スカーレット、君は絶対に僕のもの

meishino

第57話 ウェインの誘い

魔弾合戦は午前中で終わった。その後は職員会議があるらしく、他のクラスも校庭で解散の状態になった。そして終わった途端に、家森先生がタライさんのことを呼んだのが聞こえた。

「高崎!」

「はーい!何やろ。あ、ヒーたんあとで俺の部屋でゲームしながらお昼食べへん?」

「ええ!?行く行く!」

目を輝かせて喜ぶ様子の私を見て、タライさんも満足げに微笑んでくれた。そして彼はルンルンな仕草で向かって家森先生の方へ行き、周りを囲む家森ファンに睨まれつつ家森先生と話し終えると、肩をしょんぼり落としながら帰ってきた……。

「どうしたんですか?」

「……有機魔法学の補習で提出したポーションの配合率また間違えてたから今日また提出せなあかんねん。なんや今日楽しみにしとったのに、ごめんね。」

「ああ、そうなんですか……じゃあ仕方ないです。」

また今度な、と言ってしょんぼりした様子でタライさんは校舎に消えて行った。まさか、わざとでは無いよね……家森先生。それも普通にありえるから少し困る。

様子を見てみようとチラッと家森先生を見ると、女生徒たちと仲良く腕を組みながら校舎に入っていく後ろ姿が見えた。ああそう……もう何あれ、私が見ていることが分かっててああしてくるのだろうか。

確かにハグとかキスは私にだけするんだろうけど、でも他の子とあんなに密着していいんだろうか。まあ私も試しにタライさんとくっついちゃった訳だから人のことは言えないし、そもそもそんな関係じゃないけれど。

帰ろう。帰って、何か食べよう。今日はもうお昼のお弁当を朝のうちに家森先生に渡したから大丈夫だ。何も心配することは無いし、もう帰ろう。

私がグリーン寮へ向けて歩き始めた時だった。突然誰かに腕を掴まれてグイッと引っ張られたのだ。振り向くとそこにはウェイン先生がいた。しかも見たことない満面の笑みでこっちを見つめてきている……超怖い。

「な、何ですか?」

「ヒイロ!ちょっといいか!その花壇の所でいいや、職員会議始まるから急いでちょっと来て!」

え?え?私はウェイン先生に手を引かれて花壇のところに走った。一体何なのか。どうも彼はちょっとテンションが高く緊張している様子で明らかに様子がおかしい……もしかして私に愛情表現しようとしてる?そんなまさかね。

「ヒイロ……」

「え?もしかしてキスですか?」

ウェイン先生の顔がボンと紅くなった。

え!?え!?冗談で言ったのに本当だったの?……いやいやいや!この黒髪短髪、ヒゲ面のムキムキガイはちょっと好みとは違う。するとすぐにウェイン先生に頭を叩かれた。

「ばっか!ちげぇよ!……いいか、ちょっと内緒にしてもらいたい。」

ウェイン先生が肩をすぼめて私の方に頭を寄せて小声で話してきた。なになに!?内緒話?となれば早くその内緒話が聞きたくて、私はテンションが一気にあがる!

「お前って、お揃いの防具をつけていることだし……家森先輩と仲良いのか?」

「エッ!?」

ウェイン先生はじっと真剣に私を見てくる。いつも彼が家森先生のことを先輩と称するのは医学院で同じだったからなのかな。

いや、それにしてもどうしよう、我々の関係性を何と言えばいいのか。

「まあ……普通に仲良くさせてもらってますけど?」

そうかと呟いたウェイン先生が頭を掻きながら言った。

「じゃ、じゃあさ、ぶっちゃけ付き合ってる?」

「いいえ?ただお世話になってるだけです。」

「じゃあさ今、彼氏いる?」

何その質問……もしかしてやっぱり私のこと好きなのかな……そしたらなんて言って断ろう。

「私ちょっとウェイン先生とは「俺じゃねぇよ!ばか!」

そんなバカって言わなくてもいいじゃん……。ムッとしている私を気付いてないのかスルーしてきた彼は、何故か照れた表情のまま自分の話したいことを話し始めた。

「実は、急な話なんだが明日の土曜、医学院のOBと今度合コンがあるんだ。それに是非ヒイロに参加して欲しいんだよ。幹事に女の子一人は連れてこないと参加させないぞって言われてしまってな……はは。ヒイロ恋人いないだろ?だから参加してくれないか?頼むよ、お前しか頼めないんだ。」

「合コンってなんですか?」

「え?」

ゴーコンってなに……?コン?毛根の類?
いや、参加するって言ってるしなんかの集まりっぽいな。

私がそれを知らないことにウェイン先生は少し驚いた後に、何故かパッと笑顔になった。

「…………ゴーコンっていう……食事会だよ!ヒイロ来てくれ!」

ああ食事会のことか!なんだ!

「参加します!あとタライさんも呼びましょ!」

ウェイン先生は全力でブンブンと首を振った。

「高崎はだめ!医学院のOBと決めたんだ、この学園から一人だけ連れて行くってな!だからヒイロはそのナイショの食事会に見事選ばれたって訳だ!食事代も俺が出すしさ、はは!お願いお願い!」

え!?フリーの食事会なの?食べ放題なの?なんてこった!それ行くしかないじゃん!私は笑顔で頷いた。

「だからコソコソ誘ってくれたんですね!行きます!でも本当にお金出さなくていいんですか!?」

「いーのいーの!もう何でも食べちゃって飲んじゃってよ!俺も久々の食事会だからはしゃごうと思っててな!はっはは!」

そうだよね、ずっとこの学園で医務の先生してるんだから大変だよ。彼だって人間だもの、たまの息抜きは必要だと思う!

「わーい!ありがとうございます、ウェイン先生!」

「はは、いーのいーの!あとこのことは誰にも内緒にしてくれよ?特に……家森先輩には。」

私は真顔になった。

「なんで?」

「なんでって……なんでって。そう、そうそう!家森先輩は呼ばれてないからだよ。可哀想だろ?だからナイショ。なっ?」

シーというポーズをしてウィンクしてきた。そっか。呼ばれてない家森先生を置いて私だけ参加するのは気がひけるけど……食費浮くしね。参加しよう。

「まあ、分かりました!」

私の回答を聞いたウェイン先生が嬉しそうにバンバンと私の肩を叩いてきた。

「よかったよかった!あとちなみに何だけど露出の高い服がいいな。もう夏だしキャミソールとかショーパンとか。持ってなかったら俺のカードで買っていいから、とにかくそういう服装がいいんだ!えっと……その方がさ、ラフな格好の方がみんなで食事してて楽しいだろ?はは」

……え?服代まで出してくれるなんて、一体どうなってるのだろうか。確かにお食事会に着ていくような夏用の可愛い服は持ってなかったので、ちょっとどうしようかなと一瞬思ったところだった。

それにしても、どうしてそんなに私に良くしてくれる?そりゃ家森先生の方が私に良くしてくれてるけど、ウェイン先生……あなたもお優しいのね。

「お洋服までいいんですか?キャミソールですね、わかりました。」

ウェイン先生が白衣のポケットからお札を何枚か出して私にくれた。

「いいのいいの。これで足りる?足りなかったらカード渡すから言って。あとヒールが高いサンダルもお願い。ヒイロは女の子にしては背が高めだけどさ、あえてヒール履くとモデルさんみたいでかっこいいから!」

なるほど!意外とおしゃれに詳しいことに驚きつつ、私は笑顔で頷いて了承した。

「分かりました!」

「はは!ヨシヨシ!じゃあ明日の夕方に俺は車で街に行くけど、ヒイロはどうする?先にバスで行っててもいいし俺の車で一緒に行っても構わないぜ?」

ああ、どうしようかな……ちょっとだけ一人で街を散策してみたいかも。たまにはいいよねと思い、私は決めた。

「じゃあ私はバスで先に街をぶらぶらしてます。食事するレストランは決まってますか?」

「ああ。街道沿いのムーンリバーっていう、ちょっとおしゃれなレストランのVIPルームだ。カラオケなんかもあるから楽しもうな!じゃあ現地集合でそこに18時に来てくれ。入り口の前で俺待ってるからさ。」

まじで……!?VIPルーム?そんなの、ドラマでしか見たことの無いものだ。セレブ感の溢れるパーティが楽しみすぎて、私は興奮気味に何度もウンウンと頷いた。

「はい!楽しみにしてます!」

「よっしゃ!あ、やべ。職員会議始まる……じゃあな!ヒイロありがとな!」

元気よく手を振って去っていくウェイン先生。彼は意外と気さくでいい人だった……あとそう言えばお金をもらってしまったので、ちゃんとウェイン先生の指定した通りに売店で服装を揃えることにした。

絶対に話すなよ?と何度も言ってくるので逆に誰かに言いたくなるがダメダメ、これはナイショの食事会なのだ。そんなレアなイベントに招待されるなんて、私もそれだけ魅力的なのかな……。校舎の窓ガラスに校庭を歩く私が写っている。うん、脚も細いしヒップもキュッとしてる……ように見えるのだ、この窓だけ。

くだらないことしてないでさっさと売店に買いに行こ……足早に校庭を通り抜けた。

売店で指示通りの服装を選ぶ。ウェイン先生によればキャミか……上はそれしか着ない思うと本当に露出激しくて少し恥ずかしいけど、指示されたので仕方ない。何色がいいかな、水色にしようかな。

ラックにかかっている服を一つ一つ見て、リブ素材で可愛すぎず薄すぎない、一枚でもちょうど良さそうな水色のキャミソールがあったのでそれを選んだ。他にもデニムのショートパンツと黒色のヒールが高めなサンダルも買った。

これを全部組み合わせるって想像すると、いつもと違う服装でちょっとワクワクする。家森先生にも今度見てもらおうと思いながらレジでお会計をした。

私はまたルンルンで歩き始めてグリーン寮の自分の部屋に着いた。明日の準備をしようと早速リュックに必要なものを入れ始める。地図にPCの充電器、携帯の充電器……と私のお財布。

テーブルにリュックを乗せてぶち込んでいるともう一つ、黒いお財布があった。それは家森先生が用意してくれた食費用のお財布だ。別に僕と一緒じゃない時でも食べるために使用してくださいと言っていたが、そんなこと出来るはずもなく私は彼と一緒に食べるときにしか使わない。でも御守り代わりに持って行こうとリュックのポケットに入れた。

よしよしよし!私の素晴らしい人生の幕開けだ!フゥ〜!一人でテンションを上げながらPCで動画を見ることにした。

アニメチャンネルでロボットと人間のハートフルな友情劇が流れていたので、それを観た。あとはパン屋のおばさんが元旦那と恋愛する映画も観た。どれも面白く、時間が過ぎるのも早い。

そうこうしているうちにあっという間に夜になった。そう言えば確認するの忘れたことを思い出して携帯を見ると、一通のメールが届いていた。

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話したいことが。
家森
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今までにない短いメールにどきっとした。やばい……もしかしたら今日タライさんとくっついてたことを怒ってるのかもしれない。それにそのメールが来ていたのは14時くらいなのに今はもう21時。それについても怒ってるかも。どうしよう……返すしかないか。

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ごめんなさい、
今気づきました。
何ですか?
ヒイロ
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これでいいか……まあ、家森先生のことだからすぐに返ってくるだろう。

チクタクチクタク

チクタクチクタク

こんなにも切ない音色を出すなら、目覚まし時計なんか買わなきゃよかった……この部屋に時計の音だけが虚しく響いている。どれだけ待っても、いつまで経っても、あのマメな家森先生からメールが返って来ない。

何かあったのかな。いや、この平和な学園内で何もある訳ない。職員会議やタライさんの補習の確認で忙しいのだろうか、いや幾ら何でもこんな遅い時間までっていうのは考えられないし、そうで無さそうな気がする。

もしかしたら私の予想していた以上に、彼は怒ってるのかもしれない。だったら今私は何をすべきなのかな。謝ればいいの?でもメール来てないのに怒っていると断言出来ないし……。

色々考えても仕方ない。明日、街へ行ったら、本気ではしゃげばいいさ。きっとそのうち帰ってくるよと自分を励ましつつベッドに横になった。

そして携帯はならないまま、朝になったのだった。

……ううん、もうこうなったら本気ではしゃいでやる!何が家森先生だ!もうこうなったらギリギリ合法の範囲で遊びつくしてやる!方法は知らないけど!

私は買ったばかりの服を着てリュックを背負って思いっきり部屋を出た。

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