スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第70話 朝の覗き

朝になり、ベラ先生のおかげで元気を取り戻した俺は、彼女がまだ眠ってるうちにお礼の朝食を作って差し上げようとちょっと冷蔵庫を開けた。

……マーメイドのボトルとハーブティーのストック、チーズにナッツしか入ってへん。うん、なるほどな。それもそうやね、このキッチンには調理器具が一切無い。

俺はクックックと笑いながら彼女の部屋を出て、一度俺の部屋に戻ってチャチャっと朝ごはんとお昼のお弁当も作って差し上げた。俺の渾身こんしんの煮物に天かす海苔おにぎり、日本の味をとくとご覧あれよ!

朝ごはんの入ったタッパーとお弁当を持って彼女の部屋に無断で入ったけど、まだリビングが暗いままやった。何でやねん。あと1時間で学校始まるやん。

俺は寝室に起こしに行った。

「おは!ベラ先生!」

「うるさい……あと10分寝かせてちょうだい。」

何や……もしや朝弱いタイプなん?俺は布団を思いっきりめくった。

……!?

あかん……彼女のパジャマがめくれ上がってお腹が丸見えになってる。腹筋めっちゃ割れてるなと思ってじっと見てたらさっとパジャマで隠されてもた。

「こら……やってくれたわね。」

「ごめんなさいです。許してです。何でもします。」

「おはよう……」

何度もため息をつきながら重い体を起こしたベラ先生が緑の豪華な懐中時計を手にして時間を確認した。彼女からしたらまだちょっと時間が早いのかまた何度もため息をついてる。

「何で私を起こしたのかしら?」

「朝ごはん食べましょ!俺作ってきたんや。」

彼女が目を丸くした。

「ええ?で、でもうちに調理器具何も無かったでしょう?」

「まあそうやね。せやから一旦俺の部屋に戻って作ってきました。お弁当もあります。お世話になったお礼がしたかったんや。良かったら食べてください。」

俺が微笑むと彼女がふふと微笑んでベッドから降りた。

「それじゃあ見てみようかしら。」

「是非是非!あり合わせやからどうやろ、お口に合わんかったら「人の手料理は久しぶり。ありがとう高崎くん。」

食い気味に言ってくれたのは、きっとそんなこと気にして無いってこと俺に伝えたかったんやろな。なんか意志の強さで俺のことを包んでくれる、そんな優しさを持つ彼女に……段々と。

「ああ!うん!美味しいわ!」

テーブルの上に置かれた料理を立ったままフォークで食べるベラ先生。

「そ、そお?」

「ええ!料理上手ね?どうして?」

「地上では調理補助の経験があったもんですから……でもそれだけですー」

ああなるほどって漏らしながらものすごい勢いでばくばくと食べてしもた。そんな食べてくれたら嬉しいな、俺の作った料理を美味しいなんて思ってくれたか。

「このお弁当もいいのかしら?ちょっと職員室で広げる時に恥ずかしいけれど……仕方ないわね。」

「ああ。別に俺からもらったんやなくって、女子にでももらったって言ったらええと思いますけどー。」

ベラ先生が俺のことを見つめて真顔になった。

「……いえ、あなたからもらったと言うわ……恥ずかしいなんてごめんなさい。悪い意味はなかったの。」

「いい、いやあ!?そんな気にして無いですって!ふふ……何やベラ先生もそうやって気にしてくれる可愛いとこあるんですね。」

こう言えばベシッと叩かれて気にせんでくれるやろと思ってわざと放った言葉に、まさか。彼女が今までに見たことのないくらいの笑顔になってくれた。

「可愛いなんて嬉しいわ、ありがとう。」

……。

……あかん。

……あかん。持ってかれた。

俺を見つめるワインレッドの瞳も、可愛らしい笑顔も、俺と同じくらいの背の高さも、妖美な雰囲気も、それに似合ってないこの部屋の壁紙も……全部あかん。

全部ひっくるめて可愛いなんて思ってしまった。

「……ってなるからヒイロにも同じこと言ってみなさい。やれば出来るじゃないの高崎くん。」

「え?…………え?」

そう言って、元の凜とした表情に戻ったベラ先生はさっき使ったタッパを洗い始めた。

……。

やるやんか……へえ……やるやん!俺の気持ちを弄んだな!
そして俺の心まで持って行きやがったわ……。あああ!どうしてくれんねん!

「魔工学専攻しようかな……」

「ライトスパークルオーラの周率に比例するのはファーストディバインライン?それともセカンド?サード?」

「すみませんでした……俺魔工学に向いてへんわ。」

「……今のは魔工学じゃなくて光魔法学の基礎的な内容なのだけど。それも分からないの?ふふ」

ベラ先生が苦笑しながら俺にタッパを返してくれた。俺はそれをトートバッグに入れて口を尖らせる。

「有機魔法学以外のあのお方の授業は極力精神を使わないように気をつけてるんです……」

「なるほどね。ふふっ。理解しました。」

俺は玄関の扉のドアノブに手を掛け、振り返ってベラ先生を見つめた。

「お世話になりましたー」

「いいえ。こちらこそ迷惑かけたのに朝ごはんやお弁当まで頂いてしまって。ありがとう高崎くん。気をつけて帰ってちょうだい。ブルークラスは今日は私の授業無かったわね。また火曜日に。」

何でやろ。今日はもう会えんのかってちょっと寂しい。
そんなこと言ったらボコボコにされそうやけど。

「それじゃあ」

ドアを開けて出ようとした時だった。

……?

聞こえる。聞こえるぞ。

「それじゃあまた3限にお会いしましょう。」

これはあの方のお声や。聞いただけで手が震える感じ、絶対に間違い無い。

俺はにやけた顔で口元に人差し指を立てながら振り返って、ベラ先生に合図した。彼女は何?何?と戸惑いながら俺の背後にくっついてドアの隙間から耳を立てる。

「はーい。また。」

さっきのは家森先生の声で今度はヒーたんや。何なん!?お泊まりしてたん!?……人のこと言えんけど。

「ヒイロと家森くんね。この週末も泊まりだったのかしら?でも家森くんは街で学園の会議があったのだけど……そのあと会ってたのかしら。」

ささやき声で俺に話しかけてきた。俺は応える。

「ヒーたんも食事会があるって街に行ってたみたいですけどねー。そのあとどこかで泊まったんかな……ちょっともう少し見てみましょ。」

「いいのかしら……なんか家森くんのそう言うのあまりちょっと見たくないんだけど。」

「俺かて。俺かて。」

俺かて家森先生のそういうのはちょっと、と言うのを表情でベラ先生に訴えかけると彼女が笑いをこらえるのに必死になってしまった。声を立てないようにもう少し見守ることにした。

俺はしゃがんでベラ先生は立ったまま、ドアの隙間から様子を伺う。

家森先生の部屋の玄関のとこでヒーたんが立ってる。しかもいつもよりかなり露出が激しい服装や。ええ?何なん、やっぱデートしたん?

「それにしてもこの格好……もう僕と出かける以外ではしないでください。」

ぶっ……あかん。なんちゅう独占欲や。吹き出しそうになった。上を見るとベラ先生もそうだったのか肩を震えさせている。

「ええ?何でですか?」

「……僕が気に入りましたから、もう着ないでください。あと僕に内緒で街に行かないこと。行くなら理由を伝えてください。」

ヒーたん大変やな。それでもどうしてあのお方がいいのやろ。

「分かりました。今回はウェイン先生に言われた内緒の食事会だったから……でもそれも実は合コンだったし、今度からは何処に行くのか言いますね。」

ぶっ……なるほど、ウェイン先生に騙されたんか。ちょっとおもろすぎるやろと笑いそうになるのを必死にこらえてると、俺と同様に笑いを堪えるベラ先生にあまり声を漏らさないでバレるじゃない!と言わんばかりに背中を叩かれてしもた。幸い、俺らが覗いてるのはまだあの人らに気付かれてない。

「はい……ヒーたんそうしてくれてありがとう。ご褒美あげる。」

「ねえちょっとヒーたんって何?家森くんもそう呼んでるの?それにご褒美って何?」

小声で聞いてきたベラ先生に俺は首をかしげるしか出来ない。俺かて聞きたいよ、色々と。

「分かりませんて。家森先生、俺の呼び方パクってたんやなぁ……それにご褒美って何でしょね?」

「さあ……あ、見てみて!」

ベラ先生に言われて俺はまた彼らの方を見る。

「ご褒美ってあ……」

と言って、ヒーたんが家森先生にキスされてしまった。

ヒーたんはここじゃまずいと言った態度でプチ抵抗しているけど家森先生は御構い無しといった感じで彼女の頭をガシッと掴んで濃厚なキスをしている。あの情熱的なキスの仕方……勉強になるわ〜。前世はフランス人やったんかな。すっご。

しかもご褒美にキスって……一体彼らはどんな関係なん?今日にでもヒーたんとコーンパして問い詰めようかな。

俺はベラ先生に話しかけた。

「キスしてるやん」

「そうね」

「めっちゃ濃厚やん」

「そ、そうね……参考にしたいくらいだわ」

同じこと考えてた。ぷぷっ

「俺もそう思ってた」

「ふふっ……あまり笑わせないでちょうだい。あ!離れたわよ。」

肩を叩かれてまた視線を戻すと家森先生からヒーたんが離れた。

「も、もう終わりです……もう誰かに見られますよ?」

「うん。また明日たっぷりキスしたい。明日は火曜ですから放課後に会う日です。ふふっ」

え?会う曜日まで決めてるん?俺は驚いてベラ先生を見ると、彼女は口を開けて驚いていた。

そしてまたぎゅうとハグし会う二人を見て、俺は一旦ドアを静かに閉めた。

「早く終わらんと俺帰れへんのやけど……それにしてもそうなんや、あんなに仲よかったんや。付き合ってたんやなあの二人。」

ついタメ口になってしまった。けどベラ先生は気にしなかった。

「そうね、知らなかったわ……でも高崎くん……ショックでしょう?」

心配そうに見つめてくるベラ先生。彼女の言葉に、ああそうだったと思ってしまった。

そうや。俺はショックなはずなのに……そうでない。確かにちょっとショックやけど……ここにベラ先生が居る。それがなんとなーく救いになってる、気がする。

「ああ……まあ少しは。でもヒーたんとなら友達でもいいと思ってたところでしたし……それならそうでええです。わざと彼女にくっついて家森先生妬かすのもおもろいので。」

ベシッと肩を叩かれた。力つよっ、ちょっと痛い。

「あまりそういうことばかりしているとそのうち彼に殺されるわよ。程々にね。」

うん、確かにそれはあり得るから気をつけなあかんな。あのお方は魔王様やからな。

「そうですやね。それじゃあもう少ししたら帰りますわ。えっと……ベラ先生お世話になりましたってさっきも言ったな。はは。また……出来ればまた来てもいいですか?」

ナチュラルに聞いてもた。聞くつもりなかったんやけど俺どうした。でも意外にベラ先生は微笑んでくれた。

「何もないけど、また一緒にお話ししましょうか。」

「ほんま?嬉しいわあ」

「そうそうあなた。」

「え?」

なんやろ。俺はベラ先生を見る。

「再来週から三者面談だけど、親御さんは地上だったかしら?」

ああその件ね……そう言えばそうやったな。先週クラスの朝礼の時に家森先生が言ってはったわ。忘れてたけど。

「そうなんですーせやから今年も家森先生と二者面談になりそうやわ。ヒヒッ」

「そうなの。学園に招待はした?」

「いやあ、してないです。しても地下世界自体を信じてくれへんやろし、二人とも仕事が忙しいですから。」

そうなの……と考え込むベラ先生。気にしてくれるんやな。そんな優しいとこが先生らしいわ。

「それじゃあ私はジムに行く用意するから……出れるタイミングでふふっ、出てってちょうだい。」

俺の三者面談の話を軽く流された……まあええわ。それもええよ。ふふっ。

でもベラ先生いつも朝に鍛えてたんや。だからあんな俊敏な動き出来るんやな。

「あ、今度俺も行っていいです?誰かと話しながらやったほうがはかどるやん。」

まあ断られるやろね。

「ええ!?行きましょう!ああ誰かとジムに行きたかったのよ!家森くんは朝は忙しいとか言って応じてくれないし。じゃあ明日の7時にジムで待ってるから!ふふっ!」

「あ、ああはい……まあはい。」

まじか。応じてくれたわ。ラッキー。

そうや。まだヒーたんかて結婚したわけちゃうんやから諦めんでええねん!このけそけそした体を鍛えなおして魅力アップアップしよ!しかもベラ先生となら楽しそうやし!

楽しそう……か。何やろもう。

「じゃあまた」

「はいまた。」

そう言って俺は彼女の部屋を出た。もう家森先生の玄関の扉は閉まってて廊下には誰も居なかった。

ヒーたんがキスしてるんは衝撃的やったけど、何故か俺の中でベラ先生の笑顔が悲しい気持ちから救ってくれた気がした。

もう考えてもしゃあない、明日からジム行こ!

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