スカーレット、君は絶対に僕のもの
第14話 水色対青
そのあとも試合は続き、ずっと立ちながら試合を観ていた生徒達は足の疲れもあって立ち位置を変えたりその場で座ったりする人も出始めている。
今、隣にはタライさんがいる。今は休憩時間で、彼は友達と一緒に居るのが飽きたらしくこちらに来てくれた。エレンやジョンは他のブルークラスのお友達と一緒に座っている。
「いやあ、俺まだなんやけど、他に戦ってない人おる?」
持っていたボトルで水を飲みながら話しかけてきた。
「うーん、誰でしょうね。余ってるの。」
その時遠くのシュリントン先生がゲフンゲフンと何回か咳払いをした後に、枯れかけた声を出した。
「次は!…最後か、次は高崎と……。」
高崎?
「高崎って誰です?」
私がタライさんに聞くと彼はカバンをゴソゴソとしながら言った。
「俺や。俺の本名は高崎頼人。」
あ、そうなんだ……。
「だから略してタライさんなんですね、ライトってかっこいい名前「いやいやいや!俺はそれが嫌やねん!せやからこれからもタライって呼んで?な!」
そんなに嫌なの?なんでよ別にいいと思うのに……まあ本人が気にしてるなら仕方ないけど。とにかく次はタライさんの番なんだ。相手は誰なんだろう。
皆が一斉にシュリントン先生に注目する。しかし先生はそこで一瞬固まり闘技盤の反対側を向いて「いいんですな?」と声をかけた。
その目線の先には……何と家森先生がいた。
「構いません。」
そう言うと家森先生はコートを脱ぎ、隣にいたマリーに預けて闘技盤に向かって歩き始めた。マリーは先生にコートを預けられて嬉しそうに興奮しながら受け取り抱きしめている。ああそう……ってちょっと待って!?
「なにぃ!?俺の相手、家森先生か!?」
隣のタライさんが叫ぶし、私もまさかの展開に驚きを隠せない。
「えー最後の試合は、高崎と家森先生!」
シュリントン先生が大きな声で叫ぶと、場内に大歓声が上がった。一方ではタライさんの多くの友人がタライー!と名を叫んだり、家森先生と戦うのかよ!と笑ったり、一方では女子たちがきゃー!と黄色い声援を家森先生に向かって飛ばしていた。
そして他の生徒達は、家森先生魔法を使えなかったんじゃないのか!?と興味に満ちた言葉を飛ばしまくっている。
家森先生が盤上に燕尾のローブ姿で上がり、タライさんも武器の小銃を構える練習をしながら盤上に上がろうとした。私は彼に駆け寄って、両手で拳を作って声を掛けた!
「タライさん!ファイトですよ!行けます!」
「よっしゃ!おう!任しとき!」
そう言ってタライさんはイェイと言いながら両手をパン!と合わせてくれた。
ちらっと相手側の家森先生の方を見たら彼の目から光が消えていた。消えてるどころか見たことない氷点下の真顔でこちらを見ていたので、私とタライさんは思わず彼を二度見してしまった。
二人が向かい合う。
「それでは、一言。」
シュリントン先生が言うと家森先生がタライさんのことを見つめて、口角をあげながら言った。
「まあ、お手柔らかに頼みます。僕も年なので。」
タライさんはふっと笑いを漏らすと先生に向かって言った。
「年言うけど……家森先生と俺、4つしか変わらへんで!」
彼の言葉に観衆のどこかからか、笑い声が起きた。
「行きます!」係がブラックストーンを投げた。
シャン!
音は鳴り試合は始まったが、両者一歩も動かなかった。
歓声は少し治り始める。どうしたのだろうとタライさんの背中を見つめる。
「もうええの?始めるで?」
タライさんの質問に家森先生は微笑んだ。
「おや、あなたはカウンタータイプですか?」
家森先生の言葉が図星だったのか彼はチッと舌を鳴らした。
「なんや、バレたか!しゃあないな、俺から行くで!」
ハンドガンを家森先生に向けてトリガーに指を乗せた。しかしまだタライさんは発砲しようとしない。どうしたのだろうか。
その間に歓声がまた大きくなった。その中で、特にマリーの声で家森先生頑張って!と言う声がよく響いている。それに競争するようにどんどんと家森先生を応援する声がそこかしこから湧き出した。
トリガーに指を乗せたまま固まっているタライさんは、相手を応援する声援がどんどん大きくなっていることに怯んでいる様子だった。
タライさんを応援する友人の声は家森ファンの女性陣の声でかき消されている。きっと気持ちで負けてしまっているんだ……私はタライさんの後ろの闘技盤の縁を掴んで叫んだ。
「タライさーん!行け行けー!」
私の声が聞こえたのかタライさんはこちらを振り向いた。私は笑顔で拳をブンブン振りながら叫んだ。
「大丈夫!怪我してもウェイン先生いるからー!ゴーゴー!」
すると主にジョン達や、タライさんのお友達のあたりから笑い声が響いた。
タライさんは目に笑い皺を作って、拳を私みたいにブンブン振った。
「ヒイロ、ありがとう!……ほな行くで!」
彼はハンドガンを握り直し、家森先生に向けトリガーを引いた。
と、同時に家森先生が素早くハンドガンに向けてスカイブルーの球体の魔法陣を飛ばした。
あまりの魔法詠唱の素早さとあまり知らない魔術のタイプに周りがどよめいた。あれは……通常実践魔法だ!
タライさんのハンドガンに魔法陣が当たると勢いよく彼の手からハンドガンが上に向かってすっぽ抜けてしまった。ハンドガンから発砲された水の銃弾は天井の何も無い方向に飛んで行った。
「あっ!何したんや!?」
「すみません、私もカウンタータイプなので。これが通常実践魔法です。意外と使えますよ。興味が湧きましたら皆さんもどうぞ、専攻を取ってください」
アピールし始めた家森先生を睨みながらタライさんは頭をわしゃわしゃかきむしった。
「何、俺を使って宣伝してんねん!」
タライさんはチラっと床に落ちているハンドガンを見る。ちょうど家森先生との距離の真ん中らへん、闘技盤ギリギリのところに落ちていた。
「カウンタータイプならもう何も出来へんやろ!くそー」
そう言って彼はハンドガンを取りに走り始めた。
「そうはさせません!」
すると家森先生がタライさんの足に向かって水色の球体を飛ばした。
それが彼の足に当たると勢いよく彼の体が宙でフィギュアスケートのようにグルグルと4回転し、お尻からボトッと床に落ちた。ちょっと痛そう……。
「いたぁー!もうさっきからなんなんこれ!」
タライさんが叫ぶ。
「これも通常実践魔法の物をひっくり返す技です。他にはそうですね、フライパンにこびりついた卵焼きなんかをひっくり返す時にも重宝しますよ」
家森先生がこめかみに指をトントンと当てながら言った。完全に舐められてるよ……タライさん。そして家森先生の言葉に取り巻きの女子達は彼を見て嘲笑い始めた。何だか自然と歯を食いしばってしまう。これは、私は怒ってるのだろうか。
「まあ、今回はシュリントン先生の勧めで参加しました。本来ならすぐに決着をつけても良かったのですが……さっき気分が変わりましてね。もう少し遊びませんか?高崎。」
そんなことを言う人だったのか家森先生は?何だか少し驚いた。タライさんはと言うと、漸く地面から立ち上がったところだった。
「くそ……人前で舐めた真似しおって……」
呟いた彼はいつもの優しそうな表情が消えて、燃えるような眼差しを先生に向けている。
家森先生はと言うとタライさんを冷たい目つきで見て、愉快、愉快と呟き口角を上げていた。何それ!?私はカチンときた。
「タライさん、諦めないでー!やっつけてしまえー!」
グワッと家森ファンの敵意のある眼差しが一気に自分に向けられたのが分かった。敵視の集中に、体が危険信号を出している。それでも私は行けー!と応援する言葉を叫んだ。
「おっし!俺には力強い味方がいるんや!諦めてたまるか!行くで!」
元気を取り戻したタライさんは素手のまま家森先生に向かって走り出した。
家森先生はまた彼の足元に水色の球体を投げたが、彼が素早く宙がえりして交わすとそのまましゃがんで家森先生の懐に入った。
ブーツから小さい筒のようなものを取り出す。タライさんが筒を器用に指先で回転させると筒から水の刃が青く光り、ナイフのように形作られた。
「護身用や!」
タライさんが叫び、水のナイフを家森先生の首元向けようとする。
その瞬間、家森先生はタライさんの顔面に手のひらを向けた。それは魔術の構えだった。
突然の家森先生の魔術の構えにタライさんは驚き、身を翻し、バク転で間を取った。
が、家森先生のかざした手からは何も出なかった。
「ん〜〜何もないんかい!」
タライさんはツッコみながらもまた距離を詰め、攻撃をするためにナイフで刺そうとした。
しかし家森先生がそのナイフが握られた手首を上手く掴み、くるりと回し、タライさんの背中にそのままくっつけてしまった。
彼の手からナイフが床にカラン落ちると、水の刃が消えてまた筒に形を戻した。家森先生はそのままタライさんに覆いかぶさるように体重をかける。
「いたたたた!もー無理!もぉ無理!」
タライさんが闘技盤の床をギブギブ!と言いバンバンと叩いたところで試合は終了した。
「勝者、家森先生!」
キャーッとまた女子の叫びがあがった。家森先生は力を緩めると、タライさんの体を立たせた。タライさんは腕を押さえてて痛そうにしている。
「先生もう最後の何なん?構えた割には何も出てこーへんかったやん…。」
「……そういう時もあるということです。」
「ああ!?フェイクか!あーもう騙されるとは思わんかったわー!ぐやじい!」
悔しがるタライさんが盤上から降りてきたので、私はハイタッチをして彼を迎えた。
「タライさんお疲れ様でした!でもかっこよかっ「先生〜〜!」
すぐそこでマリーの声がする……ああ、でたでた。
家森先生も盤上から降りてくると、マリーからコートを受け取り羽織った。
「先生とてもかっこよかったです……!それから、最後のあれ!魔法を使わなくてもお強いのですね!」
マリーの言葉に先生の周りに集まり出した女子がうんうんと頷いた。もうあんなに崇められて奉られて、あそこまでいくと教祖様みたいだよなと思いながら私は見ている。
「そうですか、それはよかった……しかしあれはたまたまです」
そう言った次の瞬間に家森先生がこちらを見てきて目が合ってしまった。
私は思わずまた目を逸らした。それにしても今日はよく目が合うな……私はタオルで顔を拭いているタライさんに視線を戻すと、腰に付いているハンドガンを見つけた。
「タライさんもエレンみたいに銃で戦うんですね!」
「え?ああそうや。俺の水属性の勢いは蛇口レベルやもん、銃使うに決まってるやん?」
ドヤって顔をして言ってきた。ドヤるところじゃないでしょ!と笑っていると、タライさんも笑いながら腰にあったハンドガンを貸して見せてくれた。
私は初めて見るハンドガンをまじまじと色々な角度から観察し始めた……かっこいい。
終礼をし、皆がゾロゾロ格技場を後にする。今日はこれで他の授業が無いため、途中まで一緒に帰ろうとエレンとジョンが来てくれたので帰路を一緒に歩き出した。
「家森先生の魔法、地味だけどすごかったねー!」
ジョンが言うとエレンが、
「ホント、でもあの魔法はちょっと地味だから専攻は取らないかも……」
と言った。ジョンは確かにと笑ったが、私は家森先生と先日した約束を思い出して苦笑いした。
しかし、あんなに素早く通常実戦魔学の魔法陣を出せるなんて、やっぱり家森先生はすごいと思った。戦っている時のあの挑発的な態度はあまり頂けなかったけど……。
でも、家森先生は魔術が無くてもタライさんに勝った。あれは護身術というのだろうか?戦う術を身につけているなんて……正直驚いた。ああいう護身術を私も身につけようかな。何かの時に役に立ちそうだしね!
明日は休みなので図書室で護身術の本でも見てみようと思った。
今、隣にはタライさんがいる。今は休憩時間で、彼は友達と一緒に居るのが飽きたらしくこちらに来てくれた。エレンやジョンは他のブルークラスのお友達と一緒に座っている。
「いやあ、俺まだなんやけど、他に戦ってない人おる?」
持っていたボトルで水を飲みながら話しかけてきた。
「うーん、誰でしょうね。余ってるの。」
その時遠くのシュリントン先生がゲフンゲフンと何回か咳払いをした後に、枯れかけた声を出した。
「次は!…最後か、次は高崎と……。」
高崎?
「高崎って誰です?」
私がタライさんに聞くと彼はカバンをゴソゴソとしながら言った。
「俺や。俺の本名は高崎頼人。」
あ、そうなんだ……。
「だから略してタライさんなんですね、ライトってかっこいい名前「いやいやいや!俺はそれが嫌やねん!せやからこれからもタライって呼んで?な!」
そんなに嫌なの?なんでよ別にいいと思うのに……まあ本人が気にしてるなら仕方ないけど。とにかく次はタライさんの番なんだ。相手は誰なんだろう。
皆が一斉にシュリントン先生に注目する。しかし先生はそこで一瞬固まり闘技盤の反対側を向いて「いいんですな?」と声をかけた。
その目線の先には……何と家森先生がいた。
「構いません。」
そう言うと家森先生はコートを脱ぎ、隣にいたマリーに預けて闘技盤に向かって歩き始めた。マリーは先生にコートを預けられて嬉しそうに興奮しながら受け取り抱きしめている。ああそう……ってちょっと待って!?
「なにぃ!?俺の相手、家森先生か!?」
隣のタライさんが叫ぶし、私もまさかの展開に驚きを隠せない。
「えー最後の試合は、高崎と家森先生!」
シュリントン先生が大きな声で叫ぶと、場内に大歓声が上がった。一方ではタライさんの多くの友人がタライー!と名を叫んだり、家森先生と戦うのかよ!と笑ったり、一方では女子たちがきゃー!と黄色い声援を家森先生に向かって飛ばしていた。
そして他の生徒達は、家森先生魔法を使えなかったんじゃないのか!?と興味に満ちた言葉を飛ばしまくっている。
家森先生が盤上に燕尾のローブ姿で上がり、タライさんも武器の小銃を構える練習をしながら盤上に上がろうとした。私は彼に駆け寄って、両手で拳を作って声を掛けた!
「タライさん!ファイトですよ!行けます!」
「よっしゃ!おう!任しとき!」
そう言ってタライさんはイェイと言いながら両手をパン!と合わせてくれた。
ちらっと相手側の家森先生の方を見たら彼の目から光が消えていた。消えてるどころか見たことない氷点下の真顔でこちらを見ていたので、私とタライさんは思わず彼を二度見してしまった。
二人が向かい合う。
「それでは、一言。」
シュリントン先生が言うと家森先生がタライさんのことを見つめて、口角をあげながら言った。
「まあ、お手柔らかに頼みます。僕も年なので。」
タライさんはふっと笑いを漏らすと先生に向かって言った。
「年言うけど……家森先生と俺、4つしか変わらへんで!」
彼の言葉に観衆のどこかからか、笑い声が起きた。
「行きます!」係がブラックストーンを投げた。
シャン!
音は鳴り試合は始まったが、両者一歩も動かなかった。
歓声は少し治り始める。どうしたのだろうとタライさんの背中を見つめる。
「もうええの?始めるで?」
タライさんの質問に家森先生は微笑んだ。
「おや、あなたはカウンタータイプですか?」
家森先生の言葉が図星だったのか彼はチッと舌を鳴らした。
「なんや、バレたか!しゃあないな、俺から行くで!」
ハンドガンを家森先生に向けてトリガーに指を乗せた。しかしまだタライさんは発砲しようとしない。どうしたのだろうか。
その間に歓声がまた大きくなった。その中で、特にマリーの声で家森先生頑張って!と言う声がよく響いている。それに競争するようにどんどんと家森先生を応援する声がそこかしこから湧き出した。
トリガーに指を乗せたまま固まっているタライさんは、相手を応援する声援がどんどん大きくなっていることに怯んでいる様子だった。
タライさんを応援する友人の声は家森ファンの女性陣の声でかき消されている。きっと気持ちで負けてしまっているんだ……私はタライさんの後ろの闘技盤の縁を掴んで叫んだ。
「タライさーん!行け行けー!」
私の声が聞こえたのかタライさんはこちらを振り向いた。私は笑顔で拳をブンブン振りながら叫んだ。
「大丈夫!怪我してもウェイン先生いるからー!ゴーゴー!」
すると主にジョン達や、タライさんのお友達のあたりから笑い声が響いた。
タライさんは目に笑い皺を作って、拳を私みたいにブンブン振った。
「ヒイロ、ありがとう!……ほな行くで!」
彼はハンドガンを握り直し、家森先生に向けトリガーを引いた。
と、同時に家森先生が素早くハンドガンに向けてスカイブルーの球体の魔法陣を飛ばした。
あまりの魔法詠唱の素早さとあまり知らない魔術のタイプに周りがどよめいた。あれは……通常実践魔法だ!
タライさんのハンドガンに魔法陣が当たると勢いよく彼の手からハンドガンが上に向かってすっぽ抜けてしまった。ハンドガンから発砲された水の銃弾は天井の何も無い方向に飛んで行った。
「あっ!何したんや!?」
「すみません、私もカウンタータイプなので。これが通常実践魔法です。意外と使えますよ。興味が湧きましたら皆さんもどうぞ、専攻を取ってください」
アピールし始めた家森先生を睨みながらタライさんは頭をわしゃわしゃかきむしった。
「何、俺を使って宣伝してんねん!」
タライさんはチラっと床に落ちているハンドガンを見る。ちょうど家森先生との距離の真ん中らへん、闘技盤ギリギリのところに落ちていた。
「カウンタータイプならもう何も出来へんやろ!くそー」
そう言って彼はハンドガンを取りに走り始めた。
「そうはさせません!」
すると家森先生がタライさんの足に向かって水色の球体を飛ばした。
それが彼の足に当たると勢いよく彼の体が宙でフィギュアスケートのようにグルグルと4回転し、お尻からボトッと床に落ちた。ちょっと痛そう……。
「いたぁー!もうさっきからなんなんこれ!」
タライさんが叫ぶ。
「これも通常実践魔法の物をひっくり返す技です。他にはそうですね、フライパンにこびりついた卵焼きなんかをひっくり返す時にも重宝しますよ」
家森先生がこめかみに指をトントンと当てながら言った。完全に舐められてるよ……タライさん。そして家森先生の言葉に取り巻きの女子達は彼を見て嘲笑い始めた。何だか自然と歯を食いしばってしまう。これは、私は怒ってるのだろうか。
「まあ、今回はシュリントン先生の勧めで参加しました。本来ならすぐに決着をつけても良かったのですが……さっき気分が変わりましてね。もう少し遊びませんか?高崎。」
そんなことを言う人だったのか家森先生は?何だか少し驚いた。タライさんはと言うと、漸く地面から立ち上がったところだった。
「くそ……人前で舐めた真似しおって……」
呟いた彼はいつもの優しそうな表情が消えて、燃えるような眼差しを先生に向けている。
家森先生はと言うとタライさんを冷たい目つきで見て、愉快、愉快と呟き口角を上げていた。何それ!?私はカチンときた。
「タライさん、諦めないでー!やっつけてしまえー!」
グワッと家森ファンの敵意のある眼差しが一気に自分に向けられたのが分かった。敵視の集中に、体が危険信号を出している。それでも私は行けー!と応援する言葉を叫んだ。
「おっし!俺には力強い味方がいるんや!諦めてたまるか!行くで!」
元気を取り戻したタライさんは素手のまま家森先生に向かって走り出した。
家森先生はまた彼の足元に水色の球体を投げたが、彼が素早く宙がえりして交わすとそのまましゃがんで家森先生の懐に入った。
ブーツから小さい筒のようなものを取り出す。タライさんが筒を器用に指先で回転させると筒から水の刃が青く光り、ナイフのように形作られた。
「護身用や!」
タライさんが叫び、水のナイフを家森先生の首元向けようとする。
その瞬間、家森先生はタライさんの顔面に手のひらを向けた。それは魔術の構えだった。
突然の家森先生の魔術の構えにタライさんは驚き、身を翻し、バク転で間を取った。
が、家森先生のかざした手からは何も出なかった。
「ん〜〜何もないんかい!」
タライさんはツッコみながらもまた距離を詰め、攻撃をするためにナイフで刺そうとした。
しかし家森先生がそのナイフが握られた手首を上手く掴み、くるりと回し、タライさんの背中にそのままくっつけてしまった。
彼の手からナイフが床にカラン落ちると、水の刃が消えてまた筒に形を戻した。家森先生はそのままタライさんに覆いかぶさるように体重をかける。
「いたたたた!もー無理!もぉ無理!」
タライさんが闘技盤の床をギブギブ!と言いバンバンと叩いたところで試合は終了した。
「勝者、家森先生!」
キャーッとまた女子の叫びがあがった。家森先生は力を緩めると、タライさんの体を立たせた。タライさんは腕を押さえてて痛そうにしている。
「先生もう最後の何なん?構えた割には何も出てこーへんかったやん…。」
「……そういう時もあるということです。」
「ああ!?フェイクか!あーもう騙されるとは思わんかったわー!ぐやじい!」
悔しがるタライさんが盤上から降りてきたので、私はハイタッチをして彼を迎えた。
「タライさんお疲れ様でした!でもかっこよかっ「先生〜〜!」
すぐそこでマリーの声がする……ああ、でたでた。
家森先生も盤上から降りてくると、マリーからコートを受け取り羽織った。
「先生とてもかっこよかったです……!それから、最後のあれ!魔法を使わなくてもお強いのですね!」
マリーの言葉に先生の周りに集まり出した女子がうんうんと頷いた。もうあんなに崇められて奉られて、あそこまでいくと教祖様みたいだよなと思いながら私は見ている。
「そうですか、それはよかった……しかしあれはたまたまです」
そう言った次の瞬間に家森先生がこちらを見てきて目が合ってしまった。
私は思わずまた目を逸らした。それにしても今日はよく目が合うな……私はタオルで顔を拭いているタライさんに視線を戻すと、腰に付いているハンドガンを見つけた。
「タライさんもエレンみたいに銃で戦うんですね!」
「え?ああそうや。俺の水属性の勢いは蛇口レベルやもん、銃使うに決まってるやん?」
ドヤって顔をして言ってきた。ドヤるところじゃないでしょ!と笑っていると、タライさんも笑いながら腰にあったハンドガンを貸して見せてくれた。
私は初めて見るハンドガンをまじまじと色々な角度から観察し始めた……かっこいい。
終礼をし、皆がゾロゾロ格技場を後にする。今日はこれで他の授業が無いため、途中まで一緒に帰ろうとエレンとジョンが来てくれたので帰路を一緒に歩き出した。
「家森先生の魔法、地味だけどすごかったねー!」
ジョンが言うとエレンが、
「ホント、でもあの魔法はちょっと地味だから専攻は取らないかも……」
と言った。ジョンは確かにと笑ったが、私は家森先生と先日した約束を思い出して苦笑いした。
しかし、あんなに素早く通常実戦魔学の魔法陣を出せるなんて、やっぱり家森先生はすごいと思った。戦っている時のあの挑発的な態度はあまり頂けなかったけど……。
でも、家森先生は魔術が無くてもタライさんに勝った。あれは護身術というのだろうか?戦う術を身につけているなんて……正直驚いた。ああいう護身術を私も身につけようかな。何かの時に役に立ちそうだしね!
明日は休みなので図書室で護身術の本でも見てみようと思った。
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