浮遊図書館の魔王様

るーるー

第125話 逆鱗にふれました

『勝者、浮遊図書館魔王! レクレ・フィンブルノだぁぁぁぁぁ』


 魔法を閉じたわたしが元いた場所に戻るとウサギが、わたしの勝利宣言をしているところだった。やっぱり向こう側の様子は筒抜けだったみたいだ。


「なんなの、あの魔王……」
「今まで一番規格外よ」
「封印しちゃう? 女神4人掛かりならなんとかなるんじゃ……」


 負けたくせになかなかに物騒なことをいうな。女神側は。


『はい、女神側黙る! ゲームはルールを守りましょう。破ったらペナルティですよ!これにより女神が2勝、魔王が3勝となり魔王側の勝利が決定しま……』
「ちょっと待ちなさい!」


 ウサギの声を遮り褐色の影がわたしの前に落ちてきた。
 その影はスっと立ち上がるとわたしを指差した。


「浮遊図書館魔王! レクレ! 貴方に私の勇者と聖女が決闘を申し込むわ!」
「えと、貴方は誰でしょうか?」


 いきなり現れて決闘を申し込まれたけどこの人は一体だれだろうか?


「そうね、自己紹介がまだだったわね。私の名前はポンパドゥール! 愉悦の女神ポンパドゥールよ」


 また女神様かよ。
 うんざりしてくるよ。


「あ〜はいはい、で勇者は? 」


 見た感じは近くにいないみたいだけど?
 しかし、この踊り子みたいは服を着たやたらと露出が多い女神らなんだかやばさを感じるな。


「ふふ、私は演出にもこだわる女神! あれをごらんなさい!」


 ポンパドゥールが腕を勢い良く上げ、浮遊図書館を指差す。いつも通り浮いてるね。


「で?」
「ふふん、勇者様の登場よ!」


 ポンパドゥールが声高々に宣言した瞬間、浮遊図書館の一部に線が走る。


「ん?」


 わたしの見ている目の前で浮遊図書館の一角がズルズルと落ちた。まるで巨大な剣に切り裂かれたかのように。


「な、」
「浮遊図書館が斬られた⁉︎」
「すげー」
「だれ! だれが斬ったの」
「……」


 観客、メイド姉妹がザワザワとしている中、わたしは無言で切り崩された浮遊図書館を見上げていた。


「レクレ様! お気を確かに!」


 マーテやビリアラが必死な形相でわたしの服の裾をつかむ。全くなにを慌ててるんだか。
 そんなマーテやビリアラを見ながらわたしは笑顔で告げる。


「大丈夫、ちょっと八つ裂きにしてあげるだけだよ」
「やめて! レクレさま! 意外と冗談になってないです」


 八つ裂きが、だめか。ふむ、


「つまりマーテは八つ裂きは駄目と? やるなら完全に殺せということなんだね?」
「そこまで言ってませんよ⁉︎」
「わかった99パーセント殺しとこう」
「それもまたまずいです!」


 マーテが後ろで叫んでるけどわたしは無視。うん、凄く落ち着いてる? 今のわたしは最高にクゥゥルだ。


「おい、女神」
「ん? 」


 わたしが声を掛けると女神は楽しげにこちらを見てきた。


「あれの実行犯があなたの勇者?」
「そうだよ」
「とっとと呼べ」
「ひぃ!」


 女神が小さく悲鳴をあげる。それと同時に周りに魔力の風が吹き荒れる。
 うん、落ち着いてる。とても落ち着いてる。


「勇者! 召喚!」


 瞳に恐怖の感情を浮かべたポンパドゥールが召喚陣を描き叫ぶ。
 再び魔力の風が吹き荒れ、召喚陣が淡く光り輝く。
 やがて輝きが収まると召喚陣の真ん中には純白のカフェ鎧と聖女スペランツァ・タンペットが立っていた。


「お久しぶりです、レクレ様」
「ああ、スペラか。久しぶり久しぶり。で、」


 ギロリと横の白兜に視線を向ける。


浮遊図書館あれやったのそっちの白兜?」


 そういい、欠けた浮遊図書館を指差す。


「あ、えっと、その」


 しろもどしているスペラの前に鎧が音を立てながら一歩庇うように前にでた。


「ワタシガヤッタノヨ、レクレ」
「へぇ、そう。消し飛べ♡」


 にこやかな笑顔を浮かべながらわたしは今まで人に向けて放ったことがない魔法。次元魔法ムーブショットを一切合切の慈悲もなく白兜に向かい叩き込んだ。
 同時に白兜の右腕が閃き、腕が振るわれたことで風が巻き上がる。


 スパァァァァン!


 右腕を振り切った姿勢で白兜が無傷で姿を現す。
 それが、若干、そう、ほんの少しイラつくのだ。


「フフフ、キカナイワ」
「いい加減やめなよ、そのむかつく喋り方。カハネル・リミテス」


 そう言うと白兜は鎧を揺らしながらカタカタと笑う。
 そして白兜を両手で外し、顔を露わにする。


「正解! カハネル・リミテスでし……」
「はぜろ!」


 瞬時に雷化。距離を詰め露わになったカハネルの顔面に拳を突き立てる。


「がぎゃぁ⁉︎」


 鼻血を出しながら後ろに倒れこむカハネルの後ろに回り込み再び(今度は後頭部)に拳を叩き込んだ。
 ゴスっという鈍い音を響かせ、カハネルは今度は前に鎧をガシャガシャと言わしながら倒れこんだ。


「で、本物の勇者は?」


 カハネルが完全に気絶していることを確認したわたしは後ろに控えるポンパドゥールとスペラに振り返り尋ねた。


『……………………』


 振り返ると全員が沈黙していた。
 スペラとポンパドゥールに至っては二人で肩を寄せ合いガタガタと震えながらカハネルを指差していた。
 そんな二人を見てわたはしはふっと鼻で笑う。


「いい?わたしはカハネルが学校にいた時のことを知ってるけどこの程度よ。さっきみたいにわたしの大事な図書館を斬ることなんてできないの! だからさっさと本物の勇者を……」
「あの、レクレ、いや! レクレ様」


 おずおずと言った様子で女神ラヴリが手を上げている。


「なに」
「あの、そこに倒れてるのは確かに勇者です。勇者の波動があるので確実です」


 そう、ラヴリが指差した先には確かにカハネルがいた。
 つまり、カハネル・リミテスは勇者だったと。


「わたしのこの怒りはどこに向ければ……」
『勝者、魔王レクレ・フィンブルノ! ではみなさん、またの機会があればお会いしましょうね〜!』


 こうして強引にウサギにより遮られ、『チキチキ! 新米魔王レクレと戦闘大会! 出血もあるよ!』は幕を閉じたのだった。

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