抑えてヒイロから遠ざかった。

「何だ!兄さんとヒイロちゃんはやっぱ付き合ってんじゃん!」

「え?付き合ってませんよ。」

彼女の言葉に真一が驚いた顔をした。

「え!?そうなの!?何で!?」

何故それをヒイロに聞く。ああもう……いっつもいっつも、タイミングが。

「何でって言われても……まだ付き合える段階じゃないから」

え?

え?

僕の反応が面白かったのか、真一が僕を指差して笑い始めた。あの時彼に対して大好きなど言わなければ良かった。ついでに愛してるも取り消したい。

「欧介の何が悪いんだい?ヒイロちゃんよ。」

父よ!そういうお節介はやめてくれ……僕はさらに頭を抱えてヒイロから遠ざかると、それを見ていた他の人間が笑い始めた。

「べ、別に悪いことないけど……実は私が記憶喪失なので、私がどう言う人間なのかはっきり分かるまではこう、仲良くしても真剣にお付き合いするべきじゃないと思ってて。それは家森先生のことは大切に想っていますし私のこともそう考えてくれたらと思う時もありますよ?でも、もしかしたら私にやばい過去があるかもしれないし、そうだったら真剣にお付き合いてしてるのに家森先生が可哀想じゃないですか。あ、でも記憶喪失自体に関しては私はそんなに気にしてないっていうか、家森先生がいつもとてもお世話してくれますし、色々教えてくれるので。でも不思議に思うのはお仕置きで首筋「あああ〜!」

ペラペラと話し始めたかと思えば突然何を言い出すんだヒイロ!?それは相手が家族であったとしても知るべき事じゃない僕の一部分だ!僕は思わず叫んでしまった。それは家族に言うべき事ではない……!

僕の剣幕にヒイロが悟ったのかああそうでしたか、とおかしな顔で呟いて首を振った。もう他の人々は大爆笑している。それもそうだ、いつも冷静な僕がこんな振り回されているのを見られるんだから、それは見てて楽しいだろう。

「しかしヒイロちゃんは記憶がないのか……だとしたら確かに関係を急かしちゃ可哀想だよな。まあ別に、もし過去のヒイロちゃんが犯罪者だったとしても俺的には今のヒイロちゃんが好きだから大歓迎けどな。欧介、あまりチンタラしちゃダメだぞ。」

急かすのか止めるのかどっちなのかはっきりしてくれ。応援していると言う気持ちだけは伝わってきたが。

「わかってますよ……ですからこの状態なんです。え?」

するといつの間にか後ろに立っていた母が僕に囁いた。

「先程申したことを理解していますね?」

僕も小声で返した。

「ですから……タイミングが。分かっていますから。」

「それなら構いません。遅かれ早かれ、必ず任務を遂行しなさい。」

もう、これは地下世界のクイーンから与えられた任務になってしまった……しかしそれほどまでに、皆ヒイロを気に入っているし、僕も気に入っている。

父の意見と僕も同じで、もし彼女が犯罪者だったとしてもそんなことは関係ない。僕のお気に入りは彼女しかいない。

「ヒイロ」

母の声に僕も皆も、母と見つめ合うヒイロを見た。

「はい?」

「プレーンの検査をしましょう。あなたは私の家族のような存在ですから、私は心配です。嫌だと言うのならクイーンとして命じるまでです。」

そこまであの母がヒイロを好いていたとは……少し驚きではある。彼女はふふ、と微笑んで言った。

「嫌なはずありません!検査お願いします。秋穂さん、ありがとうございます。」

「なあちょっといいか?」

今度は父の声だ。皆がそちらを向く。

「あっちゃんって、クイーンなの?何のクイーン?え?この世界で一番偉いの?そんな訳ないよな?な?な……え?そうなの?あ、ああ……ああそうでしたか。」

あっちゃん……母のことをそう呼んだことで真一がオエエ、と反応している。それに父さんが真実を受け入れるまでの流れが面白いように感じた。

中々、僕たちも普通の家族に近づいたようだ。

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