浮遊図書館の魔王様

るーるー

第90話 知らない言葉が頭に入りました

 


『繰り返します。浮遊図書館は第二形態に移行します』


 大きな音が鳴り響く浮遊図書館だが聞きなれない声が言っている。内容だけははっきりと聞こえた。


「第二形態ってなんだろ?」


 思わず口をでたが周りを見てもアトラ、メイド姉妹も今の現状に困惑しているようだ。聞いても答えが返ってくるとは思えない。というか知らないだろうし。


『浮遊庭園、起動スタート・アップ。戦術魔導兵器フラクタル入力インストール開始……』


 次々と声がわからない言葉を紡ぐたびに浮遊図書館内の魔力が大きく動く。


「気持ち悪い」
「レクレさま⁉︎」


 あまりの気持ち悪さに膝を付いたわたしにマーテ達が心配そうな表情を浮かべながら近づいてきた。
 どいいうわけか浮遊図書館の内部がわかるわたしにとっては体の中が弄られている感じがして不愉快極まりない。


『これは、ご主人が起こした現象ではないようですね』
「信用してなかったんだね。アトラ」


 わたしが魔力が回復したにも関わらず人の姿をとらずにふわふわとわたしの横に浮かぶ本の姿のアトラを睨む。


『ご主人、信用と信頼は別物ですよ?』
「信頼してないってことね」


 もういつものことだけどね。


『全ての項目の入力インストールが完了しました。浮遊図書館、通常運航に戻ります』


 その声と同時にわたしが体内に感じていた違和感が全て消えた。どうやら全部終わったというのは本当みたいだ。


「なんだこれ」


 頭の中に次々と知らない言葉が浮かび始める。
 フラクタル、タマハユの糸、カーラタスなどわけのわからない単語ばかりだ。
 さらにわたしの頭の中に浮遊図書館の動かし方のような知識が強制的に入れられたみたいで何処が変わったのかが全てがわかるみたいだ。


「……これ転写魔法なんじゃ」


 わたしの知る限り他人の頭の中に記憶、知識を転写、無理やり入れるなどといった魔法は禁止された魔法、禁断魔法と呼ばれ魔法使いの間では通称禁呪と呼ばれる使ったら最後、異端審問による裁きが下されるクラスの魔法のはずだ。
 便利な魔法であるようだがこの魔法が禁呪に指定されている理由は廃人になる可能性があるからだそうだ。本で読んだところによると知識は時間を積み重ねゆっくりと取得して行くのが普通なのだがこの転写魔法は一瞬で知識を他人の頭の中に放り込むのだ。そのためその情報量に頭が耐えきれないということらしい。


「頭痛いし」


 これが禁呪なら廃人になってもおかしくなかった。たまたまとはいえ神様にたまには感謝しようか。


「今、神への祈りを感じましたが?」


 後ろを振り返る最近神様への信仰が狂信的になってきたスペラ。
 さらに後ろにはベアトリス、ユールといった我が国の主要人物が勢ぞろいだ。カハネル? 知らない子だね。


「なにが起こったかわからないのですが」
「あの声はなんじゃ?」
「ああ、単純にわたしの成長に伴い浮遊図書館が進化したんだよ」


 これならわかりやすいでしょ。


「「成長?」」


 二人が同時に胸元にスーと視線を落としながら呟いた。


「なんでそこで、わたしの胸を見るかな? 見るか!?」


 普通に考えたら魔法使いとしての技量とかじゃない? なんで身体を一番に見てくるんだか。
 む、胸なんて成長しても邪魔だし! い、いらないし!


「冗談はさておき本当に問題はないんじゃな?」
「多分ね。感覚的には魔導兵器と浮遊図書館自体が大きくなったような感じなんだ」


 曖昧にしかわからないけどね。
 危険なことはないだろうし。危険物はあるけど。


「それじゃぁ、マーテ、ビリアラ、アル、レキにお願いなんだけど浮遊図書館の中調べてきてどう変化してるのをね」
「「「了解しました」」」


 気絶してるアル以外元気いっぱいの声をあげて返事するメイド達。彼女達ならば危険があっても退けそうだしね。魔法使わなかったらわたし勝てないし。


「では行ってきます!」
「行ってらっしゃい」


 楽し気に出ていくマーテ達と引きずられているアルに手をヒラヒラと振りながら見送る。
 実際に危険はないだろうけど楽しそうだし。


「ベアトリスやユールにとっては喜ばしいんじゃないの? 浮遊図書館の変化は」
「まぁのう、外交できれるカードが一つ増えたわけじゃしな」
「そうですね。浮遊図書館は謎の存在であることが望ましいですね。無論私達はきっちりと情報を抑えておきたいところですが」


 まぁ、自分もよくわからないものを使うのは怖いしね。


「そこは大丈夫だよ。ある程度の機能はわかったから」
「ならば安心です」
「ではわざわざメイド姉妹を遠ざけたのはどうしてなんじゃ? 浮遊図書館の機能がわかっているなら調べずともよいじゃろ?」


 ベアトリスのもっともな言い分にわたしは笑う。


「レキに説明して知られたら嬉々として世界征服に使われちゃうじゃない? 自分で見た分だけならそれで納得するでしょ?」
「「確かに」」


 これも世界を守るためだ。許せレキ。

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