浮遊図書館の魔王様

るーるー

第110話 空気を感じ取りました

 
「ピリピリするんだよ」


 浮遊図書館、リビングでの食事の中わたしは今感じている違和感を口に出した。


「そうですね。私は頭がガンガンします」
「そうじよゃな、ワシも頭がズキズキするのう」


 二人とも擬音語で返してきた。いや、そんな返しがほしかったわけじゃないんだけど。


「む、今日のはピリピリと」


 マーテに至っては料理の感想だと思ったらしくスカートのポケットからメモを取り出しなにやら書き込んでいた。
 以前見してもらったことがあるけどあまりにも書きこみがありすぎて全く読めなかったんだよね。


「いや、違うんだよ? 別に擬音語で返してほしいわけじゃないんだよ? それとマーテ、料理の感想じゃないよ」
「え……」


 マーテが驚いたような声を上げ後にションボリと耳が項垂れる。
 いや、ごめんね? 今度からちゃんと感想言うから。


「ピリピリっていうか異物感なんだなけどね」
「異物感、ですか?」


 ユールが頭を抱えながらもこちらの話に興味を持ったかのように食事の手を止めた。
 そんなに頭痛がひどいのか。


治癒魔法ヒール


 右手を二人に向け治癒魔法ヒールを放つ。これで治らなかったら他の魔法じゃないと無理かな。
 治癒魔法ヒールを受けて二人とも少しだけ顔色が良くなったみたいだし。


「ありがとうございます。魔王様」
「助かったわい」
「どういたしまして。やっぱり昨日の崩壊?」


 この二人が頭を悩ましている原因の一つだろうしね。流石に街の一部が瓦礫と化したら大問題だし。


「はい、普通なら起こり得ない問題ですからね」
「あとあの辺が商業地域であったのもあるがのう」


 へえ、そうだったのか。知らなかったよ。


「しかし、問題はそこじゃないんじゃ」
「どういうこと?」
「歌声だけで街の一部を瓦礫の山にしたんじゃぞ? しかもお主のいう特徴と一致する者はこの国にはいなかった」


 それは妙な話しだ。一応ライブラリにも最低限の門番はいるし国の入出記録はとってるはずだし。


「あと、お主とファスに聞くが声だけで建物を潰すのは可能なのかのぅ?」


 そう問いかけられファス先生は口一杯に詰め込んでいた食べ物をゴクリと凄く大きな音を立てて飲み込んだ。


「げぷぅ、声だけでというなら現在の魔法では存在しないだろう。少なくとも私の知る範囲ではだがな。ただ、幾つかの魔法を使い効果を増幅させればできんこともないだろう」
「それはあっさりとできるものなのかのぅ?」
「少なくともかなりの魔力が必要になるし複数の魔法、しかも別個の魔法を使うとなると魔法陣のような補助が必要だと思うんだが……」


 そこで言葉を一度切りファス先生はわたしの方をじっと見た。なによ?


「あそこに規格外がいるから一概にそうと言えないのが悲しいところだ」
「なるほどのぅ、普通なら難しいと言ったところか」


 おい、規格外とはわたしのことか?


「どちらにせよ、脅威は今だに健在であり且つ不明であるということが恐ろしいのです」


 ユールがため息をつく。その横で何故かレキが楽しげな表情を浮かべてるし。


「……レキ、なんでそんなに楽しそうなの?」
「いえ、未知なる脅威を憂いているだけです。魔王様」


 そんな笑顔で言われても説得力が全くないよ。でも頼もしくもあるね。街の被害を考えなければだけど。


「それでレクレのいうピリピリとはななんですの?」


 食事を終えたカハネルが優雅に紅茶を飲みながら尋ねてきた。となりのサーニャはまだ一心不乱に食事を詰め込んでいた。


「感覚だよ。ここ数日ピリピリした感じがずっとするんだ」
「というと?」
「前に勇者きたじゃない? アルピン」
「アリオンじゃな」
「そう、アリピンなんだけどあれが浮遊図書館に来たときと同じ感じがするんだよ」
「勇者と同じ気配ということ?」
「そんな感じかな」


 一言で言うと異物感だ。喉の奥に魚の骨が引っかかっているような些細な、しかし、確実にあるとわかるような違和感。


「では、この街に勇者が来ていると?」
「もしくはそれに準ずる何か、ということですわね」
「じゃのう」


 ユール、ベアトリス、カハネルの三人の顔に緊張の色が浮かぶ。そんなに勇者がこわいかな? アリピンをボコボコにしたのはユールが操る真紅一号だったじゃないか。


「あの勇者はおそらく勇者の中では最弱だったのでしょう。知る限りでは勇者には固有スキルというか女神からの異能を与えられているものですがあの男にはありませんでしたし」


 わたしの考えを読むかのように後ろに控えるアトラが淀みなく答えてくれた。優秀な秘書がいてくれて助かるなぁ〜


「あれ? じゃぁ、勇者魔法は? あれは固有スキルじゃないの?」
「あれは勇者だけが使える魔法であってスキルではありません。勇者魔法は全てとは言えませんが歴代の勇者達も使っていましたし……なんでしょう?」


 リビングにいる全員に注目されていることに気づいたアトラが困惑しながら尋ねてきた。


「アトラって魔導書だよね?」
「歴代の勇者ってどれだけ古いものなんじゃ」




 好き勝手に話すカハネル達を見てアトラはため息をついてるし。彼女達はきっとアトラの真の姿を見たら驚くだろうな。


「いやはや、良い眷属もとい良い仲間を持ってるね。浮遊図書館の魔王様は」


 聞きなれない声に全員がそちらを向く。ただ一人、レキだけがすでに剣を振り抜いた姿勢で固まっていた。


「……恐ろしい。文明的に挨拶したんだけどまさか返事が刃とは思いもよりませんでした」


 わたし達に注目されたそれはアトラと同じように黒いタキシードを着込み、ふざけたようなウサギの仮面をつけたやつだった。


「いや、ごめんね? でも勝手に入ってくるのが悪いんだよ?」


 わたしが軽口を叩くことによってようやくレキとアトラ以外が動き出す。マーテ、ビリアラ、アルがわたしの前に、カハネルとファス先生がユール、ベアトリス、サーニャを守るかのように前に出た。


「ふむ、礼節は大事ですな」


 そんな光景を目の前にウサギはテーブルに置いてある紅茶を勝手に手に取り啜る。どこに礼節があるんだよ。


「それで貴方はだれかな?」


 すでに勝手に椅子に座り食事にありつこうとしていたウサギはハッとした様子で慌てて立ち上がり優雅に一礼する。


「これは失礼しました。なにせ名前を尋ねられたのは久しぶりだったもので」


 どこか嬉しそうにしているウサギ。
 うーん、悪い奴ではなさそうなんだけど。


「僕の名前は@$%〆○€と言うんだけどわかるかな?」


 何かを言ったのはわかるんだけどわからない。周りの面々を見ると同じようにわからなかったのか頭に疑問符を浮かべてるし。


「まぁ、わからないだろね。だから僕のことは親しみを込めてウサギと呼んでくれていいよ」
「どこに親しみを感じる要素が?」
「まぁ、それはさておいてだね」


 こいつも人の話を聞かないタイプだ。
 やだなぁ、こんなタイプばっかりだよ。


「今回は皆様方を招待さしてもらおうかと思いましてね」
「招待?」


 ユールが尋ねた瞬間、ウサギの仮面をしているはずなのにわたしには目の前のウサギが笑ったように思えた。


「ええ、今回のゲーム、『チキチキ! 新米魔王レクレと戦闘大会! 出血もあるよ!』にね」
「いや!」


 絶対いじめみたいなゲームじゃないか。

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