スカーレット、君は絶対に僕のもの
第20話 ライト
ライト…
ライト……
懐かしい声が俺の名前を何度も呼んでいる。彼女はこの世界にいるはず無いんやけど……。
目をこすりながらレム睡眠から目覚めた。ボヤッと滲む視界のまま目の前に広がる星空を眺める。
胸に手をやると漫画が置いてあるのが分かった。そうか、自室のベランダに置いてある白いチェアで漫画を読んでいたら、いつの間にか寝てしまったらしい。
久しぶりに聞く彼女の声に、そういえば最近電話したのはいつだったんか、ちょっと記憶が曖昧なくらいに結構の間、連絡を取ってないことに気付いて胸が少し痛んだ。
この地下世界から地上へ電話する手段ってのは少ない。そもそもこの地下世界での通話は限られた人しか出来無いのは、まだ出来たばかりのこの世界が不安定で通信規制があるからだと、前に家森先生に聞いたことがある。
せやから地上へ電話するには街へ行き、役所の前に設置されている専用の公衆電話を使うしか方法がない。
当たり前やけど街へ行くには学園の外を出なあかんし、外に出るには学園の防御壁の門を開けなあかんし、それには学園長だか理事長だか知らんがとにかく一番偉そうなシュリントン先生の許可が必要やし……そのシュリントン先生も超が付くほどの気分屋やし、ああ!もう面倒臭くてたまらん!
彼女は今何してんのやろ。海外に行くと嘘をついて、もう何年も遠距離恋愛になってしまっている。正月や夏休みぐらいはそりゃ帰るけど、もしかしたら他に男を作っているかも分からんな。こんな自然消滅一歩手前の状態で、今も健気に待っててくれるとまでは思ってはいない。
立ち上がり、リビングの机に置いてあるパソコンの画像フォルダから懐かしい彼女の写真を開く。いつも変わらない笑顔や。
「ごめんなぁ…はーちゃん。」
笑顔で写る菜月の髪を撫でた。ここに来る前は二人で同棲をしていた。
俺が地下世界へ行くことを決めて、海外に行くと嘘ついて、寂しがりやの彼女に最初は置いていかないでと泣きじゃくられた。それでも何とか説得して、まめに連絡を取るという条件でオーケーしてもらった。
最初のうちはシュリントン先生に苦い顔をされながらも月に何回も街に通って電話した。けど年々その回数は減った。
彼女の声を聞けるのは嬉しかったし、地下世界で一人勉強する自分の励みにもなった。しかし電話をする度に彼女の話が何となーく自分ばっかり話すようになった。
分かる。分かるで?聞いて欲しいことはたくさんあるんやろ。最初は俺も彼女の話を聞けて嬉しかった。でも……もうちょっと俺の話も聞いて欲しかった。とは言ってもこの世界のことなんて話せないし、言えることは少ないんやけどね……。
あのまま同棲を続けても今のようにただ付き合っているという肩書きだけがそこにある、そんな関係になってたかも分からんなぁ。遠距離が問題だったんやない、俺の相手への配慮が足りなかったんや。
俺は連絡を怠り、きっと彼女は俺への関心を多分無くしてる。もしあのまま同棲してたとしても、きっと彼女は趣味や仕事に没頭しがちな俺にいつかは愛想を尽かしたと思う。
ああ、今年の夏休みはどうしよう。俺は今となっては学生で、大人になってもまた経験することの出来る夏休みというシステムがほんまにたまらなく楽しみにしてる。
休みは大好きや。それに今は昔の服の仕事と違って勉強も楽しい。
この世界だと魔法をある程度やけど操れる。それまでは漫画や映画の中でしか見たことなくて、どうしても手に入れられなかった魔法というものが、この世界に来て初めて自分の手で出た時の感動ったら無いよ。
更に俺が専攻してる有機魔法の技術を使えば薬草を使ってすぐに健康になれるし元々サポート好きの自分の性格に合っている。まあ担当の先生がアレやけど。そうなってくると………地下世界の生活ってのは本当に楽しいことだらけや。
彼女か地下世界かだと正直地下世界の方がええ。
俺は子どもじみた自分の考えにため息をついた。
ポケットから取り出した懐中時計を見ると22時を過ぎたとこやった。明日は学園の外で行う課外授業の日やからはよ寝なあかんとは思っとったけど、まさか部屋に帰って冷蔵庫から軽く夕飯食べて、すぐにベランダで寝てしまうとは思わんかったわ。
とても今すぐには……寝られんしなぁ。どないしよ。とりあえず明日の荷物を用意するかと決心して、俺は寝室のタンスから綺麗に畳んであるブルーローブを取り出した。
それをそばに置いてあった革製のボストンバッグに入れる。何の動物の革か分からんけど売店で安く購入したものや。まあ何やろ。通勤電車のおっさんの匂いがする。
他にも非常食や予備のコンタクトなど思いつくものは全部バッグに入れて、忘れんようにそれをリビングに持ってきて床に置いた。
そんなこんなも10分程度で終わってしもた。あーもうやることないわ。
せや、この時間やしこのままの服装でええか。俺はボーダーのパーカーにハーフパンツの格好で校庭に海を見に行くことにした。でもやっぱり海風がありそうだと思って寝室に戻り、白いロングのチノパンを履いた。もうダサい格好やけどこの時間やし誰にも会わへんやろ。
夜の外の風は想像以上に心地よかった。ブルークラスの寮を出て校庭を通り、海側の壁に向かって歩いて行く。思った通り他は誰もいなかった。壁際に着くと岩の上に登って月明かりに照らされ、キラキラと輝く水面を眺めた。
きらめく海を見て、その月のように落ち込んだ時に俺の心を照らしてくれる存在の彼女のことを思い浮かべる。
やっぱ、今週末にシュリントン先生に許可を取って連絡せなあかんな。そう決めると俺はフーっと大きく息を吐いて、首のストレッチをした。
振り返って、今度はでっかいお城のような校舎を眺めながら壁に背中を預ける。
この学園に来て3年か。まだまだ勉強することもあるし満期までいよう。そして彼女にはもっと連絡するようにして、それで俺のことに愛想尽きたらそれまでや。
そう思いながら眺めていると校舎から人影が出て来たのが見えた。暗くてよく見えんけど確かに誰かいる。
俺はじっと目を凝らす。その人影はグリーンクラスの寮へ向かってスタスタ歩いていってる。花壇のライトに照らされた時、誰だか分かった俺は岩から飛び降りてその方向へ走りながら叫んだ。
「ヒイロぉー!」
突然自分を呼ぶ声にヒイロは体をビクつかせて、叫んだ俺の姿をキョロキョロと探す。
「え?誰?何?」
ええ?俺のイケボを聞いてもまだ分からんのか!俺は花壇の近くまで走って行って花壇のライトのところに自分の顔を持っていき、お化けのように我が美顔を照らした。
「あ!タライさんか!なんだ〜、どっかで聞いた声だと思った」
別に俺のこの行動のことはスルーなんやね。ヒイロは目をクリクリさせながら俺の方を微笑んで見てきた。純粋な性格に屈託のない笑顔、そしていつも明るく話してくれて楽しくて……あの魔王様のような俺の担任がこいつのことを特別気にいるのも分かる気はする。ププッ。
「こんな特徴ある美しい声の持ち主なんか俺しかおらんやろが!まあええわ、こんな時間に何してるん?」
「私はちょっと本を借りてきたんですけど。先輩こそ何してるんです?……こんな時間に手ぶらで。」
そう言ってヒイロは本の表紙を見せつけてきた。表紙にはオラオラ!護身術!と書いてある。色々ツッコミたいとこはあるけど……まあ今はええわ。
「て、手ぶらじゃあかんの?」
俺は口を尖らせて答えた。
「手ぶらでこの時間に出歩きます?」
「別に出歩くやろ!なんかほら、考え事した時とか…。」
考え事……俺はちょっと前まで彼女の事を考えてたことを思い出してしまい、笑顔を消してしまった。ふと、いつもの俺らしくない表情をヒイロに見せてしまったと気付いたのは少ししてからやった。彼女は察したのか俺の表情を心配そうに見つめてくる。
「考え事してたんですか?もしかして彼女さんのこと?」
「まあ、そんなとこやな。」
「ふーん……タライさん…コーン…スープ飲みたくなったなぁ。」
お?何や。俺のこと気にしてくれてるのか?なんや、優しい子やな。その遠回しのお誘いに俺は喜んで乗ることにした。
「ホンマ?俺も飲みたいなぁ思ってたところやで。ちょっと飲み行こか。」
「行きましょう、行きましょう!」
そうして我々は1階の食堂に向かった。食堂のコーンスープはタダで飲み放題なんや☆
          
ライト……
懐かしい声が俺の名前を何度も呼んでいる。彼女はこの世界にいるはず無いんやけど……。
目をこすりながらレム睡眠から目覚めた。ボヤッと滲む視界のまま目の前に広がる星空を眺める。
胸に手をやると漫画が置いてあるのが分かった。そうか、自室のベランダに置いてある白いチェアで漫画を読んでいたら、いつの間にか寝てしまったらしい。
久しぶりに聞く彼女の声に、そういえば最近電話したのはいつだったんか、ちょっと記憶が曖昧なくらいに結構の間、連絡を取ってないことに気付いて胸が少し痛んだ。
この地下世界から地上へ電話する手段ってのは少ない。そもそもこの地下世界での通話は限られた人しか出来無いのは、まだ出来たばかりのこの世界が不安定で通信規制があるからだと、前に家森先生に聞いたことがある。
せやから地上へ電話するには街へ行き、役所の前に設置されている専用の公衆電話を使うしか方法がない。
当たり前やけど街へ行くには学園の外を出なあかんし、外に出るには学園の防御壁の門を開けなあかんし、それには学園長だか理事長だか知らんがとにかく一番偉そうなシュリントン先生の許可が必要やし……そのシュリントン先生も超が付くほどの気分屋やし、ああ!もう面倒臭くてたまらん!
彼女は今何してんのやろ。海外に行くと嘘をついて、もう何年も遠距離恋愛になってしまっている。正月や夏休みぐらいはそりゃ帰るけど、もしかしたら他に男を作っているかも分からんな。こんな自然消滅一歩手前の状態で、今も健気に待っててくれるとまでは思ってはいない。
立ち上がり、リビングの机に置いてあるパソコンの画像フォルダから懐かしい彼女の写真を開く。いつも変わらない笑顔や。
「ごめんなぁ…はーちゃん。」
笑顔で写る菜月の髪を撫でた。ここに来る前は二人で同棲をしていた。
俺が地下世界へ行くことを決めて、海外に行くと嘘ついて、寂しがりやの彼女に最初は置いていかないでと泣きじゃくられた。それでも何とか説得して、まめに連絡を取るという条件でオーケーしてもらった。
最初のうちはシュリントン先生に苦い顔をされながらも月に何回も街に通って電話した。けど年々その回数は減った。
彼女の声を聞けるのは嬉しかったし、地下世界で一人勉強する自分の励みにもなった。しかし電話をする度に彼女の話が何となーく自分ばっかり話すようになった。
分かる。分かるで?聞いて欲しいことはたくさんあるんやろ。最初は俺も彼女の話を聞けて嬉しかった。でも……もうちょっと俺の話も聞いて欲しかった。とは言ってもこの世界のことなんて話せないし、言えることは少ないんやけどね……。
あのまま同棲を続けても今のようにただ付き合っているという肩書きだけがそこにある、そんな関係になってたかも分からんなぁ。遠距離が問題だったんやない、俺の相手への配慮が足りなかったんや。
俺は連絡を怠り、きっと彼女は俺への関心を多分無くしてる。もしあのまま同棲してたとしても、きっと彼女は趣味や仕事に没頭しがちな俺にいつかは愛想を尽かしたと思う。
ああ、今年の夏休みはどうしよう。俺は今となっては学生で、大人になってもまた経験することの出来る夏休みというシステムがほんまにたまらなく楽しみにしてる。
休みは大好きや。それに今は昔の服の仕事と違って勉強も楽しい。
この世界だと魔法をある程度やけど操れる。それまでは漫画や映画の中でしか見たことなくて、どうしても手に入れられなかった魔法というものが、この世界に来て初めて自分の手で出た時の感動ったら無いよ。
更に俺が専攻してる有機魔法の技術を使えば薬草を使ってすぐに健康になれるし元々サポート好きの自分の性格に合っている。まあ担当の先生がアレやけど。そうなってくると………地下世界の生活ってのは本当に楽しいことだらけや。
彼女か地下世界かだと正直地下世界の方がええ。
俺は子どもじみた自分の考えにため息をついた。
ポケットから取り出した懐中時計を見ると22時を過ぎたとこやった。明日は学園の外で行う課外授業の日やからはよ寝なあかんとは思っとったけど、まさか部屋に帰って冷蔵庫から軽く夕飯食べて、すぐにベランダで寝てしまうとは思わんかったわ。
とても今すぐには……寝られんしなぁ。どないしよ。とりあえず明日の荷物を用意するかと決心して、俺は寝室のタンスから綺麗に畳んであるブルーローブを取り出した。
それをそばに置いてあった革製のボストンバッグに入れる。何の動物の革か分からんけど売店で安く購入したものや。まあ何やろ。通勤電車のおっさんの匂いがする。
他にも非常食や予備のコンタクトなど思いつくものは全部バッグに入れて、忘れんようにそれをリビングに持ってきて床に置いた。
そんなこんなも10分程度で終わってしもた。あーもうやることないわ。
せや、この時間やしこのままの服装でええか。俺はボーダーのパーカーにハーフパンツの格好で校庭に海を見に行くことにした。でもやっぱり海風がありそうだと思って寝室に戻り、白いロングのチノパンを履いた。もうダサい格好やけどこの時間やし誰にも会わへんやろ。
夜の外の風は想像以上に心地よかった。ブルークラスの寮を出て校庭を通り、海側の壁に向かって歩いて行く。思った通り他は誰もいなかった。壁際に着くと岩の上に登って月明かりに照らされ、キラキラと輝く水面を眺めた。
きらめく海を見て、その月のように落ち込んだ時に俺の心を照らしてくれる存在の彼女のことを思い浮かべる。
やっぱ、今週末にシュリントン先生に許可を取って連絡せなあかんな。そう決めると俺はフーっと大きく息を吐いて、首のストレッチをした。
振り返って、今度はでっかいお城のような校舎を眺めながら壁に背中を預ける。
この学園に来て3年か。まだまだ勉強することもあるし満期までいよう。そして彼女にはもっと連絡するようにして、それで俺のことに愛想尽きたらそれまでや。
そう思いながら眺めていると校舎から人影が出て来たのが見えた。暗くてよく見えんけど確かに誰かいる。
俺はじっと目を凝らす。その人影はグリーンクラスの寮へ向かってスタスタ歩いていってる。花壇のライトに照らされた時、誰だか分かった俺は岩から飛び降りてその方向へ走りながら叫んだ。
「ヒイロぉー!」
突然自分を呼ぶ声にヒイロは体をビクつかせて、叫んだ俺の姿をキョロキョロと探す。
「え?誰?何?」
ええ?俺のイケボを聞いてもまだ分からんのか!俺は花壇の近くまで走って行って花壇のライトのところに自分の顔を持っていき、お化けのように我が美顔を照らした。
「あ!タライさんか!なんだ〜、どっかで聞いた声だと思った」
別に俺のこの行動のことはスルーなんやね。ヒイロは目をクリクリさせながら俺の方を微笑んで見てきた。純粋な性格に屈託のない笑顔、そしていつも明るく話してくれて楽しくて……あの魔王様のような俺の担任がこいつのことを特別気にいるのも分かる気はする。ププッ。
「こんな特徴ある美しい声の持ち主なんか俺しかおらんやろが!まあええわ、こんな時間に何してるん?」
「私はちょっと本を借りてきたんですけど。先輩こそ何してるんです?……こんな時間に手ぶらで。」
そう言ってヒイロは本の表紙を見せつけてきた。表紙にはオラオラ!護身術!と書いてある。色々ツッコミたいとこはあるけど……まあ今はええわ。
「て、手ぶらじゃあかんの?」
俺は口を尖らせて答えた。
「手ぶらでこの時間に出歩きます?」
「別に出歩くやろ!なんかほら、考え事した時とか…。」
考え事……俺はちょっと前まで彼女の事を考えてたことを思い出してしまい、笑顔を消してしまった。ふと、いつもの俺らしくない表情をヒイロに見せてしまったと気付いたのは少ししてからやった。彼女は察したのか俺の表情を心配そうに見つめてくる。
「考え事してたんですか?もしかして彼女さんのこと?」
「まあ、そんなとこやな。」
「ふーん……タライさん…コーン…スープ飲みたくなったなぁ。」
お?何や。俺のこと気にしてくれてるのか?なんや、優しい子やな。その遠回しのお誘いに俺は喜んで乗ることにした。
「ホンマ?俺も飲みたいなぁ思ってたところやで。ちょっと飲み行こか。」
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