スカーレット、君は絶対に僕のもの
第52話 誰と居たいの
タライさんやリュウ達はもう既にこの部屋から去ったのに、家森先生は帰ろうとしない。寧ろ現在、シャワーを浴びている。もう彼はこの部屋にすっかり慣れているなぁと思いながら、ベッドに座ってぼーっとしていた。
「シャワーありがとうございました。ドラゴンハンターはどこですか?」
もうその質問も笑えてしまう。シャワールームから出て来た家森先生はバスタオルを腰に巻きながら聞いて来た。テーブルの上の眼鏡を取ってかけるまで、じっと見つめてしまった。意外と彼の上半身には筋肉が付いていて鍛えられている。腹筋だって少し割れているし人知れず鍛えてるのかな。
「ドラゴンハンター」
「ああ、はい。これです。ちゃんと洗ったから大丈夫です。」
私はマーヴィンのくれた例のドラゴンハンターの上下セットを家森先生に渡してから聞く事にした。
「今日は泊まるんですか?」
「いけませんか?」
ああそう……いいですけど、なんで泊まるときに強気に来るのか、おかしくて笑ってしまう。私が笑うのを見ていた家森先生も少し笑った後に、ラックのハンガーにかけてあった白衣のポケットから黒い財布を取り出して渡してくれた。そう言えばそうだった……。
「このお財布ポストに入れましたね。僕は使っていいって言ったのに。」
「だって……もう一緒にいないと思ったんですもん。それなのに家森先生のお金使えないですよ。」
麦茶の入ったグラスを持ちながら私の隣に座った家森先生が、どこか遠くを見つめ始めた。
「リュウのために僕と仲良くすることを諦めた。」
「え?あ、ああ……そうですね。」
どうしたのだろう。拗ねているわけでもなさそう、でも怒ってるわけでもなさそう。
「ヒイロは誰と居たいですか?」
分かってるくせにどうして聞くのか。まあ言うしかない。
「それは……家森先生と居たいですよ。」
ぐるっと家森先生は体ごと私の方へ振り向いて来たので、ちょっとビクッとしてしまった。
「ならば、もう僕といることを諦めないでください。僕だってあなたと居たい。勝手にマリーが似合うなどと思わないで、僕の幸せだって考えてください。僕は誰がなんと言おうと……ヒーたんがいいです。それだけは知っていてほしい。」
頬が赤く染まっていく家森先生の話を聞いて、私も頬が熱くなっていくのが分かった。確かに私は彼の気持ちを考えていなかった。
「確かにマリーに色々言われて、私が勝手に家森先生はマリーの方が似合うと思っちゃって……リュウの為ということを理由にして諦めようとしてしまったかもしれません。」
「マリーは色々と厄介かもしれません。僕からも話してはみますが、これからも何らかの形であなたに何かしてくる可能性はあります。その時、まずは僕に話してください。まずは、教師ではなく友人……としてお話を聞きますから。それなら話しやすいでしょう?」
友人かぁ……そうだよね。付き合ってないんだから。なのにちょっとさみしい気がしてしまった。とりあえず私は答えた。
「それならこれからは話します。」
「はい……」
ニコッと家森先生が笑ってくれた。ああ、彼の笑顔にどれだけ癒されるんだろう。私も微笑んでから、手に持っている財布を家森先生に返した。
「え?」
「大丈夫です……食費大丈夫。」
そう、実は海上のピアニストのコンテストの途中経過を見たところ、私の作曲したものが一次選考を通過していたのだ。これから優勝するだろうし賞金が入ってくるから大丈夫。
戸惑う家森先生は顎を何度も触りながら、また私に財布を差し出して来た。
「大丈夫ですか〜?本当に?本当のことを言ってください。」
「え?だ、大丈夫ですよ……」今年度はね。
「ふうん……いえ実は」
家森先生が私に密着して座り直した。
え?何?何を話すの?
「あなたが中々財政状況を詳しく僕に教えてくれないので……調べたんです。」
「は?」
……は?
「まあ確かに多少貯金があるようですが、正直言って家賃で全て消えてしまうのでは?それに学費も前までは3年間あると言っていましたが、今となっては生活費もお弁当以外の食費もありますから今年度、頑張っても来年度で精一杯になったでしょう?それに毎月の雑費にかけるお金など、今のあなたにはどう考えてもありませんあいた!」
私はベシッと家森先生の肩を叩いて口を尖らせた。さらに私は両拳を握りながら彼を凝視すると、彼は観念したのか両手のひらをこちらに向けてきた。
「なんで勝手に調べてるんですか!?どうして調べられるの!?先生ってそこまで生徒のこと調べられるんですか!?」
「いえ、これは教師だから調べられた訳ではありません。まあ聞いてください、僕はあなたを支えたいと思っていますから。」
……なにぃ!?先生だからじゃない?どういうこと!?
「……どうして調べられたんです?」
「まあまあ色々とパイプがあるもので。」
うわ……そうなんだ。財務関係のお偉いさんに知り合いでも居るんだろうか。財産を調べてくるなんて卑怯じゃん……恥ずかしい。
「じゃあ私の財産把握するのベラ先生でいいじゃないですか……担任なんだし。」
ムッとした顔で家森先生が財布を私に押し付けてきた。
「僕は副理事です。ベラの上司ですよ?」
「分かりました。ベラ先生の上司なんですね、それを今度ベラ先生に言ってみます。」
「それはちょっと。それはちょっと。」
急に弱り始めた家森先生がおかしくてつい笑ってしまった。そっか、やっぱりベラ先生にはあまり強く出られないんだ。
ププッ!と笑っていると、家森先生が笑いを含んだ怒り顔で何度も私の肩をどついてきた。
「ヒイロ、もうこれを持っててと言っています!」
「分かりましたって!どつくのやめて!分かりました!……もう。ありがとうございます。」
受け取った財布を私は取り敢えずベッド脇の棚の上に置く。そうやって彼から目を離した瞬間に後ろから不意に抱きしめられた。
急に襲った懐かしい温もりに、胸がどうしてもドクンと動いてしまう。
「……は、はぁぁぁ〜」
「何それ……ふふ。こうするの、本当に久しぶり。」
「はい……」
ちょっとキスしたいとその先を望んでしまう。ダメよヒイロ、きっとマーヴィンの部屋にまだ皆がいる気がするから。たまに壁の向こうからタライさんのヒッヒッした笑い声が聞こえるから。
もっとくっついてくるかと思ったら、何故か家森先生が私から離れてしまった。振り返って何事かと彼の様子を見ることにしたら、何故か上半身のドラゴンハンターを脱いでいた。
ん?
「え?え?ちょっと……何故脱いでいるのです?あまり激しいスキンシップはちょっとまだ分からないので、どうしよ。」
ベシッと肩を叩かれた。
「何をおっしゃいますか……いくら僕でもそんな突然始めるなんていうムードのないことはしませんし、そういうことはあなたが怖く無いように、もう少しじっくりと愛情を確かめ合ってからと思っています……少し出かけてきます。」
「え?今からですか?」
家森先生はラックに掛けてあるシャツを羽織ってボタンを閉じている。マジで今から出かけるんだ……。
「はい、こういうのは早めの対処がいい。戻ってきたらまたラブラブしましょう?」
ぎゃははは!
……壁の向こうからグレッグのお下品な笑い声が聞こえた。もうやだよこの筒抜けの部屋。私は壁に向かってドンドン叩いて注意している家森先生に小声で話しかけた。
「ラブラブって言っても……ふふ、この部屋は無理ですって。」
振り返った家森先生がジレのボタンを留めながら小声で答えてきた。
「……うーん確かにゆっくりは出来ませんか。明日の朝までマーヴィンに迷惑をかける訳にも行きませんし、それなら僕の部屋の方がいいですね。いや待てよ……ならそうだ。今からヒイロも一緒にこの部屋を出て、少し食堂で待っててもらえますか?」
「え?」
ちょっと待って、明日の朝までってのがどう言う意味なのか気になる。朝までぶっ続けでスキンシップをするということなのかな……
そして何故か家森先生はちょっと急いでるっぽいので、私も急いでリュックに明日必要なものを入れながら答えた。
「食堂で待ってるんですか?部屋じゃなくて?」
「ああはい。すぐに終わりますし、ちょっと考える事が。」
何それ。なに?
家森先生はチノパンを履いてシャツを中に入れながら言った。
「今日は僕の部屋に来ていただけますか?久しぶりにヒイロのご飯が食べたいと思っていますが……軽くでも作れますか?」
「え?ああまあいいですけど……考えるところって何ですか?」
「ああ。まあ。」
何!?何で言わないの?何ではぐらかすの!?
気になったまま家森先生が着替え終わったので私もリュックを背負うと、ん?と反応した家森先生が私のリュックを奪った。
「ん?」
「……調理器具は要りません。重いでしょう?」
そう言ってリュックからフライパンや鍋を取り出して、私の部屋のキッチンに元どおりにしまってしまった。
ええ?
「でもそれなきゃ料理なんて……」
無理ですよと言おうとしたときに家森先生が答えた。
「もう新しく揃えてあります……実はこの数日間、離れて生活している時に……うーん」
家森先生は照れているような表情で口を閉じてしまった。
「何ですか?離れてる時に?」
「実は……うーん……ですから、うん。ですから……いつでもあなたが戻ってきてくれてもいいようにと、一式揃えたんです。あなたが来るのを楽しみにしてて、僕もお手伝いしながら一緒に料理しようと思って。それに……いつも重たそうにリュック抱えてるものですし……」
ええ!?この数日、会ってない間に調理器具一式用意してくれたの!?……って言っても家森先生の物かもしれないけど、一応半分はプレゼントって考えていいのかな。
「そ、それってちょっとだけプレゼントですか?」
「うーん……まあ少しだけプレゼントかもしれません、しかし何も調理器具でなくても他にアクセサリーやあなたの欲しいものをプレゼントとして今後用意していきたいですが」
「いや!いやいや!それもありがたいですけど、調理器具だって嬉しいです!だって私の為に用意してくれたんですよね?それに一緒に料理してくれるんですか?」
「まあ……手術の経験もあるので手先は器用な方だとは思いますからお手伝い出来るかと思いますし、先日我々の関係性を良くしたいとPCチャンネルで恋愛ドラマを拝見したところ、仲睦まじい男女が一緒に料理をして親睦を深めているシーン、印象的でした。それをヒーたんとしてみたいと……」
ウワアアア……そこまで考えててくれたんだ。すごい。すごい嬉しい。嬉しすぎて、ぎゅっとハグしてしまった。
「ありがとうございます、家森先生」
ぎゅうと抱きしめ返してくれるのがまた嬉しい。
「いいえ……ふふ。さ、行きましょうか。」
私はテキストだけの軽いリュックを肩に下げて、家森先生と部屋を出ることにした。
部屋の外の通路は何者かがこちらを伺っているような独特の気配の静けさが広がっていたので、我々は早々にグリーン寮を出て行った。
「シャワーありがとうございました。ドラゴンハンターはどこですか?」
もうその質問も笑えてしまう。シャワールームから出て来た家森先生はバスタオルを腰に巻きながら聞いて来た。テーブルの上の眼鏡を取ってかけるまで、じっと見つめてしまった。意外と彼の上半身には筋肉が付いていて鍛えられている。腹筋だって少し割れているし人知れず鍛えてるのかな。
「ドラゴンハンター」
「ああ、はい。これです。ちゃんと洗ったから大丈夫です。」
私はマーヴィンのくれた例のドラゴンハンターの上下セットを家森先生に渡してから聞く事にした。
「今日は泊まるんですか?」
「いけませんか?」
ああそう……いいですけど、なんで泊まるときに強気に来るのか、おかしくて笑ってしまう。私が笑うのを見ていた家森先生も少し笑った後に、ラックのハンガーにかけてあった白衣のポケットから黒い財布を取り出して渡してくれた。そう言えばそうだった……。
「このお財布ポストに入れましたね。僕は使っていいって言ったのに。」
「だって……もう一緒にいないと思ったんですもん。それなのに家森先生のお金使えないですよ。」
麦茶の入ったグラスを持ちながら私の隣に座った家森先生が、どこか遠くを見つめ始めた。
「リュウのために僕と仲良くすることを諦めた。」
「え?あ、ああ……そうですね。」
どうしたのだろう。拗ねているわけでもなさそう、でも怒ってるわけでもなさそう。
「ヒイロは誰と居たいですか?」
分かってるくせにどうして聞くのか。まあ言うしかない。
「それは……家森先生と居たいですよ。」
ぐるっと家森先生は体ごと私の方へ振り向いて来たので、ちょっとビクッとしてしまった。
「ならば、もう僕といることを諦めないでください。僕だってあなたと居たい。勝手にマリーが似合うなどと思わないで、僕の幸せだって考えてください。僕は誰がなんと言おうと……ヒーたんがいいです。それだけは知っていてほしい。」
頬が赤く染まっていく家森先生の話を聞いて、私も頬が熱くなっていくのが分かった。確かに私は彼の気持ちを考えていなかった。
「確かにマリーに色々言われて、私が勝手に家森先生はマリーの方が似合うと思っちゃって……リュウの為ということを理由にして諦めようとしてしまったかもしれません。」
「マリーは色々と厄介かもしれません。僕からも話してはみますが、これからも何らかの形であなたに何かしてくる可能性はあります。その時、まずは僕に話してください。まずは、教師ではなく友人……としてお話を聞きますから。それなら話しやすいでしょう?」
友人かぁ……そうだよね。付き合ってないんだから。なのにちょっとさみしい気がしてしまった。とりあえず私は答えた。
「それならこれからは話します。」
「はい……」
ニコッと家森先生が笑ってくれた。ああ、彼の笑顔にどれだけ癒されるんだろう。私も微笑んでから、手に持っている財布を家森先生に返した。
「え?」
「大丈夫です……食費大丈夫。」
そう、実は海上のピアニストのコンテストの途中経過を見たところ、私の作曲したものが一次選考を通過していたのだ。これから優勝するだろうし賞金が入ってくるから大丈夫。
戸惑う家森先生は顎を何度も触りながら、また私に財布を差し出して来た。
「大丈夫ですか〜?本当に?本当のことを言ってください。」
「え?だ、大丈夫ですよ……」今年度はね。
「ふうん……いえ実は」
家森先生が私に密着して座り直した。
え?何?何を話すの?
「あなたが中々財政状況を詳しく僕に教えてくれないので……調べたんです。」
「は?」
……は?
「まあ確かに多少貯金があるようですが、正直言って家賃で全て消えてしまうのでは?それに学費も前までは3年間あると言っていましたが、今となっては生活費もお弁当以外の食費もありますから今年度、頑張っても来年度で精一杯になったでしょう?それに毎月の雑費にかけるお金など、今のあなたにはどう考えてもありませんあいた!」
私はベシッと家森先生の肩を叩いて口を尖らせた。さらに私は両拳を握りながら彼を凝視すると、彼は観念したのか両手のひらをこちらに向けてきた。
「なんで勝手に調べてるんですか!?どうして調べられるの!?先生ってそこまで生徒のこと調べられるんですか!?」
「いえ、これは教師だから調べられた訳ではありません。まあ聞いてください、僕はあなたを支えたいと思っていますから。」
……なにぃ!?先生だからじゃない?どういうこと!?
「……どうして調べられたんです?」
「まあまあ色々とパイプがあるもので。」
うわ……そうなんだ。財務関係のお偉いさんに知り合いでも居るんだろうか。財産を調べてくるなんて卑怯じゃん……恥ずかしい。
「じゃあ私の財産把握するのベラ先生でいいじゃないですか……担任なんだし。」
ムッとした顔で家森先生が財布を私に押し付けてきた。
「僕は副理事です。ベラの上司ですよ?」
「分かりました。ベラ先生の上司なんですね、それを今度ベラ先生に言ってみます。」
「それはちょっと。それはちょっと。」
急に弱り始めた家森先生がおかしくてつい笑ってしまった。そっか、やっぱりベラ先生にはあまり強く出られないんだ。
ププッ!と笑っていると、家森先生が笑いを含んだ怒り顔で何度も私の肩をどついてきた。
「ヒイロ、もうこれを持っててと言っています!」
「分かりましたって!どつくのやめて!分かりました!……もう。ありがとうございます。」
受け取った財布を私は取り敢えずベッド脇の棚の上に置く。そうやって彼から目を離した瞬間に後ろから不意に抱きしめられた。
急に襲った懐かしい温もりに、胸がどうしてもドクンと動いてしまう。
「……は、はぁぁぁ〜」
「何それ……ふふ。こうするの、本当に久しぶり。」
「はい……」
ちょっとキスしたいとその先を望んでしまう。ダメよヒイロ、きっとマーヴィンの部屋にまだ皆がいる気がするから。たまに壁の向こうからタライさんのヒッヒッした笑い声が聞こえるから。
もっとくっついてくるかと思ったら、何故か家森先生が私から離れてしまった。振り返って何事かと彼の様子を見ることにしたら、何故か上半身のドラゴンハンターを脱いでいた。
ん?
「え?え?ちょっと……何故脱いでいるのです?あまり激しいスキンシップはちょっとまだ分からないので、どうしよ。」
ベシッと肩を叩かれた。
「何をおっしゃいますか……いくら僕でもそんな突然始めるなんていうムードのないことはしませんし、そういうことはあなたが怖く無いように、もう少しじっくりと愛情を確かめ合ってからと思っています……少し出かけてきます。」
「え?今からですか?」
家森先生はラックに掛けてあるシャツを羽織ってボタンを閉じている。マジで今から出かけるんだ……。
「はい、こういうのは早めの対処がいい。戻ってきたらまたラブラブしましょう?」
ぎゃははは!
……壁の向こうからグレッグのお下品な笑い声が聞こえた。もうやだよこの筒抜けの部屋。私は壁に向かってドンドン叩いて注意している家森先生に小声で話しかけた。
「ラブラブって言っても……ふふ、この部屋は無理ですって。」
振り返った家森先生がジレのボタンを留めながら小声で答えてきた。
「……うーん確かにゆっくりは出来ませんか。明日の朝までマーヴィンに迷惑をかける訳にも行きませんし、それなら僕の部屋の方がいいですね。いや待てよ……ならそうだ。今からヒイロも一緒にこの部屋を出て、少し食堂で待っててもらえますか?」
「え?」
ちょっと待って、明日の朝までってのがどう言う意味なのか気になる。朝までぶっ続けでスキンシップをするということなのかな……
そして何故か家森先生はちょっと急いでるっぽいので、私も急いでリュックに明日必要なものを入れながら答えた。
「食堂で待ってるんですか?部屋じゃなくて?」
「ああはい。すぐに終わりますし、ちょっと考える事が。」
何それ。なに?
家森先生はチノパンを履いてシャツを中に入れながら言った。
「今日は僕の部屋に来ていただけますか?久しぶりにヒイロのご飯が食べたいと思っていますが……軽くでも作れますか?」
「え?ああまあいいですけど……考えるところって何ですか?」
「ああ。まあ。」
何!?何で言わないの?何ではぐらかすの!?
気になったまま家森先生が着替え終わったので私もリュックを背負うと、ん?と反応した家森先生が私のリュックを奪った。
「ん?」
「……調理器具は要りません。重いでしょう?」
そう言ってリュックからフライパンや鍋を取り出して、私の部屋のキッチンに元どおりにしまってしまった。
ええ?
「でもそれなきゃ料理なんて……」
無理ですよと言おうとしたときに家森先生が答えた。
「もう新しく揃えてあります……実はこの数日間、離れて生活している時に……うーん」
家森先生は照れているような表情で口を閉じてしまった。
「何ですか?離れてる時に?」
「実は……うーん……ですから、うん。ですから……いつでもあなたが戻ってきてくれてもいいようにと、一式揃えたんです。あなたが来るのを楽しみにしてて、僕もお手伝いしながら一緒に料理しようと思って。それに……いつも重たそうにリュック抱えてるものですし……」
ええ!?この数日、会ってない間に調理器具一式用意してくれたの!?……って言っても家森先生の物かもしれないけど、一応半分はプレゼントって考えていいのかな。
「そ、それってちょっとだけプレゼントですか?」
「うーん……まあ少しだけプレゼントかもしれません、しかし何も調理器具でなくても他にアクセサリーやあなたの欲しいものをプレゼントとして今後用意していきたいですが」
「いや!いやいや!それもありがたいですけど、調理器具だって嬉しいです!だって私の為に用意してくれたんですよね?それに一緒に料理してくれるんですか?」
「まあ……手術の経験もあるので手先は器用な方だとは思いますからお手伝い出来るかと思いますし、先日我々の関係性を良くしたいとPCチャンネルで恋愛ドラマを拝見したところ、仲睦まじい男女が一緒に料理をして親睦を深めているシーン、印象的でした。それをヒーたんとしてみたいと……」
ウワアアア……そこまで考えててくれたんだ。すごい。すごい嬉しい。嬉しすぎて、ぎゅっとハグしてしまった。
「ありがとうございます、家森先生」
ぎゅうと抱きしめ返してくれるのがまた嬉しい。
「いいえ……ふふ。さ、行きましょうか。」
私はテキストだけの軽いリュックを肩に下げて、家森先生と部屋を出ることにした。
部屋の外の通路は何者かがこちらを伺っているような独特の気配の静けさが広がっていたので、我々は早々にグリーン寮を出て行った。
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