浮遊図書館の魔王様

るーるー

第81話 自分の体力のなさを思い知りました

 




 浮遊図書館が着陸してからわたしは一切の魔法の使用を禁じられた。魔力の回復を早めるためらしい。
 些細な量だから使おうとしたらベアトリスとユール、さらにはカハネルにまで怒られた。
 しかも魔力の使用を禁じる指輪まで付けられた。どれだけ信用ないんだろう?
 そのため日頃からわたしにかかっている防御魔法である結界や運動音痴なわたしを常に補助してくれている補助強化魔法もかかっていない今の状態は最弱状態と言えるだろう。


「ゼェゼェゼェ……」


 わたしの魔力供給が行き届いてないからかそこいらにあるいつも淡い光を放っていた透明な本も一切光を放っていなかった。
 浮遊図書館の中を移動するだけで息がきれ休むこと五回、何もない所で転けること八回という運動音痴ぷりをわたしは発揮していた。
 体のあちこちに小さな擦り傷ができていたり散々だ。


「つ、着いた」


 ようやくの思いで自分の部屋に戻ってきたわたしは真新しいシーツが張られたベッドに倒れこんだ。
 身体中のあちこちが痛い。明日は筋肉痛に間違いないだろう。


「早く魔力が回復して浮遊図書館が浮かないとわたしが筋肉痛で死んでしまう気がする」


 冗談ではなくかなり本気だ。魔力を一切使わないことでいかに自分が魔力を自然に使っていたかということと依存していたかがよくわかった。


「魔力回復のポーションでもあればなぁ」


 傷や疲労を癒す普通のポーションならば手にはいるんだけど魔力を回復するポーションは存在しないんだよね。
 実際のところは厳密にいうと存在したが今は手に入らないというのが正しいんだけど。
 本で読んで調べたところでは昔は存在したらしいんだけど今はもうレシピすら存在しない幻の品扱いになってるし。


「エルフにでも会えたらわかるんだろうけど」


 生憎とエルフの知り合いはリーニャさんしか知らないし。彼女の本屋も神出鬼没だから容易く会えるわけじゃないし。


「つまり、自然回復しか手がないと……」


 白の魔導書の効果、本を読むと魔力貯蔵量が増えるということを考えると唯でさえ多かった魔力貯蔵量がどれだけ増えてるのか全くわからないし。
 ただ凄く時間がかかるってことはわかるんだよね。




 ため息をついたわたしは気づかなかった。扉が少し空いていたことに。更にそこに気配を殺して去って行く影があったのを。










「緊急会議です!」


 浮遊図書館のメイド姉妹に与えられたフロアの一室。
 そこでは仕事を終えた姉妹達がくつろいでいた。
 マーテが息を荒げながらバンバンとテーブルを叩く。


「会議というけど何について話すの?」


 手入れをしていた剣を鞘に収めつつレキが不思議そうな顔をしながら興奮しているマーテを見る。この末っ子は興奮しすぎると暴走するということを長女はよく知っているのだ。


「ポリポリポリ」


 三女であるビリアラは新発売したお菓子をパリパリと食べながら本を読んでいる。参加する気が、全くと言っていいほどない。


「ビリアラ! 私の話聞いてよ!」
「お菓子と読書に忙しい」


 マーテが視線を上げすらしないビリアラに噛みつくがビリアラは全く意に介さない。


「アルねぇも起きてよ!」
「もう食べられないよ〜」


 続いてテーブルに突っ伏し、ヨダレを垂らし、寝言を呟く寝ているアルの頭をバシバシ叩く。末っ子とは思えない行動力である。


「んぁ? ごはん?」
「ご飯違う! 会議!」


 マーテは会議が始まってもいないのに怒りまくっている。


「今日の会議の内容は魔王様についてなの!」


 魔王という単語が出た瞬間、ビリアラはお菓子を食べるのを止め、さらには読んでいた本に栞を挟み閉じ、アルも突っ伏しているのをやめ起き上がる。彼女達の中で魔王というキーワードは何よりも優先するのだ。


「それでマーテ、魔王様についてというのはなんなの?」
「レクレ様が今魔法使えないのはみんな知ってるでしょ?」
「そりゃあれだけ規模の大きな魔法を使えばな」
「ゴーレムを作ってたしね〜」


 アルの言葉にレキは頷く。


「私が知ってるゴーレムとは大きさが違ったし、消費する魔力も桁違いなのでしょう」


 通常、魔法使いが操るゴーレムとは人間と同じサイズであるがレクレは違う。十メートルを超える大きさのゴーレムを複数作るという普通の魔法使いにできないことをあっさりと行ったのだ。
 使用する魔力は桁違いなのは間違いない。


「レクレ様は日頃から魔法による補助強化を受けても普通の人並みの運動しかできないのに魔法が使えなくなったらどうなると思う?」
「オレ、めちゃくちゃ転けまくってるとこ見たぜ」
「レクレ様は魔法がないと本当に運動音痴だから」


 見ていて危なっかしいレベルである。そんなレクレを見守るメイド姉妹達の目はおそらく赤ん坊を見守る親のレベルに近い。


「つまりどうするの?」
「このまま何日も魔法が使えない状態が続くとレクレ様が取り返しのつかない怪我を追うかもしれない。そこで!」


 一旦言葉をきりマーテはバン!っとテーブルを叩き意気揚々と言い放った。


「レクレ様の魔力を回復させる作戦を考えます!」

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