スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第68話 ポニョ対戦

「このゲームで家森先生が私に勝ったら私は楽団に行きません!ふふふっ」

「……。」

家森先生が苦い顔をした。今私が彼に見せているゲームのソフト、これはポニョポニョというパズルゲームで、唯一タライさんに負けたことのない自信のあるゲームだ。これで彼と戦ってみたかった。まあ先生が慣れるまでは私のボロ勝ちだろうけどね……。

「つまりその対戦で僕が勝てば、あなたは楽団には行かないと?」

「はい」

「ふっ」

何その笑い。

「え?」

「ポニョポニョで僕に勝てると思わないでください。」

「えっ!?家森先生このゲーム出来るの?」

驚きの事実に私はパッと笑顔になった!家森先生はバスローブの袖をまくりながら言った。

「まあ弟が3人もいましたからね。昔はよくこれで対戦しました。」

「じゃあ私だって本気出しますからね!」

ゲーム機の電源を入れて、我々はベッドに座ってコントローラーを握った。テレビの画面に二人分のパズル画面が表示されていて、私がスタートボタンを押すと戦いが始まった。

『レディーゴー!』


……。

……。

やばい。勝てない。

やばい。強い。

「どうしました?その程度ですか?」

やばい。連鎖された。

「おやおや、これはトレーニングモードでしたか?」

しかもさっきから、やたらムカつく。やばい。

家森先生は大連鎖という技をどしどししてくるので私の2、3コンボなんかすぐに相殺されるどころか私のポニョを送り返すように攻撃してくる。ポニョが上の点線を超えると負けなのだが、すぐに私のポニョは点線の上まで溜まってしまい、1回戦目はすぐに負けてしまった。

納得いかない私は再戦を希望した。しかしまた負けた。いやいやこのままでは引き下がれないと何度も再戦するが、大連鎖を必ずしてくる彼に敵うはずもなく今多分8連敗ぐらいしてしまっている。あ、たった今9連敗した。

「まだやりますか?コンピューターのイージーとしたらどうです?」

「なんかこんなこと先生に言うのもアレですけど、さっきからちょっとムカつく……」

「はっはっは!ごめんなさい。」

そう言う家森先生はベッドで寝転がりながら立て肘に顎を乗せてこちらを見て余裕そうな笑みを浮かべている。ああ〜何だこの人、敵になるとかなりムカつく。タライさんの気持ちが分かる気がした。

ああそうだ、上手くプレイ出来ないのはきっと薬のせいだ。頭があまり回転しないもん。

「ちょっとハンデください。」

「うーん……まだ少しですが僕は今酔ってますし、さっきの事件で魔力を大量に消費しているのでむしろもう既にハンデあげてるくらいですが。」

……く〜〜〜。一回ぐらい勝ちたい。その為なら何でもする。私は彼の後ろに座ってコントローラーを握った。

「じゃあ私が背中かじりますから、家森先生はそのままプレイして。」

「はっはっは!そんな器用なことが出来ますか?ふふ……いいでしょう。」

よし!勝つためなら何でもする!こんなクレイジーな行動だって喜んでするんだから。

これで準備は整った!

「じゃあやりましょうか!最後の戦いです!」

「う〜ん……いいですよ、どうせヒーたんは僕に勝てない。」

「そこまで言うんだったら勝ったら何かしてもらいますよ?」

私はコントローラーを握った。こんなたくさんのハンデがあって、それでもこの家森先生に負けたら私は一生立ち直れない。

「じゃあ僕が勝ったらキスして。」

「いいですよ。じゃあ私が勝ったら……」

そうだなぁ。何がいいかな。なんか意地悪なのないかな。そう思っちゃうぐらいにさっきからバカにされたからな。家森先生が残念がるのがいい。

「じゃあ私が勝ったら、タライさんとここに来ます。」

「……。」

無言で家森先生が指をパキパキと鳴らしてテレビ画面をじっと見つめている。かなり集中している姿勢だ。よし、私も頑張るぞ!

スタート!(かじかじ)

ポニョンポニョン

オッケーオッケー、背中かじってるからか家森先生のポニョが度々、回転もしないでそのまま落ちていっている。ヒッヒッヒ。

ポニョンポニョン大フィーバー!

ポニョポニョポニョ……

『あらら〜負けちゃった!』

家森先生はコントローラーを床に落としてベッドに顔を埋めた。私は笑いながら初勝利にベッドの上でフゥフゥと腰を振って喜ぶ。

「わーい!やっと勝った〜」

「お見事でした……。」

テレビ画面を消してベッドに座り、布団に顔を埋めたままの家森先生を見た。

「これまでハンデ貰わないと勝てないんだから、見事じゃないですよ。でも先生の腕前はすごかったです!エレンにも勝ちそう!」

「……そうですか。しかし負けてしまった。」

ムクッと家森先生が上半身を起こしてこちらを見つめてきた。そんなムッとした顔したって、ゲーム中に意地悪言ったことは忘れないからね!仕返しだ!

「じゃあ、さっきも言った通りにタライさんともここに来ますね!」

「嫌です」

匍匐ほふく前進して私の方へ近寄ってきて、私のお腹に腕を回して抱きついてきた。

「……絶対にだめ。ここにくるのは僕とだけにして。」

「でもさっき勝ったもん。」

「でもその条件、僕はいいって言ってない。」

あ……思い返せば、確かにそうだ。

「でも約束したもん」

「……じゃあ僕もマリーと来る。」

「マリーと?くればいいじゃないですか。」

バッ

家森先生は急に体を起こして、こちらを少し睨みながら言った。

「どうして!?ヒーたんは僕が他の女性と遊んでも平気なの?」

「平気ではないですけど……。でも家森先生っていつも女の子と腕組んで歩いてるじゃないですか……私だってタライさんとくっついたらダメなんですか?」

「ダメ。」

「なんで?」

「……あなたはもう僕のものだ。僕以外の男とベラにはくっつかないでください。」

いきなり出てきたベラ先生の名前に笑ってしまった。家森先生も少し笑っている。

「ええ?ベラ先生は大丈夫ですよ?」

「いえ、彼女はゲイですからあなたも恋愛対象に入ります。とにかく、他の人とくっつくのもキスするのもだめ。僕も相手が生徒の場合はくっつくことを制限するのが難しいですが、もうこれ以上、それ以外では他の女性とそうしないから。」

「じゃあマリーとここにきちゃダメですよ。」

「来るつもりないよ。」

家森先生はちゅっと頬にキスをしてから、耳元で掠れた声で呟いてきた。

「ヒーたんが好き」

「うん。」

「キスしたい」

「うん」

「一晩中、キスしたい」

「うん??」

「ふふっ、朝までキス「ちょっとそれさっきから本気で言ってます?」

思ったよりも、愛おしそうな表情で私をじっと見つめてくれた。ガッ……心が鷲掴みにされる。

「本気だよ」

呟いて、私の頬を彼の大きな手が包んで、私にキスをしてきた。いつも以上に熱を持った唇だ。柔らかい。暫く何度もちゅ、ちゅと続くので、私はプハッと離れてから聞いた。

「い、今からずっと朝まで?」

「うん。」

「ちょっと携帯を確認してから……ほら、返せなくなりますから。」

「分かった。じゃあこのまま確認して。」

家森先生は私に抱きついたまま動こうとしない。なるほどこの状態で……私は机の上に置いてある携帯を手に取ってメール確認した。2件きている。

とその時、家森先生が私の首を舐めてきたのだ。

「ちょっと!?何してるんです!」

「キスですよ。ほらメール返したければ返すといい。貴女だってさっき僕の背中かじってきたじゃないですか。仕返しです。」

何それ〜!キスってそんなに幅広いんだ……それに確かにさっきかじってしまったしはあ、仕方ない。私は首を舐められながらメール画面を開いた。

____________
なあ今日って街行ってる?
帰ってこーへんの?
一人やったっけ?
ちょっとあんたが
心配なんやけど
大丈夫か?一人で帰れる?
タライ
____________

ああ、タライさんだ!すごい心配してくれてる……相変わらずいい人だ。

そして家森先生が私の携帯の画面を覗いているようで、首元から少し離れている。私は一言だけ、大丈夫です!でも泊まりです!と返して次のメールを見ることにした。

____________
こんばんは!もしや
街で家森先生に会ったか?
連絡ないんだよね。
ちょっと報告してほしい
から、待ってるんだけど
どうしよう。
シュリントン
____________


「ほら」

私は家森先生に携帯の画面を見せると彼は、はあ〜〜と大きなため息を吐きながら私から離れて机の上の自分の携帯を手に取った。

次の瞬間に私は家森先生の腕を引いてベッドに押し倒した。突然の私の大胆な行動に目を丸くする先生。

「何を……!」

「私の番です。さあメール確認してください、ヒッヒッヒ!」

私は仕返すことにした。ヒッヒッヒ!白く綺麗な首筋をぺろっと少し舐めると家森先生がビクッとして携帯を落としてしまった。こんなちょっとでそんなにくすぐったがる?

「ヒーたん!ちょっと手加減を!」

「え?そんなに激しくないですよ?ほら続きしてください!」

「もう……全く。」

先生がして来たようにように首をいじめる。それにしても誰からきたメールなんだろう……ちょっと気になって、私も家森先生の携帯の画面を覗き見た。

____________
お疲れ様です。
今日の会議はどうだった?
まあ私の資料があったから
大丈夫だとは思ったけど、
一応聞いておきたくてね。
そうそう、熱は下がった。
でもポーションの味が
ちょっと苦かったな。
もう少し甘くならない?
シュリントン
____________
____________
お疲れ様。
ねえ、調合室の鍵が
職員室に無いのだけれど
あなた白衣に入れてたり
する?
私ちょっと肩こりの
ポーション作成したいのよ
お願い
ベラ
____________
____________
調合室の鍵がないって
ベラ先生が困ってはります
家森先生に俺、
渡しましたよね?
タライ
____________
____________
鍵、俺のカバンに
ありましたわ!
ご迷惑おかけ〜
タライ
____________
____________
高崎くんから聞いた?
鍵あったわ。
返事は要りません。
あと高崎くんが
ポーション作ってくれる
ことになりました。
ベラ
____________

「……なんだか忙しいですね。家森先生」

「ええ……いつもこんな感じですよ。」

少し……いや結構同情してしまって、私は家森先生がメールを返事するまで大人しく待ってることにした。

そしてその日の夜は……布団の中に入ってからもずっと彼の言った通りキスをした。愛してるってお互いに言った後だったからか、いつも以上にドキドキしてしまった……そのうち心地よくなって、先に寝てしまったけれど。



「おはよ、ヒーたん」

……ん?もう朝になったのか。

「お、おはようございます……」

隣で横になってる家森先生にこめかみをちゅっとキスをされた。彼のことを見て、昨日ずっとキスしてたことを思い出して恥ずかしくなってしまった。それを悟られたくなくて、気を紛らすために時間を確認しようとサイドテーブルの懐中時計を手探りで取ったら、それは青い豪華な装飾の懐中時計だった。まあいいや借りよう……。

「……まだ5時だ。え?」

「はい。少し早く起きました。」

何言ってんの……。私は懐中時計を家森先生に返すと彼はまたサイドテーブルに置いて私のこめかみにキスをしてきた。くすぐったい。

「え、でも昨日寝たの3時過ぎですよ?」

「んふ……少し寝ただけいいではありませんか。さあ続きを……んっ」

ちょっと!待って!私の頭を掴んで無理やりキスしてくる家森先生の肩を掴んで抵抗する。けど……段々と甘い感覚が私を襲ってきた。

「あう……もう、もう!」

「ふふ、ヒーたん。僕の指を舐めて。」

「え?」

え?

すっと家森先生が右手を私に差し出してきた。え?舐めるの?
これも愛情表現の一つなのかな。そっか。い、言われた通りにしてみよ……。

細く長い指、を親指から舐めていく。家森先生が何故かごくっと喉を鳴らした。これが気持ちいいのだろうか……後で自分の指を舐めてみよう。次に人差し指を舐めようとしたら頭を掴まれた。

「違います、今度は中指」

あら間違えた。言われた通りにすると彼は微笑んで、私の頭をナデナデしてくれた。

「ん、上手……ヒーたんとっても可愛いです。」

命令に従うと嬉しそうな表情でナデナデしてくれる……そうやってコントロールしてくるのだ。でもそれがいいんだと、たまらないと思ってしまうんだから、ちょっと厄介なのかもしれない。

「ふふ、よしよし。ヒーたん……今日も一緒にいてください。」

「今日は別々に居ましょうよ。明日授業あるし、私もちょっと部屋でやることがあるので。」

そうなのだ。まだ宿題終わってない。だから立派な理由だ。

「やることとは何ですか?僕はもう少しあなたとこうしてゆっくりしたいです。」

「やることは……宿題です。ゆっくりは……じゃあまた今度お泊まりした時でいいじゃないですか。」

家森先生が私をじっと見つめた。

「今度のお泊まりはいつですか?」

「……次の土曜はタライさんとゲームする日で、日曜はソフィーと虫取りする日なので……その次の週、あああっ!」

布団の中でぎゅっと抱きしめられてしまった。力強く……抱きしめられているというよりかは、締められていると言ったほうがいいかもしれないぐらいキツイ!

「嫌です!そんなに待てない!」

「グエエエ!き、キツイ!タライさんと同じくホテルにお泊まりしたのですからもういいでしょ!」

「そんな、同じじゃ嫌なんです!今日の帰り僕の部屋に来て。お願い。今日だっていっぱいキスしたい。僕たちはだってもう……。とにかく宿題手伝いますから!何の教科です?」

え?僕たちは何なんだろうか?愛し合ってると言うことかな?

それにしても、ううう……ねだるように言ってこられると私も拒否しづらい。あと早く解放されないと息が出来ないのでそろそろ昇天しそうだ。

「グエエエわか、わかりました!わかりましたから!教科は光魔法学!」

ああ……解放された。久々の美味しい酸素に私の体は何度も荒く呼吸をする。目の前の家森先生は満足したように微笑んでいる。もう、彼はちょっと強引に物事を進めるクセがあるっぽいな。

「ふふっ、それならすぐに終わる宿題です。」

「はは、そうかもですね。先生……歴代の彼女さんに言われませんでした?ちょっと強引だよって。」

家森先生は体を起こして手櫛で茶銀の髪を整えながら言った。

「言われたことありませんよ。他の人にはここまでしません。僕のこの態度を知っているのはあなたと高崎、それに弟達ぐらいですね。まあ、それだけ慣れているということですから。」

「ああそうですか……」

力なく呟いたところでベッド脇の電話が鳴った。チェックアウトの時間が近づいていることに気づくと、我々は急いで荷物を持って部屋から退散したのであった。


街の駐車場に停めてあった家森先生の車は黒いスポーツカーだった。お高そう過ぎて値段は聞けなかった。車内の座席は学園のレンタル車と違って白く体のラインに沿うように設計されていて、その座り心地といったらこれ以上のものはなかった。

シートベルトを締めて先生が車を運転し始めて、やはりこれも空を飛ぶ。家森先生がたまに片手で慣れたようにハンドルを裁くのでそれはちょっとかっこいいと思う。それに今日は……いつもと違ってスーツだし。

「静かになりましたね。」

「私ですか?」

「はい。」

「私ってそんなにいつも騒がしいですか?」

「はい」

どん

私は家森先生の肩を叩いた。そんなに騒がしいかね?しかし叩かれた家森先生は笑っている。

「ふふっ、ヒーたんは賑やかで楽しいので、一緒にいると僕は笑顔になってばかりです。」

「……。」

そうまで言われるなら良いこととして受け取っておこうか。青空を走っていく中で、ふと思い出したことを聞こうと思った。

「そう言えば、街の電話ボックスで地上に電話していたんですか?」

「はい。地上に住む母と連絡をしていました。」

なるほど……お母さんは今は地上に住んでいるんだ。

「そうだったんですね。元気そうでした?」

「ふふ、相変わらず元気でしたよ。この世界のどこかにヒーたんのお母様もいるかも分かりません。」

「そうなのかな。だとしたら捜索願でも出してくれれば良いのにってベラ先生が言ってました。」

「確かにそうですね……たまに、寂しく思う時はありますか?」

「あまりないかもしれません。確かに入院してる時は他の生徒達に家族の人がお見舞いに来てたからちょっと切なくなった時はあったけど、でも家森先生やタライさん、ベラ先生が来てくれたので、皆さんのおかげで寂しく思うときはあまりありません。」

そう考えると感謝するばかりだ。

「それなら良かったです。何かあれば僕が力になります。」

「じゃあ、先生も困ったことがあったら言ってください。私も力になりたいですから。」

家森先生はチラッとこちらを見てから言った。

「じゃあ今日一緒にいてください。ふふっ」

……力になりたいなんか言わなきゃ良かった。完全に抜かった。

昼時の太陽の下を飛びながら、私は静かに目を閉じた。

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