浮遊図書館の魔王様
第99話 変態のその後?的なものを聞きました
「そういえばあの変質者、どうなったの?」
以前読んでいた古代魔法の本を読んでる中、不意に思い出したから聞いてみた。べ、別に古代魔法の本の意味がわからないわけじゃないんだよ? 息抜き! 息抜きだから。
「ああ、ジャックのことか? そういえばお主が捕縛したのじゃったな」
何故かわたしの私室で書類仕事をしているベアトリスが顔を上げる。本人曰くサインが必要な書類が最近増えてきたからわたしの近くで仕事をしたほうが効率がいいらしい。
「わしの聞いた話ではお主からカハネルに身柄が移った後にさらにレキの方に身柄が移されたと聴いたが?」
「レキに? なんで?」
今回の一件にはレキは全くと言っていいほど関わってないのに。
「ああ、レキは拷問担当じゃよ」
「拷問⁉︎」
拷問って穏やかじゃない言葉だね。というかレキにそんな技術があったことに驚きだったけど。
「レキ曰く、『指を一本ずつへし折って爪を剥げば訓練されてなければあっさりと吐きます』と笑顔で言っておったぞ」
「痛い! 爪を剥がれるとか想像するだけでも痛いよ!」
わたしはそういった本はなるべく避けて読んでるんだけどね。なまじ想像力が豊かな分、頭の中で光景が思い浮かぶからたまったものじゃない。
そういった本を読んだ後は大体食事が取れなくなるしね。
「でも拷問してまで欲しい情報があるってことだよね?」
「うむ、ユールとカハネルの話ではあの変態が使ってた鋏がなかなかにマズイものらしい」
「鋏が?」
確かにあの鋏は厄介だった。魔法も切り裂いちゃったしね。あれがもし鋏の形じゃなくて別の形、例えば剣であったりした場合を考えるとゾッとするね。
「あの鋏な、どうやら魔剣の類らしいんじゃよ」
「鋏なのに魔剣なの?」
確かあの変態は魔鋏とか呼んでた気がするんだけど。
「魔剣の形に大まかな括りはないんじゃよ。本来の形からは逸脱した力を持っておる道具で武器に使われるものが総じて魔剣と呼ばれておるんじゃ」
逆にどういう理屈で動いとるかわからん物を古代魔導具と呼ぶんじゃがな、とベアトリスは続ける。
なるほど、その説明ならば確かにあの鋏は魔剣の分類に入るのか。
「でも、そんなに簡単に魔剣なんて手に入る物なの?」
本で読んでいる限りの知識では魔剣は古代魔導具と同等のレア度だ。そう安安と手に入りはしないだろう。
「普通はそう簡単には手に入らん」
「なるほど」
あんな物がそこいら中にあったら本買いに行くのも命がけになるもの。
「拷問終わりました」
「終わったよ〜」
不機嫌そうな顔をしたレキとご機嫌な顔をしたマーテが入ってきた。
「マーテも拷問したの?」
「したよー!」
笑顔で肯定されちゃった。うちのマーテちゃんはそんな子じゃないと思ってたのに。ショック。
ならなんでレキはあんな不機嫌なんだろ?
「レキどうしたの?」
「……別になんでもありません」
いや、そんな頬を膨らませながら言われても。凄くケモミミと一緒に触りたい。
「ほれほれ言ってみなさい」
次元魔法で一瞬でレキの元まで行くと片手でプニプニしたほっぺを触りながらもう片方の手で柔らかな毛質のケモミミを触る。至福〜
「わかりました! わかりましたから!」
レキはわたしを振りほどくとポムポムとケモミミを整える。可愛い。
「あの変態を拷問にかけようとしたのですがマーテが私もやりたいと言い出しましたので先にやらしたのですが」
「これ使ったんだよ〜」
マーテが頭上に掲げたのは鳥の羽根の形をしたペンだった。あんなので拷問なんてできるの?
「いえ、有る意味ではあれは拷問と言えるでしょう。あれは鍛えたらなんとかなるという部類ではありませんから」
そんなに恐ろしい拷問なのか。
「ちなみにマーテ、どうやって拷問したの?」
「こうやって?」
マーテが持っている羽根ペンを上下に振るう。何かの合図?
「それでなにやったの?」
「? なにって、くすぐったんだよ?」
くすぐった? 羽根ペンで?
それが拷問?
「うそだぁ〜そんなのが拷問になるはずないじゃない」
そんなのが拷問になるなら自白魔法とかいらないじゃん。
「嘘じゃないもん!」
「……お主はあの拷問の恐ろしさを知らん用じゃな」
「無知とは恐ろしいものです。あの変態も五分で顔をぐちゃぐちゃにして許しを乞うてくるような恐ろしい拷問なんですが」
顔を真っ赤にして怒るマーテとわたしを見て呆れたような事を言ってくる二人を見てわたしも流石にカチンときた。
「そんなのわたしなら楽勝だよ!」
「ふむ、なら試して見るかの?」
ベアトリスが机からマーテの持っていた物と同じ羽根ペンを取り出す。なんでベアトリスまで?
「ちょっとまって! やるのはマーテだけなんじゃ……」
後ろを振り返ると両手に羽根ペンを持ったマーテとレキが笑顔で立っていた。ピンチ!
「次元魔……」
「逃がしません」
次元魔法で逃げようとしたわたしの腕をレキが掴む。これじゃ逃げられない。
「観念するんじゃな」
「嘘じゃないもん!」
楽しげな笑みを浮かべるベアトリスとほおを膨らまし可愛らしく怒っているマーテが羽根ペンを持ちジリジリとこちらに詰め寄ってくる。
え、実はやばい拷問だったりするの……
「覚悟するんじゃの」
「嘘じゃないのぉぉぉぉ!」
……死ぬかもしれない。
十分後
「あひゃはははは……や、やめ……ひはははははは」
わたしは眼に涙を浮かべがならがら謝っていた。
この拷問はマズイ。下手したら精神崩壊しそうになる。
「ほれほれ、まだ十分程しかたっとらんぞ?」
「たっとらんぞー」
ベアトリスとマーテが愉快そうに満面の笑羽根みを浮かべながら羽根ペンを動かす。首筋や脇、足の裏などを執拗にだ。こそばゆすぎて自然と声が漏れひたすらに笑い続けているため呼吸が苦しい。逃げようとしても関節をきめられてるか身動き取れないし。
「わかった! わかったから! ひはははははは!」
いくら言ってもこの二人は一向にくすぐりを辞める気がないようでそれどころか両腕を掴んで、強引に万歳の姿勢をとらされると脇に羽根ペン当て更に高速で動かしてきてるし!
「きぃ、ひゃははは、や、やめて! ひゃはぁ」
すでに自分でも泣いてるのか笑ってるのかわからなくなってしたし。というか呼吸! 空気を吸わして!
「レキ! レキたすけてー!」
今だこの拷問に参加していないレキに助けを求める。彼女なら助け……
「えっ……」
そう思いレキの方を見ると彼女は残念そうな声を出し、さらには彼女も両手に羽根ペンを持っていた。
……ここに味方はどうやらいないようだ。
「たすけてぇぇぇ! ぶふぁははははは!」
その後、わたしの悲鳴? というか笑い声を聞きつけたビリアラが来るまでのさらに三十分間、わたしはくすぐられ続ける羽目になった。
覚えとけよ。ベアトリス、レキ、マーテ!
そして肝心の変質者の拷問結果だが武器屋で買ったとの事だった。
真実はいつもつまらないものだなぁ。
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