スカーレット、君は絶対に僕のもの
第88話 プレーン検査
検査は町の中央研究所の真一さんの研究室で行うことになった。もうすでに秋穂さんの指示の下、真一さんや他の研究員の方々がバタバタしながら協力して何かの機械を動かしている。
でっかいモニターには波状のグラフが表示されていて、どうやら私の体の魔力とリンクしているらしい……そう言う話を研究員の方々が話しているのを耳にした。
真ん中の台の上に私は寝そべっていて頭にも胸にも腕にも、とにかく全身に何かんパッチがつけられていて動くことを禁止されている。
そして私の右手を両手で包みながら心配そうに側で私を見て立っているのは家森先生だ。
「もう、ここまでくると僕の知識の範囲外です。ベラなら魔工学に詳しいので何がどうなっているのか分かるのでしょうが、僕は魔工学を基礎程度しか知りませんから……ああ、もう少し勉強しておけばよかったのですが。」
あまりにもキョロキョロして心配そうな家森先生に私はつい笑ってしまった。ある時は魔王になって、ある時は冷酷な制裁者なのに、ある時は甘えん坊で心配性になる。
「何をニヤニヤしていますか。こんな時に」
「いやぁ、色んな家森先生がいるのでちょっと可愛いなと思って。」
「……。」
彼は照れた表情を見せた。もう全部ひっくるめて可愛いと思う。
「……帰ったらあなたのこと「あ!兄さんもう準備出来たよ!」
真一さんがお父さん譲りの大声で我々に駆け寄りながら手を振ってきた。その笑顔が眩しい。でも彼が家森先生の表情を見るとその笑顔が消えた。多分、お話の途中で遮られてしまったから、真一さんを睨んでるのだろう。
「……まあいいや。とにかく今からプレーン検査するから。ヒイロちゃん動かないでね」
「はい。痛かったりしますか?」
私の質問に真一さんは答えてくれなかった。と言うのもプレーン検査をするのは研究所としても久しぶりのようで、皆が皆マニュアル片手に作業しているからだ。そのマニュアルをじっと読んでいて私の問いに答えてくれなかった。その様子からしてちょっと不安なんだけど……。
秋穂さんが私に近づいてきて微笑んでくれた。
「バタバタしてしまい申し訳ありません。実はプレーンの検査自体稀なことで、最初にこの世界が出来た時に検査機を使用していたぐらいで今の研究員は皆、検査をした経験がないのです。」
へえ、そうなんだ……。家森先生が思案顔になって聞いた。
「ちなみにヒイロのプレーンに何か気になる点でもありますか?その点は具体的には?」
秋穂さんが家森先生の方を見て答えた。二人並んでると美男美女だなぁ。
「……今はなんとも言えません……調べたらはっきりと「所長!少しいいでしょうか?」
はい、と答えて秋穂さんが研究員達が操作しているパネルの方へ向かってしまった。とにかく検査したら何か分かるかもしれないんだ。やるしかないよね。
「オッケー!もう準備出来たよ!測定は5分くらいで終わるからその間あまり動かないでくれよ!」
にっとした笑顔の真一さんに私もほほ笑み返した。あまり動かないようにしなきゃ。私はじっと天井を見ることにしたが、まだ家森先生が私の手を繋いでいるのが分かった。
「……家森先生、もう手を離しても大丈夫ですよ?」
「僕が大丈夫ではありません。もし検査中にあなたの魔力が大量に漏れ出たらどうしますか。そうなった場合にすぐにあなたに魔力をチャージ出来るようにこうしてスタンバイしています。」
ああそういうことだったんだ……私はもう一度だけありがとうと言った。秋穂さんがモニターを見て指示を出す。
「それでは測定をしてください。第2シャフトをオンに。」
「はっ」
すげえ……何してるかわからないけど、秋穂さんはやっぱすごい気がする。さすがクイーンだ。
キュイイイイン……
青白く光り輝く私の体。そしてモニターには波状のグラフがうねうねと動き始め、数字がクルクルとカウントを始めた。
それをじっと見つめる研究員達。何も話さないのは順調な証拠なのだろうか。ちょっとぐらい話してくれてもいいのに。
3分ぐらいたったところでうーん、と声を出して真一さんが頭をかきはじめたので家森先生が聞いた。
「どうしました?真一。」
「……キャパシティの数値が異常だ。異常すぎる。こんなに異常な数値は見たことない。」
「ええ?それはどう言うことですか?」
「ちょっと待って……」
そう言った真一さんは他の研究員の方々と共に、モニターを難しい表情で見ては何やら真剣に話し合っている。秋穂さんも少し離れた場所からじっとモニターの数値を見ていて、みんなの雰囲気から何かちょっと私のプレーンに起きているようだった。
それを家森先生も悟ったのか、私の手をぎゅっと握る力が強くなった。
測定が終わったのか私を包む青白い光が収まって、研究員がモニターのデータを観察し始めた。うんと頷いた秋穂さんがこちらにコツコツと歩いてきて、言った。
「率直に申し上げますと、ストッパーが欠損しています。」
「は!?」
家森先生が大きな声を漏らして驚いてしまった。ストッパーって何?という私の顔を見たのか、真一さんがこちらに近づいてきて説明してくれた。
「ストッパーっていうの制御装置のようなものだ。プレーンにそれがあることで人々は魔力を暴走させずに済んでいるんだが……ヒイロちゃんのプレーンにはそれが全く無い。まだこの検査では壊れて破損した理由は分からないけど。」
「そうなんですね……」
体を起こしてから自分の肩を見つめた。この中にあるプレーンは壊れてて、ストッパーが無いんだ。じっと見つめていると家森先生が真一さんに聞いた。
「では、彼女の魔力はいつ暴走してもおかしく無いということですか?」
「うーん、でもまあそんなに魔力を大量に使うことなんてないでしょ?でもあまり使わない方がいいかもな。」
そうなんだ……じゃあこれからはあまり魔法を使わないほうが良いんだ。実戦の授業をお休みできる理由が出来たな……いやいや、そんなことを喜んでる場合じゃないよ。
台から降りた私の手を家森先生が握ってくれた。
「ではこれからは極力魔法を使わないように気をつけなくてはなりませんか。それと、後からストッパーを加える方法はありますか?」
家森先生の質問に答えたのは秋穂さんだった。
「今のところはありません。これからその方法を探っていくしかありません。そもそも、プレーンをこのように器用に壊すには、膨大な魔力が必要です。それは何百、何千もの人が集まって同じ属性を放ってもまだ足りない程に膨大な力です。それほどにこのプレーンは壊れることのないよう設計されています。それが壊れてしまうこと自体が我々からしたら考えられないこと。もしや、膨大に魔力を備えている場所に行ったことが原因でヒイロのプレーンが壊れたのかもしれない。」
私は聞いた。
「それは例えばどこですか?」
「それが時の架け橋です。あれは膨大な魔力の無属性の柱ですから……しかし、徹底的に安全を管理している架け橋に、利用者のプレーンを破壊するなどという、そんなバグが発生するとは考えられませんが。」
うーん、と真一さんと秋穂さんが考え込んでしまった。家森先生は二人に聞いた。
「それではヒイロが架け橋を使用している間に何らかのバグに巻き込まれてプレーンが壊れた。そしてプレーンが壊れた衝撃で記憶も無くしたと。そういうことですか?」
秋穂さんが頷いた。
「地上でヒイロの瞳を見たとき、黒色の奥に紅く煌めくものが見えました。それはヒイロの体に普段の生活では受けないような魔力が注がれたことを意味します。その結果、記憶を無くしたのだと私は仮定します。このようにプレーンが壊れていますし、原因としてはそれが正解に近いと思います。しかしバグなど、ある訳が無い……と言ってもこれが事実ですから、研究所はこれから徹底的に架け橋を点検しなければなりません。ヒイロごめんなさい。」
いきなり謝り始めたので私は慌てて首を振った。
「いえいえ、まだ理由がそれで決まったってわけじゃないですし。とりあえず私は魔法をあまり使わなければ良いのですから。あと、私を知ってる人を探して見つかったら、何が起きたのかとか分かると思うので。とにかく研究所のせいではないです。」
「……しかし、点検はします。ハミルトン、同じような症例を持った方がいないか病院にも連絡してください。」
「はっ」
話を聞いていた研究員の方々が秋穂さんの命令でバタバタと動き始めた。秋穂さんが言った。
「……ヒイロ」
「はい?」
「……これはプレーンとは関係ありませんが、夏休みの件です。」
「夏休み?」
急に何だろうか……確かに、もうすぐ夏休みだけど。
秋穂さんがちょっと照れた表情になったので、そばにいた家森先生と真一さんがあまり見ない母の様子にちょっと戸惑っている。一体、何を言い出すんだろう。
「……もし予定が無いのでしたらヒイロも欧介と一緒に遊びに来てください。そして家族として過ごしてみませんか?」
ああ、そうか……私がまだ家族がいないから気にかけてくれたんだ。なんだか本当に優しくて、微笑んでしまった。
「ありがとうございます。じゃあ……行きます。」
研究所の制服のポケットからメモ帳を取り出して秋穂さんがペンで何かをスラスラと書いた後に私に渡してきた。筆記体で書かれたメールのアドレスだった。ちょっと笑った。
「私の連絡先です。欧介に言えないことでも、私に連絡してくれて構いません。それでは業務に戻ります。欧介、ヒイロ、お気をつけてお帰りください。研究所の外へは真一、案内しなさい。」
「ありがとうございます!」
検査もアドレスも……なんて付け足す時間もなく、秋穂さんは他の研究員と共に部屋を出て行ってしまった。
「……母さんの中でヒイロちゃんが俺たちより待遇いいのはなんでなの?」
真一さんの言葉に笑ってしまった。確かに、そうかもしれない。
そして真一さんに案内されて入り口まで戻ってきた。研究所の外はまだ青い晴空が広がっていて、外の空気が心地よい。
「じゃあ、また……あ、そうだ。ヒイロちゃん。」
「はい?」
真一さんが私に駆け寄ってきて何故か私の両手を掴んできた。何故か分からなすぎてちょっと戸惑ってしまう。
「……こないださ、ひどいこと言って、ひどいことしてごめん。ほら、職員寮の前で俺がした事を覚えてる?怪我してない?ごめん。」
ああ、あの時のことか……言えるだけの人間はいいよなって私を突き飛ばした時のことね。忘れてたよ。私は笑顔で首を振ると、それを見た真一さんも笑顔になってくれた。
「大丈夫です。忘れてましたし、もう気にしてませんでしたよ。」
「ひどいこととは具体的にどのような発言もしくは行動のことですか?」
「ゲッ」
隣のお方から冷ややかな視線を受ける真一さんが冷や汗をたらりと流したので、私は彼をかばおうと思って発言した。
「もう気にして無いですし、私も悪かったんです。もう終わったことですから!ね!さあさあ帰りましょう」
睨み続ける家森先生の腕を掴もうとした……が、ガシッと真一さんに両手を掴まれたままでつまずきそうになった。
「え?」
「ヒイロちゃん、」
なになに!?と思っていたら、ぐいっと真一さんの方へ引っ張られてバランスを崩してしまった。それにより私は真一さんの方へ倒れ込んだのを、彼が体を使って受け止めてくれて、
頭をガシッと掴まれてキスされてしまった。
しかも圧がすごくてちょっと痛いぐらいのちゅうだ……ヒゲも刺さってきて痛い……でも地味に家森先生と似た匂いがする……いやいやいや!?
「んんん〜!?」
バタバタと抵抗していると、私の援軍がすぐそこからやってきた。彼は見たこと無い鬼の形相で真一さんの胸ぐらをぐわしと掴んだ。
「貴様ァァァァ!」
ブンブンと首を振って命乞いする真一さんはとっても青白い顔をしている。振りかぶった状態の家森先生の拳がミシミシいっていて血管が浮き出ている。
「お助け!なんで!?別に付き合ってないんでしょ!?」
「真一は何を聞いていたんですか!今までの雰囲気でヒイロはもう僕のものだと分かりませんか!もう血を分けた弟とて容赦しません!四肢の骨を粉々に砕いて両手両足を蝶々結びにして差し上げます!」
こえええ!私はちょっと笑いながら止めに入ることにした。さっさっと手のひらを挟んで様子を見ながらだけど……。
「ちょっと、もう怒らないでください……」
私の声は聞こえてないかもしれないくらいに小さいものだった。それが聞こえたのか、真一さんがもっとがんばれよお前みたいな目で見てきた。だったらこんなことしないでよあなた……。
「い、家森先生ちょっと」
「グエエ」
やばい!遂に首締め始めた!これはやばい!私は家森先生の腕を掴んで止めようとする。
「ダメダメ!死んじゃうよ!だめ!家森先生だけだから!家森先生だけだから!」
なんでこんなこと公共の場で叫ばないとならないのか。それは真っ赤な顔をして、もがき苦しむ彼を救うためである。そう、顔が真っ赤になった彼にもう一度新鮮な空気を吸ってもらうためである。
「……もう繰り返しませんか?」
こくっ、こくっと真一さんが頷いた。
「ほら!もうやめて!やめないと……来週お泊まり無しにしますよ!」
私の言葉に家森先生が真一さんを解放した。地面に座り込んでゲホゲホする真一さん。どちらかと言えば彼の方がガタイもいい気がするけど、そういうのあんま関係ないんだね、キレた家森先生には。
「ハアハア……俺だってヒイロちゃん可愛いと思うもん。」
「大体あなた彼女と同棲したばかりと言ってましたよね?」
そうだよ!そうそう!何してんのこの人!真一さんは立ち上がりながら言った。
「……昨日別れた。そして彼女は出て行ったよ。」
ああそうなんだ……それは悲しいね。でもその悲しみを私にぶつけないで頂きたい。
「もうヒイロに手を出さないでください。僕のですから。それでも分からないのならば、身を持って知らしめても構いませんよ?」
「いや……もう分かったから、もう兄さん怖いから。ごめんだから。」
ごめんだから……いい言葉だと思った。もらおっと。
真一さんがトボトボと歩いて研究所の中へ戻って行ったので、私も門の外へ行こうとした時に、家森先生に引き寄せられて顎を掴まれてキスされてしまった。もう街の人見てるのに……。
「みんな見てますよ。」
「……しかしすぐに上書きしたかったので。すみません。さあ行きましょうか。」
そっか、すぐに上書きしてくれたんだ。ちょっと嬉しかった。
そして歩き始めた彼の横顔がいつになく優しい微笑みをしていて、もっと私は嬉しくなった。
でっかいモニターには波状のグラフが表示されていて、どうやら私の体の魔力とリンクしているらしい……そう言う話を研究員の方々が話しているのを耳にした。
真ん中の台の上に私は寝そべっていて頭にも胸にも腕にも、とにかく全身に何かんパッチがつけられていて動くことを禁止されている。
そして私の右手を両手で包みながら心配そうに側で私を見て立っているのは家森先生だ。
「もう、ここまでくると僕の知識の範囲外です。ベラなら魔工学に詳しいので何がどうなっているのか分かるのでしょうが、僕は魔工学を基礎程度しか知りませんから……ああ、もう少し勉強しておけばよかったのですが。」
あまりにもキョロキョロして心配そうな家森先生に私はつい笑ってしまった。ある時は魔王になって、ある時は冷酷な制裁者なのに、ある時は甘えん坊で心配性になる。
「何をニヤニヤしていますか。こんな時に」
「いやぁ、色んな家森先生がいるのでちょっと可愛いなと思って。」
「……。」
彼は照れた表情を見せた。もう全部ひっくるめて可愛いと思う。
「……帰ったらあなたのこと「あ!兄さんもう準備出来たよ!」
真一さんがお父さん譲りの大声で我々に駆け寄りながら手を振ってきた。その笑顔が眩しい。でも彼が家森先生の表情を見るとその笑顔が消えた。多分、お話の途中で遮られてしまったから、真一さんを睨んでるのだろう。
「……まあいいや。とにかく今からプレーン検査するから。ヒイロちゃん動かないでね」
「はい。痛かったりしますか?」
私の質問に真一さんは答えてくれなかった。と言うのもプレーン検査をするのは研究所としても久しぶりのようで、皆が皆マニュアル片手に作業しているからだ。そのマニュアルをじっと読んでいて私の問いに答えてくれなかった。その様子からしてちょっと不安なんだけど……。
秋穂さんが私に近づいてきて微笑んでくれた。
「バタバタしてしまい申し訳ありません。実はプレーンの検査自体稀なことで、最初にこの世界が出来た時に検査機を使用していたぐらいで今の研究員は皆、検査をした経験がないのです。」
へえ、そうなんだ……。家森先生が思案顔になって聞いた。
「ちなみにヒイロのプレーンに何か気になる点でもありますか?その点は具体的には?」
秋穂さんが家森先生の方を見て答えた。二人並んでると美男美女だなぁ。
「……今はなんとも言えません……調べたらはっきりと「所長!少しいいでしょうか?」
はい、と答えて秋穂さんが研究員達が操作しているパネルの方へ向かってしまった。とにかく検査したら何か分かるかもしれないんだ。やるしかないよね。
「オッケー!もう準備出来たよ!測定は5分くらいで終わるからその間あまり動かないでくれよ!」
にっとした笑顔の真一さんに私もほほ笑み返した。あまり動かないようにしなきゃ。私はじっと天井を見ることにしたが、まだ家森先生が私の手を繋いでいるのが分かった。
「……家森先生、もう手を離しても大丈夫ですよ?」
「僕が大丈夫ではありません。もし検査中にあなたの魔力が大量に漏れ出たらどうしますか。そうなった場合にすぐにあなたに魔力をチャージ出来るようにこうしてスタンバイしています。」
ああそういうことだったんだ……私はもう一度だけありがとうと言った。秋穂さんがモニターを見て指示を出す。
「それでは測定をしてください。第2シャフトをオンに。」
「はっ」
すげえ……何してるかわからないけど、秋穂さんはやっぱすごい気がする。さすがクイーンだ。
キュイイイイン……
青白く光り輝く私の体。そしてモニターには波状のグラフがうねうねと動き始め、数字がクルクルとカウントを始めた。
それをじっと見つめる研究員達。何も話さないのは順調な証拠なのだろうか。ちょっとぐらい話してくれてもいいのに。
3分ぐらいたったところでうーん、と声を出して真一さんが頭をかきはじめたので家森先生が聞いた。
「どうしました?真一。」
「……キャパシティの数値が異常だ。異常すぎる。こんなに異常な数値は見たことない。」
「ええ?それはどう言うことですか?」
「ちょっと待って……」
そう言った真一さんは他の研究員の方々と共に、モニターを難しい表情で見ては何やら真剣に話し合っている。秋穂さんも少し離れた場所からじっとモニターの数値を見ていて、みんなの雰囲気から何かちょっと私のプレーンに起きているようだった。
それを家森先生も悟ったのか、私の手をぎゅっと握る力が強くなった。
測定が終わったのか私を包む青白い光が収まって、研究員がモニターのデータを観察し始めた。うんと頷いた秋穂さんがこちらにコツコツと歩いてきて、言った。
「率直に申し上げますと、ストッパーが欠損しています。」
「は!?」
家森先生が大きな声を漏らして驚いてしまった。ストッパーって何?という私の顔を見たのか、真一さんがこちらに近づいてきて説明してくれた。
「ストッパーっていうの制御装置のようなものだ。プレーンにそれがあることで人々は魔力を暴走させずに済んでいるんだが……ヒイロちゃんのプレーンにはそれが全く無い。まだこの検査では壊れて破損した理由は分からないけど。」
「そうなんですね……」
体を起こしてから自分の肩を見つめた。この中にあるプレーンは壊れてて、ストッパーが無いんだ。じっと見つめていると家森先生が真一さんに聞いた。
「では、彼女の魔力はいつ暴走してもおかしく無いということですか?」
「うーん、でもまあそんなに魔力を大量に使うことなんてないでしょ?でもあまり使わない方がいいかもな。」
そうなんだ……じゃあこれからはあまり魔法を使わないほうが良いんだ。実戦の授業をお休みできる理由が出来たな……いやいや、そんなことを喜んでる場合じゃないよ。
台から降りた私の手を家森先生が握ってくれた。
「ではこれからは極力魔法を使わないように気をつけなくてはなりませんか。それと、後からストッパーを加える方法はありますか?」
家森先生の質問に答えたのは秋穂さんだった。
「今のところはありません。これからその方法を探っていくしかありません。そもそも、プレーンをこのように器用に壊すには、膨大な魔力が必要です。それは何百、何千もの人が集まって同じ属性を放ってもまだ足りない程に膨大な力です。それほどにこのプレーンは壊れることのないよう設計されています。それが壊れてしまうこと自体が我々からしたら考えられないこと。もしや、膨大に魔力を備えている場所に行ったことが原因でヒイロのプレーンが壊れたのかもしれない。」
私は聞いた。
「それは例えばどこですか?」
「それが時の架け橋です。あれは膨大な魔力の無属性の柱ですから……しかし、徹底的に安全を管理している架け橋に、利用者のプレーンを破壊するなどという、そんなバグが発生するとは考えられませんが。」
うーん、と真一さんと秋穂さんが考え込んでしまった。家森先生は二人に聞いた。
「それではヒイロが架け橋を使用している間に何らかのバグに巻き込まれてプレーンが壊れた。そしてプレーンが壊れた衝撃で記憶も無くしたと。そういうことですか?」
秋穂さんが頷いた。
「地上でヒイロの瞳を見たとき、黒色の奥に紅く煌めくものが見えました。それはヒイロの体に普段の生活では受けないような魔力が注がれたことを意味します。その結果、記憶を無くしたのだと私は仮定します。このようにプレーンが壊れていますし、原因としてはそれが正解に近いと思います。しかしバグなど、ある訳が無い……と言ってもこれが事実ですから、研究所はこれから徹底的に架け橋を点検しなければなりません。ヒイロごめんなさい。」
いきなり謝り始めたので私は慌てて首を振った。
「いえいえ、まだ理由がそれで決まったってわけじゃないですし。とりあえず私は魔法をあまり使わなければ良いのですから。あと、私を知ってる人を探して見つかったら、何が起きたのかとか分かると思うので。とにかく研究所のせいではないです。」
「……しかし、点検はします。ハミルトン、同じような症例を持った方がいないか病院にも連絡してください。」
「はっ」
話を聞いていた研究員の方々が秋穂さんの命令でバタバタと動き始めた。秋穂さんが言った。
「……ヒイロ」
「はい?」
「……これはプレーンとは関係ありませんが、夏休みの件です。」
「夏休み?」
急に何だろうか……確かに、もうすぐ夏休みだけど。
秋穂さんがちょっと照れた表情になったので、そばにいた家森先生と真一さんがあまり見ない母の様子にちょっと戸惑っている。一体、何を言い出すんだろう。
「……もし予定が無いのでしたらヒイロも欧介と一緒に遊びに来てください。そして家族として過ごしてみませんか?」
ああ、そうか……私がまだ家族がいないから気にかけてくれたんだ。なんだか本当に優しくて、微笑んでしまった。
「ありがとうございます。じゃあ……行きます。」
研究所の制服のポケットからメモ帳を取り出して秋穂さんがペンで何かをスラスラと書いた後に私に渡してきた。筆記体で書かれたメールのアドレスだった。ちょっと笑った。
「私の連絡先です。欧介に言えないことでも、私に連絡してくれて構いません。それでは業務に戻ります。欧介、ヒイロ、お気をつけてお帰りください。研究所の外へは真一、案内しなさい。」
「ありがとうございます!」
検査もアドレスも……なんて付け足す時間もなく、秋穂さんは他の研究員と共に部屋を出て行ってしまった。
「……母さんの中でヒイロちゃんが俺たちより待遇いいのはなんでなの?」
真一さんの言葉に笑ってしまった。確かに、そうかもしれない。
そして真一さんに案内されて入り口まで戻ってきた。研究所の外はまだ青い晴空が広がっていて、外の空気が心地よい。
「じゃあ、また……あ、そうだ。ヒイロちゃん。」
「はい?」
真一さんが私に駆け寄ってきて何故か私の両手を掴んできた。何故か分からなすぎてちょっと戸惑ってしまう。
「……こないださ、ひどいこと言って、ひどいことしてごめん。ほら、職員寮の前で俺がした事を覚えてる?怪我してない?ごめん。」
ああ、あの時のことか……言えるだけの人間はいいよなって私を突き飛ばした時のことね。忘れてたよ。私は笑顔で首を振ると、それを見た真一さんも笑顔になってくれた。
「大丈夫です。忘れてましたし、もう気にしてませんでしたよ。」
「ひどいこととは具体的にどのような発言もしくは行動のことですか?」
「ゲッ」
隣のお方から冷ややかな視線を受ける真一さんが冷や汗をたらりと流したので、私は彼をかばおうと思って発言した。
「もう気にして無いですし、私も悪かったんです。もう終わったことですから!ね!さあさあ帰りましょう」
睨み続ける家森先生の腕を掴もうとした……が、ガシッと真一さんに両手を掴まれたままでつまずきそうになった。
「え?」
「ヒイロちゃん、」
なになに!?と思っていたら、ぐいっと真一さんの方へ引っ張られてバランスを崩してしまった。それにより私は真一さんの方へ倒れ込んだのを、彼が体を使って受け止めてくれて、
頭をガシッと掴まれてキスされてしまった。
しかも圧がすごくてちょっと痛いぐらいのちゅうだ……ヒゲも刺さってきて痛い……でも地味に家森先生と似た匂いがする……いやいやいや!?
「んんん〜!?」
バタバタと抵抗していると、私の援軍がすぐそこからやってきた。彼は見たこと無い鬼の形相で真一さんの胸ぐらをぐわしと掴んだ。
「貴様ァァァァ!」
ブンブンと首を振って命乞いする真一さんはとっても青白い顔をしている。振りかぶった状態の家森先生の拳がミシミシいっていて血管が浮き出ている。
「お助け!なんで!?別に付き合ってないんでしょ!?」
「真一は何を聞いていたんですか!今までの雰囲気でヒイロはもう僕のものだと分かりませんか!もう血を分けた弟とて容赦しません!四肢の骨を粉々に砕いて両手両足を蝶々結びにして差し上げます!」
こえええ!私はちょっと笑いながら止めに入ることにした。さっさっと手のひらを挟んで様子を見ながらだけど……。
「ちょっと、もう怒らないでください……」
私の声は聞こえてないかもしれないくらいに小さいものだった。それが聞こえたのか、真一さんがもっとがんばれよお前みたいな目で見てきた。だったらこんなことしないでよあなた……。
「い、家森先生ちょっと」
「グエエ」
やばい!遂に首締め始めた!これはやばい!私は家森先生の腕を掴んで止めようとする。
「ダメダメ!死んじゃうよ!だめ!家森先生だけだから!家森先生だけだから!」
なんでこんなこと公共の場で叫ばないとならないのか。それは真っ赤な顔をして、もがき苦しむ彼を救うためである。そう、顔が真っ赤になった彼にもう一度新鮮な空気を吸ってもらうためである。
「……もう繰り返しませんか?」
こくっ、こくっと真一さんが頷いた。
「ほら!もうやめて!やめないと……来週お泊まり無しにしますよ!」
私の言葉に家森先生が真一さんを解放した。地面に座り込んでゲホゲホする真一さん。どちらかと言えば彼の方がガタイもいい気がするけど、そういうのあんま関係ないんだね、キレた家森先生には。
「ハアハア……俺だってヒイロちゃん可愛いと思うもん。」
「大体あなた彼女と同棲したばかりと言ってましたよね?」
そうだよ!そうそう!何してんのこの人!真一さんは立ち上がりながら言った。
「……昨日別れた。そして彼女は出て行ったよ。」
ああそうなんだ……それは悲しいね。でもその悲しみを私にぶつけないで頂きたい。
「もうヒイロに手を出さないでください。僕のですから。それでも分からないのならば、身を持って知らしめても構いませんよ?」
「いや……もう分かったから、もう兄さん怖いから。ごめんだから。」
ごめんだから……いい言葉だと思った。もらおっと。
真一さんがトボトボと歩いて研究所の中へ戻って行ったので、私も門の外へ行こうとした時に、家森先生に引き寄せられて顎を掴まれてキスされてしまった。もう街の人見てるのに……。
「みんな見てますよ。」
「……しかしすぐに上書きしたかったので。すみません。さあ行きましょうか。」
そっか、すぐに上書きしてくれたんだ。ちょっと嬉しかった。
そして歩き始めた彼の横顔がいつになく優しい微笑みをしていて、もっと私は嬉しくなった。
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