浮遊図書館の魔王様

るーるー

第114話 トラウマ作りました

「いくわよ! 武蔵丸! 全開よ!」
「了解ぴょん! タルメア様!」


 武蔵丸がコートとごしに左手でそばの入った器を掴み悪戦苦闘しながらも右手のフォークにそばを絡め運ぶ。


「はい、タルメア様、あーんぴょん」
「あーん」


 武蔵丸の声にタルメアが呼応し大きく口を開ける。そして武蔵丸はフォークを動かした。


 サクっという子気味のいい音が鳴り響いた。
 タルメアの左頬から。


「あだぁ⁉︎」
「ああ、ごめんぴょん!」
『おっと女神チームほっぺたでは蕎麦は食べれないぞ!』


 しかし、さすが女神、結構な勢いでフォークが刺さったかと思ったけど傷一つついてない。へんなとこで女神パワーを発揮してるな。


「痛い! 痛い! いやぁぁ! そこは鼻! ふんごぉ!」
「タルメア様ちっさいからやりにくいぴょん」
「わ、ワタシの胸のどこが小さい…… 痛いぃぃぃぃぃ!」


 なかなか絵図らだけ見てたらかなり猟奇的だ。
 タイトル『ご注文はワタシの顔ですか?』と言わんばかりに自分の顔を滅多刺しだし。まぁ、やってるのは武蔵丸だしタルメアも傷一つついてないんだから問題ないよね。


「あ、アル! ゆっくりよ! ゆっくりしてよ⁉︎」


 女神チームのフォークが次々にタルメアの顔に刺さるのを見てマーテは危機感を覚えたようだ。顔が真っ青だし。


「いくよー」
「ゆっくり! ゆっくりだからね!」


 何度も念を押すマーテ。食べる前から涙目だ。


「大丈夫、大丈夫」


 とてつもなく軽い口調でいうアル。凄まじく信用がないよね。
 わたしなら速攻で逃げるよ。
 マーテの目の前でアルの腕がゆっくりと死刑宣告の如く持ち上げられる。その手に持つフォークの先端が太陽の光でキラリと光る。


「ひぃ!」


 閃くフォークにマーテが短く悲鳴を上げ眼前に迫るフォークを躱すべくマーテが頭を横に振るう。


「なんで避けるの?」


 アルが不思議そうな声を上げる。


「怖いよ! フォークは人に向けるものじゃないよ! 勢いがおかしいよ!」


 顔を涙でぐちゃぐちゃにしながらマーテが叫ぶ。そんなに怖かったのか。


「でもこのままじゃ負けちゃうよ?」
「うぅ……」


 マーテがぐずりながらも女神チームの方を見る。わたしも視線をタルメアに向けると、


「うう、痛い…… いたぉぁぁぁ!」
「ほら、タルメア様! 頑張るぴょん!」


 タルメアに容赦無くフォークを突き刺す鬼がいた。
 たまに口にそばが入っているが明らかに頬っぺたに刺さる回数の方が多いし。その度にサクサクいやザクザクとフォークの刺さる音とタルメアの嗚咽の混じった悲鳴が上がる。


「うぎゅい…… いだぃ……」
『おおっと女神タルメア! 泣きながらも二敗目を完食ぅぅぅぅ! 血の味がしそうだ!』
「ほらタルメア様! 頑張るぴょん! ここで勝てば女神の一番星になれるぴょん!」
「い、一番星に?」
「そうぴょん!」
「ワタシが女神の一番星に…… ワタシガメガミノイチバンボシニ」


 ……なんか武蔵丸が洗脳しているように見えるんですけど。


「ほら! マーテも頑張らないと」
「ううぅ、食べないと浮遊図書館が……レクレ様がまけることになる……」


 すごい葛藤してるけど。別に負けてもいいんだけど。
 やがてキッとマーテを目を見開く。


「レクレさまのためにも負けられない!」
「その粋だよ! マーテ!」


 アルのやつ遊んでるな。声がめちゃくちゃ楽しそうだもん。仕方ないか。わたしは軽くため息を着くとマーテに対し結界を発動させる。これでフォークなら防げるだろうしね。


「いくよ!」
「う、うん」


 再びアルがフォークを操りお椀の中のそばを器用に絡めると勢い良くマーテのほうに繰り出した。


「ひぃ!」


 さっきよりも明らかに速く迫るフォークにマーテは再び悲鳴を漏らす。


 カチンっと音が鳴り響く。
 避ける暇もないほどの速さで迫ったフォークはマーテの頬の結界によって遮られた。
 しかし、いくら物理的に守られていると言っても何度も勢い良く繰り出されるフォークを見るというのはトラウマになりそうだよ。


「さぁマーテ、勝ちにいくよ」
「む! 向こうも本気みたいだぴょん。タルメア様! こっちも本気でいくぴょん!」


『ひぃ!』


 アルと武蔵丸が勝ちに向かい本気をだそうとしたその瞬間、マーテとタルメアが悲鳴を上げる。
 より一層のスピードを伴い二人の顔面に向かいフォークが突き刺さらんとばかり迫る。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぉぁぁ!』


 リングの真ん中で二人の魂のこもった悲鳴が鳴り響いた。
 トラウマものだね。

「浮遊図書館の魔王様」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く