浮遊図書館の魔王様

るーるー

第60話 教会が動きました②

 ボク、聖女見習いのスペランツァ・タンペットは今、激しく動揺していた。
 いつものように女神・ポンパドゥールへ祈りを捧げ、礼拝堂の掃除を行い、朝食を友達ととっていたところに突然、高位の神官が訪ねてきたからだ。


「聖女見習いスペランツァ・タンペットはいるか?」


 朝食のそれもかなりの人数がいる食堂で大声で呼ばれる。これはなかなかの公開処刑だ。


「スペランツァ・タンペットはボクですが」


 みんながこちらに視線を向けてくるのにかなりの恥ずかしさを感じながらおずおずといった様子でボクは手を上げる。


「うむ、至急私と共に来たまえ」


 そう言うと神官はスタスタと歩き始めたため、ボクは食べていた食事を渋々残していく羽目になった。今日は好きなイチゴがついてたのに仕方ない。
 急ぎ神官の後を追いかける。
 神官の後に続き歩く。
 確かこの奥には大神殿があったはずだけど聖女見習いのボクはまだ行ったことがない。
 先に行けるのは高位神官以上だし、聖女見習いはあくまで普通の修道女シスターより少し上の権限が与えられているだけだからだ。
 先を歩く神官は全くの無言のため、緊張しっぱなしだ。


「あの……ボクなにかしましたか?」
「いや、なにもしておらんよ。……これから起こることが幸運か不運かは君次第だが」
「どういうことですか!?」


 なにやら不穏な事を言った神官に詰め寄る。


「安心したまえ。むしろ君が幻滅するだけだ。ああ、こんなもんだったのかと」
「余計気になりますよ⁉︎ 今からどこに行こうと言うんですか!」
「あー私は知らない聞こえない聞きたくなーい」


 駄々をこねる子供のように耳を塞ぎボクの話を全く聞こうとしない。


「ちょっと! なんで子供みたいなことしてるんですか! 嫌ですよ! ボクいくのやめます!」


 嫌な予感しかしない。すぐさま身を翻し逃走を図る。


「そうはいかんよ!」


 パチン!っと指を鳴らす。
 するとどこからか音もなく現れたもう二人の神官、筋肉質な男の神官と小柄な修道女シスターがボクの両脇を抑え逃げられないようにされた。関節決められてるから抜け出せない! 神官なのになんで関節技なんて覚えてるんですか。


「安心したまえ、先程も言ったが死ぬことはない」
「そう、むしろ幸福なことだよ。あの胸を見れるとは!」
「……むしろ同じ女性としては自信がない」


 胸? なに言ってるんでしょうかこの人は。
 それに最後の人がボクの胸を見ながら言った気がするんですけと。


「ともかくだ! 君はこの役目を放り出すことはできないんだよ。第七聖女スペランツァ」
「ちょっと待ってください! ボクはまだ聖女見習いですよ⁉︎」
「安心したまえ、後から辞令がでる。ともかく君は女神・ポンバドゥールからの信託により今日から君が第七聖女だ」
「いやいやいや! 待ってください! 第七聖女はリリス様がおられたでしょう!」


 聖女は勇者と同じく七人存在する。その下にに聖女見習いがいるのだ。だが、聖女がいるのにその聖女を押しのけて見習いが聖女になるなんて前代未聞だ。


「あーリリス君な」
「くぅ、信じてたのに!」
「……あのビッチ淫売聖女が」


 え、なんでみなさんそんな怨嗟の声だしてるんですか。
 ボクの知ってるリリス様はいつもニコニコと笑ってる優しい方だったんだけどな。


「あーリリス君は妊娠したから聖女の任を解かれたのだ」
「に、妊娠ですか!」


 あの聖女清純派筆頭と呼ばれていたリリス様が妊娠とは。


「……あのビッチは神官を何人も食物にしてたし。なにが起きてもおかしくない」
「うぉぉぉぉぉ! 俺は、俺は信じていたかったのに!」


 修道女シスターはリリス様に対して毒を吐き、筋肉質な神官はボクを抑えることを忘れ膝を付き号泣し始めた。
 なんなのこの状況。
 神官の言葉にため息をつく。


「だからスペランツァ・タンペット。あなたはなんの憂いもなく第七聖女を名乗ることができりわけです」


 聖女見習いから第七聖女への昇格。これはつまり、


「魔王討伐の任ですか?」


 聖女は勇者の従者として魔王討伐に随伴するのは有名である。
 そして、聖女には時折女神からの気まぐれのような仕事が任されるのだ。


「それもあるが、君は女神様に勇者の選定者に選ばれたのだよ」

コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品