スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第67話 愛情と贈り物

さて。
さてさて。

今頃家森先生はプレゼントに気付いただろうか。でも何も言ってこない。きっと私がダメって言ったから律儀にそれを守ってリュックの中を覗いてないのかもしれない。

だったら手渡ししたほうが良かったかな……でもそれはちょっと恥ずかしいんだもん。メールでだけど、愛してるって言われてたし、ふふっ。そうだよね、ほらこの鏡に映る私……プリンセスのように可愛いもん。目だってパチパチして体つきだって……脱いだら凄いんだから。さっきのドラマみたいにいつか裸で家森先生とキスする時が来るのかもしれない……どうしよ!そしたらヒイロどうしよ!きゃー!

……いけない。まだ薬の効果が抜けきれてないわ。今日はもう何も言わないようにしよ。冷静に戻ってくれた頭でそう考えてからバスタオルで体を拭いている時だった。

バタン

「ヒイロこれは一体!あああっ!?」

「あああ〜!なんでまた!」

今来ちゃった!?また家森先生に裸見られた……もうやだ。
私は素早くタオルで体を隠したけど時すでに遅し、家森先生は見てしまったのか眼鏡を取って顔を真っ赤にしたまま逸らしている。

「ちょっと一回閉めますね……」

私はドアを一回閉めて体を拭いて、家森先生とお揃いのバスローブを着てからまたドアを開けた。まだ壁に手をついて顔が真っ赤な先生がいた。

「……すみませんでした。」

「いえ……もう2回目なのでまあ、」

慣れましたって言うのも違うかなと思って苦笑いでベッドに座ると、すぐに押し倒されてしまった。

「ヒーたん!ばかばか!」

「え!?何その反応……あ」

今度はぎゅっと抱きしめられた。私の上に来てぎゅうぎゅう抱きしめてくる家森先生がその内、何度も耳元にちゅっとキスしてくるようになった。くすぐったい……。

「高かったでしょうに!ちゅっ……そんな無理しないでいいのに!ちゅっ……」

「ちゅうするか話すかどっちかでいいと思いますけど……」

でも喜んでくれてるのかな、嬉しくて抱きしめ返した。

「プレゼント良かったですか?」

私の質問に彼はちゅうをやめて私の横に寝ながら万年筆を見せてきた。

「これ、大人気な商品で学園の売店では予約も出来なくて、街にも売ってなくて、とても欲しいと思っていたものです。それをレストランで?しかも一体いくらで……」

「ぴ、ピアノでチップ貰ったから払えました。」

家森先生が離れてベッドに座り、私の手を引いてきたので私も座った。

「せっかく貰ったチップで……僕のためにこんな高価なもの。」

「大丈夫です!それにもう次はどこかに就職してからまたプレゼントしたいと思いますから。今回だけ」

何故か家森先生が私をムッとした顔で見てきた。

「……勤めてはなりません。作曲に専念するのでしょう?」

「ああはい……そうでしたね。でも今回は心配しなくても大丈夫です!万年筆使ってくださいね!」

「……。」

……ん?ん?使わないの?

「……保存用にとっておきます。ヒーたんが僕に初めてくれたプレゼントです。勿体無くて使えません。」

ええええ!?思わず彼の腕を掴んでしまった。

「えええええ!?使ってくださいよ!なんなら今すぐ!早く!」

私はリュックの中から花柄ノートを取り出して適当に白紙のページを開いてばんとベッドに置いた。

「このノートに書き込んでください!何でもいいので早く!早く!」

「ええ、では書き心地を……」

さらりさらりとペンが動いた。ヒイロって書いてる……

「ああ、おお、ほう!」

わあ〜書き心地よかったんだろうなぁ、またヒイロって書きながら笑顔ですごい喜んでる!そしてまたヒイロ……ヒイロって何回書くの。しかも達筆で、当たり前だけど返ってくる答案用紙に赤ペンで書かれてる字と同じだ。

「ほう!なるほど、はい」

すると今まで喜んでいた家森先生が急に態度を変えてペンとプレゼントの箱と花柄ノートをサイドテーブルに置いてしまった。あと眼鏡を取ってそれも置いている。え?何?

「あれ?もう置いちゃうんですか?書かなくていいのですか?」

「置きます。もう十分、その最高の書き具合を堪能しました。今からヒーたんにキスします。」

「え、あ、う」

頭を引き寄せられて唇が重なった。ああ……こうやってベッドでゆっくりキスするのは久しぶりな気がして頬が熱くなる。

「ヒーたん、ありがとう。大事に使います。ふふ、これから仕事が捗りそうです。」

「ああ良かったです……喜んでいただけうおお!」

ガシッと頭を掴まれて、今度は私の匂いを嗅いできた。洗ったばかりだけど恥ずかしいな。

「ちょっと、ちょっと」

「うん……いつもと違う匂いですがいい匂いです。」

「ええ?いつもいい匂いですか?」

「はい。僕はあの匂いが好きです。」

そこまで気に入ってくれるとは、でもそんなにいい匂いかな。

「そうなんですか……いつも使ってるシャンプー、ヨモギの安らぎっていう一番安いやつですけど。」

「それがいいです。文字通り安らげます。」

クンクンとまだ嗅いでる……そんなにヨモギ好きだったんだ。あのシャンプー使ってて良かった。

「じゃあ良かったです……グレッグも同じの使ってますけど。」

「その情報は要りません……」

「ああそうですよね、すみませんでした……」

そりゃそうよねと少し笑っていると家森先生も笑ってくれて、隣に横になってくれた。

「ふふ……やっぱりヒイロと一緒にいると楽しい……あなたが僕と居てくれることを選んでくれたらと毎日心から思います。」

ああ……そんなに想っててくれるなんて、私は記憶喪失だからと言って待たせてしまって……何だかもう自分が変な人だとか素性がおかしかったら彼に迷惑かけるとかそんなことよりも、今待たせてしまっていることの方が悪く感じるようになってきた。こんなに想ってくれて、こんなにそばにいてくれて。

ドラゴンの時だってずっと一緒にいてくれたし、私のことキスばかりしてきて先生なりに大切にしてくれたのだろうし……私だって彼のこと、とってもとっても好きだと思う。

ならば何をためらう必要があるんだろう。何が怖いの?

「ヒーたん、すみません。先ほどのことは忘れてください。あなたを追い詰めるような発言をしてしまいました。」

「え?」

そっか、ちょっと考えすぎた。気が付けば家森先生は不安げな目で私を見つめていた。ちょっと考えすぎたね……。私が首を小さく振ると、振家森先生は小さく首を傾げた。

「ちょっと考え事を……。」

「忘れて、お願い」

ぎゅうと私を腕の中に入れて抱きしめてきた家森先生のことを私もぎゅうと抱きしめ返しながら言った。

本心は、言葉にしないと伝わらない。それにさっきミア先生に殺されかけて、もう後悔しない生き方をしたいと思った。

「……もう、そうだとしか考えられない」

「え?」

声が掠れてしまう。ドクドク暴れる鼓動で、振り絞るようにしか声を出せない。

「……誰かとずっと一緒にいるとしたら、家森先生しかいないと思います。だから」

もしよければお付き合い……と言おうとする前にキスされてしまった。

「……もう十分です。」

え?

え?

ふふと微笑む彼はすごく顔が真っ赤で、目が潤んでいる。私が呆然としているとぎゅっとまた震える手で抱きしめてくれた。彼が震えているのはどうしてだろう……緊張してるのかな。

「……ああヒイロ。苦しいほどにとても愛しています。何があっても僕が守りますから、もうずっと、ずっと僕のそばにいてください。」

私は静かに目を閉じて、ぎゅうと力を込めて抱きしめ返した。

「はい、一緒にいたいです……あ、」

頑張れ!ヒイロ!

「あ……」

「どう、しました?」

不安げな声だ。きっとまた私が困ってると思ってしまったのかもしれない。違う、違うから。私だって言いたい。

「い、家森先生……あ、愛しています」

……。

……。

ん?

ん?

……ん?

ちょっと様子を見てみよう。意外にもすぐに、彼から離れることが出来たので彼の表情を見ると……

どこかを見つめたまま固まっていた。

それはもう、PCチャンネルの動画で一時停止ボタンを押した時のように全てが止まっている……息も止まってるし瞬きすらしない。え?生きてる?

ちょっとマジで心配になってきたので私は家森先生の頬をツンツンした。

「家森先生?生きてる?」

やばい。まだ瞬きもしてない。え?ここでこのタイミングで天に……いやいやいや!何言ってんの!?

バシバシ

「まだいくなーー!」

「逝きませんよ全く」

本格的に手のひらで叩いてたらガシッと腕を掴まれてしまった。目が合った。ああよかった息も瞬きもしてる。生きてるわ……よかった〜。

「……ヒイロ、僕はとても嬉しすぎて思考が停止しました。」

「ああ、はは。ならよかった……本当に心配しましたから。」

「……。」

また停止したのかな。とにかく黙っている。

ただ時間が過ぎていく。

「実は」

ポツリと呟かれた言葉に、私は耳を傾けた。

「信じられないんです。」

え?

「え?」

「……あなたが僕を、愛してくれるとは、思いませんでしたから。」

「え?なんで?」

ついタメ口になってしまった。そんなこと今どうでもいい。私は家森先生が考え込んでいる表情を見つめた。

「実を申せば……あなたは僕にとってとても魅力的な人です。それはもう慕っていると表すればいいか、いえ。崇拝する程に。」

「え?」

え?言ってる意味が分かんない、やばい。

「あ、簡単に言えば……あなたは高嶺の花なので僕を好きになる、ましてや愛してくれるなどと夢にも思わなかったということです。半ば、宝くじに当たればいいなぐらいの感覚でここまで仲良くしていたところもあります。さらに記憶を辿って自分自身が誰なのか分かれば、更に僕は捨てられるだろうと予想していました。僕は、どこをどのように考えてもあなたに釣り合っていない……」

「え?なんで?」

戸惑った表情の家森先生考えていることがよく分からない。なんで?今私の頭にはその疑問しかないんだけど。

「あなたは才能溢れる人ですし、明るく笑顔も魅力的で……他人を幸せにする力があります。僕にはそれはない。高崎のように面白い冗談の一つ二つ言えれば話は違いますが、そうして日常的にあなたを笑顔にさせているかと言えばそれは違う。」

「いやいや」

?と言った顔で見てきたので私は家森先生を見つめながら言った。

「え、ええ?だって、一緒にいて楽しいと思う時ばかりですよ?冗談だってたまに言いますよ。さっきだってグレッグのシャンプー同じだって要らない情報だって笑ったじゃないですか。そうやって突っ込んでくれるじゃないですか。私それ好きですし、高嶺の花って……アッハッハ!嬉しいですけど、私の方が釣り合ってないって思ってました。だって家森先生は頭もいいし、魔法もうまいし……それは先生だから当たり前と言われたらそこまでですけど、でも……優しくて一緒にいて楽しくて、しっかりしてて私に無いものをたくさん持ってます。光魔法だって凄かった。」

「そ、そうですか……」

「はい!それに私に愛情を教えてくれたのは家森先生です。いつもそばに居てくれて支えてくれてますし、守ってくれます。ふふ。」

「……ヒイロ」

照れる表情を見せる彼に、私もつい照れてしまって耐えられない気持ちになった。

「だっ、だから、お互い愛し合ってるって分かったことですし……まだそれが信じられないなら信じられるまで私も待ちます。家森先生が今まで待ってくれたように。」

「あ、いえ。そんな……お付き合いは「だからいいですって!そんな、信じられない状態で無理やり次の関係に進んだって仕方ない話ですから。でもそんなに私が愛してること信じられませんか?」

家森先生が紅い顔のまま頭をポリっとかいた。

「……実は誰にも深く愛されたことがないもので。」

……誰にもって、どう言うこと?家族にもってこと?なら私が教えたいと思うっちゃうのは出しゃばり過ぎかな。

「お互い、愛を知らなかった訳ですね……」

家森先生の真似をしながら言うとふふっと笑った彼にベシッを肩を叩かれた。私は微笑んで家森先生に提案した。

「ふふっ、ほら面白いですもん!まあ、もう少し様子見ましょうよ?ね」

「ですから僕はもう大丈夫です……」

大丈夫って何が?もう分からなくなってきたよ私は。あははと笑ってごまかしていると家森先生がムッとした表情になった。

「え?何ですか?大丈夫なら良かったですけど。」

「ふふっ、もういいです。もうめちゃくちゃにしたい。」

「……え」

何を急に、と思ったらいきなり頭を掴まれて激しくキスされた。もう口を開けて息が出来ないほどに……台風のようなキスだ。ああああ!耳元に彼の口が移動して甘く囁いてきた。

「僕を愛してるんでしょう?僕のこれも愛してる?」

うああ。今までに無いぐらいにぞくっとしてしまう。うああ。今度は首を甘噛みしてきた。うああ。

「これって、こ、こ、この強引な、感じですか?」

「うん」

「あ……いしてる」

「……。」

あれ?

ププっ……また止まってる。

そっか、言われ慣れてないからなのかな。

「でも歴代の彼女さんに言われてきたんじゃないのですか?」

「……あんなのは子どもだましです。口だけと言うものですよ。聞かずともポロポロ出てくる、石ころのようなセリフです。あなたのそれは違います。ダイヤモンドのように綺麗な言葉でした……あなたは良くも悪くも正直者ですからね。」

「褒めてるのかディスってるのかどっちなのか」

「はっはっは!」

笑ってくれた。それが嬉しいって気持ちがきっと今私の顔に出てたと思う。家森先生も私の顔を見て、この瞬間を気に入っていると思ってくれてるような表情をしてくれた。

そっか。なんとなく分かったけど、大して好きでもない相手に愛してると言われればハイハイで済むけど好きな相手に言われれば本当に?って思ってしまうんだ。それはきっと……質のいい愛情をもらってこなかったからなのかもしれない。質のいい愛情ってなんだよって自分でつっこんでしまうけど。

「ヒーたん」

「はい?」

「……何かあったら、すぐに僕に相談してください。それと、嘘でもどうか他の人を好きなったなどと言わないでください。先程のメールは衝撃的でした。」

「ああ、あれはミア先生に命令されて……ごめんなさい。でもお返事は嬉しかったです。それで首絞められましたけど。」

「そうだ。どれ」

家森先生が私の首を診始めた。何事もなかったのか、うんと頷いて終了した。

その時、机の下にゲーム機があるのが目に入った。ほお?それを確認しつつ、また抱きしめてくる家森先生に言った。

「因みに楽団には行きません。」

「え?そうなのですか」

「実はピアノ演奏の後に楽団のマネージャーのおじいさんから名刺をもらいました。もう一人のマネージャーに紹介したいって。」

「そ、それは本当ですか?」

思ったよりも衝撃的な表情で私を見つめてきたのでちょっと笑ってしまった。

「ええ。本当です……楽団には行きません。休日合わないのは辛いから。」

「ああヒーたん。」

突然だけど、私にキスしようとする家森先生から離れて、机の下のゲーム機をニヤリとしながら指差した。

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